大学カタログ

図 4 学ぶために必要な科目・学問学ぶために必要な科目 1

物理

物理学科にとって、高校の物理は「出発点」です。運動・電磁誘導・原子の単元で覚えた公式を、大学では少ない基本法則から導き直し、その先の現象まで計算できるようにします。

大学の実験室で、ストロボの光の中ではずむボールを撮る学生、コイルに磁石を出し入れして計器の針を見る学生、ピンク色に光る細いガラス管を分光器でのぞく学生たち

ひとことで言うと

決まり文句を覚えるより、文法を知る

旅行用の決まり文句を覚えれば、決まった場面では話せます。文法を知っていれば、初めての場面でも自分で文を組み立てられます。大学の物理学は、高校の公式という決まり文句を、文法にあたる基本法則から組み立て直します。

01

高校の物理は、大学の物理学の出発点

機械工学や建築学では、物理は設計に使う道具です。物理学科では、物理そのものが学ぶ対象になります。高校で覚えた公式も、どの基本法則から導けるのかを確かめ直します。

日本学術会議の参照基準は、物理学の特徴として、自然を数少ない基本法則で理解しようとすることを挙げています。例えばニュートンの運動方程式は、星や銀河の動きから、機械や建物の強さまで予測します。基本法則の多くは、微分方程式の形で書かれています。

高校の「物理」は、様々な運動・波・電気と磁気・原子の 4 つの大項目でできています。大学では、それぞれが力学・電磁気学・統計力学・量子力学などの授業につながります。下の図は、高校の単元と大学の授業のつながりの例です。

高校の単元の 1 つひとつが、大学の基本法則の授業の入口です。

図解高校の単元と大学の授業

高校の物理
  • 様々な運動力学: 運動方程式から導き直す
  • 気体分子の運動熱力学・統計力学: 熱を分子で説明
  • 波振動・波動: 波の式を解く
  • 電気と磁気電磁気学: マクスウェル方程式へ
  • 原子量子力学: シュレディンガー方程式へ

02

放物運動: 公式は 1 本の式から出てくる

物理基礎では、まっすぐ落ちる運動を学びます。物理では、斜めに投げた物の運動を、横の等速運動と縦の落下運動に分けて考えます。v = v₀ + at や x = v₀t + ½at² などの公式を使って解くのが、高校のやり方です。

大学 1 年の力学では、運動方程式 ma = F を、位置を時間で 2 回微分したものが加速度、という形で書きます。重力だけなら、加速度 −g を時間で 1 回積分すると速度の式、もう 1 回積分すると位置の式になります。高校で別々に覚えた公式は、1 本の運動方程式を積分した結果です。

この書き方の強みは、力を足していけることです。高校の物理でも、空気の抵抗が速さに比例する場合に触れます。大学では、抵抗の力を加えた運動方程式を解き、速さが時間とともにどう変わるかを式で表します。

雨粒で比べてみます。空気の抵抗がなければ、高さ 4,000 m の雲から落ちた雨粒は約 29 秒で地上に届き、そのとき秒速約 280 m です。NASA によると、実際には大きな雨粒でも秒速約 10 m で、地上まで少なくとも約 7 分かかります。抵抗の力が重力とつり合い、速さが一定の値に近づくからです。

公式を覚える代わりに、運動方程式を立てて解く。これが大学の力学の出発点です。

図解高さ 4,000 m から落ちる雨粒

空気の抵抗なし

  • 高校の公式 y = ½gt² で計算
  • 約 29 秒で地上に届く
  • 地上で秒速約 280 m

実際の雨粒

  • 抵抗の力を運動方程式に足す
  • 速さは一定の値に近づく
  • 大きな粒でも秒速約 10 m
黒い背景の前で、はずむボールを一定の間隔で写した写真。ボールの位置が、左右に並ぶ 2 つの山形の弧を描いている
1 秒に 25 回光るストロボで撮った、はずむボール。はねるたびに、放物線に近い弧を描きます。写真: Michael Maggs・Richard Bartz(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

