
ひとことで言うと
体温を測ってから、薬が効いたかを確かめる
「なんとなく熱っぽい」だけでは、薬が効いたかどうか分かりません。体温を測って記録すれば、変化を数字で確かめられます。経済も同じで、物価や雇用を数字で測り、政策の前と後を比べることで、本当に効果があったのかを確かめます。

01
経済の数字は、こうして作られる
経済のデータの多くは、国や日本銀行の調査から作られます。たとえば消費者物価指数(CPI)は、総務省が毎月作る物価の物差しです。2025 年基準では、食パンや生鮮野菜、エアコン、家賃、外食、授業料、携帯電話の通信料など 589 品目の値段から計算されます。年金の金額の改定などにも使われています。
国勢調査は、日本に住むすべての人と世帯を対象にした調査です。1920 年の第 1 回から、ほぼ 5 年ごとに行われ、2025 年の調査は 22 回目でした。国や自治体のさまざまな計画の基礎になる資料です。
ユニークなのが、内閣府の景気ウォッチャー調査です。タクシーの運転手、コンビニの店長、美容室の経営者など、景気の動きを肌で感じやすい仕事の 2,050 人が対象です。毎月「景気は良くなっているか」をたずねています。
どの数字も、だれかが決まった方法で調べた結果です。作り方を知ると、数字の読み方が変わります。
図解経済を知るためのデータ
- 物価消費者物価指数(総務省)
- 国全体の生産GDP(内閣府)
- 人口と世帯国勢調査(総務省)
- 街の景気の実感景気ウォッチャー調査(内閣府)
- 企業の見方短観(日本銀行)

02
相関と因果: 「一緒に動く」と「原因」は違う
データ分析でいちばん気をつけたいのは、2 つの数字が一緒に動くこと(相関)と、一方が他方の原因であること(因果)を区別することです。アイスクリームがよく売れる日は水の事故も多くなりますが、アイスが事故を起こしているわけではありません。どちらも「暑い日」という共通の原因で増えているだけです。
「塾に通う生徒は成績が良い」というデータがあっても、塾の効果とは限りません。もともと勉強に熱心な生徒ほど塾に通っているのかもしれないからです。経済学では、こうした見かけのつながりにだまされないための統計の方法を、計量経済学として学びます。
薬の効き目なら、くじで分けたグループに薬と偽薬を飲んでもらって比べられます。しかし経済では、研究のために一部の人だけ給料を上げる、といった実験はできません。そこで工夫が必要になります。
図解相関と因果のちがい
相関
- 2 つの数字が一緒に動く
- 例: アイスの売上と水の事故
- 共通の原因が隠れていることも
因果
- 一方を変えると他方が変わる
- 例: 値上げすると買う量が減る
- 比べ方を工夫して確かめる

03
自然実験: 社会の「たまたま」を実験に使う
そこで使われるのが自然実験です。1990 年代のはじめ、アメリカのニュージャージー州は、最低賃金を時給 4.25 ドルから 5.05 ドルに上げました。一方、となりのペンシルベニア州は上げませんでした。
デービッド・カードとアラン・クルーガーは、州境をはさんだ 2 つの地域で、ファストフード店で働く人の数を比べました。その結果、最低賃金を上げても働く人の数は減らなかったことが分かりました。それまでの多くの研究とは逆の結果でした。
カードは 2021 年にノーベル経済学賞を受けました。因果関係を分析する方法を整えたヨシュア・アングリストとグイド・インベンスも一緒に受賞しています。同じ考え方は、教育や医療など、ほかの政策を考える研究にも使われています。
条件がよく似た 2 つのグループを見つけられるかどうかが、自然実験のかぎです。
図解自然実験の手順
- 1制度が変わるニュージャージー州が最低賃金を上げる
- 2比べる相手を探す上げなかったとなりのペンシルベニア州
- 3前と後を調べる州境の両側の店で働く人の数を比べる
- 4差を効果とみる働く人の数は減っていなかった

04
宇宙からのデータと、教室の市場
使うデータの種類も広がっています。2012 年、経済学者のヘンダーソンらは、人工衛星がとらえた夜の明かりを使って経済成長を推計する研究を学術誌に発表しました。統計が十分にそろわない国でも、明かりの増え方から経済の伸びを見積もれるという発想です。
教室で市場を再現する経済実験もあります。ヴァーノン・スミスは、実験の参加者を買い手と売り手に分け、それぞれに「いくらまでなら買う・売る」という値段を割り当てて取引させました。1962 年に発表した最初の実験では、だれも全体の情報を知らないのに、値段は理論が予想する水準のすぐ近くで決まりました。スミスは 2002 年にノーベル経済学賞を受けています。
大学では、統計学で平均やばらつき、推定と検定を学び、表計算ソフトや統計ソフト、Python などで実際のデータを分析します。高校の数学 I の「データの分析」と数学 B の「統計的な推測」が、そのまま入り口になります。

高校生のうちに試せること
e-Stat で自分の県の数字を調べる
政府の統計を集めた総合窓口です。自分の住む県の人口や物価、働く人の数を調べ、となりの県と比べてグラフにしてみましょう。
e-Stat統計データ分析コンペティションに挑戦する
高校生の部がある、統計データ分析の論文のコンテストです。都道府県や市区町村の統計をまとめた教育用のデータセット(SSDSE)を使って分析し、課題を解決するアイデアを競います。募集の時期は年度ごとに公式サイトで確認してください。
統計データ分析コンペティションなるほど統計学園で基本を学ぶ
総務省統計局の学習サイトです。統計のでき方、データの探し方、グラフの作り方を、初級から順に学べます。
なるほど統計学園
「データで確かめる」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 23 件から探せます。

熊野ゼミ/研究室
新潟大学(新潟県)
創生学部・情報通信・データ分析
データ分析やIoTガジェット制作、プログラミングを通じて理工系の基幹的な技能を身につける。
ベイズ統計学・推論
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 情報科学プログラム・情報科学・NUNES TENDEIRO JORGE 教授
ベイズ推定、仮説検定、ベイズ因子(ベイズファクター)などを研究している。

時空間統計科学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・空間統計学・石岡 文生 教授
エシェロン解析で疾病などのホットスポットを統計的に検出し、医学・環境分野に応用する。
駒木研究室
東京大学(東京都)
情報理工学系研究科数理情報学専攻・統計学・予測理論・ベイズ理論・駒木 文保 教授
学習データ分析
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 情報科学プログラム・情報科学・隅谷 孝洋 教授
学習支援システム、アクセスログ、学習データなどを研究している。

多変量データ解析学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・統計学・高岸 茉莉子 講師
大規模で複雑なデータから有用な情報を取り出す多変量解析や機械学習の手法を開発する。
よくある質問
プログラミングができないと困りますか?
入学前にできなくても大丈夫です。多くの大学では、表計算ソフトや統計ソフトの使い方を授業で一から学びます。慣れてきたら、Python や R などで分析する授業もあります。
統計学と計量経済学はどう違いますか?
統計学は、データを扱う方法全般を学ぶ学問です。計量経済学は、その方法を経済のデータに合わせて発展させたもので、とくに「原因と結果」を確かめる工夫に力を入れています。


