大学カタログ

図 1 化学の広がり化学の広がり 5

化学が果たす役割

化学基礎と化学で学んだ物質の知識が、暮らしや社会でどう役立っているかを見渡し、これからの社会で化学に何ができるかを考える単元です。セッケンが油を落とすしくみ、食品の表示にある「ビタミン C」の役目、日本で見つかった炭素の新素材、携帯電話から取り出す金属まで取り上げます。

金色・銀色・銅色のメダルと使い終わった携帯電話の山、泡立つセッケン、原材料表示を読む買い物かご、細い黒い糸を巻いた糸巻きに囲まれて、話し合う高校生たち

ひとことで言うと

料理の基本を覚えたら、献立を考える

包丁の使い方や火加減を覚えたら、次は家族の好みや季節に合わせて献立を考えます。化学基礎と化学で学んだ物質の知識が「料理の基本」なら、化学が果たす役割の単元は「献立づくり」です。どの物質を、何のために、どう使うかを考えます。

01

暮らしの中の物質: セッケンが油汚れを落とすしくみ

化学の最後の単元「化学が果たす役割」では、学んだ物質が暮らしの中でどう使われているかを見渡します。化学基礎の「化学が拓く世界」でも、安全な水道水、食品の保存、ものの洗浄が例に挙がっています。いちばん身近なのが、セッケンなどの洗剤です。

セッケンは、油脂を水酸化ナトリウムなどの強い塩基で分解してつくります。セッケンの分子は細長く、一方の端は水になじみ、反対側の長い部分は油になじみます。油汚れに出会うと、油になじむ側を汚れに向けて取り囲み、小さな粒(ミセル)にして水の中へ引きはがします。

セッケンは、カルシウムやマグネシウムを多く含む硬水では、水に溶けにくい塩をつくって泡立ちにくくなります。東京大学などが全国 665 地点の水道水を調べたところ、硬度の平均は 48.9 mg/L で、世界保健機関(WHO)の分け方では軟水でした。ただし、関東地方は高めなど、地域による差もあります。

水を使わずに洗うのが、ドライクリーニングです。学習指導要領の解説は、分子の極性を利用した洗浄の技術として例に挙げています。水で洗うと縮みやすいウールの衣類などの油汚れを、極性の小さい石油系などの溶剤に溶かして落とします。似た性質のものどうしが溶け合うことの応用です。

セッケンは、水になじむ部分と油になじむ部分で、油汚れを包み込みます。

図解セッケンが油汚れを落とすまで

  1. 1汚れに近づく油になじむ側を汚れに向ける
  2. 2汚れを取り囲む水になじむ側が外を向く
  3. 3ミセルになる油を包んだ小さな粒になる
  4. 4水で流れる粒ごと水に散らばり、洗い流せる

02

食品を守る化学: 明太子の「ビタミン C」は酸化防止剤

食品の原材料表示に「酸化防止剤(ビタミン C)」と書かれているのを見たことはありませんか。ビタミン C(L-アスコルビン酸)は、自分が先に酸化されることで、食品の色や風味が酸化で変わるのを防ぎます。化学基礎で学ぶ、還元剤の働きです。

福岡市保健環境研究所の資料によると、酸化防止剤には、ビタミン C のほかにエリソルビン酸も使われます。エリソルビン酸は、ビタミン C と同じ原子でできていて、形だけが違う異性体です。ビタミンとしての働きはほとんどありませんが、ビタミン C より速く酸化され、値段も安いのが特徴です。

同じ研究所が 2001〜2003 年度に辛子明太子を検査したところ、ビタミン C は 222 件のうち 198 件から見つかりました。約 9 割です。添加物を使ったときは、物質の名前と用途を一緒に表示する決まりがあり、検査では表示が正しいかどうかも確かめています。

食品を守るのは、添加物だけではありません。解説は、金属やプラスチックなどの材料の利用も、食品を保存する科学技術の例に挙げています。缶詰の缶や、空気を通しにくいフィルムの袋は、酸素や水分から中身を守るための化学の工夫です。

