図 1 生物学の広がり生物学の広がり 2
からだのしくみ
1 個の受精卵は、どうして決まった形のからだになるのか。切られたプラナリアが 2 匹になるのはなぜか。花はどうやって季節を知るのか。動物と植物のからだが形づくられ、働くしくみを調べる分野です。

ひとことで言うと
合図を聞いて、順番に加わる合奏
合奏では、指揮者の合図やまわりの音を聞きながら、それぞれのパートが決まった順に音を出します。からだの細胞も、近くの細胞からの合図を受けて、脳や筋肉など自分の役割を決めていきます。時刻を刻む体内時計や、季節を知る植物のしくみも、合図のやりとりで動いています。

01
発生: 1 個の卵から、からだの形ができるまで
ヒトもカエルも、はじめは 1 個の受精卵です。受精卵は分裂をくり返し、やがて外側から外胚葉・中胚葉・内胚葉の 3 つの層に分かれます。外胚葉からは脳や脊髄が、中胚葉からは骨や筋肉が、内胚葉からは腸ができます。
では、細胞はどうやって自分の役割を知るのでしょう。この謎に挑んだのが、ドイツのシュペーマンです。道具は、細く引きのばしたガラスの棒や、子どもの髪の毛で作った輪でした。直径 1〜1.5 mm ほどのイモリやカエルの卵を、手術のように切り分けたのです。
胚の一部(原口の上のふち)を別の胚のおなか側に移すと、そこに新しい脳と脊髄ができました。新しい脳は、移した細胞ではなく、皮膚になるはずだった細胞からできていました。周りの細胞の運命を変えるこの部分は、形成体(オーガナイザー)と呼ばれます。シュペーマンは 1935 年のノーベル生理学・医学賞を受けました。
細胞は、周りからの合図を受けて自分の役割を決めていきます。
図解受精卵から器官ができるまで
- 1受精卵1 個の細胞から始まる
- 2分裂をくり返す細胞が増え、中が空の球になる
- 33 つの層外胚葉・中胚葉・内胚葉に分かれる
- 4器官ができる脳や脊髄・骨や筋肉・腸など

02
再生: プラナリアとイモリの不思議な力
川の石の裏などにすむプラナリアの仲間、ナミウズムシは、体を前後に切られても再生します。頭の側からは尾が、尾の側からは頭ができて、2 匹になります。全身に散らばる幹細胞が、失った部分を作り直すのです。
100 年以上前、遺伝学で知られるモーガンもこの謎に挑み、体の場所の情報は物質の濃さの差で決まると考えました。2013 年、京都大学の阿形清和さんたちは、そのしくみを分子のレベルで明らかにしました。もともと再生できない種類のプラナリアに、再生を起こすことにも成功しています。
イモリは、手足や目のレンズまで再生できます。基礎生物学研究所の江口吾朗さんたちは、16 年かけて、同じイモリのレンズを 18 回取り除きました。レンズは、そのたびに再生しました。最後のときイモリは 30 歳以上でしたが、再生の力は衰えていませんでした。
再生できる生き物のしくみを知ることが、再生医療のヒントにもなります。
図解再生する力をくらべる
プラナリア
- 前後に切ると 2 匹になる
- 幹細胞が全身にある
イモリ
- 目のレンズも再生する
- 18 回取っても元どおり
ヒト
- 手足やレンズは再生しない
- 違いの理由を探る研究が進む

03
体内時計: からだの中で時を刻む遺伝子
18 世紀、フランスの天文学者ド・メランは、昼に開いて夕方に閉じるオジギソウの葉に注目しました。鉢を真っ暗な所に置いても、葉は 1 日のリズムで開いたり閉じたりを続けました。植物の中に、時計があるようだったのです。
このような約 1 日のリズムを概日リズムといいます。1970 年代、ショウジョウバエでリズムを乱す遺伝子が見つかり、period と名付けられました。1984 年にこの遺伝子が取り出され、作られる PER というタンパク質が夜にたまり、昼に分解されることが分かりました。
PER はたまると、自分の遺伝子の働きを止めます。減るとまた作られます。このくり返しが約 24 時間の時計になります。しくみを解き明かしたホール、ロスバッシュ、ヤングの 3 人は、2017 年のノーベル生理学・医学賞を受けました。海外旅行の時差ぼけは、体内時計と外の時刻がずれて起こります。
体内時計は、植物からヒトまで同じ考え方のしくみで動いています。
図解時計遺伝子がつくる 24 時間のリズム
- 1遺伝子が働くperiod 遺伝子から PER が作られる
- 2夜にたまるPER が細胞の核に集まる
- 3働きを止めるPER が自分の遺伝子を抑える
- 4昼に分解PER が減り、また作られ始める


