図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4
国際協力・企業
国際機関や NGO で世界の人の暮らしと権利を支えたり、企業の法務・人事として海外の取引先や海外で働く社員のルールを扱ったりする仕事です。高校の政治・経済で学ぶ国際機関のしくみと、公共で学ぶ働くルールや社会保障が、仕事の土台になります。

ひとことで言うと
留学生と組むグループ発表の約束ごと
留学生と一緒にグループ発表をするとき、締め切りや役割分担の決め方は、育った国によって当たり前が違います。最初に全員でルールを確かめておくと、発表はうまく進みます。国際的な仕事も同じで、国ごとに違う法律と、世界に共通するルールの両方を確かめながら進めます。

01
どんな仕事?: 国際機関・NGO・企業の 3 つの場
国際的な仕事の場は、大きく 3 つあります。国連や ILO(国際労働機関)などの国際機関は、各国が集まってルールをつくり、支援を行います。NGO は、政府から独立した民間の団体として、途上国の教育や保健などの現場で活動します。企業では、法務や人事の部署が、海外の取引や海外で働く社員のルールを扱います。
3 つに共通するのは、国ごとに違う法律と、国をこえて共通のルールの両方を扱うことです。政治・経済で学ぶ「国際社会のしくみ」は、こうした仕事の地図になります。公共で学ぶ働くルールや社会保障も、海外の工場や海外で働く社員の話になると、そのまま国際的な仕事の中身になります。
国ごとの法律と、国をこえたルールの両方を扱うのが共通点です。
図解国際的な仕事の 3 つの場
国際機関
- 各国が集まってルールをつくる
- 途上国の制度づくりを支える
- 職員は世界各国から集まる
NGO
- 政府から独立した民間の団体
- 教育や保健の現場で活動する
- 寄付や助成金などで活動する
企業の法務・人事
- 海外の取引先との契約を確かめる
- 海外で働く社員の制度を整える
- 取引先の働く環境も確かめる

02
国際社会のしくみ: ILO は政府だけで決めない
政治・経済の教科書には、国際機関の 1 つとして ILO が出てきます。ILO は第一次世界大戦のあとの 1919 年 6 月にでき、1945 年にできた国際連合より古い機関です。本部はスイスのジュネーブにあります。日本は最初の加盟国 42 か国の 1 つで、1940 年に脱退し、1951 年に再び加盟しました。
ILO の大きな特徴は、政府・使用者(会社の側)・労働者(働く人の側)の三者で物事を決めることです。厚生労働省は、ILO を国際機関として唯一の三者構成の機関と説明しています。毎年ジュネーブで開く総会には、各国が政府の代表 2 人と、使用者と労働者の代表 1 人ずつを送ります。
三者の代表は、それぞれ独立して話し合いに加わり、投票します。働く人のルールを、働く人と会社と政府が同じ席でつくるしくみです。公共で学ぶ「対話による合意づくり」が、世界の大きさで行われている例です。
ILO では、政府と会社と働く人が同じ席でルールをつくります。


03
企業で生かす: 海外の取引先の「働く人の権利」を確かめる
国連の人権理事会は 2011 年、「ビジネスと人権に関する指導原則」を全会一致で支持しました。企業にも、人権を尊重する責任があるという考え方です。日本政府は 2022 年 9 月、これにもとづいて企業向けのガイドラインをまとめました。対象は、日本で事業活動を行うすべての企業です。
ガイドラインが求める取り組みの中心が、人権デュー・ディリジェンスです。自社やグループ会社、取引先で、強制労働や児童労働、長時間労働などの人権侵害がないかを調べて防ぎます。そのうえで、取り組みの効果を確かめ、内容を説明・公表します。
たとえば、海外の取引先の工場で長時間労働が分かったとします。ガイドラインは、取引をすぐにやめるのではなく、取引先に働きかけて改善を求めることを基本としています。取引の停止は、働く人の状況をかえって悪くするおそれがあるため、最後の手段とされています。
企業の法務や人事の担当者は、取引先の国の労働の法律や、ILO が示す基本的な権利を確かめながら、この取り組みを進めます。公共で学ぶ「人権」と、政治・経済で学ぶ「国際社会のルール」が、契約や調査の場面で使われています。
取引をやめる前に、取引先と一緒に改善する道を探します。
図解取引先の働く環境を確かめる(例)
- 1取引先にアンケートを送り、工場を訪ねて話を聞く
- 2その国の労働の法律と、国際的なルールに照らす
- 3自社の納期の決め方に原因がないかも確かめる
- 4改善の計画を取引先と話し合い、進み具合を確かめる

