図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 2
食品・化粧品・日用品をつくる
おいしさや日持ち、肌や手へのやさしさを、成分の組み合わせで工夫して、毎日使う商品を開発する仕事です。高校の化学で学ぶ物質量、酸と塩基、塩の性質が、食品の表示や保存の決まり、洗剤の表示にそのまま使われています。

ひとことで言うと
成分表は、商品の設計図
家を建てるときは、柱や壁の材料と量を設計図に書きます。食品や洗剤の開発でも、何をどれだけ入れるかを成分表に書き、試作して確かめます。その設計図を読み書きする力が、化学の物質量や酸と塩基の知識です。

01
どんな仕事?: 成分の組み合わせで、味・日持ち・使い心地を決める
食品メーカーの開発職は、新しい商品の味や食感を考え、試作をくり返して、工場でつくれる形にします。化粧品や洗剤の研究職は、汚れの落ち方や肌へのやさしさ、使い心地を、成分の組み合わせで工夫します。
どちらの仕事でも、おいしい試作品ができたら終わりではありません。何か月も品質が保たれるか、表示の決まりに合っているかも確かめます。おいしさや使い心地を、成分の量と性質の言葉で説明することが、開発の中心です。
このとき使うのが、高校の化学です。表示のナトリウムを食塩に直すのは物質量の計算、日持ちを左右する pH は酸と塩基の単元で学びます。石けんが弱アルカリ性になる理由は、化学基礎の「塩の水溶液の性質」で説明できます。
成分の量と性質を言葉にすることが、商品開発の中心です。
図解食品・日用品の開発と高校の化学
- 物質量ナトリウムを食塩相当量に直す(化学基礎)
- 酸と塩基食品の pH と日持ち(化学基礎)
- 塩の性質石けんが弱アルカリ性になる理由(化学基礎)
- 酸化と還元油や色が変わるのを防ぐ(化学基礎)
- 反応速度温度を変えて品質の変わり方を調べる(化学)
- 有機化合物・高分子油脂・香り・とろみの成分(化学)

02
物質量が生きる場面: 「食塩相当量」は、ナトリウムの 2.54 倍
食品のパッケージの栄養成分表示には、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の 5 つが、この順で書かれています。食品に含まれるナトリウムの量は、食塩に換算して表示する決まりです。式は「食塩相当量(g)= ナトリウム(mg)× 2.54 ÷ 1,000」です。
2.54 という数は、化学基礎の物質量で説明できます。食塩 NaCl の式量は 58.5、ナトリウム Na の原子量は 23.0 です。ナトリウム 1 mol(23.0 g)が全部食塩になっていたとすると、食塩は 1 mol で 58.5 g です。58.5 ÷ 23.0 を計算すると、約 2.54になります。
開発の担当者は、原料ごとのナトリウムの量を足し合わせて、表示の値を計算します。減塩の商品をつくるときは、味を保ちながらナトリウムをどこまで減らせるかを、試作で確かめます。
農林水産省の資料によると、令和 5 年の国民健康・栄養調査では、1 日の食塩の摂取量の平均は 9.8 g でした。国が示す目標量は、成人の男性で 7.5 g 未満、女性で 6.5 g 未満です。表示を読めれば、自分が 1 日にどれだけとっているかを計算できます。
表示の 2.54 は、食塩とナトリウムの mol の関係から生まれた数です。
図解ナトリウム 400 mg を食塩相当量に直す(計算)
- 1Na 400 mg は 400 ÷ 23.0 ≒ 17.4 mmol
- 2NaCl も 17.4 mmol とみなすと、17.4 × 58.5 ≒ 1,020 mg
- 3表示の式でも 400 × 2.54 ÷ 1,000 ≒ 1.02 g

03
酸と塩基が生きる場面: pH 4.6 が、日持ちの分かれ目
レトルトカレーや缶詰は、冷蔵しなくても長く保存できます。ただ、空気を断って密封した食品の中では、ボツリヌス菌という危険な菌が増えるおそれがあります。この菌は 100℃ほどの加熱では死にきらず、酸素のない、酸性の弱い食品の中で増えて毒素をつくります。
そこで国は、pH が 4.6 を超え、水分活性が 0.94 を超える密封食品に条件を付けています。水分活性は、微生物が使える水の多さの目安です。常温で売るなら、120℃で 4 分間加熱するのと同じ以上の殺菌が必要です。その殺菌をしない場合は、10℃以下で冷蔵して売ります。pH 4.6 という線を引けるのは、酸性が強い食品ほど、この菌が増えにくいからです。
日用品にも、pH の決まりがあります。家庭用品品質表示法にもとづく決まりでは、洗剤の容器に「液性」を書きます。pH 6.0 以上 8.0 以下が中性、8.0 を超え 11.0 以下が弱アルカリ性です。そして、石けんの液性は「アルカリ性」か「弱アルカリ性」の 2 つしかありません。
石けんは、油脂を水酸化ナトリウムなどで加水分解してできる、脂肪酸のナトリウム塩などです。弱い酸と強い塩基からできた塩なので、水に溶かすと塩基性を示します。化学基礎で学ぶ塩の水溶液の性質が、そのまま表示の言葉になっているのです。
pH の数字が、食品の安全と日用品の表示の両方を決めています。

