図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 2
数学
物理学の基本法則は、数学の言葉で書かれています。揺れは微分方程式と複素数で、電気と磁気はベクトル解析で、原子の世界は行列と確率で表します。高校の数学 III・C や統計の単元が、物理学の教科書を読むための文法になります。

ひとことで言うと
地図記号が読めると、知らない町も歩ける
地図記号を知っていれば、初めて行く町でも、学校や郵便局の場所が分かります。物理学の数学も同じです。微分方程式やベクトルの記号が読めると、教科書の式から、まだ見たことのない現象の動きまで読み取れます。

01
物理の法則は、数学の言葉で書かれている
1623 年、ガリレオは著書『偽金鑑識官』で、宇宙という書物は数学の言葉で書かれ、その文字は三角形や円などの図形だと述べました。それから約 400 年たったいまも、物理学は同じ考え方で進んでいます。
日本学術会議の参照基準は、物理学の特徴として「基本法則は数学という言語で記述される」ことを挙げ、その多くが微分方程式の形だとしています。物理学で使う数学として、微分積分学・微分方程式・ベクトル解析・線形代数・統計学・複素関数論・フーリエ解析などを挙げています。
高校の数学は、そのどれにもつながっています。数学 III の微分は速度と加速度に、数学 C の複素数平面は揺れや波の計算に使います。数学 B の統計的な推測は、実験のデータを読む統計の入口です。
高校の単元の多くが、物理学の教科書を読むための文法になります。
図解高校の数学と物理学の授業
- 微分・積分運動方程式と微分方程式(力学)
- ベクトルベクトル解析(電磁気学)
- 複素数平面揺れと波、量子力学の式
- 行列線形代数(量子力学)
- 確率・統計統計力学と、実験のデータ解析

02
微分方程式と複素数: 揺れの式を自分で解く
高校の物理では、単振動の周期 T = 2π√(m/k) を公式として学びます。大学では、運動方程式 m x″ = −kx(x″ は位置 x を時間で 2 回微分したもの)を、微分方程式として解きます。
物理学でよく使うのは、答えを x = e^(λt) の形と見当をつけて、式に代入する方法です。すると λ² = −k/m となり、λ は 2 乗するとマイナスになる数、つまり虚数の ±iω(ω = √(k/m))になります。ここで高校の複素数が、揺れの計算に自然に現れます。
続いて、オイラーの公式(e の iθ 乗 = cos θ + i sin θ)を使います。すると解は cos ωt と sin ωt の組み合わせになり、周期 2π/ω が出てきます。振り子も、振れ幅が小さいときは sin θ ≒ θ と近似すると、同じ形の式になります。近似して解ける形にするのも、物理学でよく使う数学の技です。
この揺れを利用した身近な道具が、クオーツ時計です。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)によると、時計の水晶は多くの場合 1 秒に 32,768 回振動します。32,768 は 2 の 15 乗なので、2 で 15 回割ると、ちょうど 1 秒の刻みが作れます。
微分方程式と複素数がそろうと、揺れの公式を自分で導けます。
図解単振動の微分方程式を解く
- 1x = e^(λt) と見当をつけて代入する
- 2λ² = −k/m から、λ = ±iω(ω = √(k/m))
- 3オイラーの公式で、解は cos ωt と sin ωt の組み合わせ


03
ベクトル解析と線形代数: 電磁気学と量子力学の言葉
1873 年にマクスウェルが発表した電磁気学の式は、20 個の変数を使った 20 個の式でした。1884 年ごろまでに、イギリスのヘヴィサイドはベクトルの記号を使い、3 つずつの式を 1 つにまとめました。いまの教科書の 4 本のマクスウェル方程式は、こうして形が整いました。
これを読むための数学が、ベクトル解析です。div(発散)は、ある点から電気の力の線がどれだけ湧き出しているかを表します。rot(回転)は、磁場がどれだけ渦を巻いているかを表します。数学 C のベクトルに、微分を組み合わせた道具です。
量子力学では、線形代数が主役になります。1925 年 6 月、花粉症の療養で北海のヘルゴラント島に来ていた 23 歳のハイゼンベルクは、原子の光を説明する新しい計算の規則を考えました。ボルンは、それが数学で使われてきた行列のかけ算だと気づきました。
行列のかけ算では、AB と BA が等しいとは限りません。量子力学では、位置と運動量の行列のかける順番による差が、ミクロの世界のふるまいを決めています。2025 年はハイゼンベルクの論文から 100 年にあたり、国連が定めた国際量子科学技術年でした。
ベクトル解析と線形代数は、電磁気学と量子力学を読むための言葉です。
図解電磁気学と量子力学の数学
ベクトル解析
- 電磁気学の 4 本の式を書く
- div は湧き出し、rot は渦を表す
- 数学 C のベクトル + 微分
線形代数
- 量子力学の物理量を行列で表す
- AB と BA が等しいとは限らない
- 数学 C の行列から大きく広がる

