図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 3
情報
予想が正しそうかを、膨大な数の計算で確かめる。人の手では終わらない場合分けを、計算機に任せる。証明の 1 行 1 行を、コンピュータに点検させる。いまの数学は、高校の情報 I・II で学ぶプログラミングとともに進んでいます。

ひとことで言うと
天文学者にとっての望遠鏡
天文学者は、理論で星の動きを予想し、望遠鏡で確かめます。数学者にとってのコンピュータは、予想の手がかりを探し、細かな確認を引き受けてくれる望遠鏡のような道具です。ただし、正しいと決めるのは最後まで証明です。

01
計算で予想を探る: コラッツの予想
好きな正の整数を 1 つ選び、偶数なら 2 で割り、奇数なら 3 倍して 1 を足します。これをくり返すと、6 は 3、10、5、16、8、4、2、1 と 8 回で 1 に着きます。どの数から始めても必ず 1 に着く、というのがコラッツの予想です。
1930 年代にドイツの数学者コラッツが考えたとされる問題で、「角谷の問題」とも呼ばれます。27 から始めると、途中で 9,232 まで大きくなり、111 回目にやっと 1 に着きます。手計算では大変ですが、情報 I で学ぶ分岐と反復を使えば、10 行ほどのプログラムで確かめられます。
2025 年、チェコのブルノ工科大学の研究者バリナは、いくつものスーパーコンピュータを使った計算の結果を発表しました。2 の 71 乗(約 2.4 × 10²¹)までのすべての数で、予想が成り立つことが確かめられています。
それでも、この予想はまだ証明されていません。どれだけ多くの数を確かめても、すべての数について示したことにはならないからです。計算は予想の手がかりをくれますが、正しいと決めるのは証明です。
計算は予想を探す道具で、正しさを決めるのは証明です。
図解計算機と数学者のくり返し
- 1例を計算するプログラムで大量に試す
- 2規則を探す結果の表やグラフを眺める
- 3予想を立てる「いつも成り立つ」と言い切る
- 4証明する定義と論理で確かめる

02
計算機が証明を助けた: 四色定理
どんな地図でも、となり合う国が違う色になるように塗るには、4 色あれば足りる。これが四色定理です。1852 年にイギリスのフランシス・ガスリーが予想し、120 年以上、多くの数学者が挑みました。
1976 年、アメリカのイリノイ大学のアペルとハーケンが、証明を発表しました。地図の形を細かく分類し、計算機で約 10 億通りの場合を調べる方法です。長年の難問が計算機の力を借りて解かれた、最初の有名な例になりました。
人の手で全部を確かめられない証明には、批判もありました。1995 年には、ロバートソンら 4 人が、場合分けを整理した別の証明を発表しています。さらにのちに、マイクロソフト研究所のゴンティエが、証明全体を Coq という証明支援系で点検しました。
学習指導要領解説では、数学 C で地図の塗り分けを、点と線で表す離散グラフで考える学習が例に挙がっています。大学では、グラフ理論や離散数学の授業で、この続きを学びます。
人の手では終わらない場合分けも、計算機と組めば証明に使えます。
図解四色定理が確かめられるまで
- 11852 年ガスリーが 4 色で足りると予想
- 21976 年計算機で約 10 億通りを調べて証明
- 31995 年場合分けを整理した別の証明
- 4その後証明全体を Coq で点検

03
証明をコンピュータで点検する: ケプラー予想
果物店の店先では、下の段のくぼみに次の段を乗せるように、みかんを積んでいることがあります。1611 年、天文学者のケプラーは、雪の結晶について書いた小冊子で 1 つの予想を述べました。この積み方より密に、同じ大きさの球を詰める方法はない、というものです。このとき、球が空間に占める割合は約 74% です。
1998 年、ヘイルズとファーガソンは、計算機を大量に使った証明を完成させました。しかし、論文を審査する専門家も、複雑な計算をすべて確かめきることはできませんでした。証明の論文は、審査で完全な保証が得られないまま、2006 年に出版されています。
そこでヘイルズらは、証明を形式的な論理で 1 行ずつ書き直し、証明支援系と呼ばれるソフトウェアに点検させる計画を立てました。点検には、HOL Light と Isabelle という 2 つの証明支援系を使いました。点検は 2014 年の夏に終わり、2017 年に論文として発表されています。
証明支援系は、人が書いた証明に飛ばした所や誤りがないかを、機械が厳しく調べる道具です。数学と情報の両方の力が生きる分野です。
コンピュータは、計算だけでなく、証明の正しさを点検する役目も担っています。


