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図 1 教育学の広がり教育学の広がり 1

教育の目的と歴史

何のために学ぶのか。学校はいつから、どうしていまの形になったのか。世界の学校はどう違うのか。教育の「当たり前」を、哲学・歴史・国際比較の目で問い直す分野です。

江戸時代の寺子屋、明治の洋風の校舎、世界地図と各国の学校の写真を並べた机を囲んで、昔と今、日本と外国の学校を比べて話し合う大学生たち

ひとことで言うと

友だちの家に泊まると、自分の家が見えてくる

友だちの家に泊まると、お風呂の順番や朝ごはんが自分の家と違っていて驚くことがあります。比べて初めて、自分の家の決まりに気づきます。教育の目的と歴史の分野は、昔の学校や外国の学校と比べることで、いまの学校の当たり前を見直します。

01

教育哲学: 「何のために学ぶのか」を考える

「この勉強は、将来何の役に立つの?」と思ったことはありませんか。教育哲学は、この問いに正面から向き合う分野です。何を教えるべきか、よい教育とは何かを、昔からの思想家の考えを手がかりに考えます。

日本の教育の目的は、法律に書かれています。教育基本法の第 1 条は、教育は「人格の完成を目指し」て行うと定めています。テストの点や就職のためだけでなく、人として成長することが目的だという考え方です。では、「人格の完成」とは何でしょうか。こうした言葉の意味を掘り下げるのも、教育哲学の仕事です。

古代ギリシャのソクラテスは、答えを教えずに、問いを重ねて相手に気づかせる対話を大切にしました。プラトンの『メノン』では、図形を習ったことのない少年が、ソクラテスの問いに答えるうちに、正方形の面積を 2 倍にする方法にたどり着きます。教えるとは、知識を渡すことなのか、引き出すことなのか。2,000 年以上たったいまも続く問いです。

「何のために学ぶのか」は、答えが 1 つでないからこそ考える価値がある問いです。

図解教育哲学が考える問い

よい教育とは?
  • 何のために人格の完成か、仕事に役立つ力か
  • 何を教えるか限られた時間で、何を選ぶか
  • どう教えるか知識を渡すか、問いで引き出すか
  • 誰が決めるか国・学校・家庭・本人の役割
  • 平等とは同じに扱うか、違いに合わせるか

02

教育史: 寺子屋から、全国の小学校へ

江戸時代には、町や村に寺子屋が広がりました。17 世紀以降に江戸や大坂などの都市で発達し、18 世紀後半からは農村にも広がります。寺子屋は、庶民の子どもに読み・書きの初歩や日常の計算を教える私設の学校で、幕府や藩の補助を受けない自主的な施設でした。

寺子屋には決まった入学の時期がなく、進み方も一人ひとりの力に合わせていました。同じ年齢の子が 4 月にそろって入学し、同じ教室で一斉に授業を受けるいまの形とは、かなり違います。

1872 年(明治 5 年)、政府は「学制」を出し、全国に小学校をつくり始めました。いちばん多かったのは、いくつかの寺子屋や私塾をまとめて小学校に組み直すやり方です。1875 年には 2 万 4,303 校が開かれ、その約 7 割はお寺や民家を借りていました。2025 年度の小学校は 1 万 8,607 校なので、明治の初めのほうが多いことになります。

ただし、すぐにみんなが通ったわけではありません。1873 年の就学率は 28.1% で、女子は 15.1% でした。教育史では、こうした数字や当時の記録から、学校が社会にどう受け入れられていったかを調べます。

いまの学校の形は、明治からのおよそ 150 年でつくられてきました。

図解寺子屋から小学校へ

  1. 1江戸時代寺子屋が都市から農村へ広がる
  2. 21872 年学制が出て、小学校づくりが始まる
  3. 31873 年就学率は 28.1%(女子は 15.1%)
  4. 41875 年小学校は 2 万 4,303 校に
  5. 52025 年度小学校は 1 万 8,607 校
寺子屋で、机を並べた子どもたちが筆で字を書いたり、ふざけ合ったりしている様子を描いた浮世絵
江戸時代の終わりごろに一寸子花里(いっすんし はなさと)が描いた寺子屋の様子。師匠の前で、子どもたちが思い思いに手習いをしています。写真: 一寸子花里(Public domain・Wikimedia Commons)

03

教育の思想: 子どもの見方が変わると、学校が変わる

17 世紀のチェコの教育者コメニウスは、「すべての人に、すべてのことを」教える方法を考えました。1658 年に出した『世界図絵』は、絵と言葉を組み合わせて学ぶ本で、世界で最初の絵入りの教科書とされています。教科書に図や写真が入っているのは、いまでは当たり前です。

18 世紀のフランスでは、ルソーが『エミール』(1762 年)を書きました。子ども時代を、大人になるための通過点ではなく、それ自体に意味のある時期と考えたことから、「子どもの発見」と呼ばれます。

