図 1 経済学の広がり経済学の広がり 1
しくみを考える(理論)
値段はどう決まるのか、景気はなぜ良くなったり悪くなったりするのか。複雑な経済から大事な部分だけを取り出した「モデル」を使って、しくみを筋道立てて考える分野です。

ひとことで言うと
路線図は、省略してあるから役に立つ
電車の路線図は、線路の曲がり具合や駅の間の距離を省いているからこそ、乗り換えが一目で分かります。日本学術会議の参照基準も、経済学のモデルを「いわば地図のようなもの」と説明しています。目的に合わせて大事な部分だけを残し、そのうえで筋道立てて考えるのが経済学の理論です。

01
ミクロ経済学: 値段はどう決まるのか
ミクロ経済学は、一人ひとりの消費者や 1 つひとつの企業が、限られたお金や時間をどう使うかを考える分野です。中心にあるのが、買いたい量(需要)と売りたい量(供給)の関係で値段が決まるという考え方です。
台風で野菜の入荷が減るとスーパーの値段が上がり、たくさんとれる旬の時期には安くなります。人気のライブのチケットが高く転売されるのも、ほしい人の数に比べて席が足りないからです。値段は、だれかが命令しなくても、たくさんの人の売り買いの中で決まっていきます。
その様子がよく見えるのが魚市場の競りです。2026 年 1 月 5 日の豊洲市場の初競りでは、青森県大間産のクロマグロ 1 本(243 kg)に 5 億 1,030 万円の値が付きました。前の年の最高値は 2 億 700 万円です。縁起物の「一番マグロ」をどうしても手に入れたい買い手が競い合うと、値段は 1 年で 2 倍以上にもなります。
値段は、ほしい人と売りたい人のバランスを知らせる「合図」の役目をしています。
図解野菜の値段が上がるまで
- 1お店に届くキャベツの数が減る
- 2食べたい人の数はあまり変わらない
- 3高くても買う人から先に売れていく

02
マクロ経済学: 国全体の景気を考える
マクロ経済学は、国全体の生産や物価、失業を考える分野です。国内で 1 年間に新しく生み出された価値の合計を GDP(国内総生産)と呼びます。内閣府によると、日本の 2025 年度の名目 GDP は約 673 兆円でした(2026 年 9 月公表の速報値)。
家計がお金を使うと企業の売上が増え、企業は人を雇って給料を払い、その給料がまた買い物に使われます。逆に、みんなが先行きを心配していっせいに節約すると、売上が減って給料も減り、景気がさらに悪くなることがあります。一人ひとりには正しい行動が、全員でそろって行うと悪い結果を生む。これを合成の誤謬と呼びます。
1929 年に始まった世界恐慌の中で、イギリスの経済学者ケインズは 1936 年に『雇用・利子および貨幣の一般理論』を出しました。不況のときは、政府がお金を使って需要を支えるべきだという主張です。この考え方は、いまの財政政策や金融政策の土台の一つになっています。
国全体で見ると、だれかの支出は、必ずだれかの収入になっています。
図解お金がめぐる経済の輪
- 1家計が買い物をする食べ物、服、スマートフォンの通信料など
- 2企業の売上が増えるもっと作ろうと、人や機械を増やす
- 3給料が支払われる働く人の収入が増える
- 4また買い物に使う収入が増えると、使うお金も増える

