図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
数学
クレーンのワイヤーにかかる力、エンジンのピストンの動き、車の揺れや機械の制御。機械工学では、高校の数学で学ぶ三角関数・ベクトル・微分積分を、毎日のように道具として使います。

ひとことで言うと
楽譜があれば、初めての曲も弾ける
楽譜には、音の高さと長さが記号で書かれているので、初めて見る曲でも演奏できます。機械工学の数学も同じで、力や動きを式に書けば、まだ作っていない機械の動きを計算で前もって確かめられます。

01
三角比とベクトル: クレーンのワイヤーにかかる力
力は、大きさと向きをもつ量です。数学 C で学ぶベクトルを使うと、斜めに働く力を、縦と横の成分に分けて考えられます。分けるときに使うのが、数学 I で学ぶ三角比(sin・cos)です。
クレーンで荷物をつるすために、ワイヤーを掛ける作業を玉掛けと呼びます。1 トンの荷物(重さ約 9,800 N)を 2 本のワイヤーで真上からつるすと、1 本あたり 4,900 N です。2 本の開きを 60 度にすると、1 本の力は 4,900 ÷ cos 30° で約 5,660 N に増えます。
開きを 120 度まで広げると、1 本の力は 4,900 ÷ cos 60° = 9,800 N です。1 本で荷物全体を支えるのと同じ力がかかります。玉掛けの技能講習でも、「つり角度」や「張力係数」という言葉を学びます。機械工学では、クレーンの腕や鉄塔のような骨組みも、同じように力を成分に分けて計算します。
三角比とベクトルは、斜めに働く力を計算するための道具です。
図解2 本のワイヤーの開きと 1 本の力
開き 0 度
- 1 本あたり 4,900 N
- 荷物の重さの半分
開き 60 度
- 1 本あたり約 5,660 N
- 0 度のときの約 1.16 倍
開き 120 度
- 1 本あたり 9,800 N
- 荷物の重さと同じ


02
微分: エンジンのピストンの速さと加速度
車のエンジンでは、ピストンがシリンダーの中を往復し、その動きをクランク軸が回転に変えます。クランクの回転の角度を θ、半径を r とすると、ピストンの位置はおよそ r cos θ で表せます。ここで数学 II の三角関数を使います。
数学 III では、位置を時間で微分すると速度、もう一度微分すると加速度になることを学びます。cos を 2 回微分すると −cos に戻るので、加速度の大きさは最大で rω² です。ω は 1 秒あたりに回る角度(角速度)です。
例えば、毎分 6,000 回転、クランクの半径 4 cm で計算してみます。1 秒に 100 回転なので ω は約 628、加速度は最大で約 15,800 m/s² です。重力加速度の約 1,600 倍で、ピストンは 1 秒に 100 往復します。この大きな力でエンジンが揺れないように、部品の重さのつり合いを考えるのも機械力学の仕事です。
微分を使うと、速く動く部品にかかる力を前もって計算できます。
図解ピストンの加速度を計算する
- 11 秒に 100 回転: ω = 2π × 100 ≒ 628
- 2位置 x = r cos ωt を時間で 2 回微分する
- 3加速度の最大 = rω² = 0.04 × 628² ≒ 15,800 m/s²


03
微分方程式: 揺れと制御を式で表す
大学では、「変化の速さ」を含む式である微分方程式を学びます。熱いコーヒーは、部屋の温度との差が大きいほど速く冷めます。この関係を式にして解くと、温度の差は指数関数で小さくなっていきます。数学 II の指数関数が、ここで登場します。
ばねにつるしたおもりは、ずれ x に比例した力で引き戻されます。運動方程式は m x″ = −kx(x″ は x を時間で 2 回微分したもの)です。2 回微分すると −(k/m) 倍に戻る関数が答えで、それが sin と cos です。揺れの形が三角関数になるのは、このためです。
車のサスペンションは、この式に揺れを弱める項を加えて設計します。制御工学でも、機械の動きを微分方程式で表し、ラプラス変換という方法で掛け算と割り算の式に直して考えます。ロボットの腕を、行き過ぎずに素早く目標へ動かす調整は、この計算から始まります。車の乗り心地や、ロボットの動きを担当する技術者は、こうした式を使って設計しています。
微分方程式が分かると、揺れも制御も同じ考え方で扱えます。
図解微分方程式の 2 つの代表
冷める・減る
- 熱いコーヒーが冷める
- 変化の速さが差に比例する
- 答えは指数関数
揺れる
- ばねとおもり、車のサスペンション
- 加速度がずれに比例する
- 答えは三角関数(sin・cos)

