大学カタログ

図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4

医療・エネルギー・研究

病院で X 線や CT、MRI の検査をしたり、加速器を使ってがんを治療したり、発電や新しいエネルギーの技術を研究したりする仕事です。高校の物理の最後に学ぶ「原子」と「電気と磁気」の単元が、命と暮らしを守る現場で使われています。

検査室の輪の形の CT 装置と、ガラス越しに見えるリング状の加速器を背に、手の骨の影が映るパネルを指さして話し合う白衣の学生たち

ひとことで言うと

体を通り抜ける光でつくる影絵

手に光を当ててできる影絵では、手の形は分かっても、中までは見えません。X 線は、目に見える光が通り抜けられない体を通り抜けて、体の中の影絵をつくります。骨のように X 線を通しにくい部分が、白い影になって写ります。

01

どんな仕事?: 病院・発電所・研究所で、物理を道具にする

診療放射線技師は、医師や歯科医師の指示を受けて、X 線撮影や CT、放射線治療を行う医療の専門職です。人の体に放射線を当てることを仕事にできるのは、法律で医師・歯科医師と診療放射線技師に限られています。MRI や超音波の検査も受け持ちます。

物理を道具にする仕事は、病院の外にも広がります。電力会社の技術者は、電磁誘導で電気をつくる発電機や、送電の設備を動かし、守ります。大学や研究所の研究者は、加速器や放射線を使って、新しい治療法やエネルギーの技術を開発します。

どの仕事にも共通するのは、目に見えない放射線や電気、磁気を、数字で正しく扱うことです。高校で最後に学ぶ原子と電磁気の単元が、命と暮らしを守る道具になります。

原子と電磁気の単元が、病院・発電所・研究所をつないでいます。

図解医療・エネルギー・研究と高校の物理

医療・エネルギー・研究
  • X 線撮影電子を加速して X 線をつくる
  • CTX 線の影を多方向から集めて断面に
  • MRI強い磁石と電波で体の中を写す
  • 放射線治療加速した粒子でがんをねらう
  • 発電電磁誘導で電気をつくる
  • 放射線の管理距離と時間で受ける量を減らす

02

原子と電界が生きる場面: X 線は、電子をぶつけてつくる

1895 年 11 月 8 日の夜、ドイツの物理学者レントゲンは、陰極線の実験中に、物を通り抜ける見えない光線に気づきました。未知のものを表す X をつけて、X 線と名づけています。発見を知らせる論文と写真は 1896 年の元日に各地の物理学者へ送られ、またたく間に世界中に知られました。1901 年、レントゲンは最初のノーベル物理学賞を受けています。

いまの X 線管のしくみも、もとは同じです。環境省の資料によると、管の中の陰極と陽極の間に高い電圧をかけ、陰極から出た電子を真空中で加速して、タングステンなどの陽極に当てます。電子が原子核の近くで急に向きを変えるときや、原子の内側の電子をはじき出し、空いた所に外側の電子が移るときに、X 線が出ます。

物理で学ぶ電子ボルト(eV)を使うと、X 線のエネルギーが計算できます。100 kV の電圧で加速した電子は、100 keV のエネルギーを持ちます。そこから出る X 線の光子 1 個のエネルギーは最大で 100 keV、波長にすると約 0.012 nm です。目に見える光の 4 万分の 1 ほどの短さで、光子 1 個のエネルギーが大きいので、体を通り抜けられるのです。

電圧で加速した電子のエネルギーが、X 線の光子のエネルギーになります。

図解100 kV で加速した電子から出る X 線(計算)

