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図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3

建物・橋・インフラ

地震や風のときに、建物や橋がどう揺れ、どれだけの力がかかるかを計算し、壊れにくい形と材料を決める仕事です。高校の物理の「力のつり合い」「単振動」「波と共振」が、高層ビルの揺れや橋の点検にそのまま使われています。

湾岸の高層ビルと長い橋が見える街を背に、台の上で揺れる高さの違う建物の模型と、揺れのグラフを映すノートパソコンを囲んで話し合う学生たち

ひとことで言うと

お盆のコップの水は、歩くリズムで波立つ

お盆にのせたコップの水は、歩くリズムによって、急に大きく波立つことがあります。水には揺れやすいリズムがあり、歩く振動がそれと合うと揺れが育つからです。高いビルでも同じことが起き、遠くの地震でも大きく長く揺れることがあります。

01

どんな仕事?: 力を地面まで流し、揺れのリズムを読む

構造設計者は、建物の柱や梁の太さ、壁の位置を決め、地震や風、雪の力に耐えられるかを計算する仕事です。土木エンジニアは、橋やトンネル、堤防などをつくり、長く使えるように点検と補修の計画を立てます。

どちらの仕事も、高校の物理の考え方が土台です。重さや地震の力が柱や梁をどう伝わるかは、力のつり合いと力のモーメントで考えます。建物がどんなリズムで揺れるかは、単振動の式で見積もります。地面から伝わる揺れは波として扱い、建物の揺れやすいリズムと比べます。

建物の設計は、見た目や使いやすさを考える設計者と、構造や設備の専門家がチームで進めます。構造設計者は、その中で建物の安全を数字で裏づける役目です。

力を流す計算と、揺れを読む計算の 2 つが、建物と橋を守ります。

図解建物・橋の設計と高校の物理

建物・橋・インフラ
  • 力のつり合い重さを柱から地面へ流す(物理基礎)
  • 力のモーメント梁や張り出した床の曲がり(物理)
  • 運動方程式揺れで建物にかかる力(物理基礎)
  • 単振動建物の揺れのリズム(物理)
  • 共振地震と建物のリズムが合う
  • 波地面を伝わる地震の揺れ

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単振動が生きる場面: 建物の「揺れのリズム」を計算する

物理の単振動では、ばねにつけたおもりが決まった周期で揺れることを学びます。周期は T = 2π√(m/k) で、おもりが重いほど、ばねが柔らかいほど長くなります。建物も、重さとかたさで決まる周期で揺れます。これを固有周期といいます。

建築基準法にもとづく国の告示は、構造計算に使う建物の固有周期を T = h × (0.02 + 0.01α) で求めると定めています。h は建物の高さ(m)、α は鉄骨造や木造の階の割合です。鉄筋コンクリート造なら α = 0 で、高さ 30 m の建物は 0.6 秒です。鉄骨造なら α = 1 で、高さ 60 m の建物は 1.8 秒です。

地面にも、揺れやすいリズムがあります。同じ告示は、かたい岩盤などの地盤を 0.4 秒、やわらかい泥土などが厚く積もった地盤を 0.8 秒としています。建物と地面のリズムが近いと、揺れは大きくなりやすいので、構造設計者は両方を比べながら設計します。

高さと構造が分かれば、建物の揺れのリズムの見当がつきます。

図解鉄骨造のビルの固有周期(告示の式)

入力鉄骨造(α = 1)なので、T = h × 0.03
  1. 1高さ 20 m → 0.03 × 20 = 0.6 秒
  2. 2高さ 40 m → 0.03 × 40 = 1.2 秒
  3. 3高さ 60 m → 0.03 × 60 = 1.8 秒
結果高さが 2 倍、3 倍になると、固有周期も 2 倍、3 倍。高いビルほどゆっくり揺れる

03

共振が生きる場面: 遠くの地震で、高さ 256 m のビルが 10 分揺れた

2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震では、震源から遠く離れた大阪の高層ビルが大きく揺れました。湾岸に立つ 55 階建ての大阪府咲洲庁舎(高さ 256 m)です。府の検証によると、揺れは約 10 分続き、52 階では片側に最大 137 cm の揺れが記録されました。

原因は共振です。大きな地震は、1 往復に何秒もかかるゆっくりした揺れ(長周期地震動)を生みます。気象庁によると、この揺れは遠くまで伝わりやすく、数百 km 離れた所でも高いビルを大きく長く揺らすことがあります。府の検証では、大阪湾岸の地震動の周期(6〜7 秒)と、ビルの固有周期がほぼ一致したと考えられています。

内装や防火戸など 360 か所が傷み、エレベーター 32 基がすべて止まりました。一方で、柱や梁などの骨組みには影響がありませんでした。府は、揺れを吸収するダンパー(制振部材)を取り付ける計画を進めました。揺れのリズムを知り、揺れのエネルギーを吸収するのが、高層ビルの地震対策の基本です。

気象庁は、高層ビルの揺れの大きさを、震度とは別の 4 つの階級(長周期地震動階級)で表しています。2023 年 2 月 1 日からは、この階級の予測を緊急地震速報の発表基準にも加えました。

地震の揺れと建物のリズムが合うと、遠くの地震でも大きく長く揺れます。

クイズ建物の揺れのクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q12011 年の地震で、大阪の咲洲庁舎(高さ 256 m)の 52 階は、片側に最大どれくらい揺れた?

