図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3
物流・観光・貿易
どこで何がつくられ、どこへどう運ばれるかを読み取り、倉庫の場所選びや旅の企画、海外との取引に生かす仕事です。高校の地理で学ぶ「なぜそこに」を説明する力と、交通や貿易の統計を読む力が、毎日の判断を支えています。

ひとことで言うと
コンビニの棚が、空にならないわけ
コンビニの棚には、1 日に何回かトラックで商品が届きます。そのトラックは、高速道路や港の近くにある倉庫や配送センターから出発しています。どこに倉庫を置き、どの道で運べば、早く無駄なく届くか。それを考えるのが物流の仕事です。

01
どんな仕事?: 「何を、どこから、どこへ」を読む
地理の「産業と人の動き」で学ぶことを、そのまま仕事にしているのが、物流・観光・貿易の分野です。物流会社は、倉庫やトラック、船や飛行機を組み合わせて荷物を届けます。旅行会社は、行き先や季節を選んで旅をつくります。商社は、資源や製品を世界のどこから買い、どこへ売るかを考えます。
3 つの仕事に共通するのは、場所と場所のつながりを考えることです。工場はどこにあり、買う人はどこに住んでいるのか。その間を、どの道や港、空港を通って運ぶのか。地図の上に「流れ」を描けると、仕事の段取りが見えてきます。
下の図は、それぞれの仕事で、高校の地理のどの力が使われるかを比べたものです。
場所と場所のつながりを描くことが、3 つの仕事に共通する力です。
図解物流・観光・貿易と高校の地理
物流会社
- 人口の分布から倉庫の場所を考える
- 高速道路や港の位置を地図で確かめる
- 水につかりにくい土地かを調べる
旅行会社
- 行き先の気候と季節を読む
- 地図で移動の時間と道を考える
- その土地の祭りや食文化を調べる
商社
- 資源がとれる国と量を統計で知る
- 港や航路など運ぶ道を考える
- 相手の国の産業の特徴を知る

02
なぜそこに?: 倉庫がインターチェンジの近くに集まるわけ
高速道路を走ると、インターチェンジの近くに大きな倉庫が並んでいるのを見かけます。国土交通省は 2016 年、圏央道の東名高速から東関東道までの沿線に、大型の物流施設が約 1,600 件あると発表しました。圏央道は、首都圏を大きく囲む高速道路です。
地理の言葉で説明すると、理由は 3 つあります。1 つ目は交通の便で、高速道路を使えば、人口の多い大都市へも地方へも短い時間で運べます。2 つ目は土地で、都心より土地の値段が安く、広くて平らな土地を確保しやすい所です。3 つ目は人で、倉庫で働く人が通える住宅地が近くにあることも大切です。
物流会社で新しい倉庫の場所を探す担当者は、こうした条件を地図に重ねて候補を絞ります。大雨のときに水につかるおそれがないかを、ハザードマップで確かめることも大切です。工業の立地を「なぜそこに」で考える地理の授業が、そのまま場所選びの練習になっています。
交通の便・土地・人の 3 つを地図に重ねて、倉庫の場所を選びます。
図解新しい倉庫の場所を選ぶ(例)
- 1人口の分布から、届け先の多い地域を地図で確かめる
- 2高速道路のインターチェンジから近い土地を探す
- 3ハザードマップで、浸水のおそれを調べる
- 4働く人が通える駅やバスの路線を確かめる


03
統計を読む: 成田空港の貿易額が、大きな港を上回るわけ
海外との取引の荷物は、港や空港を通って出入りします。東京税関の速報では、2025 年の成田空港の輸出額は約 20 兆 974 億円、輸入額は約 21 兆 1,840 億円でした。どちらも名古屋港や東京港などの大きな港を上回り、全国の約 18% を占めています。
船よりずっと少ない量しか運べない飛行機が、なぜ金額でこれほど大きいのでしょうか。答えは品目にあります。成田空港の輸出の主な品目は、半導体等製造装置、科学光学機器、IC(集積回路)です。輸入では医薬品がいちばん多くなっています。軽くて高価な物や、急いで届けたい物は、飛行機で運ばれるのです。
一方、名古屋港の 2025 年の輸出額は約 16 兆 3,759 億円で、そのうち自動車が約 5 兆 147 億円を占めています。重くて大きい自動車は、船でまとめて運ぶのが向いているからです。品目と運び方を結びつけて考える力は、商社や物流会社で取引の段取りを組むときに欠かせません。
品目と運び方を結びつけると、貿易の統計の意味が分かります。


