図 1 教育学の広がり教育学の広がり 4
社会と教育制度
1 クラスは何人がよいのか。家庭の事情は学力に関係するのか。進学の費用は誰が負担するのか。教育を社会のしくみとしてとらえ、データと制度から考える分野です。

ひとことで言うと
1 枚の成績表と、100 万枚の成績表
自分の成績表からは、自分の得意・不得意が分かります。同じ成績表を何十万人分も集めると、地域や家庭の事情による差や、制度の影響が見えてきます。社会と教育制度の分野は、教育を一人ひとりの努力だけでなく、社会のしくみとして見る学問です。

01
教育行政・制度: 1 クラスの人数は法律で決まる
公立の小中学校の 1 クラスの人数の上限は、義務標準法という法律で決められています。1958 年にこの法律ができたとき、上限は 50 人でした。子どもの数が急に増え、「すし詰め学級」が問題になっていた時代です。
その後、上限は 1960 年代に 45 人、1980 年代に 40 人へと下げられました。小学校は 2021 年度から 1 学年ずつ 35 人に下げ、2025 年度に全学年がそろいました。2026 年 3 月には法律が改正され、中学校も 2026 年度の 1 年生から順に 35 人学級になります。
高校の上限は、別の法律で 40 人のままです。では、理想の人数は何人なのか。国会でも議論されましたが、大臣は「一概にお答えすることはなかなか困難」と答えています。人数を減らすには、先生と教室を増やす必要があります。どこまで減らすかは、効果と費用、人手を合わせて考える政策の問題です。
1 クラスの人数は、法律と予算で決まる「制度」です。
図解1 クラスの上限の移り変わり
- 11958 年法律ができ、小中学校とも 50 人
- 21960 年代小中学校とも 45 人に
- 31980 年代小中学校とも 40 人に
- 42021〜25 年度小学校が 1 学年ずつ 35 人に
- 52026 年度〜中学校も 1 年生から 35 人に


02
教育経済学: 少人数の効果を、どう確かめる?
少人数のクラスにすれば、成績は上がるのでしょうか。印象ではなく、データで確かめるのが教育経済学などの考え方です。ただ、比べ方を工夫しないと、確かな答えは出ません。もともと少人数の学校は、地域や家庭の事情も違うかもしれないからです。
有名なのが、1985 年にアメリカのテネシー州で始まった STAR 計画です。州議会は、先生を増やす費用がかかるため、効果を確かめてから予算を決めようと考えました。対象は、約 80 校の、日本の年長から小学 3 年生にあたる約 6,500 人です。13〜17 人の学級と 22〜25 人の学級などにくじで振り分けて、4 年間比べました。
結果は、小さい学級のほうが読み書きや算数の成績が上がり、通常の学級に戻ったあとも差が続きました。日本でも、文部科学省が 2022 年度から実証研究を続けています。2025 年 12 月の中間まとめでは、学級の人数が多いと学力などが下がる傾向が報告されました。一方で、先生の確保や費用との兼ね合いをどう考えるかは、立場によって意見が分かれます。
「どう比べたか」が分かると、ニュースの調査結果も読み解けます。
図解STAR 計画の比べ方
小さい学級
- 13〜17 人
- くじで振り分けた子どもたち
ふつうの学級
- 22〜25 人
- くじで振り分けた子どもたち
ふつうの学級+助手
- 22〜25 人
- 先生を手伝う助手がつく

03
教育社会学: 家庭の事情と学力の関係
教育社会学は、学校と社会の関係を調べる分野です。中心にある問いの一つが、生まれ育った家庭の事情が、学力や進路にどう関わるかです。フランスの社会学者ブルデューは、家にある本や親との会話、美術館に行く経験などの「文化資本」が、学校での成功に関わると考えました。
国際的なデータもあります。OECD は 15 歳を対象に、国際的な学力調査 PISA を行っています。2026 年 9 月に公表された 2025 年調査で、日本は科学・読解・数学の 3 分野すべてで OECD 加盟国中 1 位でした。3 分野そろっての 1 位は、調査が始まってから初めてです。一方で、読解力の平均点は前回より下がり、得点の低い生徒の割合は 3 分野とも増えました。
保護者の学歴や家にある物などから作る指標で生徒を 4 つに分けると、日本でも、家庭の背景が恵まれているほど科学の得点が高い傾向があります。上位 25% と下位 25% の差は 71 点で、OECD 平均の 85 点より小さく、日本は公正性が高い国の一つとされています。差は小さいが、確かにある。このデータをどう読むかが、教育社会学の出発点です。
格差の大きさは国や時代によって違うからこそ、比べて考える意味があります。
図解家庭の背景と科学の得点
日本
- 背景の下位 25%: 504 点
- 背景の上位 25%: 575 点
- 差は 71 点
OECD 平均
- 背景の下位 25%: 446 点
- 背景の上位 25%: 531 点
- 差は 85 点

04
進学と費用: 学ぶお金は誰が負担する?
2025 年度の学校基本調査では、大学(学部)への進学率は 58.6%、短大や専門学校などを含めた高等教育機関への進学率は 85.4% でした。18 歳の多くが、高校を出たあとも学び続けています。
大学で学ぶ費用を、家庭が払うのか、社会全体で支えるのか。これは国によって考え方が分かれる問題です。日本では 2020 年 4 月に「高等教育の修学支援新制度」が始まりました。所得などの条件を満たす学生が、授業料などの減免と、返さなくてよい給付型奨学金を受けられるしくみです。2025 年度からは、子どもを 3 人以上扶養する世帯の学生は、所得にかかわらず一定額まで授業料などが減免されます。
教育経済学では、こうした支援が進学をどれだけ後押しするか、社会全体にどんな効果があるかをデータで確かめます。進学の費用と支援のしくみは、高校生にとっても身近なテーマです。
高校生のうちに試せること
PISA の問題を解いてみる
国立教育政策研究所のサイトでは、PISA の問題例を日本語で読めます。15 歳向けの問題を実際に解き、知識の量より「使い方」を問う問題の特徴を確かめてみましょう。
OECD 生徒の学習到達度調査(国立教育政策研究所)1 クラスの人数を、親の世代と比べる
自分の小学校・中学校のクラスの人数と、家の人が通っていたころの人数を比べてみましょう。人数が違うと授業や学校生活の何が違ったかを聞くと、統計の数字に実感が加わります。
進学率のグラフを作る
文部科学省の学校基本調査では、毎年の学校数や進学率が公表されています。大学進学率の移り変わりをグラフにして、どの時期に大きく変わったか、その理由を調べてみましょう。
学校基本調査(文部科学省)
「社会と教育制度」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 14 件から探せます。
よくある質問
教育の問題は意見が分かれますが、大学ではどう学びますか?
1 つの答えを覚えるのではなく、データや制度の資料をもとに、それぞれの立場の根拠を比べます。どんな問いを立て、どう比べれば確かなことが言えるのかを身につけることが、この分野の大きな目標です。
数学が苦手でも、教育社会学や教育経済学を学べますか?
学べます。1・2 年生で統計の入門を学び、表やグラフを読むところから始める大学が多くあります。インタビューや観察など、数字を使わない調べ方もあります。

