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図 1 化学の広がり化学の広がり 1

物質のつくり

混ざった物から 1 つの物質を取り出し、原子・イオン・分子の目で、そのつくりを調べる分野です。空気の重さのわずかなずれから見つかった元素や、1 万分の 1 mm まで延びる金箔、溶けずに消えるドライアイスも、同じ考え方で説明できます。

化学室で液体を蒸留する装置を組む高校生、紫色に光るガラス管を見つめる高校生、薄い金箔をそっと持ち上げる高校生、白い煙を出すドライアイスを観察する高校生たち

ひとことで言うと

住所を見れば、どんな町か見当がつく

都道府県と市町村が分かれば、行ったことのない町でも、気候や言葉の見当がつきます。周期表も同じで、元素の「住所」である族と周期から、その元素がどんな相手と、どう結びつくかの見当がつきます。物質のつくりの単元は、この住所の読み方を身につけるところです。

01

分離・精製: 混ざった物から、1 つの物質を取り出す

化学基礎は、混ざった物(混合物)から、1 種類の物質(純物質)を取り出す実験から始まります。学習指導要領は、ろ過・蒸留・抽出・再結晶・クロマトグラフィーの 5 つを扱うと定めています。解説には、醤油やみそ、梅干しから食塩を取り出し、量を比べる実験が例に挙がっています。

台所にも、同じ操作があふれています。コーヒーをいれるのは、お湯に成分を溶かし出す抽出と、粉をこし取るろ過の組み合わせです。だしを取るのも抽出です。どの操作も、物質ごとの沸点や溶けやすさの違いを利用しています。

工場の規模になると、蒸留は社会を支える技術になります。原油を加熱して蒸留塔に送ると、沸点の低い順に、LP ガス、ガソリン、灯油、軽油、重油などに分かれます。経済産業省の教材では、沸点の目安は LP ガスが 30℃ 以下、灯油が 150〜250℃、重油が 350℃ 以上です。

空気も蒸留で分けられます。空気を冷やして液体にし、少しずつ温めると、沸点が −196℃ の窒素、−186℃ のアルゴン、−183℃ の酸素が順に気体に戻ります。英国王立化学会によると、アルゴンは今もこの方法で空気から取り出されています。

沸点や溶けやすさの違いを使うと、混ざった物から 1 つの物質を取り出せます。

図解混ざった物を分ける 5 つの操作

混合物を分ける
  • ろ過粒の大きさの差。コーヒーの粉をこす
  • 蒸留沸点の差。原油や液体にした空気
  • 抽出溶けやすさの差。だしやお茶
  • 再結晶溶ける量の差。純粋な結晶を取り出す
  • クロマトグラフィーしみ込む速さの差。色素を分ける
灰色の背景の上に、透明な立方体の形をした塩の結晶が 4 つ置かれている
天然の岩塩(塩化ナトリウム)の結晶。1 つは 1〜2 cm ほどです。食塩水からゆっくり水を蒸発させて再結晶させると、同じように四角い結晶ができます。写真: James St. John(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

02

原子と周期表: 空気の重さのずれから見つかった元素

化学基礎の「物質の構成」では、原子が陽子・中性子・電子からできていることと、元素を原子番号の順に並べた周期表を学びます。周期表の縦の列(族)には、性質のよく似た元素が並びます。一番外側の電子の数が同じだからです。

いまの周期表の右端の列(18 族)は、19 世紀の終わりに加わりました。イギリスのレイリーは、空気から取った窒素と、アンモニアから作った窒素の密度を量り比べました。すると、空気から取った方が 200 分の 1 だけ重いことに気づきます。測定の誤差では説明できない差でした。

レイリーとラムゼーは、空気から窒素と酸素を取り除き、残った気体を調べました。それは空気の体積の約 1% を占め、どんな物質とも反応させられない新しい元素でした。1894 年に発見され、ギリシャ語の「怠け者」にちなんでアルゴンと名づけられました。1904 年、レイリーはノーベル物理学賞、ラムゼーは化学賞を受けています。

ラムゼーたちはその後、ネオンやクリプトン、キセノンも空気から見つけ、周期表に新しい列を加えました。反応しにくいのは、一番外側の電子の殻が満たされて安定だからです。レイリーはノーベル賞の講演で、大きな講堂の空気には、人が運べないほどの重さのアルゴンが含まれていると話しています。

周期表の同じ族の元素は、一番外側の電子の数が同じで、性質が似ています。

図解空気から取った窒素は、なぜ重かった?

