大学カタログ

図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3

電池・半導体・新素材をつくる

スマートフォンや電気自動車に欠かせない電池や半導体、軽くて丈夫な材料を開発し、工場で量産する仕事です。高校の化学で学ぶ酸化還元と電池、物質量、無機物質の性質が、電池の容量の計算や半導体の工場の作業にそのまま使われています。

電池の試作室で円筒形の電池を並べて性能を測る学生と若い技術者、ガラス越しに見える銀色のケイ素の棒と、防護服で装置を動かす技術者

ひとことで言うと

電池は、電子の貯金箱

貯金箱は、お金を入れておき、必要なときに取り出せます。電池は、酸化還元反応で電子をやりとりできる物質を中にため、使うときに電子を導線へ送り出します。どれだけためられるかは、中の物質の物質量で決まります。

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どんな仕事?: 材料の性質で、製品の性能が決まる

スマートフォンが 1 日もつか、電気自動車が何 km 走れるかは、電池の中の材料で大きく変わります。素材や電機のメーカーの技術者は、電極や電解質の材料を選び、組み合わせを変えて、電池の性能を上げていきます。

半導体のチップも、材料の化学から始まります。砂や岩に多い二酸化ケイ素から純粋なケイ素を取り出し、何度も精製して結晶にします。工場では、薬品やガスで表面を洗い、削り、薄い膜をつくる工程がくり返されます。

化学工場のエンジニアは、こうした材料を、毎日同じ品質で大量につくる仕事です。温度や圧力、原料の量を調整し、できた材料の成分を測って確かめます。どの工程にも、高校の化学で学ぶ反応と量の考え方が使われています。

材料を選んでから量産するまで、どの段階にも化学が使われています。

図解電池・半導体の仕事と高校の化学

電池・半導体・新素材
  • 酸化還元と電池電極で電子をやりとりするしくみ(化学)
  • 物質量容量から反応する物質の量を出す(化学基礎)
  • 周期表リチウムやニッケルなど元素の性質(化学基礎)
  • 共有結合の結晶半導体の土台になるケイ素(化学基礎)
  • 無機物質ガラスを溶かすフッ化水素酸(化学)
  • 高分子軽くて丈夫な樹脂や電池の部品(化学)

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酸化還元と電池が生きる場面: 充電池の中に、水素がしまわれている

乾電池と同じ形で、くり返し充電できるニッケル水素電池があります。電池工業会によると、日本では 1990 年に生産が始まり、いまも乾電池の形の充電池やハイブリッド自動車に使われています。負極には、水素を金属の中にため込む「水素吸蔵合金」が使われています。

放電のとき、電池の中では NiOOH + MH → Ni(OH)₂ + M という反応が進みます。M は水素吸蔵合金、MH は水素をため込んだ合金です。合金から水素が 1 個離れるたびに、電子が 1 個、導線へ流れ出します。充電すると反応は逆に進み、水素が合金の中に戻ります。

電池の容量 mAh(ミリアンペア時)は、流せる電気の量の目安です。これを化学で学ぶファラデー定数で割ると、反応する物質の物質量が分かります。下の計算のように、容量 2,000 mAh の電池なら、0℃・1 気圧の水素の気体にして約 0.84 L 分が、合金に出入りしていることになります。

電池の技術者は、こうした計算で、材料をどれだけ詰めればよいかを見積もります。国は 2026 年 6 月に、電池の産業の戦略を改めました。電解質に液体ではなく固体を使う「全固体電池」を、2030 年ごろに本格的に実用化する目標を掲げています。

電池の容量は、ファラデー定数で物質量に直せます。

図解容量 2,000 mAh のニッケル水素電池の水素(計算)

入力単三形のニッケル水素電池(容量 2,000 mAh と仮定する)
  1. 1電気量 = 2.0 A × 3,600 秒 = 7,200 C
  2. 2電子の物質量 = 7,200 ÷ 96,500 ≒ 0.0746 mol
  3. 3水素原子も 0.0746 mol。H₂ にすると約 0.0373 mol
  4. 40.0373 × 22.4 L/mol ≒ 0.84 L(0℃・1 気圧)
結果1 L の牛乳パック 1 本近くの水素が、金属の中に出入りする
装置の中に、銀色の円筒形の容器が 3 本並んで固定されている
水素吸蔵合金を詰めて水素をためる容器。電池の負極と同じように、金属の中に水素をため込み、必要なときに取り出します。写真: Anjujo(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

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無機物質が生きる場面: ガラスを溶かす酸で、ケイ素を磨く

半導体の材料のケイ素(シリコン)は、二酸化ケイ素として石英や砂に多く含まれています。高校の化学で学ぶように、ケイ素の単体は、二酸化ケイ素を炭素で還元してつくります。酸化還元の反応が、半導体づくりの出発点です。

こうしてできたケイ素は、まだ半導体には使えません。塩化水素と反応させて液体の化合物に変え、蒸留をくり返して不純物を取り除いてから、再びケイ素に戻します。写真のような、不純物をほとんど含まないケイ素の棒ができると、溶かして大きな単結晶に育て、薄く切って円い板にします。

ケイ素の板の表面には、酸素とふれて二酸化ケイ素の薄い膜ができます。この膜を取り除くのに使われるのが、フッ化水素酸です。化学では、フッ化水素酸はガラスを溶かすので、ポリエチレンの容器にしまうと学びます。ガラスの主な成分も二酸化ケイ素だからです。厚生労働省の安全データシートにも、フッ化水素の用途として半導体のエッチングが挙がっています。

フッ化水素は、皮膚や目に重い傷を負わせる、とても危険な物質です。工場では、専用の装置と防護具で扱います。教科書の 1 行の反応が、工場では安全の決まりとセットで動いています。

ケイ素のつくり方も表面の洗い方も、高校の無機物質の知識で説明できます。

クイズ電池と半導体のクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q1ガラスを溶かしてしまうため、ポリエチレンの容器にしまう酸は?