  2. Q2告示の式で、高さ 45 m の鉄筋コンクリート造(α = 0)の建物の固有周期は?

  3. Q3咲洲庁舎が大きく長く揺れた、いちばんの理由は?

0 / 3 問に回答
曇り空の下に立つ、ガラス張りの細長い超高層ビルと、手前の低い建物
大阪市住之江区の大阪府咲洲庁舎。2011 年の東北地方太平洋沖地震では、震源から遠く離れていたのに、最上階が片側 1 m 以上揺れました。写真: Tokumeigakarinoaoshima(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

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構造設計者の 1 日(例)

ここでは、設計事務所で高層のオフィスビルを担当する構造設計者の 1 日の例を紹介します。働き方は、会社やプロジェクトの段階によって違います。

午前は、コンピュータの中に建物の骨組みのモデルをつくり、地震の揺れを入れて計算します。各階がどれだけ傾くか、柱や梁にどれだけの力がかかるかを確かめます。基準を満たさない部材があれば、太さや材料を変えて計算し直します。

午後は、デザインを担当する設計者や設備の担当者との打ち合わせです。「ここに大きな窓がほしい」という希望に、柱の位置をどう工夫すれば安全を保てるかを考えます。夕方には、工事現場から届いた質問に、図面を見ながら答えます。

計算と打ち合わせをくり返し、安全とデザインを両立させます。

図解構造設計者の 1 日(例)

  1. 9:00朝の確認メールと現場からの質問を見る
  2. 9:30揺れの計算骨組みのモデルに地震の揺れを入れる
  3. 11:30部材の見直し基準を超えた柱や梁の太さを変える
  4. 12:30昼休み
  5. 13:30設計の打ち合わせ窓や間取りと柱の位置を調整する
  6. 15:30図面の確認計算と図面が合っているか見直す
  7. 17:00現場への回答工事中の質問に図面で答える

05

向いている人と入り方・その先

高校のうちは、物理基礎の力のつり合い、物理の力のモーメントと単振動、波の単元を大切にしてください。数学では、三角比が斜めの部材にかかる力を分けるのに、微分と積分が揺れや曲がりを計算するのに使われます。

大学は、工学部などの建築学科と、土木工学科(社会基盤工学科などの名前もあります)が中心です。建物の構造を受け持つなら建築学科、橋やトンネル、堤防なら土木系の学科が近道です。学科の名前や内容は大学によって異なります。

建物の構造設計では、一級建築士の資格をとったあと、5 年以上の構造設計の経験を積み、講習を修了すると、構造設計一級建築士になれます。鉄骨造で 4 階以上の建物や、高さ 20 m を超える鉄筋コンクリート造の建物などは、この資格を持つ人が構造を確かめます。

土木の分野では、点検の仕事も増えています。国土交通省によると、点検の結果がまとめられている道路の橋は約 73 万橋あります。2014 年 7 月からは、5 年に 1 回、近くで目で見て点検しています。建設から 50 年を過ぎた橋の割合は、2025 年度末に 44% になりました。古くなるインフラを長く安全に使う技術者が求められています。

力と揺れを計算できることが、建物と橋を守る仕事の入り口です。

図解構造設計者・土木エンジニアへの道(例)

  1. 1高校で学ぶ力のつり合い・単振動・波
  2. 2大学で深める建築学科・土木系の学科
  3. 3会社に入る設計事務所・建設会社・役所
  4. 4資格をとる一級建築士・技術士など
  5. 5専門を広げる構造設計一級建築士・点検の専門家
鉄骨の橋の上に止めたトラックから黄色い腕が伸び、橋の下側にかごを回り込ませている
アメリカ・オレゴン州の橋の点検。橋の上の車から腕を伸ばし、かごに乗った技術者が橋の裏側を近くで確かめます。写真: Oregon Department of Transportation(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

高校生のうちに試せること

  • ストローの塔で、揺れのリズムを比べる

    ストローと粘土で、高さの違う 3 本の塔を作りましょう。机を軽くたたいて揺らし、10 往復にかかる時間を測ってください。高い塔ほどゆっくり揺れるか、てっぺんに粘土をのせると周期がどう変わるかを確かめられます。

  • 近くの高いビルの固有周期を見積もる

    気象庁のページには、高いビルの高さや階数と固有周期の関係を示した図があります。近くの高いビルの階数を数え、図からおよその固有周期を読み取りましょう。告示の式で計算した値とも比べてみてください。

    固有周期と建物の関係について(気象庁)
  • 近くの橋の点検結果を調べる

    国土交通省は、全国の橋やトンネルの点検の結果を「道路メンテナンス年報」として毎年公表しています。住んでいる市区町村のホームページで「橋梁 点検」と検索すると、橋ごとの点検の結果を公開していることもあります。通学路の橋が何年に架けられたかを調べてみましょう。

    道路メンテナンス年報(国土交通省)

「建物・橋・インフラ」に関連するコミュニティ

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よくある質問

建築学科と土木工学科は、どう違いますか?

建築学科は、住宅やビルなど建物そのものを、デザイン・構造・設備の面から学びます。土木工学科は、橋や道路、トンネル、ダム、堤防など、まちの基盤になる施設を学びます。どちらでも構造力学を学び、高校の物理の力のつり合いが土台になります。

高いビルは、地震のとき危なくないのですか?

大阪府の検証は、超高層の建物はしなやかで粘り強い構造だと説明しています。揺れることで地震のエネルギーを吸収するので、倒れたり崩れたりするおそれはほとんどないとしています。一方で、長く揺れると家具が動いたりエレベーターが止まったりするため、家具の固定や揺れを抑える装置などの対策が進められています。

物理の単振動が苦手です。今から間に合いますか?

間に合います。まず、ばねにつけたおもりや振り子で、周期が何で決まるかを実験で確かめてみてください。重いほどゆっくり、かたいほど速く揺れるという感覚が T = 2π√(m/k) の式と結びつくと、建物の揺れの話も理解しやすくなります。