図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 2
2 年: 調べ方を身につける
調査票(アンケート)の作り方、インタビューと観察の方法、社会統計学を本格的に学ぶ 1 年です。家族・都市・メディアなどの各論も始まり、「何を、どう調べるか」の引き出しが増えていきます。

ひとことで言うと
料理の基本の切り方と火加減を覚える
同じ材料でも、切り方や火加減で味が変わります。社会調査も、質問の聞き方や聞く相手の選び方で、結果が変わります。2 年は、調べ方という料理の基本を一つずつ身につける 1 年です。

01
調査票調査: 聞き方で答えが変わる
2 年では、調査票(アンケート)を使う調査の方法を本格的に学びます。社会調査協会の標準カリキュラムでは「調査設計と実施方法」(B 科目)にあたります。調査の目的を決めて仮説を立て、質問文と調査票を作り、集めた回答を整理するまでを学びます。
中でも奥が深いのが質問文です。総務省統計局の解説によると、質問文の言葉づかいや聞き方で、調査の結果はゆがみやすくなります。代表的な失敗が、1 つの質問に 2 つ以上の論点が入った「ダブルバーレル質問」です。
たとえば「部活と勉強の両立に満足していますか」と聞くと、部活には満足でも勉強には不満な人は答えに迷います。解説では、入学時期を秋に変えるかを聞く前に「世界の多数の国に合わせ」と前置きすると、賛成が増えるおそれがある例も挙げています。1 つの質問には論点を 1 つだけ入れ、中立の言葉で聞くのが基本です。
質問文の一語一語が、集まるデータの質を決めます。
図解質問文を直す(例)
- 1部活と勉強の 2 つの論点が混ざっている
- 21 つの質問には論点を 1 つだけ入れる
- 3部活と勉強を別々の質問に分ける

02
誰に聞くか: くじ引きで選ぶ全国調査
調査では、聞く相手の選び方(サンプリング)も学びます。全員に聞くのは難しいため、一部の人を選んで全体を推し量ります。標準カリキュラムの B 科目では、全数調査と標本調査の違いや無作為抽出、標本の数と誤差の関係を扱います。
その手本になるのが、社会学者たちが続けている SSM 調査(社会階層と社会移動全国調査)です。1955 年から 10 年ごとに行われ、2025 年の調査で 8 回目になりました。対象は全国の 13,000 人以上で、市区町村の住民基本台帳から、くじ引きのような方法で選ばれています。
くじ引きで選ぶのは、調べる人の都合で相手を選ぶと、結果が偏るからです。2025 年の調査は、訪問面接調査のほか、若い世代、地域、外国籍の住民を対象にした調査も組み合わせています。聞く人をどう選んだかを見ると、その調査がどこまで信頼できるかが分かります。
ニュースでアンケートの結果を見たら、「誰に聞いたか」を確かめるくせをつけます。

03
インタビューと観察: 現場に入って話を聞く
数字では表しにくいことを調べるのが、インタビューや観察などの質的な調査です。標準カリキュラムの「質的な調査と分析の方法」(F 科目)では、参与観察やフィールドワーク、インタビューを学びます。人生の歩みを聞き取るライフヒストリーの分析や、会話の分析も扱います。
参与観察の古典が、アメリカの社会学者ホワイトの『ストリート・コーナー・ソサエティ』です。ホワイトは、ボストンのノースエンドにある、イタリア系の人々が暮らす地区に入りました。そして、街角に集まる若者たちの世界を描きました。地元の若者グループのリーダーは、ホワイトの最初の調査助手になりました。
本には「ボウリングと社会的な序列」という章もあります。ホワイトは、貧しい地区も無秩序とは限らず、そこにも人間関係のしくみがあることを示しました。この本は、都市のフィールドワークの手本として読み継がれています。
図解2 つの調べ方
調査票調査
- 多くの人に同じ質問をする
- 割合や違いを数字で示す
- 例: 全国の暮らしと意識の調査
インタビュー・観察
- 少数の人に深く話を聞く
- 言葉やふるまいの意味を読む
- 例: 街角の若者たちの付き合い


