図 1 生物学の広がり生物学の広がり 3
進化・多様性
地球には、くちばしの形が違う小鳥から、クジラ、恐竜の化石まで、驚くほど多様な生き物がいます。その違いがどう生まれたのかを、野外の観察、遺伝子の計算、DNA の比較、化石から解き明かす分野です。

ひとことで言うと
写真と DNA で、親せきの家系図をたどる
古いアルバムを見ると、顔立ちの似た親せきが見つかります。でも、似ているだけでは本当の関係は分かりません。進化の研究も、形の比較に DNA の比較を加え、長い時間をさかのぼる生き物の大きな家系図を描き直しています。

01
ダーウィンとガラパゴス: 進化は目の前でも起きている
1835 年、ビーグル号で世界をめぐっていたダーウィンは、南米の沖のガラパゴス諸島に立ち寄りました。島ごとに少しずつ違う生き物との出会いは、のちに進化の考えを深める手がかりになります。ダーウィンが『種の起源』を発表したのは 1859 年です。
ガラパゴスには、くちばしの形が違うフィンチの仲間がすんでいます。硬い種子を割れそうな太いくちばしもあれば、虫をつまめそうな細いくちばしもあります。食べ物に合った形だと考えられています。
進化には何万年もかかると思われがちです。ところがグラント夫妻は、1973 年から 35 年以上、ガラパゴスで地上フィンチを調べ続けました。そして、環境の変化に応じて、くちばしの大きさや形が短い期間で変わることを示しました。夫妻は 2009 年に京都賞を受けています。
進化は、野外でじっくり測り続けると、目の前でも確かめられます。
図解自然選択で、くちばしが変わるまで
- 1違いがある同じ種でも、くちばしの大きさに差
- 2環境が変わる天候などで、食べられる物が変わる
- 3生き残りに差合う形の個体が多く子を残す
- 4次の世代へ子のくちばしの平均が変わる


02
遺伝子の割合で、進化を数える
進化を数字で扱うのが集団遺伝学です。たとえば ABO 式血液型なら、集団の中に A の遺伝子が何%あるかを考えます。この「遺伝子の割合」が世代を重ねてどう変わるかを、数式で調べます。
大きな集団で、自然選択や出入りがなく、相手を偶然に選ぶなら、遺伝子の割合は世代が変わっても変わりません。これがハーディ・ワインベルグの法則です。逆に割合が変わっていれば、何かが進化を起こしているしるしになります。
国立遺伝学研究所の木村資生さんは 1968 年、分子進化の中立説を唱えました。DNA の変化の多くは、生き残りに有利でも不利でもなく、偶然によって集団に広がるという考えです。いまも系統を調べたりゲノムを解析したりするとき、最初に置く仮説として使われています。
数学を使うと、目に見えない遺伝子の動きを追えます。
図解白い花の割合から、隠れた遺伝子を数える
- 1a の割合を q とすると、q × q = 0.16 なので q = 0.4
- 2A の割合は 1 − 0.4 = 0.6
- 3Aa の割合は 2 × 0.6 × 0.4 = 0.48

03
DNA で描き直した、生き物の家系図
生き物どうしの関係は、長いあいだ骨や歯など形の比較で調べられてきました。いまは DNA を比べて、枝分かれの順番を描きます。これを系統樹といいます。形からは思いつかない関係が見えてくることもあります。
1999 年、東京工業大学の岡田典弘さんたちは、ゲノムに入り込んだ短い配列(SINE)を目印に、クジラの祖先を調べました。同じ場所に同じ目印を持つ動物は、共通の祖先から受け継いだと考えられます。その結果、クジラにいちばん近い現生の動物はカバだと示しました。
DNA は大昔の骨からも読めます。スウェーデンのペーボは 2010 年、絶滅したネアンデルタール人のゲノムを発表しました。ヨーロッパやアジアにルーツを持つ今の人のゲノムの約 1〜4% は、ネアンデルタール人に由来します。シベリアの洞窟の指の骨のかけらからは、未知の人類デニソワ人も見つかりました。ペーボは 2022 年のノーベル生理学・医学賞を受けています。
DNA の比較は、生き物の歴史を描き直す強力な方法です。
図解形で比べる・DNA で比べる
形で比べる
- 骨・歯・花の形などを観察する
- 化石と直接比べられる
DNA で比べる
- 文字の違いや目印を数える
- 見た目が違っても近い関係が分かる