入力空気から取った窒素と、アンモニアから作った窒素の密度を比べる
  1. 1空気から取った方が、200 分の 1 重い
  2. 2空気の窒素に、重い気体が混ざっていると考える
  3. 3窒素と酸素を、反応させて取り除く
  4. 4残った気体は空気の約 1%。どんな物質とも反応しない
結果新しい元素アルゴンの発見(1894 年)。周期表に 18 族の列が加わるきっかけになった
黒い背景の中で、細長いガラスの容器に入った気体が紫色に光っている
電気を流して光らせた、純度の高いアルゴン(容器の長さは約 5 cm)。反応しにくい性質を生かし、溶接や白熱電球の中で、金属が酸素と反応するのを防ぐのに使われます。写真: Jurii(CC BY 3.0・Wikimedia Commons)

03

化学結合: 食塩水は電気を通し、金は 1 万分の 1 mm まで延びる

原子どうしの結びつき方(化学結合)は、大きく 3 つに分かれます。1 つ目は、陽イオンと陰イオンが引き合うイオン結合です。2 つ目は、原子どうしが電子を出し合う共有結合、3 つ目は、金属の原子が自由に動く電子(自由電子)を共有する金属結合です。結合の種類が分かると、物質の性質に見当がつきます。

イオン結合でできた食塩の結晶は、硬い一方で、強くたたくと割れてしまいます。力が加わってイオンの並びがずれると、同じ符号のイオンどうしが向かい合って反発するからです。また、固体のままでは電気を通しませんが、水に溶かしたり高温で融かしたりすると、イオンが動けるようになって電気を通します。

食塩とは反対に、金属はたたくと延びて広がります。原子の並びがずれても、自由電子が結びつきを保つからです。観光庁の解説によると、日本の金箔の 99% 以上は金沢で作られています。金に銀や銅を混ぜた合金を紙にはさんで打ち延ばし、ちょうど 1 万分の 1 mm の厚さにします。金の原子が数百個並んだほどの薄さです。

共有結合は、水や砂糖、プラスチックなどの分子を作ります。化学基礎では、分子の中で電子がどちらの原子に引き寄せられているか(極性)にも触れます。水と油が混ざらないのは、水の分子には極性があり、油の分子にはほとんどないからです。この考え方は、洗剤やドライクリーニングのしくみにもつながります。

結合の種類が分かると、電気の通しやすさや延びやすさの見当がつきます。

図解3 つの化学結合を比べる

イオン結合

  • 陽イオンと陰イオンが引き合う
  • 例: 食塩、塩化カルシウム
  • 水溶液は電気を通す

共有結合

  • 電子を出し合って共有する
  • 例: 水、砂糖、プラスチック
  • 分子の物質は電気を通しにくい

金属結合

  • 自由電子を全体で共有する
  • 例: 金、銅、アルミニウム
  • 電気を通し、よく延びる
白い板の上で、細いはさみを使って、しわの寄った薄い金箔を扱っている。奥の箱にも金箔が入っている
石川県金沢市の工房で扱われる金箔。1 万分の 1 mm の薄さまで延ばしても破れずにつながっているのは、金属結合の自由電子のおかげです。写真: Eckhard Pecher(CC BY 2.5・Wikimedia Commons)

04

熱運動と三態: ドライアイスは、なぜ液体にならない?

化学基礎では、物質の固体・液体・気体(三態)を、粒子の熱運動で説明します。温度が高いほど粒子は激しく動き、粒子どうしが引き合う力を振り切ると、固体は液体に、液体は気体になります。形が変わるだけで別の物質にはならない、物理変化の代表です。

ドライアイスは、二酸化炭素の固体です。ふつうの気圧では液体にならず、−78.5℃ で固体から直接気体になります。これを昇華といいます。気体になると体積が何百倍にも増えるので、ペットボトルなどに入れてふたをすると、破裂するおそれがあります。

水も、気圧を十分に下げると、凍ったまま気体になります。インスタントのみそ汁やスープに使われるフリーズドライ(真空凍結乾燥)は、この性質を生かした技術です。食品を凍らせてから容器の空気を抜くと、氷が液体を経ずに水蒸気になって抜け、元の形を保ったまま乾燥できます。

日本化学会の提案を受けて、最近の教科書では、固体から気体になる変化を昇華、気体から固体になる変化を凝華と呼んで区別しています。冬の朝、冷えた窓ガラスに霜が付くのは、空気中の水蒸気が凝華したものです。