入力陰極と陽極の間に 100 kV(10 万 V)の電圧をかける
  1. 1電子が得るエネルギー = 電気量 × 電圧 = 100 keV
  2. 2出てくる X 線の光子のエネルギーは、最大で 100 keV
  3. 3波長 = 1,240 ÷ 100,000 ≒ 0.012 nm
結果目に見える光(約 500 nm)の約 4 万分の 1 の、とても短い波長
古い台紙に貼られた手の X 線写真。指の骨と、指輪の形が影になって写っている
レントゲンが妻の手を写した X 線写真(1895 年)。骨と指輪がくっきり写っています。1896 年の元日、レントゲンは発見を知らせる論文に写真を添えて、各地の物理学者に送りました。写真: Wilhelm Röntgen(Public domain・Wikimedia Commons)

03

電流と磁界が生きる場面: 加速器で、がんをねらう

放射線は、検査だけでなく治療にも使われます。1994 年、千葉市の放射線医学総合研究所で、世界初の重粒子線がん治療装置 HIMAC が動き始めました。研究所は、いまの量子科学技術研究開発機構(QST)の前身の 1 つです。炭素の原子核を光の速さの約 70% まで加速し、体の深い所にあるがんに当てる治療です。

加速に使うのは、シンクロトロンという輪の形の加速器です。物理で学ぶように、磁界の中を動く電気を帯びた粒子は、ローレンツ力を受けて円を描きます。シンクロトロンでは、電磁石の磁界で粒子を曲げて輪の中を回らせ、回るたびに少しずつ加速します。QST の資料によると、1 秒間に数百万回も周回させて加速します。

磁界の中の円運動の半径は、r = mv ÷ qB です。粒子が速くなると、同じ磁界のままでは半径が大きくなり、輪からはみ出してしまいます。そこで、加速に合わせて電磁石の磁界を強くし、同じ輪の上を回り続けさせるのです。円運動と電磁気の式が、治療装置の設計の土台になっています。

QST によると、2023 年の時点で国内の 7 か所で重粒子線の治療装置が動いていて、稼働台数は世界一です。それでも 1 年に治療を受けられるのは 4,000 人ほどに限られるため、装置を小さくする「量子メス」の開発が進められています。

電磁石で曲げて、回るたびに押す。円運動と電磁気の式が、加速器を動かします。

クイズ医療と物理のクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q1X 線を発見したレントゲンが、1901 年に受けた賞は?

  2. Q2100 kV の電圧で加速した電子から出る X 線の光子のエネルギーは、最大でどれくらい?

  3. Q3重粒子線治療で、炭素の原子核はどれくらいの速さまで加速される?

0 / 3 問に回答
青空の下に立つ、窓が規則正しく並んだ病院の建物と、手前の花の咲いた木
千葉市にある、重粒子線でがんを治療する病院(撮影当時は放射線医学総合研究所。いまは QST の病院)。1994 年から、加速器を使ったがんの治療が続けられています。写真: 麒麟坊(CC BY-SA 3.0・Wikimedia Commons)

04

診療放射線技師の 1 日(例)

ここでは、総合病院の放射線部で働く診療放射線技師の 1 日の例を紹介します。担当する検査の分け方や交代の仕組みは、病院によって違います。

朝は、装置の点検から始まります。X 線の量や画像の写り方が正しいかを確かめてから、患者を迎えます。撮影では、患者の体の向きを整え、必要な部分だけに X 線が当たるように範囲をしぼります。撮影の瞬間は操作室に移り、壁と距離で自分が受ける放射線を減らします。点のような線源からの放射線は、光と同じく、距離の 2 乗に反比例して弱まります。

午後は CT や MRI の検査です。MRI は放射線ではなく強い磁石と電波を使うので、検査室に金属を持ち込まないよう、患者の持ち物を一つずつ確かめます。撮った画像は、医師が診断しやすいように整えて送ります。

装置を正しく動かし、患者と自分を放射線から守るのが基本です。

図解診療放射線技師の 1 日(例)

  1. 8:00装置の点検X 線の量と画像の写りを確かめる
  2. 8:30一般撮影胸や骨の X 線写真を撮る
  3. 11:00CT 検査撮る範囲と条件を決めて撮影する
  4. 12:30昼休み
  5. 13:30MRI 検査金属を持ち込まないか確かめて撮影
  6. 15:30画像の処理診断しやすい断面の画像をつくる
  7. 17:00記録と勉強会線量の記録と新しい技術の勉強