19 世紀の終わりには、アメリカのデューイが、1896 年にシカゴ大学に実験学校を開きました。料理や木工などの活動を通して学ぶ授業を試し、その記録を 1899 年に『学校と社会』にまとめています。経験から学ぶという考え方は、いまも探究学習を考えるときの土台の一つです。

大学では、こうした思想家の本を原典や翻訳で読み、いまの学校の課題と結びつけて話し合います。高校の「総合的な探究の時間」が何をめざしているのかも、思想の流れから見ると理解しやすくなります。

子どもや学びをどう見るかで、教科書や授業の形が変わってきました。

図解3 人の思想家

コメニウス

  • 1658 年『世界図絵』
  • 絵と言葉で、すべての人に教える

ルソー

  • 1762 年『エミール』
  • 子ども時代そのものを大切にする

デューイ

  • 1896 年 シカゴに実験学校
  • 経験と活動を通して学ぶ
『世界図絵』の最初のページ。先生が子どもに語りかける木版画の下に、ラテン語とドイツ語の文が左右に並ぶ
コメニウスの『世界図絵』の最初のページ。先生が「おいで、子どもよ。賢くなることを学ぼう」と呼びかける場面から始まります。写真: コメニウス(Public domain・Wikimedia Commons)

04

比較教育: 学年の始まりは、4 月だけではない

小学校の学年は 4 月 1 日に始まり、翌年 3 月 31 日に終わると、法令(学校教育法施行規則)で決まっています。けれども明治のはじめは、9 月に入学する学校も多くありました。1886 年に国の会計年度が 4 月始まりになると、明治 20 年代以降、学校も国の予算の年度に合わせて 4 月始まりにそろっていきました。

世界に目を向けると、9 月始まりの国が多数派です。文部科学省の資料をもとにした整理では、イギリス・フランス・中国などが 9 月、韓国は 3 月、シンガポールは 1 月です。北半球の多くの国では、夏休みのあとに新しい学年が始まります。

入学の年齢や進み方も、国ごとに違います。フィンランドでは学年が 8 月に始まり、子どもは 7 歳で 9 年制の基礎教育の学校に入ります。シンガポールでは、小学校の最後に全国共通の修了試験があり、その結果が中学校での進み方に関わります。

日本でも 2020 年に、休校をきっかけに 9 月入学への移行が国で検討されました。就職の時期や会計年度とのずれなど、社会全体に関わる課題が多く、移行は見送られています。比較教育学は、違いを並べるだけでなく、その国の歴史や社会と合わせて理由を考えます。

クイズ学校の歴史と世界のクイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1学制が出た翌年の 1873 年、学校に通う年齢の子どものうち、実際に通っていたのは?

  2. Q24 月 1 日生まれの人は、どちらと同じ学年に入る?

  3. Q3フィンランドで、新しい学年が始まるのは何月?

0 / 3 問に回答
白い壁に八角形の塔をのせた、2 階建ての洋風の校舎
長野県松本市の旧開智学校の校舎。学制のもとで 1876 年(明治 9 年)に建てられ、2019 年に近代の学校建築として初めて国宝になりました。写真: Wiiii(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

高校生のうちに試せること

  • 家の人に、学校の思い出を聞く

    祖父母や親に、1 クラスの人数、入学式、給食、授業の様子を聞いて、自分の学校と比べてみましょう。何が変わり、何が変わっていないかを表にすると、教育史の見方が身につきます。

  • 明治の教科書を読んでみる

    国立国会図書館デジタルコレクションでは、明治時代の教科書の多くをインターネットで読めます。「小学読本」などで検索し、いまの教科書と内容や絵を比べてみましょう。

    国立国会図書館デジタルコレクション
  • 世界の学校のしくみを調べる

    文部科学省の「世界の学校体系」には、国や地域ごとの学校のしくみや学年の始まりがまとめられています。気になる国を 2 つ選び、日本と比べてみましょう。

    世界の学校体系(文部科学省)
  • 「なぜ学ぶのか」を話し合う

    友だち 3〜4 人で「学校の勉強は何のためにあるのか」を、答えを 1 つに決めずに話し合ってみましょう。意見が分かれた点をメモしておくと、教育哲学の問いがはっきりします。

「教育の目的と歴史」に関連するコミュニティ

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よくある質問

教育哲学や教育史は、先生になるのに役立ちますか?

役立ちます。教員免許を取るための科目には、教育の理念や歴史・思想を学ぶものが含まれています。子どもへの接し方に迷ったとき、「そもそも何のための教育か」に立ち返る手がかりになります。

比較教育学では、外国語が必要ですか?

英語で書かれた論文や、各国の資料を読むことが多いので、英語の力は役立ちます。研究する国の言葉を大学で学び始める人もいます。高校のうちは、英語の文章を辞書を使いながら読み通す練習から始めれば十分です。