図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1
国語
法律は、すべてことばで書かれたルールです。条文や判決文を一語ずつ正確に読み、筋道を立てて書く力は、高校の「現代の国語」や「論理国語」で身につける力と重なります。

ひとことで言うと
カードゲームの公式ルールを読むとき
大会で「このカードは今使えるか」ともめたとき、決め手になるのはルールブックの一語です。「できる」なのか「しなければならない」なのかを読み分ける力が、そのまま法律を読む力になります。

01
法律のことばは、意味が一つに決まるように選ばれる
法律は、国民の権利や義務を決めるルールです。参議院法制局は、誤解が生じないよう、法令は正確かつ厳密に書かれなければならないと説明しています。そのために、日常のことばとは使い分けが違う法令用語があります。
例えば「してはならない」と「することができない」です。日常では同じように聞こえますが、法令でははっきり区別します。前者は禁止を表し、後者は法律上の能力や権利がないことを表します。違反したときに、その行為の法律上の効力に影響が出るかどうかも変わります。
「みなす」と「推定する」も、よく出てくる組み合わせです。民法 886 条は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。一方、民法 32 条の 2 は、何人かが亡くなり、どちらが先か分からないときは「同時に死亡したものと推定する」と定めます。推定は反対の証拠でくつがえせますが、みなすは証拠があっても扱いを変えません。
刑法 245 条には「電気は、財物とみなす」という一文があります。電気は形のある物ではないため、盗むと窃盗になるのか、古くから議論されてきました。判例の積み重ねを踏まえ、この一文で電気を盗むことも窃盗の罪になると、条文ではっきりさせたのです。
法律のことばは、一語ごとに決まった意味をもっています。
図解「みなす」と「推定する」
みなす
- 事実と違っても、同じものとして扱う
- 反対の証拠があってもくつがえらない
- 例: 胎児は相続では生まれた人と同じ
推定する
- 証拠がなければ、そうだと扱う
- 反対の証拠があればくつがえる
- 例: 同時に亡くなったと推定する

02
長い一文は、接続のことばで区切って読む
条文は、一文がとても長いことがあります。そこで手がかりになるのが、並べ方のことばです。「及び」と「並びに」は「両方とも」を、「又は」と「若しくは」は「どれか」を表します。
まとまりが二重になるときは、小さいまとまりを「及び」、大きいまとまりを「並びに」でつなぎます。どれかを選ぶ場合は逆で、大きいまとまりが「又は」、小さいまとまりが「若しくは」です。日常の文章ではあまり区別しませんが、法令では決まりどおりに使い分けます。
例えば刑法 256 条 2 項は、盗品を「運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者」を罰すると定めます。いちばん大きい区切りは「又は」です。その前の 3 つの行為が「若しくは」でまとめられ、後ろのあっせんと並んでいます。
高校の「論理国語」の学習指導要領解説も、法令や契約書を「客観的な内容を一義的に示すための文章」として取り上げています。読み手の解釈に揺れが出ないよう、一つの文の意味が必ず一つに定まる組み立て方を学ぶ、と書かれています。条文を読む練習は、この学習そのものです。
接続のことばに印を付けると、長い条文の形が見えてきます。
図解「若しくは」と「又は」で区切る
- 1いちばん大きい区切りの「又は」を探す
- 2前: 運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け
- 3後ろ: その有償の処分のあっせんをした

03
カタカナの法律が、ひらがなになるまで
戦前の法律は、カタカナまじりの文語体で書かれていました。句読点も、条文の見出しもありませんでした。2004 年の改正の前、民法 709 条は「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」でした。
転機は、1946 年 4 月 17 日に発表された憲法改正草案です。国語をやさしくする運動を進めていた「国民の国語運動」が、法令の書き方について首相に意見書を出したことがきっかけでした。作家の山本有三が口語化を頼まれ、前文などの素案を作りました。草案はひらがなの口語体で書かれ、以後の法令もひらがな・口語体が原則になりました。
ただし、全部を書き直す機会がなかった古い法律は、カタカナのまま残りました。刑法は 1995 年に、民法の前半(第 1〜3 編)は 2004 年に、ひらがなの口語体になりました。今の 709 条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」です。「法律上保護される利益」が加わったのも、このときです。
条文の見出しも、1947 年の労働基準法で初めて付けられ、ほかの法令に広がりました。法律の文章は、時代に合わせて少しずつ読みやすく変わってきました。それでも、一語ずつ正確に選ぶという決まりは変わっていません。
法律の文章の歴史は、国語の歴史ともつながっています。
図解民法 709 条の昔と今
2004 年の改正前
- カタカナまじりの文語体
- 句読点がない
- 守るのは「他人ノ権利」
今の条文
- ひらがなの口語体
- 読点で区切って読める
- 「権利又は法律上保護される利益」

