大学カタログ

図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1

物理

部品が壊れないか、機械がどう動くか、熱をどれだけ仕事に変えられるか。機械工学の 4 つの力学は、どれも高校の物理基礎・物理で学ぶ法則から始まります。

実験室で、長いスパナでボルトを締める学生、羽根車の付いた容器の水温を確かめる学生、穴をあけたペットボトルから弧を描いて飛び出す水を見つめる学生たち

ひとことで言うと

サッカーのルールは 17 条だけ

サッカーの競技規則は 17 条しかありませんが、その組み合わせで毎回ちがう試合が生まれます。物理の基本の法則も、運動の法則やエネルギー保存など、ほんのわずかです。機械工学では、その少ない法則を組み合わせて、自動車からロボットまでの動きを説明します。

01

4 つの力学は、高校の物理から始まる

日本学術会議の参照基準は、機械工学の土台となる学問を、「熱学」を含む「力学」としています。物の運動、固体の変形と破壊、流れ、熱の 4 つです。大学ではこれを、機械力学・材料力学・流体力学・熱力学の 4 つの力学として学びます。

4 つの力学の入口は、どれも高校の物理にあります。物理基礎の「力のつり合い」は材料力学へ、「運動の法則」は機械力学へつながります。「力学的エネルギーの保存」は流体力学へ、「熱と仕事の変換」は熱力学へと続きます。

電気と磁気の単元も、無関係ではありません。ロボットの関節を回すモーターや、動きを測るセンサーは、電磁気のしくみで動きます。多くの大学では、1 年で物理学や力学を学び直してから、2 年で4 つの力学に進みます。

4 つの力学は、高校の物理の単元をそれぞれ深めた学問です。

図解高校の物理が育つ場所

高校の物理
  • 力のつり合い材料力学: 部品が壊れないか
  • 運動の法則機械力学: 動きと揺れ
  • エネルギー保存流体力学: 水や空気の流れ
  • 熱と仕事熱力学: エンジンや発電
  • 電気と磁気モーターとセンサー

02

力のつり合い: 材料力学の第一歩

物理基礎では、物体に働く力をすべて矢印で描き、つり合いの式を立てます。物理では、大きさのある物体(剛体)のつり合いも学びます。物を回す働きの大きさは「力のモーメント」と呼び、力 × 回転の中心からの距離で表します。

身近な例がスパナです。長さ 20 cm のスパナの端に、100 N(約 10 kg の重さ)の力をかけたとします。モーメントは 100 × 0.2 = 20 N·m です。長さ 40 cm のスパナなら、半分の 50 N で同じ強さで締められます。整備の現場では、トルクレンチという工具で、決められた強さまで締めたかを確かめます。

材料力学は、ここから一歩進みます。部品を頭の中で切り、切り口にどんな力が働けばつり合うかを考えます。こうして求めた部品の中で働く力を面積で割ったものが、応力です。応力の考え方は、「材料の強さ」のページでくわしく紹介しています。

力を矢印で描く習慣は、大学の材料力学でもそのまま使います。

図解高校の物理と大学の材料力学

高校の物理

  • 物体を点や剛体として扱う
  • 外から働く力のつり合いを考える
  • 物体は変形しないとみなす

大学の材料力学

  • 部品の中で働く力も考える
  • 伸びや曲がりを計算する
  • 壊れないかを確かめる

03

運動方程式: 機械力学の入口

物理基礎で学ぶ運動の三法則は、1687 年にニュートンが出版した『プリンキピア』にまとめられています。質量 m の物体に力 F が働くと、加速度 a が生じ、ma = F が成り立ちます。この運動方程式が、機械力学のいちばんの土台です。

エレベーターで考えてみます。体重 50 kg の人が、上向きに 1.0 m/s² で加速するエレベーターの中で体重計に乗ったとします。床が人を押す力は 50 × (9.8 + 1.0) = 540 N で、体重計は約 55 kg を指します。動き出しで体が重く感じる理由が、計算で分かります。

機械力学では、この式にばねの力や摩擦の力を加えて、機械の動きと揺れを計算します。エレベーターなら、加速するときにロープにかかる力も同じ考え方で求めます。物理で学ぶ単振動や運動量も、機械の揺れや衝突を考える授業につながります。

ma = F が使えると、機械が動くときにかかる力を計算できます。

図解エレベーターの体重計を計算する

入力体重 50 kg の人が、上向きに 1.0 m/s² で加速するエレベーターに乗る
  1. 1運動方程式 ma = N − mg を立てる(N は床が押す力)
  2. 2N = m(g + a) = 50 × 10.8 = 540 N
  3. 3体重計の目盛りは 540 ÷ 9.8 ≒ 55
結果動き出しの間、体重計は約 55 kg を指す
ガラスケースの中で開かれた古い本。左のページは印刷されたラテン語、右のページは手書きの文字でびっしり埋まっている
ニュートンが手元に置いていた『プリンキピア』の初版(ケンブリッジ大学図書館)。第 2 版に向けて、本人が書き込んだ直しが見えます。写真: Billthom(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

エネルギー保存と熱: 流れと熱の力学へ

物理基礎では、摩擦などがなければ、運動エネルギーと位置エネルギーの和が変わらないことを学びます。1738 年、スイスの数学者一族のダニエル・ベルヌーイは『流体力学』を出版しました。容器の穴から流れ出る水を、この考え方で正しく分析したことで知られます。

