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図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 2

研究で病気に挑む

病気の原因や新しい治療法を、実験やデータから明らかにする仕事です。日本の研究室で見つかった小さなタンパク質が、がんの治療を大きく変えた例もあります。

顕微鏡や細胞を育てる装置が並ぶ明るい研究室で、画面に映る光る細胞の画像(文字なし)を囲み、白衣の大学生たちが話し合う様子

ひとことで言うと

ゲームのボスの攻略法を見つけるように

ゲームでどうしても勝てないボスがいたら、動きを観察し、「こうすれば勝てるかも」と考えて、何度も試します。医学の研究も、病気のしくみを観察し、仮説を立て、実験で確かめるくり返しです。見つけた攻略法は論文で公開され、世界中の医師が使えるようになります。

01

どんな仕事?: 基礎研究・臨床研究・社会医学

医学の研究には、大きく 3 つの形があります。1 つめは、細胞や遺伝子を使って、からだと病気のしくみを調べる基礎研究です。2 つめは、患者の協力を得て、新しい診断や治療を確かめる臨床研究です。3 つめは、多くの人のデータから病気の原因や予防の方法を探る、疫学などの社会医学の研究です。

研究をする医師は、大学の医学部や研究所、大きな病院で働いています。ただ、その数は多くありません。2024 年末の医師は 34 万 7,772 人です。そのうち、大学の医学部などで基礎医学のような臨床以外の分野に勤める医師は 2,801 人(約 0.8%)でした。

医師が研究をする強みは、患者を診た経験から問いを立てられることです。「同じ薬でも、よく効く人と効かない人がいるのはなぜか」。そんな診療の現場の疑問が、新しい研究の出発点になります。

診療で生まれた疑問を、実験とデータで確かめるのが医学の研究です。

図解医学の研究の 3 つの形

基礎研究

  • 細胞・遺伝子・タンパク質を調べる
  • 病気が起きるしくみを明らかにする
  • 新しい薬の手がかりを見つける

臨床研究

  • 患者の協力を得て行う
  • 新しい診断や治療を確かめる
  • 薬の治験もその一つ

社会医学の研究

  • 多くの人のデータを集める
  • 病気の原因や予防法を探る
  • 疫学・公衆衛生など
色とりどりに光る細胞の画像が映る画面の前で、顕微鏡を使う研究者の後ろ姿
チェコ科学アカデミーの研究所で、生きた細胞の中の変化を観察できる顕微鏡を使う研究者。光る目印をつけると、細胞のどこで何が起きているかを見られます。写真: René Volfík(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

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発見の名場面: PD-1 からがんの新しい治療へ

1992 年、京都大学の本庶佑さんの研究室で、免疫の細胞(T 細胞)の表面にある新しいタンパク質が見つかりました。PD-1 と名づけられたこのタンパク質の働きを確かめるため、研究室では長い年月をかけて実験が重ねられました。

その結果、PD-1 は免疫の働きをおさえるブレーキだと分かりました。動物の実験では、このブレーキを止めると、免疫ががんを攻撃しやすくなることが示されました。

2012 年には、患者でのはっきりした効果を示す重要な研究が発表されました。日本では 2014 年から、PD-1 の働きを止める薬が治療に使われ始め、使えるがんの種類も増えています。2018 年、本庶さんはアメリカのアリソンさんとともに、ノーベル生理学・医学賞を受けました。

PD-1 は、細胞が自ら死ぬしくみ(プログラム細胞死)を調べる研究の中で見つかりました。名前の PD は、そのなごりです。初めに考えていた目的とは違う発見が、大きな成果につながることも研究の面白さです。

基礎研究の発見が、20 年あまりかけて新しい治療になりました。

図解発見から治療まで(PD-1 の例)

  1. 11992 年 発見T 細胞の表面に PD-1 を見つける
  2. 2働きを調べる免疫のブレーキだと分かる
  3. 3動物で確かめるブレーキを止めるとがんを攻撃
  4. 42012 年 臨床患者での効果を示す研究
  5. 52014 年 治療へ日本で薬が使われ始める

03

大学院で研究する医師の 1 日(例)