04
線形代数: たくさんの式をまとめて解く
クレーンの腕や鉄橋のように、棒を三角形につないだ骨組みをトラスと呼びます。つなぎ目(節点)ごとに、横と縦の力のつり合いで 2 つの式が立ちます。節点が 100 個あれば、式は 200 個です。
高校では、未知数が 2〜3 個の連立方程式を解きます。式が何百もあると、手ではとても解けません。大学 1 年の線形代数では、連立一次方程式を行列でまとめて書き、コンピュータで解く考え方を学びます。
部品をコンピュータの中で細かな要素に分けて強さを計算する有限要素法も、同じしくみです。「材料の強さ」のページで紹介した強さの計算(CAE)の中身は、とても大きな連立一次方程式です。行列は数学 C で扱う学校もありますが、本格的に学ぶのは大学に入ってからです。
行列を使うと、何百もの式を 1 つにまとめて扱えます。

05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
機械工学で使う数学は、三角関数・微分積分・ベクトルが中心です。どれも積み重ねの単元なので、つまずいた所まで戻るのが近道です。まず数学 I の三角比で、直角三角形の辺と角の関係を確かめてください。
次に数学 II の三角関数と微分、数学 III の微分法と積分法、数学 C のベクトルへ進みます。数学 III で扱う速度と加速度は、物理の運動とそのままつながります。物理の問題を数学の練習として解くと、両方の理解が深まります。
多くの大学では、1 年で微分積分と線形代数を学び、演習の授業で計算に慣れていきます。入試で課される数学の範囲は、大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で早めに確かめてください。
このサイトの高校の「数学」のページと、大学の「数学」のページもあわせて読むと、高校の単元が大学のどこで深まるかが見えてきます。
三角関数と微分がつながれば、機械の揺れや動きを式で読めます。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1数学 I三角比: 辺と角の関係
- 2数学 II三角関数・指数関数・微分
- 3数学 III微分法・積分法、速度と加速度
- 4数学 Cベクトル(行列を扱う学校も)
高校生のうちに試せること
ひもとペットボトルで張力を確かめる
水を入れたペットボトルをひもの真ん中につるし、両端を両手で持ちましょう。手を左右に広げてひもを水平に近づけるほど、強い力が要ることを確かめてください。どれだけ強く引いても、ひもはまっすぐ水平にはなりません。
表計算で開きの角度と力の表を作る
表計算ソフトで、開きの角度を 0 度から 150 度まで 10 度ずつ並べ、「= 4900 / COS(RADIANS(角度 / 2))」で 1 本の力を計算しましょう。グラフにすると、角度が大きくなるにつれて力が急に増える様子が分かります。
グラフ計算機で sin を微分する
無料のグラフ計算機 Desmos で y = sin x を描き、その微分の y = cos x も重ねて描きましょう。sin のグラフの傾きがいちばん急な所で、cos の値が最大になることを目で確かめられます。
Desmos グラフ計算機
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 107 件から探せます。

高安研究室
東京科学大学(東京都)
システム制御

藤本研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 数物・電子情報系学科 電子情報システム教育プログラム・システム制御・ロボット工学・藤本 康孝 教授
システムの最適化やロボット、アクチュエータを研究する。

システム制御
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先進理工系科学研究科 情報科学プログラム・情報科学・河野 佑 教授
システム制御やネットワーク科学、機械学習、プライバシー保護などを研究している。

浜田研究室
東京科学大学(東京都)
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広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 電気システム制御プログラム・社会情報学・林田 智弘 教授
意思決定論、生産システム、電力システムなどを研究している。

田中研究室
東京科学大学(東京都)
システム制御
よくある質問
数学 III は、機械工学で必要ですか?
授業では、数学 III で学ぶ三角関数の微分や積分をくり返し使います。入試で課すかどうかは大学や入試の方式によって異なりますが、入学前に一通り学んでおくと、1 年の微分積分や力学の授業に入りやすくなります。
計算はコンピュータがするのに、なぜ数学を学ぶのですか?
コンピュータは式を速く解きますが、どんな式を立てるかは人が決めます。計算の結果がおかしいときに気づけるのも、式の意味が分かる人です。
大学の数学についていけるか心配です。
多くの大学では、講義と演習を組み合わせて、問題を解きながら身につけます。分からない所は、高校の教科書のその単元に戻ると、つながりが見えてきます。機械の例に当てはめると、式の意味もつかみやすくなります。
