図 1 建築学の広がり建築学の広がり 3
環境と設備
建物の中の暑さ・寒さ、明るさ、空気、音を、快適で健康によい状態に整える分野です。熱・空気・光・音の性質と、空調や給排水などの設備、省エネルギーを学びます。

ひとことで言うと
魔法びんは、中と外の熱を伝えにくい
魔法びんに入れたお茶は、何時間たっても温かいままです。中と外のあいだで熱が伝わりにくいように作られているからです。建物も、壁や窓の作り方しだいで、冬は暖かく夏は涼しく、少ないエネルギーで過ごせるようになります。

01
熱と結露: 冬の窓に水滴がつくわけ
冬の朝、窓ガラスの内側に水滴がついていることがあります。これが結露です。空気がふくめる水蒸気の量には限りがあり、暖かい空気ほど多くの水蒸気をふくめます。暖かい部屋の空気が冷たい窓に触れて冷やされると、ふくみきれなくなった水蒸気が水になって現れます。
たとえば室温 20 ℃・湿度 60% の空気は、約 12 ℃ まで冷えると水滴ができ始めます。この温度を露点と呼びます。外が寒い日は、断熱の弱い窓の表面が露点を下回りやすく、結露が起きます。
結露をくり返すと、カビやダニが増えたり、壁の中の木材が傷んだりします。そこで壁や窓の断熱を高め、室内側の表面が冷えすぎないようにします。断熱は、冷暖房のエネルギーを減らすことにもつながります。2025 年 4 月からは、新しく建てる住宅などに、国の省エネ基準を満たすことが義務づけられました。
温度と湿度の関係が分かると、結露は設計で防げます。
図解結露ができるまで
- 1外が寒く、窓ガラスが冷える
- 2窓に触れた空気が約 12 ℃(露点)まで冷える
- 3ふくみきれない水蒸気が水になる

02
風と光: 京町家の通り庭と、夏の日差し
京都の町家は、道に面した間口が狭く奥に長い作りから、「鰻の寝床」と呼ばれます。玄関から奥へ続く細長い土間が通り庭です。京都市によると、通り庭は家の中に光や風を取り込みます。部屋と部屋の間の坪庭や、奥の座敷に面した奥庭も、風と光を取り込む役目をもっています。
通り庭の炊事場の上は、火袋と呼ばれる吹き抜けです。煮炊きの熱や煙を上へ逃がします。温かい空気は軽くて上にのぼるので、高い所に出口があると、下から新しい空気が入ってきます。夏の打ち水も、涼しく過ごすための昔からの工夫です。
日差しの角度も、設計の手がかりです。東京(北緯約 35.7 度)では、正午の太陽の高さが夏至に約 78 度、冬至に約 31 度になります。深い軒やひさしは、高い夏の日差しをさえぎり、低い冬の日差しを部屋の奥まで入れます。機械に頼る前に、建物の形でできる工夫を考えるのが、環境の設計の出発点です。
風の通り道と日差しの角度を読むと、エアコンに頼りすぎない建物になります。
図解正午の日差しと軒(東京)
夏至
- 太陽の高さは約 78 度
- 深い軒が日差しをさえぎる
冬至
- 太陽の高さは約 31 度
- 日差しが部屋の奥まで届く


03
音: 体育館で声が聞き取りにくいわけ
体育館やお風呂で声を出すと、音が長く残って響きます。音を止めてから、音の強さが 100 万分の 1(60 デシベル下がる)になるまでの時間を、残響時間と呼びます。部屋が大きく、壁や床が硬くて音を吸わないほど、残響時間は長くなります。
響きが長すぎると、前の音と次の音が重なって、話し声が聞き取りにくくなります。体育館の集会でマイクの声が聞き取りにくいことがあるのも、このためです。教室やホールでは、天井の高さ、部屋の形、カーテンや吸音材の量を調整して、目的に合う響きにします。
残響を計算で予測できるようにしたのが、アメリカのハーバード大学の物理学者ウォレス・セイビンです。セイビンは、建てる前に残響時間を予測する式を作り、1900 年 10 月に開いたボストンのシンフォニーホールの音響設計を担当しました。目標の残響時間は 1.9〜2.1 秒です。科学の原理にもとづいて音響を設計した最初のホールとされています。
響きは、部屋の大きさと材料で設計できます。