04
メーカーの人事部で海外を担当する社員の 1 日(例)
ここでは、海外に工場や支店を持つメーカーで、海外の人事を担当する社員の 1 日の例を紹介します。担当の範囲は、会社によって異なります。
大きな仕事の 1 つが、海外で働く社員の社会保障です。海外で働くと、その国の年金などの制度に入る必要があり、日本の制度と保険料を二重に払うことがあります。これを防ぐのが、国どうしで結ぶ社会保障協定です。日本は 2025 年 12 月の時点で、24 か国との協定を発効させています。
協定のある国へ 5 年以内の見込みで派遣される社員は、原則として日本の制度だけに入り、相手国の制度への加入が免除されます。人事の担当者は、行き先の国の協定を確かめて手続きを進めます。公共で学ぶ社会保障のしくみが、国をこえて動く場面です。
海外で働く人の暮らしと権利を、国をこえたルールで支えます。
図解海外の人事を担当する社員の 1 日(例)
- 9:00海外とウェブ会議アジアの工場と、現地の働き方を確かめる
- 10:30赴任の手続き来月赴任する社員の社会保障協定を確かめる
- 12:00昼休み
- 13:00取引先の調査海外の工場から届いたアンケートを読む
- 15:00法務と打ち合わせ取引先の国で変わった労働の法律を確かめる
- 17:00報告をまとめる人権の取り組みを公表する原稿を整える

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、政治・経済の国際社会の単元に出てくる国際機関の名前を、ニュースで探してみてください。英語の授業も大切です。国際機関の仕事は英語かフランス語で行うことが多く、企業の国際的な仕事でも英語の資料を読む場面がたくさんあります。
大学では、法学・経済学・国際関係などが近い学びです。国連事務局には、32 歳以下で学士号を持つ人などが受けられる若手の採用試験(YPP)があり、その年の参加国の国籍が必要です。外務省の JPO 派遣制度は、2025 年度の募集では、35 歳以下で修士号と 2 年以上の職歴を持つ人などが対象でした。
企業の法務・人事には、新卒で就職して経験を積む人が多く、働くルールの専門家として社会保険労務士の資格をとる人もいます。NGO には、学生のうちからボランティアやインターンとして関わる人もいます。企業で経験を積んでから国際機関や NGO に移るなど、行き来する道もあります。
国際機関の名前をニュースで探すことから、世界の仕事が見えてきます。
図解高校から国際的な仕事へ(例)
- 1高校で学ぶ国際機関の名前をニュースで探す・英語
- 2大学で学ぶ法学・経済学・国際関係など
- 3経験を積む企業・NGO・大学院で専門をつくる
- 4応募するYPP・JPO・国際機関や NGO の募集
- 5世界で働く国をこえて働く人の権利や暮らしを支える
高校生のうちに試せること
国のガイドラインのダイジェスト版を読む
経済産業省がつくった 8 ページのダイジェスト版には、企業が人権を尊重するための手順が図で示されています。取引先の工場で問題が見つかったとき、企業はどう動くのかを読んでみましょう。
責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン ダイジェスト版(経済産業省)身近な会社の「人権方針」を探す
よく使う商品の会社のサイトで「人権方針」を探してみましょう。国連の指導原則や ILO の名前が出てくるか、取引先についてどう書いているかを確かめると、国際的なルールが会社の仕事に入っていることが分かります。
国連の若手の採用試験の条件を読む
国連広報センターのサイトでは、国連事務局の若手の採用試験(YPP)の条件や試験の流れを日本語で紹介しています。年齢や学歴、語学の条件を読み、今から準備できることを考えてみましょう。
国連職員採用 YPP(国連広報センター)
「国際協力・企業」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 62 件から探せます。
よくある質問
国際機関で働くには、英語が完璧でないといけませんか?
国際機関の仕事は英語かフランス語で行うことが多く、採用でも語学の力が求められます。たとえば国連の YPP では、英語かフランス語に堪能であることが条件です。高校の英語で、読む・書く・話す・聞くの 4 つの力をそろえて伸ばすことが土台になります。
企業の人事は、国際協力と関係があるのですか?
あります。海外の工場や取引先で働く人の権利を守る取り組みは、企業の人事や法務が担っています。日本政府のガイドラインは、日本で事業活動を行うすべての企業に、取引先も含めた人権の尊重を求めています。
社会保障協定がないと、どうなるのですか?
海外で働くとき、その国と日本の両方の制度に保険料を払うことがあります。また、短い期間だけ入った国の年金を受け取れないこともあります。協定は、保険料の二重の負担を防ぎ、加入した期間を通算できるようにするしくみです(国によっては二重の負担を防ぐだけのものもあります)。