ビタミン C は、自分が先に酸化されることで、食品の酸化を防ぎます。

図解2 つの酸化防止剤を比べる

L-アスコルビン酸

  • ビタミン C そのもの
  • 酸化される速さ: 遅い
  • ビタミンの働き: 大きい
  • 値段: 高い

エリソルビン酸

  • ビタミン C の異性体
  • 酸化される速さ: 速い
  • ビタミンの働き: 小さい
  • 値段: 安い
白い皿に、赤みがかったたらこの塩漬けが 2 本盛られ、キュウリやニンジン、ニンニクが添えられている
スケトウダラの卵の塩漬け(写真は韓国の明卵漬)。日本の辛子明太子も同じ仲間の食品で、福岡市の検査では、約 9 割からビタミン C が見つかりました。写真: hee17670(CC0・Wikimedia Commons)

03

電池と新しい素材: 日本で見つかったカーボンナノチューブ

化学の成果は、新しい素材として社会を変えてきました。学習指導要領の解説は、化学が築く未来の例を挙げています。次世代型の蓄電池や、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料です。

カーボンナノチューブは、1991 年、NEC の飯島澄男さんが、電子顕微鏡で炭素の物質を調べる中で見つけました。炭素原子がつながって筒の形になった物質で、直径は数 nm しかありません。NEC は、鉄より強く、髪の毛よりはるかに細い新しい素材として、世界の注目を集めたと紹介しています。

2026 年 9 月、この発見に使われた電子顕微鏡は、日本物理学会が新たに設けた「日本物理遺産」の第 1 回に選ばれました。カーボンナノチューブは、ダイヤモンドや黒鉛と同じく、炭素だけでできた物質です。同じ炭素でも、原子のつながり方しだいで、まったく違う素材になります。

NEC によると、カーボンナノチューブは発見のあと、身近な暮らしから宇宙開発まで、幅広く役立てられています。新しい物質を見つけるだけでなく、それを大量に、安全につくり、使い道を広げていくことも、化学の大切な仕事です。

同じ炭素でも、原子のつながり方しだいで、まったく違う素材になります。

図解炭素だけでできた物質

炭素の単体
  • ダイヤモンドとても硬い。透明な結晶
  • 黒鉛層がはがれやすい。鉛筆の芯
  • フラーレンサッカーボールの形の分子
  • ナノチューブ1991 年に日本で発見。筒の形
電子顕微鏡で見た、白く光る無数の細い繊維が引き出され、束になっていく様子
カーボンナノチューブを紡いで糸にしているところ(電子顕微鏡の写真、オーストラリア連邦科学産業研究機構)。1 本 1 本の繊維は、髪の毛の 1 万分の 1 ほどの太さです。写真: CSIRO(CC BY 3.0・Wikimedia Commons)

04

化学が築く未来: 携帯電話の中の金属を、もう一度使う

化学の単元の最後では、これからの社会で化学が果たす役割を考えます。解説は、その例として、元素戦略による資源の有効活用や、再生可能エネルギーの活用を挙げています。環境に負荷をかけない化学(グリーンサスティナブルケミストリー)も、その 1 つです。金属やプラスチックの資源の再利用も、大切なテーマです。

使い終わった携帯電話やパソコンには、金・銀・銅などの金属が含まれています。こうした製品が集まる都市を、鉱山に見立てて都市鉱山と呼びます。東京 2020 大会では、全国から集めた小型家電の金属でメダルをつくる取り組みが行われました。「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。

環境省によると、回収は 2017 年 4 月に始まりました。国民が使い終わった小型家電を出し、その金属でメダルをつくる取り組みは、オリンピック・パラリンピックの歴史で初めてでした。携帯電話やパソコン、デジタルカメラなど、小型家電リサイクル法の対象の品目すべてが回収されました。

製品から金属を取り出すには、細かく砕いて磁石や重さの違いで分け、溶かしてから酸化還元反応や電気分解で純度を上げます。化学基礎と化学で学ぶ分離・精製、酸化と還元、電気分解が、資源を使い回す技術の土台になっているのです。プラスチックでも、使い終わったペットボトルを新しいペットボトルに戻すなど、同じ考え方の技術が広がっています。

