図 1 化学の広がり化学の広がり 3
状態・エネルギー・平衡
溶液や気体のふるまい、反応で出入りする熱や電気、反応の速さと行き着く先(平衡)を学ぶ分野です。青菜に塩をふるとしんなりするわけや、海水から真水をつくる膜も、この分野で説明できます。アルミニウムに大量の電気が要る理由や、鍾乳洞のでき方も同じです。

ひとことで言うと
人の出入りが釣り合った、にぎやかな駅
朝の駅では、改札を入る人と出る人がたえず行き来していても、構内の人数はほぼ一定に見えることがあります。化学平衡も、反応が止まったのではなく、右向きと左向きの反応が同じ速さで進み続けている状態です。片方の人の流れが増えると、全体が新しい釣り合いへ移るのも同じです。

01
溶液と浸透圧: 青菜に塩と、海水から真水をつくる膜
化学の「溶液と平衡」では、溶けている物質の量によって、溶液の性質がどう変わるかを学びます。水は通すが溶けた物質は通さない膜(半透膜)で、濃い溶液とうすい溶液を仕切ると、水はうすい側から濃い側へ移ります。このとき生じる圧力を浸透圧と呼びます。
青菜に塩をふるとしんなりするのは、細胞の膜をはさんで、外側の塩水の方が濃くなるからです。細胞の中の水が外へ引き出され、細胞がしぼみます。漬物づくりや、魚に塩をふって水分を抜く下ごしらえも、同じしくみです。
逆に、濃い側に浸透圧より大きな圧力をかけると、膜を通して水だけを押し出せます。これが逆浸透です。福岡地区水道企業団の海水淡水化センター「まみずピア」は、この方法で 1 日最大 5 万 m³ の真水をつくります。膜にかける圧力は、水深約 840 m の海の底と同じくらいです。
真水を取ったあとの海水は、塩分が約 2 倍に濃くなります。まみずピアでは 2025 年 8 月、この濃い海水と下水処理水の濃さの差を使う、日本初の浸透圧発電が始まりました。水が膜を通って濃い側へ移る力で水車を回し、年間最大 88 万 kWh を発電します。
濃い側に浸透圧より大きな圧力をかけると、膜を通して水だけを取り出せます。
図解海水の浸透圧を見積もる
- 1NaCl は Na⁺ と Cl⁻ に分かれ、粒の濃度は約 1.1 mol/L
- 2浸透圧の式 Π = cRT を使う
- 31.1×10³ mol/m³ × 8.31 × 298 K ≒ 2.7×10⁶ Pa

02
反応の熱と電池: カエルの足から始まった電池の歴史
化学の「化学反応とエネルギー」では、反応で出入りする熱を、物質がもつ化学エネルギーの差として学びます。熱を出す発熱反応だけでなく、周りから熱を吸う吸熱反応もあります。折ると光るケミカルライトのように、エネルギーが光として出る化学発光も扱います。
化学反応のエネルギーを、電気として取り出すのが電池です。始まりは、カエルの足に金属が触れるとけいれんすることに気づいた、イタリアのガルバーニの実験でした。これをヒントに、1800 年、ボルタが銅と亜鉛と食塩水で電池を作りました。電圧の単位ボルト(V)は、ボルタの名前にちなみます。
ボルタの電池は、使い始めるとすぐに電圧が下がる弱点がありました。約 35 年後、イギリスのダニエルが改良に成功します。亜鉛と硫酸亜鉛水溶液、銅と硫酸銅(II) 水溶液を素焼きの板で仕切り、安定した電気を取り出せるようにしたのです。これがダニエル電池で、電圧は約 1.1 V です。
ダニエル電池では、亜鉛が電子を失って亜鉛イオンになり(酸化)、その電子が導線を通って銅板に移ります。銅板では、銅(II) イオンが電子を受け取って銅になります(還元)。電池は、酸化と還元を別々の場所で起こし、間を流れる電子を電流として使うしくみです。化学では、乾電池やリチウムイオン電池、燃料電池などの実用電池も学びます。
電池は、酸化と還元を別々の場所で起こし、間を流れる電子を使うしくみです。
図解電池が生まれるまで
- 1ガルバーニカエルの足のけいれんに気づく
- 2ボルタ(1800 年)銅・亜鉛・食塩水で電池を作る
- 3ダニエル電池約 35 年後。素焼きの板で仕切る
- 4実用電池へ乾電池・鉛蓄電池・燃料電池など

