大学カタログ

図 1 化学の広がり化学の広がり 2

物質の変化と量

化学反応で、どの物質がどれだけ変わるかを、物質量(mol)という粒の数の物差しで計算する分野です。ガソリン 1 L を燃やして出る二酸化炭素の重さ、草津温泉の強い酸性の川を中和する石灰の量、鉄を作る還元まで、同じ考え方でつながります。

白い煙を上げる温泉街の湯畑と、乳白色の水をたたえた山あいの湖を背に、ビュレットで中和滴定をする高校生、銀色に光る球を見つめる高校生、キッチンスケールの上で泡の出るコップを見守る高校生たち

ひとことで言うと

化学反応式は、粒の数で書いたレシピ

ホットケーキのレシピに「卵 1 個、牛乳 150 mL」とあれば、4 人分の材料もすぐに計算できます。化学反応式は、原子や分子の粒の数で書いたレシピです。粒の数を mol で数えれば、必要な原料の重さや、できる物の量が計算できます。

01

物質量: 水 18 g の中に、分子が 6×10²³ 個

化学基礎の「物質量と化学反応式」では、原子や分子を、6.02×10²³ 個ずつのまとまりで数えます。このまとまりを 1 mol(モル)と呼び、mol で表した量を物質量といいます。モルの語源は、ラテン語で「塊」を意味する言葉だとされています。

水の分子 1 mol は 18 g で、大さじ 1 杯(15 mL)と少しです。その中に、6.02×10²³ 個の分子が入っています。1 秒に 1 個ずつ数えると、宇宙の年齢の約 140 万倍の時間がかかります。目に見える量の物質には、それほど膨大な数の粒が詰まっています。

1 mol に含まれる粒の数(アボガドロ定数)は、2019 年 5 月から、ちょうど 6.02214076×10²³ と決められています。それまでは、質量数 12 の炭素 12 g に含まれる原子の数として定義され、世界の研究機関が精密に測り続けてきました。

測定で活躍したのが、シリコンの単結晶を磨いた球です。産業技術総合研究所(産総研)の球は質量約 1 kg、直径約 93.6 mm で、最も長い直径と短い直径の差は 83 nm しかありません。地球の大きさにのばしても、でこぼこは 11 m ほどです。球の体積と原子が並ぶ間隔から、中の原子の数を数え上げたのです。

粒を 6.02×10²³ 個のまとまり(mol)で数えると、質量と結びつきます。

図解水 18 g の分子を、1 秒に 1 個ずつ数えると

入力水 18 g(大さじ 1 杯と少し)
  1. 1水 H₂O の分子量は 1 × 2 + 16 = 18
  2. 218 g は 1 mol。分子は 6.02×10²³ 個
  3. 31 年は約 3.15×10⁷ 秒
  4. 46.02×10²³ ÷ 3.15×10⁷ ≒ 1.9×10¹⁶ 年
結果約 1 京 9000 兆年。宇宙の年齢(約 138 億年)の約 140 万倍
手のひらの上に、鏡のように周りの部屋を映し込んだ、青く光る球がのっている
アボガドロ定数の測定に使われたものと同じ種類の、シリコンの単結晶の球(アメリカ国立標準技術研究所)。直径は約 9.4 cm で、実験室の様子が映り込むほど、なめらかに磨かれています。写真: NIST(Public domain・Wikimedia Commons)

02

化学反応式: ガソリン 1 L を燃やすと、二酸化炭素は 2.3 kg

化学反応式の係数は、反応する粒の数の比、つまり物質量の比を表します。学習指導要領の解説は、係数の比が質量の比ではなく、物質量の比を表していることに気づかせることが大切だとしています。ここを取り違えるのが、いちばん多いつまずきです。

身近な例で計算してみます。ガソリンの成分を、炭素 8 個と水素 18 個でできたオクタン C₈H₁₈ だとします。燃やすと、オクタン 1 分子から二酸化炭素 8 分子ができます。質量にすると、114 g のオクタンから 352 g の二酸化炭素ができ、約 3 倍になります。

ガソリン 1 L の質量を約 0.75 kg とすると、二酸化炭素は約 2.3 kg です。環境省が温室効果ガスの計算に使う値も、ガソリン 1 L あたり 2.32 kg です。燃やした物より重い二酸化炭素ができるのは、空気中の酸素が結びつくからです。