分離・精製や酸化還元の技術が、資源を使い回す社会を支えます。

図解携帯電話から金属を取り出すまで

  1. 1回収する使い終わった小型家電を集める
  2. 2砕いて分ける磁石や重さの違いで分別する
  3. 3溶かして精製酸化還元や電気分解で純度を上げる
  4. 4新しい製品へ金・銀・銅をもう一度使う
建物の入り口の前に、使わなくなった携帯電話を入れる白い回収箱が 2 つ並んでいる
埼玉県所沢市の市役所の入り口に置かれた、使わなくなった携帯電話などの回収箱(2009 年撮影)。集めた製品から、金属が取り出されます。写真: tokorokoko(Public domain・Wikimedia Commons)

05

大学では: 化学の知識で、社会の課題に取り組む

この単元で取り上げる話題は、大学の応用化学、材料化学、環境化学、食品化学などで、そのまま研究のテーマになっています。新しい洗剤や食品の保存の技術、金属のリサイクル、新しい炭素材料の量産など、どれも化学の基礎の上に成り立っています。学科の名前や学ぶ内容は、大学によって異なります。

この単元は、答えを覚えるより、調べて考えて発表する時間が多いのが特徴です。学習指導要領も、これからの社会で化学が果たす役割を、科学的に考察して表現することを求めています。興味のある製品や技術を 1 つ選び、どの物質の、どんな性質が使われているかを説明できれば十分です。

まずは、身のまわりの製品の表示を読むところから始めてみてください。洗剤の成分、食品の添加物、服の素材など、表示には化学の言葉がたくさん並んでいます。分からない言葉を 1 つずつ調べていくと、教科書の単元と暮らしが、少しずつつながっていきます。表示を読む習慣は、洗剤や薬を安全に使うことにもつながります。

クイズ化学が果たす役割クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1セッケンが油汚れを包み込んでつくる、小さな粒を何という?

  2. Q2食品の表示にある「酸化防止剤(ビタミン C)」。ビタミン C は、どうやって食品を守る?

  3. Q31991 年に、NEC の飯島澄男さんが見つけた炭素の素材は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 洗剤の表示で、界面活性剤を確かめる

    台所や洗面所の洗剤の表示を見て、界面活性剤の種類と割合を確かめましょう。セッケンなら「純石けん分」などと書かれています。いくつかの製品を比べ、液性(酸性・中性・アルカリ性)の表示も見てください。「まぜるな危険」の表示がある製品は、実際に混ぜないでください。

  • 食品の表示で、酸化防止剤を探す

    家にある食品やお菓子の原材料表示から、「酸化防止剤(ビタミン C)」や「酸化防止剤(ビタミン E)」を探しましょう。どんな食品に使われているかを表にまとめ、なぜその食品に酸化防止剤が必要なのかを考えます。

  • 硬水と軟水で、セッケンの泡立ちを比べる

    水道水と、硬度の高い輸入のミネラルウォーターを、同じ量ずつふたつきの容器に入れましょう。削った固形セッケンを同じ量ずつ加え、ふたをして振って、泡立ち方を比べます。ラベルの硬度の数字と、日本の水道水の平均 48.9 mg/L も比べてみてください。

「化学が果たす役割」に関連するコミュニティ

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よくある質問

「化学が果たす役割」の単元は、授業でどう学びますか?

学習指導要領は、化学が果たす役割を日常生活や社会と関連づけて理解し、科学的に考察して表現することを求めています。物質の名前を覚えるより、それまでに学んだ性質や反応と、身近な製品を結びつけて説明できるようにしておくことが大切です。扱い方や時間は学校によって異なります。

エリソルビン酸のような異性体は、化学のどこで学びますか?

原子の種類と数が同じで、つながり方や立体の形が違う物質を異性体といいます。化学の有機化合物の単元で、構造異性体や、シス-トランス異性体、鏡像異性体を学びます。形のわずかな違いで、ビタミンとしての働きが大きく変わるのは、化学の面白いところです。

セッケンと合成洗剤は、何が違うのですか?

どちらも、水になじむ部分と油になじむ部分を 1 つの分子に持つ界面活性剤です。セッケンは油脂からつくる脂肪酸の塩で、硬水では泡立ちにくくなります。合成洗剤は、化学的に合成した界面活性剤で、硬水でも働きやすいものが多くあります。