03

電磁誘導: IC カードが電池なしで動くわけ

物理では、コイルを貫く磁束が変化すると電圧が生じる電磁誘導を学びます。1831 年、イギリスのファラデーは鉄の輪に 2 つのコイルを巻き、一方の電流を入れたり切ったりした瞬間に、もう一方に電流が流れることを見つけました。

身近な例が、交通系などの IC カードです。日本機械学会誌の解説によると、多くの IC カードには電池が入っていません。読み取り機が作る磁界の中にカードを通すと、カードのアンテナコイルに電磁誘導で電力が生まれ、IC チップが動きます。

高校では、誘導起電力を V = −N ΔΦ/Δt(N は巻き数、Φ は磁束)と表します。大学では、ΔΦ/Δt を微分 dΦ/dt に置きかえます。磁束が sin の形で行ったり来たりすると、微分した電圧は、変化の速さを表す ω(角振動数)に比例します。速く変化させるほど、大きな電圧が取り出せることが、式から読み取れます。

ソニーの FeliCa のカードと読み取り機は、13.56 MHz、つまり 1 秒に 1,356 万回振動する電波でやりとりします。大学の電磁気学では、電磁誘導の法則は、電気と磁気をまとめたマクスウェル方程式の 1 本になります。この式から光の正体が分かる話は、このサイトの「2 年: 基本法則を学ぶ」のページで紹介しています。

高校の ΔΦ/Δt が、大学では微分になり、電気と磁気の法則の 1 本に育ちます。

図解磁束の変化から電圧を求める

入力巻き数 N のコイルを貫く磁束が、Φ = Φ₀ sin ωt のように行ったり来たりする
  1. 1高校: V = −N ΔΦ/Δt(平均の変化の速さ)
  2. 2大学: V = −N dΦ/dt と微分で書く
  3. 3微分すると V = −NΦ₀ω cos ωt
結果電圧の大きさは ω に比例する。速く変えるほど大きな電圧が出る
白黒写真。太い線を何重にも巻きつけた輪が、台の上に立てて置かれている
ファラデーが 1831 年に電磁誘導を見つけたときの鉄の輪。左右に別々のコイルが巻かれています。ロンドンの王立研究所に保存されています。写真: 作者不詳(Public domain・Wikimedia Commons)

04

原子: 水素の赤い光を計算する

物理の「原子」の単元では、水素原子が出す光の波長に規則性があることを学びます。1885 年、スイスのバーゼルの女学校で数学を教えていたバルマーは、水素の光の波長を 1 つの式で表せることに気づきました。

高校では、ボーアの原子モデルでこの規則を説明します。水素原子の電子のエネルギーは、−13.6/n² eV(n = 1, 2, 3 …)という飛び飛びの値しかとれません。電子が n = 3 から n = 2 に移ると、その差 13.6 × (1/4 − 1/9) ≒ 1.89 eV が光になって出ていきます。

光のエネルギー E と波長 λ には、E = hc/λ の関係があります(h はプランク定数、c は光の速さ)。1.89 eV の光の波長を計算すると約 656 nm で、赤い光です。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の測定値でも、水素の赤い線の波長は 656.3 nm です。

ただ、ボーアのモデルは、なぜエネルギーが飛び飛びになるのかを仮定で済ませています。大学の量子力学では、シュレディンガー方程式を解いて、−13.6/n² eV を仮定なしに導きます。同じ方程式が、周期表の並び方や半導体のしくみを考える土台にもなります。

原子の光の色は、エネルギーの差から計算で予言できます。

クイズ高校と大学をつなぐ物理クイズ

答えを選ぶと、正解と解説が表示されます。

  1. Q1水素原子の電子が n = 3 から n = 2 に移るときに出る光は、何色?

  2. Q2交通系などの IC カードが、電池なしで動くのはなぜ?

  3. Q3いちばん大きな雨粒が、空気の中を落ちる速さはおよそ?

0 / 3 問に回答
暗い背景の前で、縦に置いた細いガラス管がピンクがかった紫色に光っている
水素を封じた放電管。高い電圧をかけると光ります。分光器で光を分けると、656 nm の赤い線などが見えます。写真: Mohit Jhanjhotia(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

