大学カタログ

図 1 生物学の広がり生物学の広がり 4

生態・環境

生き物は、食べたり食べられたり、助け合ったりしながら、森や川や海で暮らしています。その数やつながり、行動を野外で調べ、外来種や数の減った生き物から自然を守る方法を考える分野です。

川辺で網を持つ学生、花に集まるミツバチを観察する学生、沖の調査船で細かい網を引き上げる学生たち

ひとことで言うと

町の人口と暮らしを調べる国勢調査

国勢調査では、町に何人が住み、どんな暮らしをしているかを調べ、町づくりに生かします。生態学も、ある場所に生き物が何匹いて、だれが何を食べ、どう助け合っているのかを調べ、自然を守る計画に生かします。

01

生き物の数を数える: 生態学の第一歩

生態学は、生き物どうしや、生き物と環境のつながりを調べる学問です。同じ場所にすむ同じ種の集まりを個体群、いろいろな種の集まりを群集と呼びます。そこに水や土や光を加えたまとまりが生態系です。

調べる第一歩は、そこに何匹いるかを知ることです。でも、池の魚や林の虫を全部捕まえることはできません。そこで使われるのが標識再捕法です。捕まえた個体に印をつけて放し、もう一度捕まえて、印つきの割合から全体の数を推定します。

この方法は、印つきの個体がよく混ざっていること、そのあいだに生まれたり死んだりした数が少ないことを前提にしています。前提が成り立つかを考えるのも、生態学の大切な練習です。

全部を数えられなくても、工夫しだいで数は推定できます。

図解校庭のダンゴムシは何匹?

入力1 回目に 40 匹捕まえ、背中に小さな印をつけて放す
  1. 1数日後、2 回目に 50 匹捕まえると、印つきは 8 匹
  2. 2印つきの割合は 8 ÷ 50 = 0.16 と考える
  3. 3全体の数 ≒ 40 ÷ 0.16 = 250
結果校庭には、およそ 250 匹のダンゴムシがいると推定できる

02

動物行動学: ミツバチはダンスで花の場所を伝える

オーストリアのフリッシュは、ミツバチの「言葉」を調べました。蜜のある花を見つけたハチは、巣に戻るとダンスをします。花が巣から約 50 m より近いときは円を描くダンス、遠いときは 8 の字のダンスです。

8 の字の真ん中を、おしりを振りながらまっすぐ進む向きが、太陽に対する花の方向を表します。暗い巣の中の垂直な巣板の上では、太陽の方向を「真上」に置きかえて伝えます。太陽が見えない日も、空の光のかたより(偏光)から方向が分かります。フリッシュは 1973 年、ノーベル生理学・医学賞を受けました。

ミツバチの仲間は、作物の受粉も支えています。農林水産省は 2013〜2015 年度に、ミツバチの被害を調べました。被害は稲の花が咲くころに多く、カメムシを防ぐ殺虫剤を直接浴びたことが原因の可能性があるとされました。どの殺虫剤が被害を起こしやすいかは、推定できませんでした。ネオニコチノイド系をふくむ農薬と生き物の関係は、いまも研究が続いています。

動物の行動の意味を、実験で確かめるのが動物行動学です。

図解8 の字ダンスで伝わること

  1. 1花を見つける蜜のある花から巣に戻る
  2. 28 の字に踊る巣板の上で、おしりを振って進む
  3. 3向きを読む真上が太陽の方向を表す
  4. 4仲間が飛ぶダンスに加わった仲間が花へ
黄色い花のそばを飛ぶ、しま模様のミツバチ
黄色い花に来たニホンミツバチ。ミツバチの仲間は蜜や花粉を集めながら、作物の受粉も助けています。写真: Tetsuya Shimizu(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

03

保全生物学: 外来種から、身近な自然を守る

もともといなかった場所に、人が持ち込んで定着した生き物を外来種といいます。身近なアメリカザリガニは全国に広がり、水草をなくしたり、水生昆虫をその場所から絶滅させたりしています。

そこで 2023 年 6 月 1 日、アメリカザリガニとアカミミガメ(ミドリガメ)は「条件付特定外来生物」になりました。家で飼い続けることはできますが、野外に放すことや売り買いは法律で禁止されています。飼う人がとても多く、すべて禁止すると捨てる人が増えるおそれがあるため、一部の規制を外したのです。

保全生物学は、外来種の対策や、数が減った生き物を守る方法を、データにもとづいて考える分野です。どこに何がすんでいるかを調べ、守る場所や方法を決め、その効果を確かめるまでが研究の対象です。