臨床研修のあとに大学院の博士課程に進み、研究に取り組む医師もいます。医学の博士課程は、ふつう 4 年間です。ここでは、免疫の研究をしている大学院生の 1 日の例を紹介します。

実験は、うまくいかないことのほうが多い作業です。条件を少しずつ変えてくり返し、結果が偶然でないことを統計で確かめます。研究室の会議で、ほかの人の意見を聞くことも欠かせません。

大学院に通いながら、病院での診療を続ける人もいます。患者を診る経験が、次の研究の問いを生むこともあります。

地道なくり返しの先に、新しい発見があります。

図解大学院生(医師)の 1 日(例)

  1. 9:00細胞の世話育てている細胞の様子を確かめる
  2. 10:00実験条件を変えて免疫の細胞の反応を測る
  3. 12:00昼休み
  4. 13:00データの分析結果をグラフにし、統計で確かめる
  5. 15:00研究室の会議進み具合を発表し、意見をもらう
  6. 17:00論文を読む英語の新しい論文で方法を調べる
黄色とオレンジ色の箱に、細いプラスチックの先がすき間なく並んでいる
液体をはかり取る道具(マイクロピペット)の先。医学の実験では、ごく少ない量の液体を正確に扱う作業を何度もくり返します。写真: Gannu03(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

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研究者への道と、向いている人

医学の研究者をめざす道はいくつかあります。医学部を卒業して臨床研修を終えたあと、大学院の博士課程に進むのが代表的な道です。学生のうちから研究室で研究できるコースを置く大学もあります(大学によって異なります)。

専門医の資格と研究を両立する道もあります。日本専門医機構の「臨床研究医コース」は、研修の期間が最低 5 年です。最初の 1 年は診療の力を磨き、その後の 4 年は時間の半分以上を研究に使い、論文を 2 本以上書きます。

博士の学位を取ったあとは、大学の教員や研究所の研究員、海外の研究室への留学などに進みます。医学部以外の理学部・薬学部・工学部などから、医学の研究者になる人もいます。

「なぜだろう」を放っておけない人、失敗しても条件を変えて試し続けられる人に向いています。英語の論文を読む力と、データを扱う力が研究の土台になります。

クイズ医学の研究クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1PD-1 が見つかってから、日本でその働きを止める薬が治療に使われ始めるまで、およそ何年?

  2. Q2PD-1 の「PD」は、もともと何を調べる研究から名づけられた?

  3. Q32024 年末、大学の医学部などで基礎医学のような臨床以外の分野に勤める医師は、およそ何人?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • ノーベル賞の受賞講演を見る

    ノーベル賞の公式サイトでは、本庶佑さんの受賞講演(英語)を公開しています。PD-1 の発見から治療までの道のりを、研究者本人の言葉で聞いてみましょう。

    Tasuku Honjo Nobel Lecture(NobelPrize.org)
  • PubMed で医学の論文を探す

    PubMed は、世界の医学の論文を無料で検索できるサイトです。「PD-1」と入れて検索し、論文の数が年ごとにどう増えたかを見てみましょう。気になった論文の要旨(Abstract)を 1 本、辞書を引きながら読んでみましょう。

    PubMed(アメリカ国立医学図書館)
  • 研究室のサイトを読む

    興味のある大学の医学部のサイトで、研究室の紹介を読んでみましょう。どんな問いに取り組んでいるのか、最近どんな成果を出したのかを知ると、医学の研究がぐっと身近になります。

「研究で病気に挑む」に関連するコミュニティ

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よくある質問

医学の研究をするには、医師免許が必要ですか?

必要ではありません。理学部・薬学部・工学部などから大学院に進み、医学の研究をする人もいます。医師免許を持つ研究者には、診療で感じた疑問を研究に結びつけやすいという強みがあります。

研究の道に進むと、患者を診なくなりますか?

人によって異なります。研究に専念する人もいれば、大学病院などで診療を続けながら研究する人もいます。臨床研究では、診療と研究が直接つながっています。

医学部に入ってから研究の道を決めても、間に合いますか?

間に合います。臨床研修を終えてから大学院に進み、研究を始める医師もいます。在学中に研究室を訪ねて、早めに研究を体験しておくこともできます(大学によって異なります)。