水そうの側面の穴から水が飛び出す速さは、水面からの深さを h とすると √(2gh) です。同じ高さから物を落としたときの速さと同じです。深さ 1.25 m なら、√(2 × 9.8 × 1.25) ≒ 4.9 m/s になります。流れの中のエネルギー保存はベルヌーイの定理と呼ばれ、流体力学の授業の柱です。

熱もエネルギーの一つです。1840 年代、イギリスのジェームズ・ジュールは、おもりが落ちる力で羽根車を回し、水をかき混ぜました。水の温度はわずかに上がり、おもりの仕事が熱に変わったことが確かめられました。エネルギーの単位ジュール(J)は、彼の名にちなみます。

1 kg の水を 1℃ 温めるには、約 4,200 J が要ります。1 kg のおもりなら、約 430 m 落としてようやく届く量です。熱はとても大きなエネルギーで、それを仕事に変える機械がエンジンです。熱を仕事に変えるしくみは、大学の熱力学で学びます。

エネルギー保存は、水の流れにも熱にも使える、とても広い法則です。

クイズ物理と機械工学のクイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1上向きに加速するエレベーターの中で体重計に乗ると、目盛りはどうなる?

  2. Q2ジュールが羽根車で水をかき混ぜた実験で、水の温度が上がった理由は?

  3. Q31 kg の水を 1℃ 温める約 4,200 J。1 kg のおもりを何 m 落とすと同じエネルギーになる?

0 / 3 問に回答
ガラスケースの中に展示された、金属の羽根車が付いた軸と、それを入れる筒形の容器
ロンドンの科学博物館に展示されている、ジュールの実験装置。おもりが落ちる力で軸を回し、容器の中の水を羽根車でかき混ぜました。写真: Gaius Cornelius(Public domain・Wikimedia Commons)

05

苦手でも大丈夫: どこから学び直すか

物理でつまずきやすいのは、公式がばらばらに見えることです。実際には、運動方程式とエネルギー保存の 2 つから、多くの公式を導けます。まず物理基礎の「力のつり合い」「運動の法則」「力学的エネルギー」を、図を描きながら学び直すのが近道です。

次に、物理の「剛体のつり合い」「運動量」「単振動」、物理基礎の「熱」と物理の「気体分子の運動」へ進みます。問題を解くときは、力を矢印で描き、単位をそろえ、答えの大きさを確かめることを習慣にしてください。この 3 つは、大学の演習でもそのまま役に立ちます。

大学の 1 年では、高校の力学を、微分積分を使って学び直す授業が多くあります。入試で物理を選ばなかった人は、この授業を足がかりにできます。入試で課される理科の科目は大学によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

このサイトの高校の「物理」のページと、大学の「物理学」のページもあわせて読むと、高校の単元が大学のどこで深まるかが見えてきます。

運動方程式とエネルギー保存を使いこなせば、4 つの力学の入口に立てます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1物理基礎: 力力のつり合いと運動の法則
  2. 2物理基礎: エネルギー仕事と力学的エネルギーの保存
  3. 3物理: 運動剛体のつり合い・運動量・単振動
  4. 4熱と気体熱と仕事、気体分子の運動

高校生のうちに試せること

  • 穴をあけたペットボトルで流れを見る

    ペットボトルの側面に、高さを変えて 3 つの穴をあけ、水を入れて飛び出し方を比べましょう。水面から深い穴ほど、勢いよく飛び出します。深さを測って √(2gh) で速さを計算し、飛び方と見比べてください。流しや屋外で試しましょう。

  • エレベーターの加速度を測る

    無料のアプリ phyphox で加速度センサーの記録を始め、スマートフォンを手のひらに水平にのせてエレベーターに乗りましょう。動き出しと止まる直前に、加速度が変わる様子が記録されます。測った値で、本文と同じ体重計の計算をしてみてください。

    phyphox
  • シミュレーションでエネルギー保存を確かめる

    コロラド大学ボルダー校の PhET は、無料で使える理科のシミュレーションです。「力学的エネルギーの保存: ベーシック」で、スケートボードに乗った人の高さと速さ、エネルギーの変化を見比べましょう。

    PhET「力学的エネルギーの保存: ベーシック」

「物理」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 105 件から探せます。

研究室をすべて見る(73 件)

よくある質問

物理基礎しか学んでいなくても、機械工学科に入れますか?

入試で物理を課すかどうかは、大学や入試の方式によって異なります。入学後は 1 年の物理学や力学の授業で、運動の法則やエネルギーを学び直します。物理の「剛体のつり合い」や「単振動」を高校のうちに読んでおくと、授業に入りやすくなります。

電気や磁気の単元も、機械工学で使いますか?

使います。ロボットの関節を動かすモーターや、位置や速さを測るセンサーは、電磁気のしくみで動きます。機械と電気・電子を組み合わせる分野はメカトロニクスと呼ばれ、機械系の学科の授業にもなっています(東京理科大学の「メカトロニクス及び演習」など)。

物理学科と機械工学科は、何が違いますか?

物理学科は、自然の法則そのものを調べ、新しい法則を探す学問です。機械工学科は、分かっている法則を使って、安全で役に立つ機械を設計し、作ることが中心です。どちらも、1 年では力学を学ぶところから始まります。