
ひとことで言うと
今の自分を知るために、アルバムを見返す
今の自分の性格や得意なことは、小さいころからの出来事の積み重ねでできています。経済も同じで、銀行や会社、市場のルールには、それぞれ生まれた理由と歩んできた道があります。歴史を知ると、今のしくみがなぜこの形なのかが見えてきます。

01
江戸の大坂にあった、世界に先がけた先物市場
江戸時代、諸藩が年貢として集めた米の多くは大坂(いまの大阪)に運ばれ、米と引きかえる証券「米切手」が売り買いされていました。1730 年、江戸幕府は堂島で行われていた、米切手を売買する現物の取引と、帳面の上で売買する先物の取引を公認しました。
日本取引所グループは、この堂島米市場を「世界における組織的な先物取引所の先駆け」と紹介しています。会員の制度や、取引の決済をまとめて行うしくみなど、いまの取引所に通じるルールが整えられていました。
堂島で決まった米の値段は、飛脚や「旗振り通信」によって江戸や各地の主な都市に伝えられ、各地の米相場の基準になりました。電話もインターネットもない時代に、値段の情報がどれほど大切だったかが分かります。
先物取引は、先の値段がどうなるか分からない不安を、売り手と買い手で分け合うしくみです。
図解先物取引のしくみ(例)
- 1春のうちに、秋に売り買いする値段を決めて約束する
- 2夏の天候しだいで、米の値段が大きく上がったり下がったりする
- 3秋には、約束した値段で取引する


02
明治から高度経済成長まで
江戸時代の終わりに外国との貿易が始まると、日本の最大の輸出品は生糸になりました。その品質を高めるため、明治政府は官営の模範工場として富岡製糸場をつくり、1872 年に操業を始めます。フランス人のブリュナを指導者に迎えて西洋の技術を取り入れ、全国から工女を集めて、学んだ技術を出身地で教えてもらうことも大切な役目でした。
1873 年には、渋沢栄一が第一国立銀行の創立にかかわり、1882 年には中央銀行として日本銀行が開業しました。渋沢は生涯に約 500 の企業の育成にかかわったとされ、2024 年 7 月に発行が始まった新しい一万円札の肖像にもなっています。
戦後の焼け跡から立ち直った日本について、1956 年の経済白書は「もはや『戦後』ではない」と書きました。ここから 1970 年代のはじめまで、高い成長が続く高度経済成長の時代を迎えます。
図解日本の経済の歩み
- 11730 年堂島の米市場を幕府が公認
- 21872 年富岡製糸場が操業を始める
- 31882 年日本銀行が開業する
- 41956 年経済白書「もはや『戦後』ではない」
- 52024 年新しい一万円札の肖像が渋沢栄一に


03
産業革命と、経済学の誕生
18 世紀後半のイギリスでは、糸を紡ぐ機械や、ジェームズ・ワットが改良した蒸気機関が広まり、工場で大量に物を作る時代が始まりました。これが産業革命です。暮らしは豊かになる一方で、長時間労働や子どもの労働も広がり、新しい社会の問題が生まれました。
経済学の出発点とされるのが、1776 年にアダム・スミスが出した『国富論』です。スミスはピン作りを例に、仕事を分ける力を説明しました。約 18 の工程を分担した 10 人の小さな工場では、1 日に 4 万 8,000 本以上のピンが作られます。1 人で全部を作ったら、1 日に 20 本も作れないだろうと書いています。
その後、リカードは貿易の利益を、マルクスは資本主義の問題点を、ケインズは不況の原因と政府の役割を論じました。同じ経済を見ても、時代と立場によって答えは大きく違います。経済学史では、こうした論争がどんな問題から生まれたのかを学びます。
昔の経済学者の答えより、「どんな問題に答えようとしたのか」に注目すると、古典がぐっと身近になります。
図解経済学をつくった本
- スミス『国富論』1776 年: 分業と市場の力
- リカード『経済学および課税の原理』1817 年
- マルクス『資本論』1867 年: 資本主義の問題点
- ケインズ『一般理論』1936 年: 不況と政府

04
歴史を学ぶと、今の経済が見えてくる
なぜ豊かな国と貧しい国があるのか。2024 年のノーベル経済学賞は、アセモグル、ジョンソン、ロビンソンの 3 人に贈られました。国の制度がどのように作られ、豊かさにどう影響するかを研究した人たちです。2025 年には、技術の進歩が成長を長く続けるための条件を、歴史をたどって明らかにしたジョエル・モキイアが受賞しています。
経済史の研究者は、古文書や会社の帳簿、昔の統計や新聞を読み解いて、当時の人々の暮らしや取引の様子を描き直します。国立国会図書館デジタルコレクションのように、昔の資料をインターネットで読める場所も増えています。
今も続く「市場に任せるか、政府が動くか」という議論の多くは、過去の危機や論争の中で形づくられてきました。歴史を知ると、ニュースで流れる政策を一歩引いて見られるようになります。
高校生のうちに試せること
貨幣博物館で、お金の歴史を見る
東京・日本橋にある日本銀行金融研究所の博物館です。入館は無料で、日本のお金の歴史を、実物の資料でたどれます。
貨幣博物館国立国会図書館デジタルコレクションで昔の資料を読む
インターネットで公開されている明治・大正の本や雑誌は、だれでも無料で読めます。自分の町の昔の産業や、物の値段を調べてみましょう。
国立国会図書館デジタルコレクション地元の産業の歴史を調べる
市町村の歴史の本や郷土資料館の展示で、自分の町でかつて盛んだった産業を調べてみましょう。いつ、なぜ栄え、なぜ変わったのかを考えることが、経済史の研究の入り口になります。
「歴史と制度から学ぶ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 38 件から探せます。
よくある質問
歴史が好きなら、経済学部と文学部のどちらで学べますか?
経済史や経済学史は、多くの大学の経済学部で学べます。文学部の史学科でも、社会や経済の歴史を扱うゼミがあります。数字やデータで歴史を見たいなら経済学部、文書から時代を読み解きたいなら文学部、という選び方もあります。どんな科目があるかは大学によって異なります。
古文書が読めなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。古文書の読み方は、大学の授業やゼミで少しずつ学べます。明治以降の時代なら、統計や新聞、会社の記録など、今の文字で書かれた資料もたくさんあります。