03
電気分解: アルミニウムをつくるには、大量の電気が要る
電池とは逆に、外から電気を流して反応を起こすのが電気分解です。化学では、流した電気の量と、変化した物質の量が比例すること(ファラデーの法則)を学びます。電子 1 mol 分の電気量は約 9 万 6500 C で、ファラデー定数と呼ばれます。
アルミニウムは、鉱石から取り出した酸化アルミニウムを、高温で溶かして電気分解してつくります。アルミニウムのイオンは、1 個が電子を 3 個受け取って原子になるので、たくさんの電気が要ります。1 円玉 1 枚(1 g)分でも、1 A の電流を約 3 時間流し続ける電気量が必要です。
NEDO の資料によると、日本はアルミニウムの新地金を 100% 海外から輸入しています。一方、使い終わったアルミニウムから作る再生地金は、製造に必要なエネルギーが新地金の約 3% で済むといわれます。アルミ缶を分別して出すことが、大きな省エネルギーになるのはこのためです。
電気分解は、電線に使う銅の純度を高める電解精錬や、食塩水から水酸化ナトリウムと塩素をつくる工業など、多くの工場で使われています。化学では、硫酸銅(II) 水溶液などを電気分解し、電極に付いた銅の重さと流した電気の量を比べる実験を行います。
流した電気の量と、変化した物質の量は比例します(ファラデーの法則)。
図解1 円玉 1 枚分のアルミニウムに要る電気
- 11 g は 1/27 mol ≒ 0.037 mol
- 2Al³⁺ + 3e⁻ → Al。電子はその 3 倍の約 0.11 mol
- 30.11 mol × 96500 C/mol ≒ 1 万 700 C
- 41 A で流すと、1 万 700 秒 ≒ 3 時間


04
反応速度と化学平衡: 鍾乳洞は、1 つの式が行き来してできた
化学の「化学反応と化学平衡」では、反応の速さが、濃度や温度、触媒で変わることを学びます。食べ物を冷蔵庫に入れると傷みにくいのも、温度を下げて、微生物のはたらきや成分の変化を遅くしているからです。さらに、行きと帰りの両方向に進む反応(可逆反応)は、やがて見かけ上、変化が止まった状態になります。これが化学平衡です。
平衡にあるときに条件を変えると、その変化を打ち消す向きに平衡が移ります。これがルシャトリエの原理です。ある物質を増やせば、それを減らす向きに、温度を上げれば、熱を吸う向きに反応が進みます。この原理を使うと、工場で目的の物質を効率よくつくる条件を考えられます。
山口県の秋芳洞は、国の特別天然記念物に指定された、国内最大級の鍾乳洞です。秋吉台の地下 100 m にあり、洞内の総延長は 10 km を超えます。この洞窟も、平衡の移動でできました。二酸化炭素を溶かした雨水が、石灰岩(炭酸カルシウム)を少しずつ溶かして、地下に空洞を広げたのです。
洞窟の中で水から二酸化炭素が抜けると、今度は溶けていた炭酸カルシウムが固まり、鍾乳石になります。どちらも、CaCO₃ + CO₂ + H₂O ⇄ Ca(HCO₃)₂ という 1 つの式で表せます。二酸化炭素が多いと右へ、少ないと左へ進むのです。同じ式が、洞窟をつくり、鍾乳石を育てることになります。
条件を変えると、平衡はその変化を打ち消す向きに移ります。
図解鍾乳洞ができるまで
- 1雨水が CO₂ を溶かす空気や土の中の二酸化炭素
- 2石灰岩が溶ける右向きに進み、地下に空洞ができる
- 3洞窟で CO₂ が抜ける平衡が左向きに移る
- 4炭酸カルシウムが沈む鍾乳石や百枚皿が育つ