04
植物のからだ: 花が咲く季節を決める合図
キクは、夜が長くなると花の芽を作る短日植物です。この性質を生かし、花の芽ができる前に夜の温室に明かりをつけて、咲く時期を遅らせる栽培があります。電照菊です。花がたくさん必要な時期に合わせて出荷できます。
植物は、どうやって花を咲かせる合図を送るのでしょう。1936 年、ロシアのチャイラキアンは、花が咲く条件で育てた植物の葉を、咲かない条件の植物に接ぎ木しました。すると、その植物にも花が咲きました。そこで、葉で作られて花を咲かせる物質(フロリゲン)があると考えました。
その正体は 70 年間なぞのままでした。2007 年、奈良先端科学技術大学院大学の島本功さんたちが、ついに突き止めました。イネの Hd3a という遺伝子が作るタンパク質が、フロリゲンの正体だったのです。光るタンパク質を目印に付け、葉で作られて茎の先へ運ばれる様子をとらえたのです。夜中の光で花が咲きにくくなるのも、イネではこの遺伝子の働きが妨げられるためだと分かっています。
植物も葉で季節を感じ、合図の分子で花を咲かせます。
図解花を咲かせる合図が伝わるまで
- 1葉が季節を知る昼と夜の長さの変化を感じる
- 2葉で作るフロリゲン(Hd3a タンパク質)
- 3茎の先へ栄養の通り道(維管束)で運ばれる
- 4花の芽茎の先で花の芽ができる

05
大学での学び方と、つながる仕事
多くの大学では、2・3 年で発生生物学・動物生理学・植物生理学・神経生物学などを学びます。実習では、ウニやカエルの卵が育つ様子を観察したり、光や温度の条件を変えて植物を育てたりします。内容は大学によって異なります。
研究では、ショウジョウバエ・ゼブラフィッシュ・シロイヌナズナなどのモデル生物を使います。からだの形や働きがどう決まるかを、遺伝子から確かめます。顕微鏡で細胞を何時間も撮影し続けたり、動物の行動を記録したりと、方法はさまざまです。
仕事では、医薬品メーカーの研究開発、種苗会社や県の農業試験場での品種の開発、食品の研究などにつながります。愛知県の農業総合試験場では、生産者と協力して菊の新しい品種も育てています。大学院に進み、研究者を目指す人も多くいます。
高校生のうちに試せること
自分の体内時計を 2 週間記録する
起きた時刻、寝た時刻、いちばん眠くなった時刻を、2 週間ノートに記録しましょう。平日と休日でどれだけずれるかを比べると、体内時計と生活のリズムの関係が見えてきます。
夜の光で、花の芽のでき方を比べる
アサガオは、夜が長くなると花の芽を作る短日植物です。同じ日に種をまいた鉢を 2 つ用意し、片方だけ夜中に短い時間明かりを当てて、つぼみのでき方を比べましょう。電照菊と同じしくみを、自分の目で確かめられます。
電照菊の産地の工夫を読む
愛知県のサイトでは、県内の花の産地を紹介しています。菊のページには、電照と光をさえぎる技術を組み合わせて一年中出荷していることや、愛知県が全国の約 3 分の 1 の出荷量をもつことが書かれています。
愛知県「あいちの農産物(花)」
「からだのしくみ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 91 件から探せます。

藤間研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 生物学プログラム・動物生理学・免疫生物学・藤間 真紀 准教授
免疫細胞の分化と機能、炎症・免疫応答の制御の仕組みを研究する。
放射線植物生理学研究室
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科応用生命化学専攻
植物分子生理学グループ
岡山大学(岡山県)
資源植物科学研究所・植物生理学・且原 真木 教授
塩ストレス下での水・イオンの輸送や、アルミニウム毒性への耐性の仕組みを解析する。
免疫発生学
千葉大学(千葉県)
医学研究院 高次機能治療学研究講座・免疫発生学

形態構築学
熊本大学(熊本県)
大学院生命科学研究部 先端生命医療科学部門・解剖学・発生学・有馬 勇一郎 准教授
臓器や組織の形ができる仕組みを発生学・解剖学から調べ、治療や創薬につなげる。
神経生物学
広島大学(広島県)
医系科学研究科 医学分野(基礎系)・基礎医学・相澤 秀紀 教授
うつ病、不安、頭痛などを研究している。
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よくある質問
生物学科で学ぶ「からだのしくみ」と、医学部の生理学はどう違いますか?
医学部は人のからだと病気に重点を置きます。生物学科では、ヒトに限らず、昆虫・魚・植物など多くの生き物を比べながら、共通のしくみと違いを調べます。プラナリアやイモリのように、ヒトにはない力を持つ生き物から学べるのも特徴です。
動物を使う実験はありますか?
研究によっては動物を使います。多くの大学では、動物を使う実験の計画を学内の委員会で審査し、苦痛をできるだけ減らす方法で行います。植物や微生物、培養した細胞を使う研究も多く、扱う生き物は研究室によって異なります。
出典
- The Nobel Prize「The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1935 - Presentation Speech」
- 京都大学「「再生できるプラナリア」と「再生できないプラナリア」の謎、解明される」(2013 年)
- Nature Communications「イモリの再生能は再生の繰り返しや老化によっては変化しない」(2011 年・日本語要旨)
- The Nobel Prize「The 2017 Nobel Prize in Physiology or Medicine - Press release」
- 奈良先端科学技術大学院大学「自在に花を咲かせる夢のホルモン(フロリゲン)を世界に先駆け発見!」(2007 年)