図 1 建築学の広がり建築学の広がり 2
構造と耐震
建物の重さや、地震・風・雪の力が、柱や梁を通ってどう地面まで流れるかを計算し、倒れない建物を設計する分野です。構造力学、耐震設計、鉄骨・鉄筋コンクリート、木造を学びます。

ひとことで言うと
人間ピラミッドは、下の段ほど重さを受け止める
組体操のピラミッドでは、上の人の体重が下の人の肩や背中に伝わり、いちばん下の段が全員の重さを支えます。建物も同じで、屋根や床の重さは柱や壁を伝って基礎へ、そして地面へと流れます。構造の分野は、この力の流れを読み、どこも壊れないように柱や梁の太さと配置を決めます。

01
構造力学: 教室の床は何 kg まで支える?
建物には、いろいろな力がかかります。建物そのものの重さ、中にいる人や家具の重さ、地震や台風による横からの力、屋根に積もる雪の重さです。構造力学では、こうした力が柱や梁をどう伝わり、部材の中にどんな力が生まれるかを計算します。
人や家具の重さ(積載荷重)は、部屋の使い方ごとに建築基準法施行令で目安が決まっています。床を設計するとき、住宅の部屋は 1 m² あたり 1,800 N(約 180 kg 分)、教室は 2,300 N(約 230 kg 分)で計算できます。百貨店の売場は 2,900 N、固定席のない集会場は 3,500 N です。
大勢が集まって動く場所ほど、床を丈夫にする必要があるということです。雪も大きな力になります。屋根の雪は、1 cm 積もるごとに 1 m² あたり 20 N 以上として計算するのが基本です。1 m 積もれば、1 m² あたり 2,000 N(約 200 kg 分)以上です。雪の多い地域では、地域に合わせた値を決めることができます。
力がどこから来て、どこへ流れるかを考えるのが、構造の第一歩です。
図解教室の床で計算してみる
- 1教室の積載荷重は 1 m² あたり 2,300 N
- 22,300 N × 60 m² = 138,000 N
- 3重さに直すと 138,000 ÷ 9.8 ≒ 14,000 kg

02
耐震設計: 1981 年と 2000 年に変わった基準
日本は地震の多い国で、建物の耐震の決まりは、大きな地震のたびに見直されてきました。大きな節目が 1981 年 6 月の新耐震基準です。木造住宅では、地震の横からの力に抵抗する壁を、それまでより多く入れることになりました。2000 年 6 月には、柱と土台などをつなぐ部分(接合部)の決まりがはっきりしました。
その差がはっきり表れたのが、2016 年の熊本地震です。日本建築学会は、被害の大きかった熊本県益城町の中心部で、建物を 1 棟ずつ調べました。木造の建物が倒壊・崩壊した割合は、1981 年 5 月以前に建てたものが 28.2% でした。1981 年 6 月〜2000 年 5 月は 8.7%、2000 年 6 月以降は 2.2% です。
国の委員会は、新耐震基準の木造住宅には、それより前の基準の約 1.4 倍の壁の量があり、それが差につながったと分析しています。壁は量だけでなく、置き方も大切です。建築基準法施行令は、木造の建物の壁や筋かいを、縦と横の両方向につり合いよく配置するよう求めています。
耐震の基準は、地震の被害から学んで強くなってきました。
図解熊本地震で調べた木造の倒壊・崩壊の割合(益城町中心部)
1981 年 5 月以前
- それまでの基準(旧耐震)
- 倒壊・崩壊 28.2%(214 棟)
1981〜2000 年
- 新耐震基準で壁を増やす
- 倒壊・崩壊 8.7%(76 棟)
2000 年 6 月以降
- 接合部の決まりを明確に
- 倒壊・崩壊 2.2%(7 棟)

03
木造: 五重塔は地震で倒れにくい
奈良県の法隆寺には、世界最古の木造建築が数多く残っています。金堂や五重塔などの西院の建物は、7 世紀後半から 8 世紀初めにかけて建てられました。1993 年には、法起寺とあわせて「法隆寺地域の仏教建造物」として世界遺産に登録されています。
京都の東寺の五重塔は高さ 55 m 近くあり、日本の伝統的な木造建築でいちばん高い建物です。観光庁の解説によると、東寺の五重塔は 1200 年以上にわたって、地震で倒れたことがありません。
理由として挙げられるのが、塔の組み立て方です。五重塔は各階が独立して積み重なった作りで、木材は釘ではなく、精巧な継ぎ目で組まれています。中心には心柱という柱が立ち、地震のときは各階と心柱が別々に揺れます。その動きの中で、継ぎ目が揺れを吸収して逃がすと説明されています。
五重塔の揺れ方は、いまも研究の題材です。木と木の組み方で揺れを受け流す知恵は、これからの木造建築を考える手がかりにもなっています。
1000 年以上前の大工の工夫が、いまも研究の手がかりになっています。