05

苦手でも大丈夫: どこから学び直すか

参照基準は、物理学は数学と同じく積み重ねの学問だとしています。つまずいた単元まで戻るのが近道です。まず物理基礎の「運動の法則」と「力学的エネルギー」を、力の矢印を描きながら確かめてください。

次に、物理の「平面内の運動」「円運動と単振動」「電磁誘導」「原子とスペクトル」へ進みます。公式を使ったら、その公式がどの法則から出てくるのかを教科書で追ってみてください。答えの単位と大きさが自然かを確かめる習慣は、大学の演習でもそのまま役に立ちます。

多くの大学では、1 年の力学で、微分積分を使って高校の内容を学び直します。入試で物理を課すかどうかは大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。

物理オリンピック日本委員会の物理チャレンジは、高校で物理を履修していなくても挑戦できる全国の物理コンテストです。このサイトの高校の「物理」のページもあわせて読むと、高校の単元の全体像がつかめます。大学の「機械工学」や「建築学」のページでは、物理を設計の道具として使う学問を紹介しています。

公式を「導けるもの」として見直すと、大学の授業にそのまま入れます。

図解学び直しのおすすめの順番

  1. 1物理基礎: 力学運動の法則と力学的エネルギー
  2. 2物理: 運動平面内の運動・円運動と単振動
  3. 3物理: 電気と磁気電磁誘導と電磁波
  4. 4物理: 原子スペクトルとエネルギー準位

高校生のうちに試せること

  • 物理チャレンジに挑戦する

    物理チャレンジは、20 歳未満で大学などに入る前の人が参加できる全国の物理コンテストです。第 1 チャレンジは、自宅で受けるオンラインの理論問題と、自宅や学校で取り組む実験課題のレポートです。理論問題だけの「理論コース」もあります。申し込みは例年 4〜5 月ごろです。

    物理チャレンジ(物理オリンピック日本委員会)
  • 公式の出どころを、積分で確かめる

    教科書の v = v₀ + at と x = v₀t + ½at² を、加速度 a が一定という式から、数学 II・III の積分で導いてみましょう。v² − v₀² = 2ax も、この 2 つの式から t を消すと出てきます。覚える公式が、1 つの式にまとまることを確かめられます。

  • シミュレーションで電磁誘導を確かめる

    コロラド大学ボルダー校の PhET の「ファラデーの法則」では、コイルに磁石を出し入れして、電球の光り方や電圧計の針の動きを確かめられます。磁石を速く動かすほど、針が大きく振れることを確かめましょう。

    PhET「ファラデーの法則」

「物理」に関連するコミュニティ

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よくある質問

高校で物理基礎しか学んでいなくても、物理学科に進めますか?

入試で物理を課すかどうかは、大学や入試の方式によって異なるので、志望校の募集要項で確かめてください。入学後は、1 年の力学や電磁気学で、高校の内容を微分積分を使って学び直します。物理の「円運動と単振動」「電磁誘導」「原子」を高校のうちに読んでおくと、授業に入りやすくなります。

公式が多くて覚えきれません。どうすればよいですか?

高校の力学の公式の多くは、運動方程式と、エネルギーや運動量の保存から導けます。問題を 1 つ解いたら、使った公式がどの法則から出てくるのかを教科書で確かめてください。導き方が分かると覚える量が減り、大学の授業にもそのままつながります。

大学で導き直すなら、高校の公式は使わなくなるのですか?

使います。参照基準は、解くのが難しい問題では、極端な場合の解を参考にすることも大切だとしています。空気の抵抗がない場合の高校の公式は、抵抗を考えた答えが正しいかを確かめる目安になります。