解説には、炭酸水素ナトリウム(重曹)を加熱して分解する実験も例に挙がっています。2NaHCO₃ → Na₂CO₃ + H₂O + CO₂ の反応で、出ていく二酸化炭素の量は、係数から予想できます。重さを量りながら実験すると、反応式が本当に量の関係を表していることを確かめられます。

化学反応式の係数は、質量ではなく、粒の数(物質量)の比を表します。

図解オクタン 114 g を燃やすと

入力2C₈H₁₈ + 25O₂ → 16CO₂ + 18H₂O
  1. 1C₈H₁₈ のモル質量は 12 × 8 + 1 × 18 = 114 g/mol
  2. 2114 g は 1 mol。係数の比から CO₂ は 8 mol
  3. 3CO₂ のモル質量は 44 g/mol。8 × 44 = 352 g
  4. 4352 ÷ 114 ≒ 3.1 倍
結果ガソリン 1 L(約 0.75 kg)なら約 2.3 kg。環境省の値 2.32 kg とほぼ同じ

03

酸・塩基と中和: 草津の強い酸性の川を、石灰で中和する

化学基礎では、酸と塩基を、水素イオン H⁺ を与えるか受け取るかで定義し直します。酸の H⁺ と塩基の OH⁻ が同じ物質量になったところで、中和はちょうど終わります。濃さの分かった塩基を少しずつ加えて酸の濃さを求める中和滴定も、化学基礎の代表的な実験です。

群馬県の草津温泉の湯は、酸性がとても強い温泉です。国土交通省によると、湯畑の湯は pH 約 2.0、草津白根山の火口湖・湯釜は pH 1.2 です。温泉街を流れる湯川の強い酸性の水は、かつて下流の吾妻川を、魚がすめない「死の川」にしていました。

そこで 1964 年、世界で初めての酸性河川の中和事業が始まりました。草津中和工場では、石灰石を細かく砕いた粉(主な成分は炭酸カルシウム)を水に混ぜ、湯川に流し込みます。使う量は 1 日約 55 t、1 年で約 2 万 t です。量は、毎日の pH の測定で決めています。

中和はゆっくり進み、約 3 km 下の品木ダムに入るころには、pH 5.5 程度になります。ダムの底には、中和でできた硫酸カルシウムなどが沈みます。いまの吾妻川には魚がすみ、下流の人たちが川の水を使えるようになりました。

酸と塩基は、H⁺ と OH⁻ の物質量が等しくなるところで、ちょうど中和します。

図解湯川の水が中和されるまで

  1. 1強い酸性の水湯畑の湯は pH 約 2.0
  2. 2石灰石の粉を投入1 日約 55 t の炭酸カルシウム
  3. 3流れながら中和約 3 km で pH 5.5 程度に
  4. 4ダムの底に沈む硫酸カルシウムなどの中和生成物
  5. 5吾妻川へ魚がすめる川に
緑の山に囲まれた、白っぽく濁った水色の湖。手前の水面から枯れ枝が突き出している
群馬県の品木ダムの湖(上州湯の湖)。石灰石の粉で中和された湯川の水が流れ込みます。底にたまる中和生成物や土砂は、定期的に取り除かれています。写真: Qurren(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

酸化と還元: 鉄を作るのは、さびを元に戻す反応

化学基礎では、酸化と還元を、酸素のやり取りから電子のやり取りへと広げて学びます。電子を失うのが酸化、受け取るのが還元で、2 つは必ず同時に起こります。どちらが起きたかは、原子の酸化数が増えたか減ったかで判断します。

鉄がさびるのは、鉄が酸素に電子を渡して酸化鉄になる酸化です。製鉄はその逆で、鉄鉱石の酸化鉄から酸素を取り去る還元です。製鉄所の高炉では、石炭から作ったコークス(炭素)で酸化鉄を還元するので、二酸化炭素が出ます。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、鉄鋼業は、日本の産業部門が出す二酸化炭素の約 40% を出しています。そこで、炭素の代わりに水素で鉄鉱石を還元する研究が進んでいます。水素で還元すれば、出てくるのは二酸化炭素ではなく水です。NEDO のプロジェクトは、2030 年までに製鉄の二酸化炭素を 50% 以上減らせる技術を目指しています。

酸化剤と還元剤は、暮らしの中にもあります。塩素系の漂白剤は、強い酸化剤として色素を分解します。酸性タイプの洗剤と混ざると有毒な塩素が出るので、「まぜるな危険」の表示がある製品は、決して混ぜないでください。化学基礎では、金属のイオンへのなりやすさ(イオン化傾向)とダニエル電池にも触れます。