04
鉄筋コンクリートと、実物大の揺れの実験
大きな建物の多くは、鉄骨造か鉄筋コンクリート造です。コンクリートは押しつぶす力に強い一方、引っ張る力には弱い材料です。そこで、引っ張る力に強い鉄筋を中に入れて、お互いの弱点を補います。
鉄筋は、まわりのコンクリートに守られてさびにくくなります。建築基準法施行令は、鉄筋を覆うコンクリートの厚さ(かぶり厚さ)を、柱や梁で 3 cm 以上、土に接する部分で 4 cm 以上と決めています。わずか数センチの厚さが、建物の寿命を左右します。
計算で確かめたことは、実験でも確かめます。兵庫県三木市の E-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験施設)は、阪神・淡路大震災の教訓から 2005 年 3 月に完成しました。15 m × 20 m の震動台に最大 1,200 トンの建物をのせ、実際の地震と同じ立体的な揺れを起こせます。築 30 年の木造住宅や 6 階建ての鉄筋コンクリートのビルを揺らし、どう壊れるかを調べてきました。
構造を学んだ人は、建物の骨組みを計算する構造設計者、古い建物の耐震診断や補強をする技術者、研究者などとして働きます。多くの大学では 2 年生ごろから構造力学を学び、3 年生で鉄骨や鉄筋コンクリートの設計に進みます。

高校生のうちに試せること
J-SHIS で住む地域の揺れやすさを見る
防災科学技術研究所の J-SHIS では、今後 30 年間に震度 6 弱以上の揺れに見舞われる確率などを地図で見られます。自分の家や学校のあたりを調べ、地域による違いを比べましょう。
地震ハザードステーション J-SHIS家族と「わが家の耐震診断」を試す
日本建築防災協会のウェブ版では、建てた時期や壁の配置など 10 問に答えて、木造住宅の耐震性の目安を確かめられます。家が 1981 年 6 月より前に建てられたかどうかも、家族と一緒に調べてみましょう。
誰でもできるわが家の耐震診断ストローの骨組みで筋かいを試す
ストローとモールで 2 階建ての四角い骨組みを作り、のせた台を左右に揺らしてみましょう。斜めの材(筋かい)を入れる面や本数を変えると、揺れ方がどう変わるかを確かめてください。
「構造と耐震」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 28 件から探せます。
建築構造工学講座
神戸大学(兵庫県)
建築学

鉄骨系構造学領域
大阪大学(大阪府)
工学研究科地球総合工学専攻・鉄骨系構造学・桑原 進 教授

建築都市空間デザイン専攻 建築構造工学研究室
北海道大学(北海道)
建築都市

建築構造力学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 建築学プログラム・建築学・陳 星辰 准教授
建築構造システム、建築振動解析、建築物の損傷制御設計などを研究している。

木質構造設計学
岡山大学(岡山県)
工学部 環境・社会基盤系 都市環境創成コース・建築構造・槌本 敬大 教授
CLTなどの木質材料を使った耐震建築や、木とコンクリート・鋼のハイブリッド構造を研究する。
建築材料・構造分野
新潟大学(新潟県)
工学部 工学科 建築学プログラム・建築構造・中村 孝也 教授
耐震工学や鉄筋コンクリート構造、空間構造を扱う。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
数学や物理が苦手でも、構造を学べますか?
構造力学の土台は、高校の物理の「力のつり合い」と、数学の微分積分です。多くの大学では、1 年生で数学と物理の基礎を固めてから構造力学に進みます。計算は、手を動かしてくり返すうちに身についていきます。
構造設計の仕事では、どんな建物を担当しますか?
住宅からオフィスビル、学校、体育館や駅の大きな屋根まで、骨組みのある建物すべてが対象です。意匠設計の担当者と相談しながら柱や梁の位置と太さを決め、計算書と構造図にまとめます。