04
旅行会社でツアーを企画する社員の 1 日(例)
ここでは、旅行会社で国内や海外のツアーを企画する若手社員の 1 日の例を紹介します。企画の担当は、行き先や日程、移動の手段、泊まる所を組み合わせて、旅の商品をつくります。
行き先と時期を決めるときは、地理で学ぶ気候の知識が役立ちます。月ごとの気温と降水量を見れば、雨の多い季節や、旅に向いた季節が分かります。南半球のオーストラリアでは日本と季節が逆になり、12 月が夏です。地図で移動の時間を確かめ、無理のない日程を組みます。
旅行会社の営業所には、国家資格をもつ「旅行業務取扱管理者」を 1 人以上置くことが、旅行業法で義務づけられています。取引の条件や旅の安全を確かめる場面で、この資格の知識が生きます。
気候と地図で、旅に向いた季節と無理のない順路を決めます。
図解ツアーを企画する社員の 1 日(例)
- 9:00申し込みを見る前の週の申し込みを行き先ごとに見る
- 10:30行き先を調べる気温と雨の季節、祭りの時期を確かめる
- 12:00昼休み
- 13:00日程を組む地図で移動時間を測り、順路を決める
- 15:00宿とバスを手配人数と料金を、宿やバス会社と相談
- 17:00企画書をまとめる旅の見どころを地図と写真で伝える

05
向いている人と入り方・その先
高校のうちは、身の回りの物の「生まれた場所」を調べてみてください。スーパーで野菜や果物の産地を見て地図に書き込むと、季節によって産地が移っていくのが分かります。輸入された物なら、船と飛行機のどちらで来たかも考えてみると、物の流れが立体的に見えてきます。
大学の学部が問われないことも多く、経済学・商学・経営学、地理学、観光学、外国語学などから進む人がいます。貿易の仕事には、輸出入の手続きに関わる国家資格の「通関士」があり、税関が試験を行っています。旅行会社では、旅行業務取扱管理者の資格をとって働く人もいます。
地図や時刻表をながめるのが好きな人、段取りを考えるのが好きな人に向いています。経験を積むと、物流の拠点づくりの責任者や、海外の拠点で働く駐在員、新しい旅の商品を生み出す企画の責任者になる道があります。
身の回りの物の産地を地図に描くことが、最初の一歩です。
図解高校から物流・観光・貿易の仕事へ(例)
- 1高校で学ぶ産地や輸入先を地図に描く
- 2大学で学ぶ経済・商学・地理学・観光学など
- 3仕事に入る物流会社・旅行会社・商社など
- 4資格をとる通関士・旅行業務取扱管理者
- 5流れをつくる拠点づくりや海外の駐在、旅の企画
高校生のうちに試せること
冷蔵庫の中身の「産地マップ」をつくる
家の冷蔵庫や台所にある食べ物を 10 個選び、産地を白地図に書き込みましょう。海外から来た物は、船と飛行機のどちらで運ばれてきたかを予想し、なぜそう考えたかも書き添えましょう。
貿易統計で、港ごとの品目を調べる
財務省の貿易統計のサイトでは、港や空港ごとに、どんな品目がいくら出入りしたかを無料で調べられます。家から近い港か空港を 1 つ選び、輸出の上位の品目を確かめましょう。
貿易統計(財務省)近くのインターチェンジのまわりを地図で見る
地理院地図で、家から近い高速道路のインターチェンジを探しましょう。写真の地図に切りかえて、まわり 3 km にある大きな建物や倉庫を数え、なぜそこにあるのかを考えましょう。
地理院地図(国土地理院)
「物流・観光・貿易」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 76 件から探せます。

都市・交通計画学
岡山大学(岡山県)
工学部 環境・社会基盤系 都市環境創成コース・都市計画・橋本 成仁 教授
交通安全・公共交通・コンパクトシティなど、持続可能な都市と交通の計画を研究する。

交通と都市研究分野
横浜国立大学(神奈川県)
都市科学部 都市基盤学科・交通計画・都市計画・松行 美帆子 教授
誰もが使いやすい交通システムと都市のあり方を研究する。
交通政策分析研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科・交通計画・円山 琢也 教授
交通政策の分析や交通計画、公共政策を研究する。

都市・交通計画研究室
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・都市・交通計画・力石 真 教授
生活・交通行動分析、都市・交通システム、離散選択モデルなどを研究している。

地域・交通デザイン研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 土木建築学科・都市・交通計画・吉城 秀治 准教授
都市空間での人の行動や感性を明らかにし、社会実装につなげる。
都市・交通計画研究室
北見工業大学(北海道)
よくある質問
物流の仕事は、トラックの運転だけですか?
運転のほかにも、倉庫の場所選び、荷物の流れの計画、海外とのやりとり、データの分析など、さまざまな仕事があります。大学を出て物流会社に入り、計画や営業の仕事を担う人もいます。
地理が得意だと、旅行の仕事に役立ちますか?
役立ちます。行き先の気候や地形、文化を知っていると、旅に向いた時期を選んだり、見どころをお客さんに説明したりするときの助けになります。地図で移動の時間を見積もる力も、無理のない日程づくりに欠かせません。
商社で働くには、外国語ができないといけませんか?
海外とのやりとりでは英語などを使う場面が多くあります。ただ、言葉は入社してからも鍛えられます。相手の国の産業や資源、気候を知っていることも、話の土台として大切です。