生き物を野外に放さないことが、身近な自然を守る第一歩です。

図解アメリカザリガニなどとのつきあい方

してよいこと

  • 家で最後まで飼う
  • 飼える人に無料で譲る

禁止されていること

  • 池や川に放す
  • 許可なく売る・買う
夜の道の上で、大きなはさみを持った赤茶色のザリガニが歩いている
夜、田んぼの横の道を歩くアメリカザリガニ(愛知県小牧市)。2023 年 6 月から、野外に放すことが法律で禁止されています。写真: KKPCW(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

海の生態学: ウナギの旅と、深海の魚

古代ギリシャのアリストテレスは、ウナギは泥から生まれると書きました。卵を持った親も、生まれたての子も見つからなかったからです。ニホンウナギがどこで生まれるのかは、長いあいだ謎でした。

東京大学などの研究者は、より小さな子ども(レプトセファルス)を探して、太平洋を南へ、東へとさかのぼりました。1991 年には、マリアナ諸島の西の海で、長さ 10 mm ほどの子を約 1,000 匹集めています。そして 2009 年 5 月の新月のころ、ついに天然のウナギの卵 31 粒を採りました。

海の研究は、深い海にも広がっています。2022 年 8 月、東京海洋大学などが日本周辺の深い海溝を調べました。小笠原海溝の水深 8,336 m では、クサウオの仲間(スネイルフィッシュ)が撮影されています。最も深い場所で確認された魚として、ギネス世界記録に認められています。

小さな手がかりを積み重ねて、広い海の謎を解いていきます。

図解ウナギの産卵場を追いつめた調査

  1. 11973 年台湾の東で、長さ約 50 mm の子
  2. 21986 年ルソン島の東で、約 40 mm の子
  3. 31991 年マリアナ諸島の西で、約 10 mm の子
  4. 42009 年天然の卵 31 粒を初めて採集
緑がかった石の多い水の底を、細長い魚が泳いでいる
屋久島の川の河口で撮影されたニホンウナギ。川や海辺で育ったウナギは、遠いマリアナ諸島の西の海で卵を産みます。写真: Ffish.asia(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

05

大学での学び方と、つながる仕事

生態学では、野外の観察と統計が両輪です。多くの大学では、臨海実験所や演習林での実習があり、磯や森で生き物を集め、種類を見分けて数を記録します。集めたデータは統計で比べます。内容は大学によって異なります。

研究室では、魚や鳥に小さな記録計をつけて動きを追ったり、何年も同じ場所で調査を続けたりします。生き物の行動の意味を、実験で確かめる研究もあります。

仕事では、環境コンサルタント、国や自治体の自然保護の担当、水族館や博物館、水産の研究機関などにつながります。開発の前に、どんな生き物がすんでいるかを調べる環境アセスメントは、生態学の知識が欠かせない仕事です。

クイズ生態・環境クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q11 回目に 40 匹に印をつけ、2 回目の 50 匹のうち 8 匹に印があった。全体はおよそ何匹?

  2. Q2ミツバチの 8 の字ダンスで、巣板の「真上」は何を表す?

  3. Q3古代ギリシャのアリストテレスは、ウナギはどこから生まれると書いた?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 標識再捕法で、身近な生き物の数を推定する

    校庭のダンゴムシなどを捕まえ、油性ペンで背中に小さな印をつけて元の場所に放しましょう。数日後にもう一度捕まえ、印つきの割合から全体の数を計算します。調べ終わったら、生き物は元の場所に戻してください。

  • 日本生態学会のジュニアポスターを見に行く

    日本生態学会の大会では、高校生などが研究を発表する「ジュニアポスター(旧・高校生ポスター)」があります。2026 年の第 73 回大会では、発表する生徒の参加費も、大学生以下の見学も無料でした。いつか自分の研究を発表する目標にもなります。

    日本生態学会 第 73 回大会「ジュニアポスター」
  • 規制されている外来生物を調べる

    環境省のサイトには、外来生物法で規制されている生き物の一覧があります。近くの川や公園で見かける生き物が載っていないか調べてみましょう。特定外来生物は、生きたまま持ち帰ったり運んだりすることも禁止されています。

    環境省「特定外来生物等一覧」

「生態・環境」に関連するコミュニティ

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よくある質問

虫や動物が好きなら、生態学に向いていますか?

生き物が好きなことは大きな力になります。そのうえで、野外で根気よくデータをとることや、数字で比べる統計の考え方も大切です。大学では、統計やデータ解析を基礎から学べます。

環境問題の解決につながりますか?

外来種の対策や、数が減った生き物を守る計画は、生態学の調査をもとに立てられます。どこに何がすんでいるかを調べる仕事は、開発の前の環境アセスメントや、自治体の自然保護の取り組みにも生かされています。