図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
国語(論理)
数学科の授業では、計算と同じくらい「読む・書く・話す」が大切です。定義を一字一句読み、証明を筋道の通った文章で書き、セミナーで人に説明する。その土台が、高校の「現代の国語」や「論理国語」で身に付ける力です。

ひとことで言うと
審判が、ルールブックで判定する
審判は、ルールブックの言葉を一字一句正確に読み、その言葉だけを根拠に判定して、選手に説明します。数学の証明も同じです。定義という決まりだけを根拠に、だれが読んでも納得できる説明を組み立てます。

01
定義を正確に読む: 言葉の順番で意味が変わる
大学の数学の教科書は、「定義」「定理」「証明」のくり返しで進みます。日本学術会議の参照基準によると、数学の対象は現実の世界にないため、実験では確かめられません。決められた定義だけが、考える手がかりになります。
次の 2 つの文を比べてください。A「どんな自然数にも、それより大きい自然数がある」。B「どんな自然数よりも大きい自然数がある」。使っている言葉はほとんど同じですが、A は正しく、B は正しくありません。
A が正しいのは、どの自然数 n にも n + 1 があるからです。B が正しくないのは、条件に合う数 N があったとしても、N + 1 のほうが大きいからです。「どんな」と「ある」の並ぶ順番で、文の意味が大きく変わります。
大学 1 年の微分積分学で学ぶ極限の定義(ε-δ 論法)は、この順番が要になる文です。高校の数学 I の「集合と命題」で学ぶ集合と条件の考え方が、ここで生きてきます。
定義と言葉の順番を正確に読むことが、数学の文章を読む第一歩です。
図解言葉の順番で、正しさが変わる
A: 正しい
- どんな自然数にも
- それより大きい自然数がある
- どの n にも n + 1 がある
B: 正しくない
- どんな自然数よりも
- 大きい自然数がある
- N があっても N + 1 が上回る


02
演繹と帰納: 40 回確かめても証明にはならない
高校の国語の学習指導要領解説は、推論を「演繹」と、「帰納」などの演繹ではない推論に分けて説明しています。演繹は、前提が正しければ正しい結論が得られる推論です。帰納は、例を積み重ねて決まりを導く推論で、新しい発見に役立ちますが、結論がいつも正しいとは限りません。
n² + n + 41 という式に、n = 0、1、2 と順に入れてみます。41、43、47 と素数が続き、n = 39 まで 40 回続けて素数になります。ところが n = 40 では 1,681 になり、これは 41 × 41 で素数ではありません。
数学では、例をいくつ確かめても、それだけでは証明になりません。反対に、たった 1 つの反例で、予想が正しくないと示せます。参照基準も、数学を学ぶと、反例を挙げて誤りを明確に指摘する力が身に付くと述べています。
数学者も、まず例を調べて予想を立て、そのあとで演繹の証明を組み立てます。帰納で見つけて、演繹で確かめる。この 2 つを使い分ける力は、国語と数学の両方で育ちます。
例で見つけ、証明で確かめる。この順番が数学の考え方です。
図解40 回続いても、正しいとは限らない
- 1n = 0、1、2 → 41、43、47(素数)
- 2n = 39 まで、40 回続けて素数
- 3n = 40 → 1,681 = 41 × 41

03
証明を書く: 定義から 1 行ずつ積み上げる
証明は、だれが読んでも同じ結論にたどり着ける文章です。例として、「奇数と奇数を足すと偶数になる」を証明します。まず、奇数を「2 × 整数 + 1 で表せる数」と定義します。
2 つの奇数を 2m + 1、2n + 1(m、n は整数)とおくと、和は 2m + 2n + 2 = 2(m + n + 1) です。m + n + 1 は整数なので、和は 2 × 整数、つまり偶数です。「〜とおく」「〜なので」「つまり」と、つなぎの言葉で根拠を示しながら進むのが証明の書き方です。
高校では、数学 I で対偶や背理法を使った証明を、数学 B で数学的帰納法を学びます。数学的帰納法は、名前に「帰納」とありますが、ドミノ倒しのように必ず結論が導かれる演繹の証明です。
定義と公理から証明を積み上げる書き方は、古代ギリシャで整えられました。ユークリッドの『原論』は、その代表です。参照基準も、この手法が確立したことで、導かれた結果に疑いの余地がなくなったと説明しています。
証明は、定義と論理だけを根拠にした、だれにでも通じる文章です。