電子を失うのが酸化、受け取るのが還元で、2 つは必ず同時に起こります。

図解酸化と還元の見分け方

酸化

  • 酸素を受け取る
  • 水素や電子を失う
  • 酸化数が増える
  • 例: 鉄がさびる

還元

  • 酸素を失う
  • 水素や電子を受け取る
  • 酸化数が減る
  • 例: 高炉で鉄を取り出す
街の大通りの先に、太い配管や足場に囲まれた背の高い製鉄所の高炉がそびえている
製鉄所の高炉(JFE スチール、2009 年撮影)。炉の上から鉄鉱石とコークスを入れ、下から熱い空気を吹き込んで、酸化鉄を還元して鉄を取り出します。写真: Kabacchi(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

05

大学では: 量の計算は、化学のあらゆる仕事の基本

物質量と化学反応式の計算は、大学の化学・薬学・農学・工学のどの分野でも、毎日のように使います。新しい物質を作る研究では、原料を何 g 量るかを反応式から決め、できた量から収率を計算します。分析化学の実験では、中和滴定や酸化還元滴定を、高校よりずっと精密に行います。

仕事でも、この計算は欠かせません。工場で原料の量を決める化学工学の技術者や、水道や川の水質を測る検査の担当者が使っています。温室効果ガスの排出量を計算し、減らす方法を考える環境の専門家も同じです。草津の中和工場も、毎日の測定から石灰石の粉の量を決めています。

つまずきやすいのは、mol の計算と化学反応式の係数、酸化数の 3 つです。mol の計算は、「質量 ÷ モル質量」か「粒の数 ÷ 6.02×10²³」に必ず戻ると考えると迷いません。係数は、いちばん複雑な物質の係数を 1 と置き、両辺の原子の数をそろえていきます。酸化数は、化合物全体の合計が 0 になることを使って求めます。

クイズ物質の変化と量クイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1水 18 g(1 mol)の分子を、1 秒に 1 個ずつ数えると、どれくらいかかる?

  2. Q2ガソリン 1 L を燃やすと、出る二酸化炭素はおよそ何 kg?

  3. Q3草津の湯川を中和するために、毎日流し込んでいるものは?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 重曹とクエン酸で、出ていく気体の重さを量る

    水を入れたコップと、重曹(炭酸水素ナトリウム)8.4 g、クエン酸 7 g ほどを、キッチンスケールにのせて重さを記録しましょう。混ぜて泡が出終わったら、減った重さを読みます。反応式から計算すると、重曹 8.4 g(0.1 mol)から出る二酸化炭素は最大 4.4 g です。実際の値との差の理由も考えてください。

  • スポーツドリンクのナトリウムを mol に直す

    スポーツドリンクの栄養成分表示で、100 mL あたりのナトリウムの量(mg)を確かめましょう。ナトリウムのモル質量 23 g/mol を使って、1 L あたり何 mol になるかを計算します。ほかの飲み物の表示とも比べてみてください。

  • 湯川の中和を、数字で追いかける

    国土交通省の品木ダム水質管理所のサイトで、中和のしくみを読みましょう。1 日に使う石灰石の粉 約 55 t が、炭酸カルシウム(式量 100)として何 mol になるかを計算します。中和の計算が、川の規模でも使われていることが実感できます。

    国土交通省 品木ダム水質管理所「河川の中和」

「物質の変化と量」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 111 件から探せます。

研究室をすべて見る(96 件)

よくある質問

mol の計算が苦手です。何から始めればよいですか?

まず「質量 ÷ モル質量 = 物質量」という 1 つの式に慣れることから始めます。水 18 g なら 1 mol、二酸化炭素 22 g なら 0.5 mol のように、身近な物質で何度も計算すると、数の感覚がつかめます。気体の体積や粒の数も、いったん mol に直してから考えると迷いません。

酸化数は、どう求めればよいですか?

単体の原子は 0、化合物の中の水素は +1、酸素は −2 を基本にし、化合物全体の合計が 0 になるように残りを決めます。イオンなら、合計がイオンの電荷になります。反応の前後で酸化数が増えた原子は酸化され、減った原子は還元されています。

「まぜるな危険」の洗剤は、なぜ混ぜてはいけないのですか?

塩素系の漂白剤やカビ取り剤に、酸性タイプの洗剤が混ざると、有毒な塩素の気体が発生するからです。化学基礎で学ぶ酸化還元反応の 1 つです。製品の表示を確かめ、同じ場所で続けて使うときは、十分に水で流してから使ってください。