温度や気圧が変わると、同じ物質が固体・液体・気体の間を行き来します。

図解ドライアイス 44 g が気体になると

入力ドライアイス(二酸化炭素 CO₂ の固体)44 g。密度を 1.5 g/cm³ とすると、体積は約 30 cm³
  1. 1CO₂ の分子量は 12 + 16 × 2 = 44
  2. 244 g は 1 mol
  3. 3気体 1 mol の体積は、0℃・1 気圧で 22.4 L
  4. 422.4 L ÷ 30 cm³ ≒ 750
結果約 22 L の気体に。体積は 700 倍以上になる。だから密閉は危険

05

大学では: 物質のつくりは、すべての化学の出発点

多くの大学の化学系の学科では、1 年生で、高校の物質の構成を、量子化学や無機化学の入口として学び直します。電子が原子の中でどんな形の雲のように広がるかを学ぶと、周期表の並びや結合の向きが、理由から分かるようになります。科目の名前や時期は、大学によって異なります。

分離・精製の技術は、化学工学や薬学、分析化学の土台です。新しい薬や材料を作る研究では、反応のあとに目的の物質だけを取り出す作業に、多くの時間を使います。アルゴンの発見のように、わずかなずれを見逃さない測定から、大きな発見が生まれることもあります。

仕事でも、この単元の知識が生きます。たとえば、空気から酸素や窒素、アルゴンを取り出して病院や工場に届けるガスの会社です。原油を製品に分ける製油所や、半導体の材料を高い純度に精製する化学メーカーでも欠かせません。物質を分けて、つくりを確かめる技術は、ものづくりのあらゆる場面で求められています。

つまずきやすいのは、原子・分子・イオンの区別と、化学式の読み方です。NaCl のようなイオンでできた物質は組成式、H₂O のような分子は分子式で表します。迷ったら、その物質が分子という粒でできているかを確かめてください。1〜20 番の元素は、族ごとに区切って覚えると、電子の配置と結びつけやすくなります。

クイズ物質のつくりクイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1食塩(塩化ナトリウム)が電気を通すのは、どんなとき?

  2. Q2レイリーの測定で、空気から取った窒素は、アンモニアから作った窒素と比べてどうだった?

  3. Q3ドライアイスをペットボトルに入れてふたをすると危険なのは、なぜ?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 食塩の結晶を育てて、形を観察する

    お湯に食塩を溶けるだけ溶かし、上ずみを浅い皿に移して、日の当たる窓辺に数日置きましょう。水が蒸発すると、皿の縁に小さな結晶ができます。虫めがねで見て、四角い形をしているか確かめてください。砂糖でも試し、結晶の形を比べてみましょう。

  • ドライアイスの昇華を観察する

    ケーキなどに付いてきたドライアイスを、軍手やトングで扱い、ふたのない皿にのせましょう。液体にならずに小さくなっていく様子を、時間を決めて写真に撮ります。素手でさわらない、密閉した容器に入れない、窓を開けて換気する、の 3 つを必ず守ってください。

  • 「一家に 1 枚 周期表」を手に入れる

    文部科学省は、科学技術週間に合わせて、学習資料「一家に 1 枚」を発行しています。第 1 弾の周期表は PDF で無料で手に入ります。部屋に貼って、18 族の元素がどこで使われているかを探してみましょう。

    文部科学省「一家に 1 枚」

「物質のつくり」に関連するコミュニティ

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よくある質問

周期表は、どこまで覚えればよいですか?

学習指導要領の解説は、原子の電子配置を、原子番号 20 番までの代表的な典型元素で扱うとしています。まずは 1〜20 番の元素記号と、族ごとの性質の傾向を押さえれば十分です。ほかの元素は、無機物質の単元などで使ううちに身につきます。

物理変化と化学変化は、どう見分けますか?

変化のあとに、別の物質ができたかどうかで見分けます。氷が融けて水になる、ドライアイスが昇華するのは、物質そのものは変わらない物理変化です。鉄がさびる、紙が燃えるのは、別の物質ができる化学変化です。

アルゴンは、身のまわりのどこで使われていますか?

英国王立化学会によると、溶接のときに金属が空気中の酸素と反応しないよう周りを包んだり、白熱電球の中に詰めてフィラメントを守ったりするのに使われています。ほかの物質と反応しにくい性質を生かした使い方です。