図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
起業・新しい事業
自分で会社を立ち上げたり、会社の中で新しい事業を任されたり、家業を継いで立て直したりする仕事です。経営学で学ぶ会計・マーケティング・組織づくりの知識を、まとめて使う場面です。

ひとことで言うと
新しい部活をゼロから立ち上げる
活動の中身を決め、仲間を集め、道具をそろえ、学校に認めてもらう。起業は、新しい部活を立ち上げるのに似ています。違うのは、活動を続けるためのお金を、お客さんに喜んでもらうことで自分たちで稼ぐ点です。

01
どんな仕事?: 事業を始める 3 つの道
新しい事業を始める道は、大きく 3 つあります。1 つ目は、自分で会社やお店をつくる起業です。2 つ目は、勤めている会社の中で新しい事業を任される道です。3 つ目は、家族の会社や、後継ぎのいないほかの人の会社を引き継ぐ事業承継です。
起業というと、IT の会社を思い浮かべる人が多いかもしれません。日本政策金融公庫は、融資した開業まもない企業の調査を、1991 年度から毎年行っています。2025 年度に多かった業種は、サービス業(27.7%)、医療・福祉(16.7%)、飲食店・宿泊業(14.5%)でした。美容室やカフェ、介護など、暮らしのすぐそばに起業があります。
事業承継は、ゼロからつくるより、お客さんや技術、働く人をそのまま受け継げるのが強みです。一方で、昔からのやり方を見直し、新しい商品や売り方を加える力も求められます。
ゼロから始める道だけでなく、会社の中や、引き継いで始める道もあります。
図解事業を始める 3 つの道
起業
- 自分で会社やお店をつくる
- 何をするかを自分で決める
- お金集めから自分で行う
新規事業の担当
- 会社の中で事業を任される
- 会社のお金や人を使える
- 続けるかは会社が判断する
事業承継
- 今ある会社を引き継ぐ
- お客さんや技術を受け継げる
- やり方の見直しも必要

02
近江商人に学ぶ: 歩いて確かめ、店を広げる
江戸時代、近江国(いまの滋賀県)を本拠地にして、全国へ商いに出た人々を近江商人とよびます。商いの基本は、天秤棒で荷物をかついで歩いて売る行商でした。歩きながら、どこで何が求められているか、地域によって値段がどう違うかという情報をすばやく集めたといいます。
こうして売り先をつかみ、資金を貯めると、各地に支店を開きました。江戸・大坂・京都の三都に進出する豪商も生まれています。小さく始めて、お客さんの声を確かめ、うまくいったら広げる。いまの起業の進め方とよく似ています。
近江商人の心得として知られるのが、「売り手によし、買い手によし、世間によし」の 三方よし です。売る人も買う人も満足し、その利益が地域社会の幸せにもつながる商いでなければ、長く続かないという考え方です。
小さく試して確かめ、うまくいったら広げるのが起業の基本です。
図解起業の進め方(例)
- 1困りごとを探すだれが何に困っているかを聞く
- 2小さく試す試作品やお試しの販売で確かめる
- 3計画を立てる売上と費用、お金の計画を書く
- 4会社をつくる法務局で設立の登記をする
- 5広げる売り先と仲間を増やす


03
数字で見る起業: どんな人が、なぜ始めるのか
2025 年度の調査で最も多かった開業の動機は、「自由に仕事がしたかった」(59.7%)です。次が「収入を増やしたかった」(44.9%)でした。開業した人のうち女性は 25.7% で、調査を始めてから最も高い割合です。
開業にかかった費用の中央値は 600 万円で、500 万円未満で開業した人が 4 割をこえます。開業したときの従業員は、本人を含めて平均 2.8 人で、1 人で始めた人が 42.6% でした。大きな会社でなくても、事業は始められる のです。
開業したときに苦労したことの上位は、「資金繰り、資金調達」(56.9%)と「顧客・販路の開拓」(49.9%)でした。3 位は「財務・税務・法務に関する知識の不足」(36.4%)です。お金の管理は会計、お客さんの集め方はマーケティング。経営学で学ぶことが、そのまま起業の力になります。
起業の苦労の上位は、お金とお客さん。どちらも経営学で学べます。