05

向いている人と入り方・その先

高校のうちは、物理の電気と磁気、原子の単元をしっかり学んでください。生物は体のつくりを、数学は画像を計算でつくるしくみを学ぶ助けになります。入試で選べる科目は学校によって違うので、志望校の募集要項で確かめてください。

診療放射線技師になるには、文部科学大臣や都道府県知事が指定した学校・養成所で 3 年以上学びます。そのうえで国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けます。2026 年 2 月の第 78 回国家試験では、受験者 3,506 人のうち 2,670 人が合格し、合格率は 76.2% でした。

研究の道に進むなら、理学部の物理学科や工学部の原子力・量子系の学科から、大学院へ進むのが一般的です。病院で放射線治療の計画や装置の品質管理を受け持つ、医学物理士として働く人もいます。電力会社では、電気・機械・原子力などを学んだ技術者が、発電所や送電網を支えています。

目に見えない放射線を正しく恐れ、数字で管理できる人に向いています。検査の流れを、患者に分かりやすく説明する力も大切です。経験を積むと、CT や放射線治療などの分野で専門性を深める道があります。

原子と電磁気の単元を、患者の安全と治療に結びつけて学ぶと力になります。

図解診療放射線技師への道(例)

  1. 1高校で学ぶ電気と磁気・原子の単元
  2. 2養成校で学ぶ指定の大学や専門学校などで 3 年以上
  3. 3国家試験合格して厚生労働大臣の免許を受ける
  4. 4病院で働く撮影・CT・MRI・治療を担当
  5. 5専門を深める治療・画像の専門や研究の道へ

高校生のうちに試せること

  • 光で、距離の 2 乗の法則を確かめる

    暗い部屋でスマートフォンのライトを点け、別のスマートフォンの照度計アプリで、20 cm と 40 cm 離れた所の明るさを測りましょう。距離が 2 倍になると、明るさはおよそ 4 分の 1 になるはずです。放射線も、点のような線源からなら同じように弱まります。

  • 診療放射線技師の仕事を動画で見る

    日本診療放射線技師会のページでは、病院で働く診療放射線技師の仕事を動画で紹介しています。どの検査でどんな装置を使うかを見ながら、高校の物理のどの単元とつながるかを考えてみましょう。

    みんなに知ってもらいたい診療放射線技師のこと(日本診療放射線技師会)
  • 電磁石で、巻き数と磁界の強さを比べる

    乾電池とエナメル線、鉄くぎで電磁石を作り、巻き数を 50 回と 100 回にして、持ち上がるクリップの数を比べましょう。加速器も、巻いた導線に電流を流す電磁石で粒子を曲げています。導線は熱くなるので、電流を長く流し続けないでください。

「医療・エネルギー・研究」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 22 件から探せます。

研究室をすべて見る(21 件)

よくある質問

診療放射線技師と医師は、どう役割が違いますか?

医師は、画像などをもとに病気を診断し、治療の方針を決めます。診療放射線技師は、医師や歯科医師の指示を受けて、診断に役立つ画像を安全に撮り、放射線治療の照射を行います。人の体に放射線を当てることを仕事にできるのは、法律で医師・歯科医師・診療放射線技師に限られています。

放射線を扱う仕事は、自分の体に影響はありませんか?

放射線を扱う人は、線量計を身につけて自分が受けた量を記録し、法令で決められた限度を超えないように管理されています。撮影のときは操作室に移り、距離をとって受ける量を減らします。仕組みを正しく知って扱うことが、安全の基本です。

物理が苦手でも、診療放射線技師になれますか?

養成校では、放射線物理学や放射線計測学など、物理をもとにした授業があります。ただ、高校の物理で学ぶ電気と原子の基本が分かっていれば、そこから積み上げられます。苦手な単元は、まず身近な例の計算から学び直してみてください。