04
食品メーカーの開発職の 1 日(例)
ここでは、食品メーカーで、温めて食べるスープやソースを開発する担当者の 1 日の例を紹介します。仕事の進め方は、会社や商品によって違います。
午前は試作です。原料を量って加熱し、塩分計や糖度計、pH 計で値を測ります。同じような味でも、pH が少し違うだけで、必要な殺菌の条件や日持ちが変わることがあります。
午後は、チームで試作品を食べ比べて評価します。そのあと、日数をおいた試作品の変化を確かめ、原料の量から栄養成分表示の値を計算します。工場で大量につくっても同じ味になるかを、工場の担当者と相談することもあります。
測って、食べて、計算する。そのくり返しで商品が形になります。
図解食品メーカーの開発職の 1 日(例)
- 8:45朝会試作と試験の予定を確かめる
- 9:15試作原料を量り、加熱して混ぜる
- 10:30測定塩分・糖度・pH を測って記録する
- 12:00昼休み
- 13:00食べ比べチームで味と香りを評価する
- 14:30保存の試験日数をおいた試作品の変化を見る
- 16:00表示の計算原料から栄養成分の値を出す


05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、化学基礎の物質量と、酸と塩基の単元をしっかり学んでください。化学で学ぶ油脂や石けん、エステルの香り、高分子の単元も、食品や化粧品の成分を理解する土台になります。生物の消化や代謝の知識も、食品の仕事で役に立ちます。
大学は、農学部の農芸化学科や食品の学科、理学部の化学科、工学部の応用化学科、薬学部などが入り口です。開発や研究の仕事には、大学院の修士課程まで学んでから就く人も多くいます。
資格では、ハムやソーセージ、マーガリン、食品添加物など、特に衛生に気を配る食品をつくる工場に置く「食品衛生管理者」があります。食品衛生法は、大学で医学・歯学・薬学・獣医学・畜産学・水産学・農芸化学の課程を修めて卒業した人などを、その資格がある人としています。選ぶ学科によって、得られる資格が変わることも覚えておいてください。
食べることや毎日使う物が好きで、小さな違いに気づける人に向いています。経験を積むと、商品の企画や品質保証、工場の生産技術などへ広がる道があります。
学科の選び方で、とれる資格も変わります。
図解食品・日用品の開発者への道(例)
- 1高校で学ぶ物質量・酸と塩基・油脂と石けん
- 2大学で学ぶ農芸化学・化学・応用化学など
- 3大学院修士課程で研究する人が多い
- 4開発の担当試作と測定・表示の計算
- 5その先企画・品質保証・生産技術へ
高校生のうちに試せること
栄養成分表示で、1 日の食塩を計算する
家にある食品を 5 つ選び、栄養成分表示の食塩相当量を確かめましょう。ナトリウムの量だけが書かれた食品があれば、2.54 を掛けて食塩に直してください。1 日に食べる分を合計して、成人の目標量(男性 7.5 g 未満、女性 6.5 g 未満)と比べてみましょう。
食品成分データベースで 2.54 を確かめる
文部科学省の食品成分データベースでは、日本食品標準成分表の値を無料で調べられます。みそ・食パン・ポテトチップスなどを検索し、ナトリウム(mg)と食塩相当量(g)を書き出しましょう。食塩相当量 × 1,000 ÷ ナトリウムを計算すると、どの食品も約 2.54 になるはずです。
食品成分データベース(文部科学省)pH 試験紙で、台所の食品を比べる
理科の先生に相談するか、薬局などで pH 試験紙を手に入れましょう。酢・ケチャップ・牛乳・しょうゆを少しずつ皿にとって測り、pH 4.6 より低いものと高いものに分けてみてください。保存のしかたとの関係を考えてみましょう。測った食品は口にしないでください。
「食品・化粧品・日用品をつくる」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 64 件から探せます。
食品機能学(東洋食品研究所)寄付講座
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科応用生命化学専攻
食品生物化学
岡山大学(岡山県)
農学部 農芸化学コース・食品科学・中村宜督 教授
ソフト界面化学(瀧上研究室)
九州大学(福岡県)
化学(協力講座)・瀧上 隆智 教授
空気と水などの界面や脂質二分子膜など柔らかな界面を研究する。
食品機能化学
名古屋大学(愛知県)
応用生命科学・柴田 貴広 教授
酸化ストレスや機能性食品など、食と健康に関わる基礎研究を行う。
食品機能化学研究室
北海道大学(北海道)
生物機能化学・比良 徹 教授

栄養化学研究室
東京大学(東京都)
農学生命科学研究科応用生命化学専攻・食品科学
よくある質問
食品の開発には、化学と生物のどちらが大切ですか?
どちらも使います。味や日持ち、表示の計算には化学の物質量や酸と塩基が、発酵や消化、栄養の働きには生物の知識が生きます。高校のうちは、両方の基礎を大切にしてください。大学の学科によって、どちらに重点を置くかが違います。
化粧品や洗剤をつくる仕事には、どの学部から進めますか?
理学部の化学科、工学部の応用化学科、薬学部、農学部などから進む人がいます。界面活性剤や油脂、香りの成分など、化学で学ぶ有機化合物と高分子の知識がよく使われます。学べる内容は大学や学科によって異なるので、授業の一覧(シラバス)で確かめてください。
食品の開発の仕事に、資格は必要ですか?
開発の仕事そのものに、必ず要る資格はありません。ただ、ハムやソーセージ、食品添加物など一部の食品をつくる工場には、食品衛生管理者を置く決まりがあります。大学で農芸化学などの決められた課程を修めて卒業すると、食品衛生管理者になれる資格が得られます。