04
確率と統計: 「発見」と言える 5 シグマ
数学 B の「統計的な推測」では、正規分布と標準偏差を学びます。物理の実験では、同じ量を何度測っても、結果は少しずつばらつきます。大学の物理学実験では、測った値とあわせて、ばらつき(不確かさ)を見積もる方法を学びます。
正規分布では、平均から ±1σ(σ は標準偏差)の範囲に約 68%、±2σ の範囲に約 95% のデータが入ります。素粒子物理学で新しい粒子の「発見」と言うには、5σ という厳しい基準を使います。偶然のゆらぎで、それほど大きな信号が出る確率は約 350 万分の 1 です。
CERN によると、2012 年 7 月 4 日、ATLAS と CMS の 2 つの実験がこの 5σ の基準に届きました。こうして、ヒッグス粒子とみられる新しい粒子の発見が発表されました。膨大なデータから本物の信号を見分けるのは、統計の力です。
量子力学では、確率そのものが法則の中心にあります。ボルンは、粒子がどこで見つかるかは確率でしか言えない、と解釈しました。アインシュタインは 1926 年、ボルンへの手紙に「神はサイコロ遊びをしない」と書いて反対しました。それでも確率による解釈は量子力学の土台となり、ボルンは 1954 年にノーベル物理学賞を受けました。
確率と統計は、実験の結果を確かめる道具であり、量子力学の言葉でもあります。

05
苦手でも大丈夫: どこから学び直すか
物理学で使う数学は、微分・積分とベクトルが中心です。どちらも積み重ねの単元なので、つまずいた所まで戻るのが近道です。まず数学 II の三角関数と、微分・積分の考えを確かめてください。
次に、数学 III の微分法・積分法で、三角関数や指数関数の微分を身につけます。学習指導要領の解説も、数学 III の微分を、点の運動の速度と加速度に使うことを示しています。数学 C のベクトルと複素数平面、数学 B の統計的な推測もあわせて学ぶと、物理の式が読みやすくなります。
多くの大学では、1 年で微分積分と線形代数を、2 年ごろに微分方程式やベクトル解析を「物理数学」などの授業で学びます。科目の名前と時期は、大学によって異なります。物理の問題を数学の練習として解くと、両方の理解が深まります。
このサイトの高校の「数学」のページと、大学の「数学」のページもあわせて読んでみてください。数学科では、同じ微分積分や線形代数を、定義と証明から組み立て直します。
微分とベクトルがつながれば、物理学の教科書の式が読めるようになります。
図解学び直しのおすすめの順番
- 1数学 II三角関数、微分・積分の考え
- 2数学 III微分法・積分法、速度と加速度
- 3数学 Cベクトルと複素数平面
- 4数学 B統計的な推測(正規分布)
高校生のうちに試せること
本を回して、順番で結果が変わるのを確かめる
本を机に置き、縦の軸のまわりに 90 度回してから、横の軸のまわりに 90 度回しましょう。もとに戻して、順番を逆にして回すと、最後の本の向きが違います。回す順番で結果が変わるのは、行列のかけ算で AB と BA が違うのと同じしくみです。
電卓で sin θ ≒ θ を確かめる
スマートフォンの関数電卓を「ラジアン(rad)」にして、sin 0.1 と sin 0.5 を計算しましょう。0.0998… と 0.479… になり、角度が小さいほど sin θ と θ が近いことが分かります。振り子の式を近似で解くときの根拠です。
表計算で正規分布の「σ」を確かめる
表計算ソフトの NORM.S.DIST 関数を使い、「=NORM.S.DIST(1,TRUE)-NORM.S.DIST(-1,TRUE)」を計算しましょう。約 0.68 になり、平均から ±1σ に約 68% が入ることを確かめられます。1 を 2 や 5 に変えて、5σ の外側がどれだけ小さいかも見てみてください。
「数学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 55 件から探せます。
計算物理学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム・物性理論・樋口 克彦 准教授
量子多体系、トポロジカル現象、第一原理計算理論などを研究している。

計算物理領域
大阪大学(大阪府)
工学研究科物理学系専攻・計算物理・森川 良忠 教授
固体電子論
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム・物性理論・嶋原 浩 教授
超伝導、磁性、強相関電子系などを研究している。

佐藤研究室
千葉大学(千葉県)
理学部 物理学科・物性理論・佐藤 正寛 教授
スピントロニクスや光物性、非平衡物理、磁性、トポロジカル物性などを理論的に研究する。
素粒子理論研究室
九州大学(福岡県)
素粒子・原子核物理学・鈴木 博 教授
場の量子論や格子ゲージ理論など素粒子理論を幅広く研究する。
低温物性理論研究室
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・物性理論・東谷 誠二 教授
超伝導、超流動、界面物性などを研究している。
よくある質問
数学 III を学んでいなくても、物理学科に進めますか?
入試で数学 III を課すかどうかは、大学や入試の方式によって異なります。授業では、数学 III の微分・積分を、1 年の力学からくり返し使います。入学前に一通り学んでおくと、授業に入りやすくなります。
物理学科の数学と、数学科の数学は何が違いますか?
物理学科では、自然の現象を式で表し、計算して実験と比べるために数学を使います。数学科では、同じ微分積分や線形代数を、定義と証明から組み立てます。どちらも 1 年の微分積分と線形代数から始まる大学が多くあります。
計算が遅くても、物理学科でやっていけますか?
大切なのは、速さよりも、式を立てて答えを確かめる力です。日本学術会議の参照基準も、数値の桁(オーダー)を目安に答えが正しいかを確かめることや、近似の役割を理解することを、身につける力に挙げています。