05
大学では: 物理化学で、反応の向きと速さを計算する
多くの大学の化学系の学科では、この分野を物理化学として学びます。熱力学で反応がどちらへ進むかを、反応速度論でどれだけ速く進むかを、式で計算できるようになります。科目の名前や学ぶ時期は、大学によって異なります。
仕事では、電池や燃料電池の開発、膜を使った水づくり、化学工場の温度や圧力を決める化学工学などで、この分野の知識が生きます。まみずピアの浸透圧発電のように、捨てていた濃さの差からエネルギーを取り出す新しい技術も、溶液の性質を深く理解するところから生まれています。
つまずきやすいのは、平衡の量の計算と、ルシャトリエの原理の向きの判断です。平衡の問題は、「はじめ」「変化した量」「平衡」の 3 行の表を書き、mol で整理すると迷いません。原理を使うときは、加えた変化を打ち消すにはどちらへ進めばよいかを、1 つずつ確かめてください。
高校生のうちに試せること
キュウリに塩をふって、浸透を確かめる
薄切りのキュウリを 2 つの皿に分け、片方にだけ塩をふって 10 分置きましょう。出てきた水の量や、曲げたときのやわらかさを比べます。同じ重さの砂糖でも試し、塩と砂糖のどちらで水が多く出るかを比べてください。粒の数(mol)の違いを考えるヒントになります。
卵の殻をお酢に入れて、石灰岩が溶けるしくみを見る
コップにお酢を入れ、よく洗った卵の殻のかけらを入れましょう。殻の表面から細かい泡が出て、時間がたつと殻が薄くなっていきます。殻の主成分は、石灰岩と同じ炭酸カルシウムです。鍾乳洞で石灰岩が溶ける反応と比べて考えてください。使ったお酢は飲まずに捨てましょう。
まみずピアを見学する
福岡地区水道企業団の海水淡水化センター(まみずピア、福岡市東区)は、予約をすれば見学できます。逆浸透膜で海水から真水をつくる設備を間近で見られ、浸透圧発電の施設の見学を希望することもできます。
福岡地区水道企業団「Q&A(まみずピア)」
「状態・エネルギー・平衡」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 120 件から探せます。

融体物理化学研究室
九州大学(福岡県)
材料工学・齊藤 敬高 教授
物性物理化学研究室(須田研究室)
名古屋大学(愛知県)
物理化学
分子性材料と分子エレクトロニクスを研究する。
生命物理化学教室
東京大学(東京都)
薬学系研究科・物理薬科学・竹内 恒 教授

理論物理化学研究室
岡山大学(岡山県)
理学部 化学科・理論物理化学・甲賀 研一郎 教授
統計力学や分子シミュレーションで、液体・溶液・界面やタンパク質などの現象を理論的に研究する。
強光子場科学研究室
東京大学(東京都)
理学系研究科化学専攻・物理化学・岩崎 純史 教授
松宮研究室
横浜国立大学(神奈川県)
理工学部 化学・生命系学科 化学応用教育プログラム・応用電気化学・松宮 正彦 教授
湿式精錬とイオン液体での電析を組み合わせ希少金属を回収する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
化学平衡は、反応が止まった状態ですか?
止まってはいません。右向きと左向きの反応が同じ速さで進み続けているので、見かけ上、物質の量が変わらない状態です。だから、濃度や圧力、温度を変えると、どちらかの反応が速くなり、新しい平衡へ移ります。
電池と電気分解は、何が違うのですか?
電池は、自然に進む酸化還元反応から電気を取り出します。電気分解は反対に、外から電気を流して、自然には進まない酸化還元反応を起こします。どちらも、酸化が起きる極と還元が起きる極を区別して考えると、反応式が書けるようになります。
気体の計算は、物理と化学で違いますか?
気体の状態方程式 pV = nRT は、物理でも化学でも同じです。化学では物質量 n を中心に、混ざった気体の分圧や、水に溶ける気体の量(ヘンリーの法則)まで扱います。物理の気体分子の運動とあわせて学ぶと、理解が深まります。