  2. Q2ニッケル水素電池の負極で、水素をため込んでいる材料は?

  3. Q3国が、2030 年ごろの本格的な実用化を目標にしている電池は?

0 / 3 問に回答
表面がでこぼこした、灰色に光る太い円柱の形のかたまり
純度をとても高めた、多結晶のケイ素の棒。これを溶かして単結晶に育て、薄く切って半導体の板にします。写真: Warut Roonguthai(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

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電池材料の工場のエンジニアの 1 日(例)

ここでは、化学メーカーの工場で、電池の正極の材料をつくる工程を受け持つエンジニアの 1 日の例を紹介します。仕事の内容や勤務の形は、会社や工場によって違います。

朝は、夜のあいだの運転の記録を確かめます。反応の温度や、原料を入れた量が決まりどおりだったかを見て、気になる点があれば現場へ行きます。午前は、できた材料の成分や粒の大きさを測った結果を、品質の担当と一緒に確かめます。

午後は、実験室で少しの量を試作し、反応の温度や時間を少しずつ変えて、品質がよくなる条件を探します。うまくいった条件を工場の大きさで再現できるように、装置の担当者と計画を立てます。

工場の数字を読み、実験で確かめ、工程を少しずつよくしていきます。

図解電池材料の工場のエンジニアの 1 日(例)

  1. 8:00安全の確認朝礼で危険な作業と防護具を確かめる
  2. 8:30運転の記録夜の温度と原料の量を確かめる
  3. 10:00品質の確認成分と粒の大きさの結果を見る
  4. 12:00昼休み
  5. 13:00小さな試作温度や時間を変えて条件を探す
  6. 15:30改善の計画工場での試し方を装置の担当と相談
  7. 17:00報告結果と次の作業を記録する

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向いている人と入り方・その先

高校のうちは、化学の酸化還元と電池、電気分解の単元を大切にしてください。電池の容量を mol に直す計算には、ここで学ぶファラデー定数を使います。化学基礎の周期表と化学結合、化学の無機物質も、材料を選ぶときの土台です。物理の電気の単元も、電池や半導体を理解する助けになります。

大学は、工学部の応用化学科・化学工学科・材料工学科、理学部の化学科などが入り口です。研究や開発の仕事には、大学院の修士課程まで学んでから就く人が多くいます。高等専門学校(高専)の物質工学科などから、工場の技術者になる道もあります。

工場では、国家資格の危険物取扱者などをとって働く人も多くいます。危険物取扱者の乙種と丙種は受験資格が要らず、高校生でも受けられます。経験を積むと、新しい工場の立ち上げや、電池の設計、研究の企画などへ広がる道があります。

身の回りの物が何でできているかに興味があり、決まった手順を正確に守れる人に向いています。うまくいかない原因を、測った数字から一つずつ探す粘り強さも大切です。

電池の単元の計算を、身近な電池の表示で練習しておくと力になります。

図解電池・材料の技術者への道(例)

  1. 1高校で学ぶ酸化還元・電池・無機物質
  2. 2大学で学ぶ応用化学・化学工学・材料工学
  3. 3大学院修士課程で研究する人が多い
  4. 4工場・研究所材料の開発や工程を担当
  5. 5その先新しい工場や製品の立ち上げ

高校生のうちに試せること

  • 充電池の表示から、水素の量を計算する

    家にある乾電池の形の充電池の表示で、種類(Ni-MH など)と容量(mAh)を確かめましょう。このページの計算と同じ手順で、出入りする水素の物質量と体積を求めてみてください。電池は分解したり、ショートさせたりしないでください。

  • 炭とアルミホイルで電池をつくる

    備長炭に食塩水でぬらしたキッチンペーパーを巻き、その上にアルミホイルを巻くと、電池になります。電子オルゴールなどをつないで、音が鳴るか確かめましょう。しばらく使うと、アルミホイルが薄くなったり穴があいたりします。どこで酸化が起きたのかを考えてみてください。

  • 使い終わった充電池の出し方を調べる

    リチウムイオン電池などをほかのごみに混ぜて出すと、ごみ収集車や処理の施設で火が出る事故につながることがあります。電池工業会のページで、電池の種類ごとの捨て方と回収のしくみを確かめ、家にある使い終わった電池を決まりどおりに出してみましょう。

    家庭で使う電池の捨て方とリサイクル(電池工業会)

「電池・半導体・新素材をつくる」に関連するコミュニティ

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よくある質問

電池や半導体の仕事は、物理と化学のどちらが大切ですか?

どちらも使います。電池の材料を選んだり、半導体の材料をつくったりする仕事では、化学の酸化還元や無機物質の知識が中心です。回路や半導体の中の電気の流れ方を考えるときは、物理の電気の知識が生きます。大学の学科によって、どちらに重点を置くかが違います。

化学工場の仕事は、危なくないですか?

危険な物質を扱う工場では、法律にもとづく決まりと、会社ごとの安全の手順があります。防護具を着け、装置や手順で危険を減らしながら作業します。物質の性質を化学で正しく知っていることが、安全に働くための基本です。

高専と大学では、どんな違いがありますか?

高等専門学校(高専)は、中学校を卒業してから 5 年間、実験や実習を多く取り入れて技術を学ぶ学校です。卒業後に就職する人のほか、大学の 3 年に編入したり、高専の専攻科に進んだりする人もいます。学べる内容は学校や学科によって異なります。