図 1 法学の広がり法学の広がり 3
犯罪と刑罰の法(刑事法)
何が犯罪になり、どんな刑罰が科されるのか。疑われた人の権利をどう守り、被害を受けた人をどう支えるのか。社会の安全と一人ひとりの人権の両方を考える分野です。

ひとことで言うと
採点の基準は、テストの前に決めておく
テストが終わってから採点の基準を変えられたら、だれも安心して答えられません。刑法も同じで、何が犯罪でどんな刑になるかを、前もって法律で決めておく必要があります。これを罪刑法定主義と呼びます。憲法 31 条と 39 条が、その土台になっています。

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刑法: SNS の書き込みも罪になる
刑法は、どんな行為が犯罪になり、どんな刑罰が科されるかを定めた法律です。1907 年に作られ、改正を重ねながら 100 年以上使われています。殺人や窃盗だけでなく、ネットの書き込みに関わる罪もあります。
SNS のように多くの人が見られる場所で、具体的な事実を示して人の名誉を傷つけると、名誉毀損罪(230 条)になりえます。事実を示さなくても、人をおとしめる言葉を投げつければ侮辱罪(231 条)になりえます。ネットでの誹謗中傷が問題になり、2022 年 7 月 7 日に侮辱罪の刑が重くなりました。
刑罰の種類も変わりました。2025 年 6 月 1 日、1907 年の刑法制定のときからあった懲役と禁錮が、「拘禁刑」にまとめられました。作業をさせるだけでなく、立ち直りに必要な指導も柔軟に行えるようにするためです(刑法 12 条)。
何が犯罪かは、前もって法律で決めておく。これが刑法の出発点です。
図解名誉毀損罪と侮辱罪のちがい
名誉毀損罪(230 条)
- 具体的な事実を示して名誉を傷つける
- 3 年以下の拘禁刑か 50 万円以下の罰金
侮辱罪(231 条)
- 事実を示さずに人をおとしめる
- 1 年以下の拘禁刑か 30 万円以下の罰金など

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刑事訴訟法: 疑われた人にも権利がある
事件が起きると、警察や検察官が捜査し、検察官が裁判所に起訴し、裁判所が有罪か無罪かを決めます。その手順を定めるのが刑事訴訟法です。手順を細かく決めておくのは、無実の人を罰しないためです。
憲法 38 条は、だれも自分に不利益なことを話すよう強制されない、と定めています。無理やり引き出した自白は証拠にできず、本人の自白しか証拠がないときは有罪にできません。ドラマの取調べの場面の裏には、こうした大事なルールがあります。
日本の近代的な刑事手続の始まりには、フランスの法学者ボアソナードがいます。1873 年に政府に招かれて来日し、治罪法(刑事訴訟法の前身)や旧刑法を起草し、拷問の廃止に力を尽くしました。
刑事手続に関わる仕事は、裁判官・検察官・弁護士だけではありません。警察官や検察事務官、少年院で少年の立ち直りを支える法務教官、社会の中で更生を見守る保護観察官など、刑事法の知識を生かす仕事はたくさんあります。
刑事手続の細かいルールは、無実の人を罰しないためにあります。
図解事件から判決まで
- 1捜査警察や検察官が証拠を集める
- 2起訴検察官が裁判所に訴える
- 3公判法廷で証拠を調べ、双方が主張する
- 4判決有罪か無罪か、刑の重さを決める


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裁判員制度: 18 歳から選ばれる
2009 年 5 月に始まった裁判員制度では、くじで選ばれた市民が、殺人など重大な事件の刑事裁判に加わります。原則として裁判官 3 人と裁判員 6 人が一緒に、有罪か無罪か、どんな刑にするかを決めます(裁判員法 2 条)。
裁判員は、衆議院議員の選挙権を持つ人の中から選ばれます(裁判員法 13 条)。2023 年からは、18 歳・19 歳も選ばれるようになりました。通学している学生や生徒は、申し出れば辞退することもできます(16 条)。
実は日本でも、1928 年から 15 年間、一般の人が裁判に加わる陪審制が行われていました。立命館大学の末川記念会館には、京都地方裁判所から移した陪審法廷が残っていて、自由に見学できます。
法律の専門家でない市民の感覚を、裁判に生かすしくみです。

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少年法と、被害を受けた人の支え
20 歳未満の人が罪を犯したときは、少年法の手続になります。少年法は少年の健全な育成を目的としていて、事件はすべて家庭裁判所に送られます。14 歳未満の行為は、刑法では罰しないと決められています(刑法 41 条)。
2022 年 4 月からは、18 歳・19 歳を「特定少年」として、引き続き少年法の対象にしながら扱いを一部変えました。たとえば、特定少年のときの事件で起訴されると、略式手続の場合を除き、本人と分かる報道の禁止が解かれます(少年法 68 条)。
被害を受けた人を支えることも、刑事法の大切なテーマです。2004 年に犯罪被害者等基本法ができました。2008 年 12 月には、被害者や遺族が刑事裁判に参加し、被告人に質問などができる被害者参加制度が始まりました。
日本学術会議の参照基準は、刑事法学を、感情的な判断や場当たり的な考え方を排して、筋の通った論理で結論を導く訓練に最も適した分野だとしています。疑われた人の人権と、被害を受けた人の思いの両方を前に、冷静に考える力が身につきます。
立ち直りを支えることと、被害を受けた人を支えること。どちらも刑事法の役目です。
高校生のうちに試せること
裁判を傍聴する
公開の法廷は、予約なしでだれでも傍聴できます。入口の開廷表で「刑事」の事件を探し、静かに席に着きましょう。撮影や録音のできる機器は、許可なく法廷に持ち込めません。注目される事件では、傍聴券の抽選になることもあります。
裁判所「傍聴の手引」高校生模擬裁判選手権を目指す
日本弁護士連合会が毎年夏に開く大会で、高校生が検察側と弁護側のチームに分かれ、1 つの刑事事件を法廷で争います。現役の裁判官・検察官・弁護士などが審査します。参加は学校単位なので、まずは先生に相談しましょう。
日本弁護士連合会「第 19 回 高校生模擬裁判選手権」陪審法廷を見学する
京都市の立命館大学 末川記念会館には、陪審制の時代の法廷が移されて残っています。開館時間中は自由に見学できるので、裁判官席や傍聴席から法廷を見渡してみましょう。
立命館大学「末川記念会館」
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よくある質問
刑事法を学ぶと、罪を犯した人の味方をすることになりませんか?
刑事法は、罪を犯した人をかばうためではなく、無実の人を罰しないため、刑罰を正しく使うために学びます。弁護人は疑われた人の権利を守る役割を担い、それが裁判の公正さを支えています。被害を受けた人の支援も、刑事法の大切なテーマです。
検察官や裁判官になるには、どうすればよいですか?
裁判官・検察官・弁護士は、司法試験に合格し、司法修習を終えてなります。司法試験は、法科大学院を修了するか、予備試験に合格すると受けられます。法学部で刑法や刑事訴訟法を学ぶのが、その入り口になります。