04
数学科で学ぶ計算機: プログラミングと数式処理
日本学術会議の参照基準は、現実の問題に出てくる連立方程式を手計算で解くことは不可能だと述べています。数学でも、計算機で式を処理して実験や計算をする場面が増えているとしています。そのため、プログラミングや数式処理を身に付ける計算機実習が必要だとしています。
高校の情報 I では、全員がプログラミングを学び、モデル化とシミュレーションにも取り組みます。大学の数学科では、1 年でプログラミング入門を置く大学もあります。参照基準は、数学を学んだ人が保険・年金のアクチュアリーになったり、情報通信の分野で働いたりすることもよくあると述べています。
プログラミングは、数学科の学びを広げる大切な道具です。
図解数学科とコンピュータの関わり
- 予想を探る大量の例を計算して規則を見つける
- 数値計算答えを近似で求め、誤差を見積もる
- 数式処理式の変形や因数分解を任せる
- 証明の点検証明支援系で 1 行ずつ確かめる
- データ分析統計学の手法で傾向を読む

05
苦手でも大丈夫: どこから始めるか
プログラミングが初めてでも、心配はいりません。数学の問題を確かめるプログラムは、短いものがほとんどです。コラッツの予想も、「2 で割り切れるか」の分岐と「1 になるまで」の反復だけで書けます。
まずは情報 I の教科書で、順次・分岐・反復を確かめてください。次に、数学の教科書の問題を 1 つ選び、答えをプログラムで確かめます。数列の和や、素数かどうかの判定は、最初の題材に向いています。
情報 II を開設していない高校もありますが、大学 1 年のプログラミングの授業から始められます。このサイトの高校の「情報」のページや、大学の「情報学」のページもあわせて読んでみてください。
数学の問題を題材にすると、プログラミングと数学が一緒に身に付きます。
図解始める順番の例
- 1情報 I の基本順次・分岐・反復
- 2数列を計算和や漸化式をプログラムで
- 3予想を確かめるコラッツの予想を 1 万まで
- 4結果を説明分かったことを文章にする
高校生のうちに試せること
コラッツの予想をプログラムで確かめる
情報 I の授業で使っているプログラミングの環境で、1 から 10,000 までの数がすべて 1 に着くかを確かめましょう。いちばん多くの回数がかかる数を探すと、6,171 で 261 回かかることが分かります。
日本地図を 4 色で塗り分ける
都道府県の白地図を用意し、となり合う都道府県が同じ色にならないように、4 色で塗り分けましょう。どこから塗り始めると迷わずに済むかを考えると、四色定理の証明の考え方に近づけます。
ゲームで証明支援系に触れる
ブラウザで遊べる無料の Natural Number Game では、証明支援系 Lean を使います。0 と「次の数」だけから始めて、足し算の性質を 1 つずつ証明していきます。英語ですが、短い命令を入力しながら進められるので、最初のステージから挑戦しましょう。
Natural Number Game
「情報」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 89 件から探せます。

応用数理科学分野
京都大学(京都府)
情報学研究科情報学専攻・応用数理学・田口 智清 教授
応用数理システム研究室
筑波大学(茨城県)
数理情報工学

鈴木研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・位相幾何学的グラフ理論・鈴木 有祐 教授
曲面へのグラフの埋め込みや局所変形など、位相幾何学的グラフ理論を研究する。
松尾研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・微分方程式の数値解法・数値解析全般・シミュレーション・松尾 宇泰 教授

計算力学分野
京都大学(京都府)
情報学研究科情報学専攻・応用数理学・藤原 宏志 教授
数式処理研究室
筑波大学(茨城県)
情報メディア・森継 修一
よくある質問
数学科でも、プログラミングは必要ですか?
参照基準は、数学を学ぶ学生にも、プログラミングや数式処理を学ぶ計算機実習が必要だとしています。授業での扱いは大学によって異なりますが、予想を確かめたり、データを分析したりする場面で役立ちます。
コンピュータが証明できるなら、数学者はいらなくなりますか?
四色定理やケプラー予想でも、問題を計算できる形に分ける方法を考えたのは数学者です。証明支援系も、人が書いた証明を点検する道具です。何を問い、どう証明するかを考えるのは、今も人の仕事です。
情報 I は、数学科の入試に関係しますか?
大学入学共通テストでは、2025 年 1 月の試験から「情報 I」が出題されています。共通テストの「情報」をどう扱うかは大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。
出典
- 日本学術会議「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 数理科学分野」(2013 年 9 月)
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 数学編 理数編」
- Georges Gonthier「A computer-checked proof of the Four Colour Theorem」(Microsoft Research Cambridge)
- Thomas Hales ほか「A formal proof of the Kepler conjecture」(Forum of Mathematics, Pi・2017 年)
- David Bařina「Improved verification limit for the convergence of the Collatz conjecture」(The Journal of Supercomputing・2025 年)