04
大学では: 判決文を読み、根拠を示して書く
日本学術会議の参照基準は、法的な判断には常に、法律の条文や規則などを正確に読む力が求められると書いています。さらに、結論に至る筋道を論理的に説明し、第三者を説得することが欠かせないとしています。参照基準はこれを「説得の論理」と呼んでいます。
大学では判決文もよく読みます。民事裁判の判決は「主文」「事実」「理由」などから成り、主文に結論が書かれています。主文で結論をつかみ、理由で筋道を追うと読みやすくなります。最高裁判所の判決などは、裁判所のウェブサイトで無料で読めます。
論理国語では、主張を支える根拠や、結論を導く論拠を検討する学習をします。法学の答案や判決も同じつくりで、結論を、事件の事実と、条文とその解釈で支えます。根拠と論拠を区別して読み書きする練習は、そのまま法学の練習になります。
参照基準は、論理的な文章を書く力を育てるため、卒業論文などに取り組むことを重視すべきだとしています。法学は一つの正解を求めるより、より妥当な解決を目指す学問だとも書いています。正解を当てることより、根拠から筋道を立てて書く力が評価される学問です。
根拠と論拠を分けて書く力は、そのまま法学で生きます。
図解論理国語の論証と、法学の答案
論理国語の論証
- 主張: 言いたいこと
- 根拠: 主張を支える事実やデータ
- 論拠: 根拠から主張を導く理由
法学の答案・判決
- 結論: 問いへの答え
- 事実: 事件で何が起きたか
- 条文と解釈: 事実から結論を導くルール

05
苦手でも大丈夫: どこから始めるか
法学部の授業で特に使うのは、説明文や論説文、実用的な文章を正確に読む力です。全員が学ぶ「現代の国語」の学習指導要領解説は、実用的な文章の例として、報告書や企画書と並べて法令文を挙げています。入試の科目は大学によって異なりますが、授業で読むのは主に今の日本語の条文や判決文です。
身近な決まりも、区切って読むと面白くなります。学校教育法 17 条は、小学校に入る時期を「満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初め」と定めています。年齢は生まれた日から数えるため、4 月 1 日生まれの人は 3 月 31 日の終わりに 6 歳になります。その翌日が 4 月 1 日なので、4 月 1 日生まれの人は前の学年に入る「早生まれ」です。
始めるなら、文を短く区切る練習が近道です。主語と述語に線を引き、「ただし」「又は」などのことばに印を付けます。校則や部活の決まり、スマートフォンの利用規約でも練習できます。多くの大学では、1 年生の法学入門などで法の考え方の基本から学びます(内容は大学によって異なります)。
文を区切って読む練習は、今日からどこでも始められます。
高校生のうちに試せること
参議院法制局のコラムを読む
参議院法制局の「法律の[窓]」は、法律の書き方やことばの決まりを紹介するコラムです。「法令用語と法解釈」や「4月1日生まれの子どもは早生まれ?」など、短く読める話が並んでいます。
参議院法制局 法律の[窓]口語化された憲法の草案を見る
国立国会図書館の「日本国憲法の誕生」では、山本有三の素案を参考に作られた口語化の草案などを、画像で見られます。今の条文と見比べて、ことばがどう変わったかを探しましょう。
国立国会図書館「口語化憲法草案の発表」校則を条文の形に書き直す
校則や部活の決まりを 1 つ選び、「〜した者は、〜する」という条文の形に書き直してみましょう。「及び」と「又は」を使い分けると、意味が一つに決まるかどうかも確かめられます。
「国語」に関連するコミュニティ
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よくある質問
国語が苦手でも、法学部でやっていけますか?
やっていけます。授業で読むのは主に今の日本語で書かれた条文や判決文で、多くの大学では 1 年生の授業から読み方を練習します。高校のうちは、説明文や論説文を、主語と述語、接続のことばに注意して読む練習が役立ちます。
法律のことばは、暗記しないといけませんか?
丸暗記は必要ありません。「及び」と「並びに」のような使い分けは、決まりを一度理解すれば、条文を読むたびに確かめられます。実際の条文で使われ方を見るほうが身につきます。
小論文の練習は役に立ちますか?
役に立ちます。法学部の試験やレポートでは、ルールと事実から結論を導く文章を書きます。主張と根拠をはっきり分けて書く小論文の練習は、その土台になります。