04
化石と分類: 名前をつけて、歴史を読む
生き物を見分けて名前をつけ、仲間ごとに整理するのが分類学です。学名は「属名+種小名」の 2 語で書き、世界共通で使われます。新しい種を見つけたら、標本と特徴を論文で発表して名前をつけます。
北海道むかわ町では、約 7,200 万年前の海の地層から、国内最大の恐竜の全身骨格が見つかりました。通称「むかわ竜」です。2019 年、北海道大学の小林快次さんたちは、新しい属の新種だと明らかにしました。学名はカムイサウルス・ジャポニクス、「日本の竜の神」という意味です。
骨の細かな組織から、9 歳以上の大人で、体長 8 m、体重 4〜5.3 トンと推定されました。系統の解析では、ロシアや中国で見つかった恐竜に近い仲間だと分かっています。化石という形の証拠に、系統を描く考え方を組み合わせるのが古生物学です。
名前をつけて比べることが、生き物の歴史を読む出発点です。


05
大学での学び方と、つながる仕事
多くの大学では、2 年ごろから進化学・遺伝学・系統分類学を学びます。実習では、野外で集めた昆虫や植物を標本にして種類を見分けたり、DNA の配列をコンピュータで並べて系統樹を描いたりします。内容は大学によって異なります。
研究の場は、野外・博物館の標本庫・実験室・コンピュータと幅広くあります。古生物学は、大学によって生物学科ではなく、地球科学の学科で学ぶこともあります。
仕事では、博物館の学芸員、環境調査の会社、DNA のデータを解析する技術者、中学・高校の理科の先生などにつながります。大学院に進み、新しい種を記載したり、進化の謎に挑んだりする研究者も多くいます。
高校生のうちに試せること
カードを引いて「偶然の進化」を試す
袋に A と a のカードを 5 枚ずつ入れ、1 枚引いて記録したら戻す、を 10 回くり返しましょう。記録した 10 枚を次の世代の袋の中身にします。10 世代続けて A の割合をグラフにし、カードを 100 枚にした場合と比べると、小さな集団ほど偶然で割合が大きく変わることが分かります。
国立遺伝学研究所の一般公開に行く
静岡県三島市の国立遺伝学研究所は、毎年桜の季節に構内を公開し、研究者が研究を紹介しています。2026 年は 4 月 4 日に開かれ、参加費は無料でした。木村資生さんが中立説を生んだ研究所です。日程は公式サイトで確かめましょう。
国立遺伝学研究所「一般公開 2026」博物館で、くちばしや歯の形を見比べる
国立科学博物館や各地の自然史博物館では、鳥のはく製や恐竜の骨格を間近で見られます。くちばしや歯の形と、何を食べていたかの関係をメモし、図鑑で確かめてみましょう。
国立科学博物館
「進化・多様性」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 70 件から探せます。

神林研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 生物学プログラム・系統分類学・進化生物学・神林 千晶 助教
ヒル類の系統分類と進化や、脊椎動物間の遺伝子の水平伝播を研究する。

地史学・微古生物学研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 地質科学プログラム・地史学・微古生物学・栗原 敏之 教授
放散虫化石などを手がかりに、古生代の日本やアジアの姿と生物の進化を探る。
進化動物学
筑波大学(茨城県)
生物学・中野 裕昭

生物多様性・生態系復元研究室
新潟大学(新潟県)
佐渡自然共生科学センター 朱鷺・自然再生学研究施設・生態学・高津 邦夫
両生類幼生などの行動や形態の変化が、生物間の相互作用に与える影響を調べる。
生物多様性科学研究室
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科生圏システム学専攻・生物保全学
進化生物研究室
東北大学(宮城県)
理学部生物学科・生命科学研究科・進化生物
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
進化は、本当に目で見て確かめられるのですか?
何百万年もかかる変化もありますが、短い期間で起きる変化もあります。グラント夫妻はガラパゴスのフィンチを 35 年以上測り続け、環境の変化に応じてくちばしの大きさや形が変わる様子を記録しました。
恐竜や化石の研究は、生物学科でできますか?
古生物学は、大学によって生物学科で学ぶ場合と、地球科学(地学)の学科で学ぶ場合があります。化石の形を調べる方法と、系統を描く生物学の方法の両方を使うので、志望する大学の研究室の内容を確かめると安心です。
数学が苦手でも、進化の研究はできますか?
集団遺伝学や系統樹づくりでは確率や統計を使いますが、大学で基礎から学べます。木村資生さんの中立説も、数学を使って組み立てられた理論です。高校の数学で確率や統計にふれておくと、授業が分かりやすくなります。