04
セミナーで説明する: 聞き手に合わせて話を組み立てる
多くの大学の数学科では、4 年になると少人数のセミナーに所属し、専門書の内容を黒板で説明します。日本学術会議の参照基準は、発表する人に「できるだけわかりやすく話す」自覚が求められると書いています。準備の進め方は、「4 年: セミナーで探究する」のページで詳しく紹介しています。
説明で大切なのは、聞き手が今どこまで分かっているかを考えて、話す順番を決めることです。まず示したい結論を言い、使う定義を確かめてから、1 行ずつ理由を示します。高校の「現代の国語」にも、相手の反応を予想して論理の展開を考える学習があります。
聞き手は、分からないところをその場で質問します。参照基準は、質問をもとに全員で議論することで、発表の内容をより深く理解できると述べています。質問に答えるときは、どの定義やどの行が根拠かを言葉にして示します。
現代の国語には、スピーチを聞いて質問したり、根拠を示して反論したりする活動もあります。国語の授業での話し合いが、そのままセミナーの練習になります。
聞き手に合わせて順番を決めて話すことが、伝わる説明の基本です。
図解伝わりにくい説明と、伝わる説明
伝わりにくい
- いきなり計算から始める
- 「明らかに」で途中を飛ばす
- 質問に「なんとなく」と答える
伝わる
- 最初に示したい結論を言う
- 使う定義をそろえてから進む
- 根拠にした行を示して答える

05
苦手でも大丈夫: どこから始めるか
作文や証明が苦手でも、心配はいりません。数学の文章で大切なのは、長い文章を書く力より、短い文を正しい順につなぐ力です。まずは、教科書の例題の解答を、式だけでなく文で書き直してみてください。
数学では、数学 I の「集合と命題」で、「ならば」の逆・裏・対偶を確かめるところから始められます。数学 A の「図形の性質」で、中学で学んだ図形の証明を書き直すのもよい練習です。
国語では、論理国語の教科書の評論を、主張とその根拠を線で結ぶように読んでみてください。論理国語では、主張とその前提や反証の関係、推論の仕方を学びます。このサイトの高校の「国語」のページもあわせて読むと、高校の国語の全体像が分かります。
短い文を正しい順につなぐ練習が、証明を書く力になります。
図解始める順番の例
- 1例題を文で書く式のあいだに「なので」を入れる
- 2対偶を作る身近な「ならば」の文で練習
- 3図形を証明中学の証明を自分の言葉で
- 4人に説明する友だちに 5 分で話してみる
高校生のうちに試せること
身近な「ならば」で逆・裏・対偶を作る
天気予報や駅の注意書きから「〜ならば〜」の文を 3 つ選び、逆・裏・対偶を書きましょう。どれが元の文と同じ意味になるかを友だちと確かめると、数学 I の内容が身近になります。
n² + n + 41 を表計算で調べる
表計算ソフトの A 列に 0 から 50 までを入れ、B 列で n² + n + 41 を計算しましょう。B 列を 41 で割って割り切れる行を探すと、n = 40 と n = 41 で割り切れて、素数でないことが分かります。
『原論』の定義を読む
図書館で『ユークリッド原論』の日本語訳を借り、第 1 巻の最初にある定義と公準を読みましょう。点や線のように当たり前に思える言葉を、一つずつ言葉で決めていく書き方が分かります。
読点 1 つで変わる意味を探す
「どの鍵にも、合う鍵穴がある」と「どの鍵にも合う鍵穴がある」を読み比べましょう。後の文は、すべての鍵に合う 1 つの鍵穴がある、とも読めます。このように、読点や言葉の順番で意味が変わる文を 3 つ作り、友だちと読み比べてみてください。
「国語(論理)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 33 件から探せます。
よくある質問
国語が苦手でも、数学科でやっていけますか?
やっていけます。数学の文章では、凝った表現より、短い文を正しい順につなぐことが大切です。証明の書き方は、大学の演習やセミナーで少しずつ身に付けられます。高校のうちから解答を文で書く練習をしておくと、入学後に役立ちます。
論理国語を選べない場合は、どうすればよいですか?
全員が学ぶ「現代の国語」でも、主張と論拠の関係や推論の仕方を学びます。論理国語は選択科目で、学校によって扱いが異なります。評論を読んで主張と根拠を整理する練習は、どの教科書でもできます。
英語の力も必要ですか?
参照基準は、日本語で分かりやすく表現する力に加えて、国際標準語となりつつある英語での会話の力も欠かせないとしています。このサイトの高校の「英語」のページもあわせて読んでみてください。