04
社会統計学: クロス集計と「見かけの関係」
社会統計学では、集めたデータを表やグラフにまとめ、違いや関係を確かめる方法を学びます。標準カリキュラムでは、クロス集計や相関係数、因果と相関の区別が「基本的な資料とデータの分析」(C 科目)に入っています。検定や回帰分析の基礎は「社会調査に必要な統計学」(D 科目)で学びます。
例として、2024 年度の全国学力・学習状況調査から、朝食と学力の関係を見てみます。令和 6 年度の食育白書によると、朝食を毎日食べる小・中学生と全く食べない小・中学生では、平均正答率に差がありました。差は各教科で 15 ポイント前後です。
では、朝食を食べさえすれば成績は上がるのか、考えてみます。2 つの数字が一緒に動いても、片方がもう片方の原因とは限りません。睡眠や家での過ごし方など、ほかの事情が両方に関わっている可能性もあります。「ほかの原因はないか」と疑うことが、社会統計学の大切な見方です。

05
各論と 2 年生の 1 週間
2 年からは、テーマごとの各論の講義も増えます。家族社会学、都市社会学、教育社会学、メディア論など、名前に「社会学」や「論」が付く科目から、関心に合わせて選びます。どの科目があるかは大学によって異なります。
各論で学ぶ考え方は、調べ方と組み合わせて初めて生きます。家族社会学の講義で知った見方を、自分たちで作った調査票で確かめる、といった形です。2 年の各論で見つけた関心は、3 年の社会調査実習やゼミを選ぶ手がかりになります。
下の図は、2 年生の 1 週間の例です。調査法や統計の授業では、パソコンで実際にデータを集計します。調査票調査とインタビューのどちらに向いているかを、自分で試しながら確かめられるのが 2 年です。
図解2 年生の 1 週間(例)
- 月社会調査法質問文と調査票の作り方を学ぶ
- 火家族社会学・英語世帯や結婚の移り変わりを考える
- 水社会統計学クロス集計と検定をパソコンで
- 木質的調査法2 人 1 組でインタビューの練習
- 金都市社会学・メディア論街や SNS の変化を考える
- 土・日課題・アルバイト試作した調査票を友だちに試す
高校生のうちに試せること
国の世論調査の質問文を読む
内閣府の「社会意識に関する世論調査」のページでは、結果のグラフと一緒に、実際の調査票を読めます。質問の言葉づかいが中立か、選択肢に偏りがないかを確かめましょう。
社会意識に関する世論調査(内閣府)質問文の作り方の解説を読む
総務省統計局のサイトには、東京大学の研究者が監修した、質問文の作り方の解説があります。避けるべき言葉や聞き方の例を読み、自分ならどう直すかを考えましょう。
質問文の作成(総務省統計局 Data StaRt)クラスで小さなアンケートを作る
文化祭や部活についての質問を 5 つ作り、友だち 5 人に答えてもらいましょう。答えにくかった質問を聞いて言葉を直すと、調査票づくりの流れを体験できます。
「2 年: 調べ方を身につける」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 108 件から探せます。

社会分析スタジオ
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 都市社会共生学科・社会学・文化人類学・政治学・齊藤 麻人 教授
質的・量的な調査手法を学び、都市社会や政治、人の移動を分析する。

社会文化批評スタジオ
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 都市社会共生学科・思想・社会学・歴史学・清田 友則 教授
批評を軸に社会や文化の事象を理論と実践の両面から掘り下げる。
文化人類学研究室
熊本大学(熊本県)
文学部 社会人間学コース・文化人類学
フィールドワークや文献を通して、現代の社会や文化の多様なかたちを描き出す。
海外研究スタジオ
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 都市社会共生学科・比較文化・社会学・大須賀 史和 教授
欧州や中南米の都市の文化・社会・開発の問題を文献と現地調査で探る。
家族社会学研究室
宮城学院女子大学(宮城県)
都市・ジェンダー地理学研究室
立正大学(東京都)
よくある質問
アンケートは、何人に聞けば正しい結果になりますか?
人数だけでは決まりません。聞く相手が偏っていると、人数が多くても全体の姿とずれます。SSM 調査のように、くじ引きのような方法で相手を選ぶやり方と、標本の数と誤差の関係を、調査法や統計の授業で学びます。
インタビューと調査票調査は、どちらを学べばよいですか?
多くの大学では両方を学びます。社会調査士の標準カリキュラムでは、多変量解析の方法(E 科目)と質的な調査と分析の方法(F 科目)のどちらかを選びます。数字で全体をつかむか、話を深く聞くかは、調べたいことに合わせて選びます。
統計が苦手でも大丈夫ですか?
社会統計学は、平均やクロス集計など基本から積み上げます。計算の多くは表計算ソフトや統計ソフトで行うので、式を覚えるより、結果をどう読むかが大切です。分からない点はその週のうちに聞くと、追いつきやすくなります。