03
ゲーム理論: 相手の出方を読む
ゲーム理論は、自分の得が相手の行動しだいで変わる場面を考える分野です。じゃんけんや将棋だけでなく、値下げで競うお店どうし、入札で工事を取り合う企業、国どうしの交渉も対象になります。
有名なのが「囚人のジレンマ」です。2 人とも協力すればどちらも得をするのに、自分だけ得をしようとすると、結局 2 人とも損をしてしまいます。駅前の 2 つの店が値下げ合戦で共倒れになるのも同じ形です。お互いに相手の出方を読み合い、どちらも自分だけ作戦を変えても得をしない状態をナッシュ均衡と呼びます。1994 年、この考え方を築いたジョン・ナッシュらにノーベル経済学賞が贈られました。
ゲーム理論は、ルールを設計する道具にもなります。ノーベル経済学賞は、2012 年に組み合わせをうまく決める「マッチング」の研究に、2020 年に新しいオークションの方式の開発に贈られました。日本でも、医師の研修先はマッチングで決まります。研修を希望する人と病院の双方の希望をもとに、決まった規則に従ってコンピュータが組み合わせを決めるしくみです。
相手も自分と同じように考えている、と考えるのがゲーム理論の出発点です。
図解2 つの店の値下げ合戦
どちらも据え置き
- お客を分け合える
- どちらも利益を保てる
片方だけ値下げ
- 値下げした店にお客が集まる
- 据え置いた店は大きく損をする
両方とも値下げ
- お客の数は分け合ったまま
- どちらも利益が減ってしまう

04
経済数学: 「あと 1 つ」で考える
経済学では、高校で学ぶ関数のグラフや微分をよく使います。中心にあるのは、「あと 1 つ増やすと、どれだけ得をして、どれだけ費用がかかるか」を考える限界という考え方です。
部活のあとに食べるおにぎりは、1 個目はとてもおいしく、2 個目、3 個目と食べるにつれて満足の増え方は小さくなります。企業も、もう 1 つ作るのにかかる費用と、それを売って得られる収入を比べて、作る量を決めます。この「増え方」を数式で表すのが微分です。
機会費用も大事な考え方です。土曜日にアルバイトを休んで模試を受けたなら、その費用は受験料だけでなく、あきらめたアルバイト代も含まれます。日本学術会議の参照基準は、限界・機会費用・インセンティブを、経済学を学ぶすべての学生が身につけたい基本の考え方として挙げています。
数学が得意でなくても心配はいりません。多くの大学では 1 年生で経済数学の入門を学び、高校の数学 I・A・II・B の内容から積み上げていきます。
高校生のうちに試せること
スーパーの値段を 1 か月記録する
週に 1 回、キャベツやトマトなど 3 品の値段を記録し、天気のニュースと並べてみましょう。値段が動いた理由を、需要と供給の言葉で説明できるか試してください。
友だちと囚人のジレンマを試す
2 人で「協力」「裏切り」のカードを同時に出し、点数表を決めて 10 回くり返してみましょう。1 回だけのときと、何回も続けるときで、作戦がどう変わるかに注目してください。
国際経済オリンピックを目指す
高校生が経済学・金融・ビジネスの課題に英語で挑む国際大会で、2027 年の大会は日本で開かれます。エコノミクス甲子園の地方大会での優勝や特別選考などが、日本代表への入り口になります。選び方は年度ごとに公式サイトで確認してください。
国際経済オリンピック 日本代表派遣
「しくみを考える(理論)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 120 件から探せます。
開発経済学研究室
北海道大学(北海道)
農業経済学・合崎 英男 教授
農業経営学研究分野
九州大学(福岡県)
農業資源経済学・井上 憲一 教授
農業環境政策学研究室
北海道大学(北海道)
農業経済学・林 岳 教授
公共政策・実証経済学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 環境リスク共生学科・実証経済学・公共政策・奥山 尚子 准教授
データ分析で災害や政策が人や企業の選択に与える影響を探る。
農業経済学研究分野
九州大学(福岡県)
農業資源経済学・前田 幸嗣 教授
フードシステム学研究分野
九州大学(福岡県)
農業資源経済学・森高 正博 教授
よくある質問
理論は、現実の役に立つのですか?
モデルは、目的に合わせて省略した地図のようなものです。地図だけで旅はできませんが、地図がないと迷います。理論で立てた予想は、データで確かめられて磨かれていきます。ゲーム理論から生まれたマッチングやオークションのように、実際の制度づくりに使われている例もあります。
ミクロ経済学とマクロ経済学は、どちらから学びますか?
多くの大学では、1 年生で経済学の入門を学んだあと、2 年生でミクロ経済学とマクロ経済学の両方を学びます。科目の名前や順番は大学によって異なります。