04
創業 2 年目の起業家の 1 日(例)
ここでは、地域の果物を使った焼き菓子の会社を立ち上げた人の 1 日の例を紹介します。働く人が少ないうちは、社長が仕入れも営業もお金の管理も受け持ちます。
午前中は、農家を訪ねて果物を仕入れ、スタッフとその日につくる数を決めます。午後は、駅の売店や旅館に商品を置いてもらえるよう提案に回ります。夕方は、入金と支払いを帳簿で確かめ、SNS で新商品を知らせます。
楽な仕事ではありません。先ほどの調査でも、開業した人の 49.8% が週 50 時間以上働いていました。それでも、仕事のやりがいに「満足」と答えた人は 84.4% にのぼります。
仕入れから営業、お金の管理まで、経営のすべてを自分で回します。
図解創業 2 年目の起業家の 1 日(例)
- 8:00農家を訪ねる焼き菓子に使う果物を仕入れる
- 10:00製造の確認スタッフと今日の数を決める
- 12:00昼休み
- 13:00取引先に提案駅の売店に置いてもらう相談
- 15:30お金の管理入金と支払いを帳簿で確かめる
- 17:00SNS と注文新商品を知らせ、注文に答える

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向いている人と入り方・その先
起業に決まった入り方や資格はありません。日本政策金融公庫の調査では、開業した人の 97.6% に勤めた経験がありました。81.1% は、開業した事業に関係する仕事の経験を持っていました。会社で経験を積み、その分野で起業する人が多いのです。
大学在学中に動き始める人もいます。起業部やビジネスコンテストのある大学では、事業の計画を発表して意見をもらえます。授業では、経営戦略・会計・マーケティングに加えて、起業家精神(アントレプレナーシップ)を学ぶ科目を置く大学もあります。
後継ぎのいない会社を引き継ぐ道もあります。国は 47 都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを置いています。センターの「後継者人材バンク」は、創業したい人と後継者のいない会社を引き合わせるしくみです。2025 年度は 114 件の引き継ぎがまとまりました。自分で考えて動くのが好きな人、失敗から学べる人に向いています。
勤めて経験を積む、在学中に試す、引き継ぐ。入り口はいくつもあります。
図解起業に生きる大学の学び
- 会計お金の流れと資金繰りを管理する
- マーケティングお客さんと売り先を見つける
- 経営組織論仲間を集めて役割を決める
- 会社法会社のつくり方と決まりを知る
- 統計学小さな試しの結果を読む

高校生のうちに試せること
創業計画書を書いてみる
日本政策金融公庫は、お金を借りて開業する人のための創業計画書の様式と、書き方の例を公開しています。架空のお店を 1 つ考え、売上や仕入れ、お金の計画を埋めてみましょう。どこが書けないかで、学ぶべきことが分かります。
各種書式ダウンロード(日本政策金融公庫)近江商人博物館を訪ねる
滋賀県東近江市の近江商人博物館では、帳場の再現や行商の旅姿、天秤棒や千両箱の重さを体験できます。近くの五個荘金堂の町並みも歩いて、商いの歴史を体で感じてみましょう。
東近江市近江商人博物館町の創業支援を調べる
住んでいる市区町村のホームページで「創業支援」と検索し、どんな相談の窓口やセミナーがあるかを調べてみましょう。町に新しいお店や会社が生まれるのを、だれがどう手伝っているかが見えてきます。
「起業・新しい事業」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 61 件から探せます。
よくある質問
起業するには、お金がたくさん必要ですか?
事業の中身によります。日本政策金融公庫の 2025 年度の調査では、開業費用の中央値は 600 万円でした。250 万円未満で開業した人も 20.1% います。ただ、開業したときの苦労で最も多かったのは「資金繰り、資金調達」で、続けるためのお金の計画は欠かせません。
在学中に起業したほうがよいですか?
どちらにもよさがあります。在学中に小さく試せば、失敗しても学びに変えやすくなります。一方、調査では開業した人の多くが勤めた経験を持っていて、会社で経験を積んでから起業するのもよくある道です。
家業を継ぐのにも、経営学は役に立ちますか?
役に立ちます。引き継いだ会社の決算書を読む、お客さんや売り方を見直す、新しい事業を加える。こうした場面で、会計・マーケティング・経営戦略の知識がそのまま生きます。国の事業承継・引継ぎ支援センターでは、家族への引き継ぎの計画づくりも支援しています。


