図 1 外国語学の広がり外国語学の広がり 3
地域の文化と社会
言葉が話されている地域の歴史・宗教・暮らし・文学を、言葉を入口にまるごと学ぶ分野です。単語 1 つにも、その土地を行き交った人々の歴史が刻まれています。

ひとことで言うと
ガイドブックの、その先を知る
旅行のガイドブックは、名所や名物料理を教えてくれます。でも、なぜその料理が生まれたのか、人々が何を大切にしているのかまでは、あまり書かれていません。地域研究は、その「なぜ」を、言葉・歴史・宗教・経済などを手がかりに調べる学問です。

01
地域研究: 言葉を入口に、その土地をまるごと学ぶ
外国語学部では、言葉と一緒に、その言葉が話される地域の歴史や政治、経済、宗教、文学を学ぶことが多くあります。こうした学び方を地域研究と呼びます。スペイン語ならスペインと中南米、アラビア語なら中東と北アフリカというように、1 つの言語から広い地域につながります。
日本学術会議の参照基準(地域研究分野)は、地域研究の学びでは、その地域で通じる言語を身につけることや、現地での体験が勧められるとしています。そして学んだ結果、学ぶ前とは現代の世界が違って見えるようになることが期待されると書いています。
参照基準(言語・文学分野)も、外国語は、その言語が持つ文化・社会・歴史と切り離さずに学ぶことを原則に挙げています。言葉だけ、地域だけではなく、両方を行き来するのが外国語学部の地域研究です。
言葉と地域を行き来すると、ニュースの見え方が変わります。
図解地域研究で学ぶこと
- 言葉新聞や資料を、その地域の言葉で読む
- 歴史王朝・移民・植民地の歴史
- 宗教祭り・食べ物・暮らしの決まり
- 政治・経済選挙・貿易・産業
- 文学・芸術小説・映画・音楽
- 現地の体験留学やフィールドワーク

02
単語に残る歴史: スペイン語の中のアラビア語
711 年、イスラームの軍がイベリア半島(いまのスペインとポルトガル)に入りました。それから 1492 年にグラナダが開城するまで、約 800 年にわたって、イスラームの王朝が半島の一部を治めました。グラナダには、最後の王朝が築いたアルハンブラ宮殿が残っています。
この長い時代は、スペイン語の単語にも跡を残しました。関西外国語大学の研究によると、スペイン語で al- で始まる単語の多くは、アラビア語から入った言葉です。al は、アラビア語の定冠詞(英語の the にあたる語)です。alcoba(寝室)や algodón(綿)がその例です。アルハンブラという名前も、アラビア語で「赤い城」を意味する言葉から来ています。
スペイン語で「〜だといいな」と願うときの ojalá も、もとはアラビア語です。スペイン王立アカデミーの辞典は、イベリア半島で話されていたアラビア語の「そして神が望まれた」という言葉から来たと説明しています。神への願いの言葉が、いまは毎日の会話で使われているのです。
オレンジを表す naranja のように、アラビア語を通ってスペイン語に入り、さらにさかのぼるとインドのサンスクリット語に行き着く言葉もあります。単語の由来をたどると、品物や知識が地域から地域へ渡っていった道が見えてきます。
単語の由来を調べると、その土地の歴史が見えてきます。
図解スペイン語の al- をたどる
- 1語頭の al- に注目する
- 2al はアラビア語の定冠詞(the)
- 3アラビア語から入った言葉と分かる


03
異文化理解: 名前の順番にも文化がある
異文化理解は、自分と違う文化の考え方や習慣を、その文化の内側から理解しようとする学びです。身近な例が、名前の書き方です。
英語やフランス語では、名前を「名・姓」の順に書くのがふつうです。英語の文章では、日本人の名前も「Haruo Yamada」のように順番を入れかえて書かれることが多くありました。2000 年、国語審議会は、日本人の名前はローマ字でも「姓・名」の順(Yamada Haruo)が望ましいと答申しました。
2019 年 10 月には、政府の府省庁が、公的な文書で日本人の名前をローマ字で書くときは、原則として「姓・名」の順にすると申し合わせました。姓と名を区別したいときは、YAMADA Haruo のように姓をすべて大文字にします。中国語や韓国語も、姓が先に来る言語です。
異文化理解では、違いに出会ったときに「どちらが正しいか」ではなく、なぜその形なのかを調べて考えます。名前の順番 1 つからも、言葉と社会の結びつきが見えてきます。
違いに出会ったら、その理由を調べるのが異文化理解の第一歩です。
図解名前の順番
名・姓の順
- 英語・フランス語など
- 例: Haruo Yamada
姓・名の順
- 日本語・中国語・韓国語など
- 例: YAMADA Haruo

04
日本とつながる地域: ブラジルへ渡った人々
地域研究の対象は、日本から遠い場所だけではありません。1908 年 4 月 28 日、ブラジルへの最初の契約移民 781 人を乗せた笠戸丸が、神戸港を出港しました。国立国会図書館によると、戦前と戦後を合わせて約 26 万人が、日本からブラジルに移り住みました。
1990 年ごろからは、日系人とその家族が日本で働きやすくなる制度が整い、ブラジルから日本に来る人が増えました。出入国在留管理庁によると、2025 年末に日本に住むブラジル国籍の人は 210,014 人で、国籍・地域別で 7 番目に多い数です。
ポルトガル語を学ぶと、ブラジルの歴史や文化だけでなく、日本で暮らすブラジル出身の人たちとの交流にも役立ちます。地域研究は、日本の中にある世界に気づく学びでもあります。
地域研究は、日本と世界のつながりを見直す学びでもあります。

高校生のうちに試せること
電子展示会で移民の歴史をたどる
国立国会図書館の電子展示会「ブラジル移民の100年」では、笠戸丸の航海や移民の暮らしを、当時の資料と一緒に無料で読めます。気になった人物や出来事を 1 つ選び、年表にまとめてみましょう。
国立国会図書館「ブラジル移民の100年」アルハンブラ宮殿の写真で模様を探す
アルハンブラ宮殿の公式サイトでは、宮殿の中庭や部屋の写真を見られます。壁の細かな模様や、水を使った庭など、イスラームの建築の特徴を探してみましょう。
アルハンブラ宮殿 公式サイト地元の国際交流のイベントに行く
市町村や国際交流協会は、外国出身の住民との交流会や料理教室などを開いています。地元のお知らせを調べて参加し、相手の国の暮らしについて 1 つ質問してみましょう。
「地域の文化と社会」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 142 件から探せます。
よくある質問
地域研究と国際関係学は、何が違いますか?
国際関係学は国と国の関係を中心に考えるのに対し、地域研究は 1 つの地域を、言葉や歴史、宗教、暮らしなど多くの面から深く学びます。両方を学べる学部もあり、分け方は大学によって異なります。
学ぶ地域は、いつ決めますか?
外国語学部では、入学のときに専攻する言語を決め、その言語が話される地域を中心に学ぶことが多くあります。ゼミで、ほかの地域と比べる研究をする人もいます。大学によって異なります。