04
設備と省エネ: 「24 時間換気」がある理由
建物には、空調、換気、給水・排水、電気、照明などの設備が欠かせません。新しい家やマンションで、「24 時間換気」のスイッチを見たことはありませんか。
建材や家具から出る化学物質で体調をくずすシックハウスを防ぐため、2003 年 7 月に改正建築基準法が施行されました。これにより、原則としてすべての建物に、機械で換気する設備が義務づけられました。住宅の部屋では、1 時間に部屋の空気のおよそ半分が入れかわる換気が必要です。
省エネルギーも大きなテーマです。断熱を高め、効率のよい設備を使い、太陽光発電などでエネルギーをつくる住宅があります。1 年間のエネルギー消費を実質ゼロ以下にすることを目指したもので、ZEH(ゼッチ) と呼びます。住宅以外の建物では ZEB(ゼブ)です。国は遅くとも 2030 年までに、省エネ基準を ZEH・ZEB の水準へ引き上げる予定です。
この分野を学んだ人は、建物の設備設計者、空調や電気の設備会社の技術者、省エネの研究者などとして働きます。熱や空気の流れをコンピュータで計算するシミュレーションも、よく使われる道具です。
高校生のうちに試せること
温湿度計で結露を予想する
温湿度計を部屋に置き、冬の朝の室温と湿度を記録しましょう。結露した日としなかった日の数字を比べると、露点の考え方が実感できます。
手をたたいて響きを比べる
教室、体育館、お風呂、布団の多い部屋で手を 1 回たたき、スマートフォンで録音しましょう。録音の波形を見比べると、音が消えるまでの長さの違いが分かります。
家の中の風の通り道を探す
暑い日に、窓を 1 か所だけ開けたときと、向かい合う 2 か所を開けたときで、風の入り方を比べましょう。細く切ったティッシュを窓辺に下げると、風の流れが目で見えます。
「環境と設備」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 20 件から探せます。
建築環境シミュレーション学研究室
九州大学(福岡県)
空間システム・劉 城準 准教授
建築環境計画学分野
京都大学(京都府)
工学研究科建築学専攻・建築環境計画学
川井・丸山研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム・建築音響・川井 敬二 教授
建築の音環境や室内音響、サウンドスケープを研究する。

都市・建築環境学
岡山大学(岡山県)
工学部 環境・社会基盤系 都市環境創成コース・建築環境工学・鳴海 大典 教授
快適な都市環境と環境負荷の低減を両立するエネルギーシステムとその使い方を研究する。

光環境適応研究グループ
岡山大学(岡山県)
資源植物科学研究所・植物分子生物学・坂本 亘 教授
強い光による光合成の障害から植物が身を守る仕組みや、葉緑体の維持・DNA代謝の仕組みを解析する。
高田研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科 建築学教育プログラム・建築環境工学・高田 眞人 助教
建物の温熱環境と環境に配慮した設計を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
機械工学で学ぶ熱や流れと、何が違いますか?
使う物理は共通しています。建築の環境と設備では、人がその部屋でどう感じるか、健康に過ごせるかが中心になります。外の気候や建物の形、窓の位置と合わせて考えるのも特徴です。
環境と設備の分野では、どんな研究をしていますか?
暑さ寒さの感じ方を調べる実験、町並みの風の流れのシミュレーション、ホールや教室の音響、実際の建物で省エネの効果を測る研究などがあります。大学によって得意な分野が異なるので、研究室の紹介を見比べてください。