図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 1
公務員
国や都道府県・市町村で、法律や条例の案をつくり、それにもとづいて許可や手続き、住民の相談を受け持つ仕事です。大学で学ぶ憲法・行政法・民法が、毎日の判断の土台になります。

ひとことで言うと
生徒会で校則の見直し案をつくる
「スマートフォンの持ち込みを認めてほしい」という声が出たら、生徒会はほかの校則とぶつからないかを確かめ、文案を整えて全校に諮ります。法律を扱う公務員は、これを国や町の大きさで行います。ルールの案をつくり、決まったルールで一人ひとりの申し込みや相談に答える仕事です。

01
どんな仕事?: ルールを「つくる」と「使う」
日本の法学部は、法律家だけでなく、国や自治体で法律を扱う公務員を数多く送り出してきました。公務員の仕事は、大きく、ルールを「つくる」ことと「使う」ことに分かれます。
国の省庁で働く国家公務員は、社会の課題に合わせて法律の案をつくり、国会での審議に向けた準備をします。法律を実際に動かすための政令や省令の案をつくるのも、省庁の職員です。
都道府県や市町村で働く地方公務員は、住民にいちばん近いところで法律を使います。飲食店の営業の許可、税の計算、子育てや福祉の手当の支給など、窓口の仕事の多くは法律や条例にもとづいています。一つひとつの判断に、法律の根拠が必要です。
国会や裁判所にも、法律を扱う職員がいます。たとえば衆議院法制局は、議員が法律案をつくる活動(議員立法)を補佐する機関です。職員は、法制局が独自に行う公開の試験で採用されます。
法律を「つくる」人と「使う」人がいて、どちらにも法学の力が生きます。
図解法律を扱う 3 つの職場
国の省庁
- 法律や政令の案をつくる
- 国会での審議を準備する
- 全国に通じる制度を動かす
都道府県・市町村
- 条例の案をつくる
- 許可や届出を審査する
- 住民の相談にこたえる
国会・裁判所
- 議員の法律案づくりを手伝う
- 裁判の手続きを支える
- それぞれ独自に職員を採用する

02
法律ができるまで: 条文を 1 文字ずつ確かめる
国会に出される法律案には、内閣が出すものと、議員が出すものがあります。内閣が出す法律案は、まずその分野を受け持つ省庁の職員が第一次案をつくり、関係する省庁と意見を調整します。
次に、内閣法制局が案を審査します。憲法やほかの法律とぶつからないか、ねらいが条文に正確に書けているか、言葉の使い方に誤りはないかを確かめます。内閣が出す法律案は、閣議の前にすべてこの審査を受けます。
閣議で決まった法律案は国会で審議され、衆議院と参議院の両方で可決されると法律になります。成立した法律は、官報に載せて公布され、国民が知ることのできる状態になります。
条文の言葉は、何十年も使われ、裁判でも 1 文字ずつ読まれます。「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」の使い分けまで決まりがあり、文章を正確に組み立てる力が問われる仕事です。
条文の 1 文字まで確かめる作業が、法律の信頼を支えています。
図解内閣が出す法律案ができるまで
- 1原案をつくる受け持つ省庁が第一次案を書く
- 2省庁間で調整関係する省庁と意見を合わせる
- 3法制局の審査憲法や他の法律との関係を確かめる
- 4閣議で決める内閣総理大臣が国会に出す
- 5国会で審議衆議院と参議院で可決して成立
- 6公布する官報に載せて国民に知らせる


03
まちのルールをつくる: 条例と窓口の仕事
都道府県や市町村は、法律の範囲内で、独自のルールである条例をつくれます(憲法 94 条)。条例は議会で決まり、その地域のルールとして働きます。
よく知られた例が、自転車保険の条例です。自転車に乗る人が加害者となり、高額の賠償を求められる事故が起きていました。そこで兵庫県は 2015 年 10 月、条例で自転車保険への加入を義務づけました。
条例による義務化はこれが初めてで、国土交通省によると、2024 年 4 月 1 日の時点で 34 の都府県に広がっています。条例ができたあとも、保険の入り方を知らせたり、自転車店に加入の確認を求めたりと、ルールを動かす仕事が続きます。
窓口の仕事でも法学は欠かせません。申請を断るときは、法律にもとづいて理由を示す必要があります。大学で学ぶ行政法は、こうした役所の判断のルールを学ぶ科目です。
条例づくりも窓口の判断も、法律の根拠を確かめるところから始まります。
図解条例ができるまで(兵庫県の自転車保険)
- 1被害を受けた人を救うしくみを考える
- 2職員が条例の案をつくる
- 3県議会で話し合って決める
- 4保険の入り方を県民や自転車店に知らせる


04
市役所で法規を担当する職員の 1 日(例)
多くの市役所には、条例や規則の案を確かめたり、ほかの課からの法律の相談に答えたりする部署があります。ここでは、法規を担当する若手職員の 1 日の例を紹介します。部署の名前や仕事の分け方は、自治体によって異なります。
ほかの課からは「この申請は断ってよいか」「この契約書で問題はないか」といった相談が届きます。法律や過去の判決を調べて答え、判断の難しいものは市の顧問弁護士の意見も聞きます。
議会が開かれる前は、市が議会に出す条例案の最終確認で忙しくなります。言葉 1 つで意味が変わるため、ほかの条例と食い違いがないかを何度も読み合わせます。
条文を丁寧に読む力と、相手に分かりやすく伝える力の両方が求められます。
図解市役所の法規担当の 1 日(例)
- 8:30相談を整理する各課から届いた質問を読む
- 9:30条例案の審査言葉や他の条例との関係を確かめる
- 12:00昼休み
- 13:00法律の相談申請を受けた課と対応を話し合う
- 15:00弁護士と相談判断の難しい案件の意見を聞く
- 16:30資料づくり議会に出す議案をまとめる

05
入り方: 公務員試験と法学のつながり
国家公務員になるには、人事院が行う採用試験に合格し、各省庁の面接などを受けて採用が決まります。政策の企画を担う総合職試験(大卒程度)には「法律」の区分があります。2026 年度は 3 月 15 日に第 1 次試験があり、5 月 29 日に最終合格が発表されました。
法律区分の専門試験(選択式)では、憲法・行政法・民法の 31 題が全員の解く必須問題です。残りは商法・刑法・労働法・国際法などから選びます。記述式でも、憲法・行政法・民法などから 2 題を選んで答えます。
地方公務員は、都道府県や市町村ごとの採用試験を受けます。試験の内容は自治体によって異なるので、受けたい自治体の採用案内で確かめます。国会の法制局や裁判所の職員も、それぞれ独自の試験で採用されます。
入ったあとは、数年ごとに部署を移りながら経験を積みます。法律づくりや法規の担当を重ねて、法律の専門家として力を伸ばす人もいます。条文を読むのが好きな人、人の話を聞いて筋道を立てるのが得意な人に向いています。
大学で学ぶ憲法・行政法・民法が、試験と仕事の両方の土台になります。
高校生のうちに試せること
国会を見学する
参議院では、平日の午前 9 時から午後 4 時まで、毎時ちょうどに見学の案内をしています。9 人以下なら予約はいらず、かかる時間はおよそ 60 分です。法律が決まる場所を、自分の目で見てみましょう。
参観(参議院)パブリックコメントを読む
国の省庁は、政令や省令などを決める前に案を公表し、広く意見を募ります。e-Gov のサイトで、いま意見を募っている案を 1 つ選んで読んでみましょう。意見を出せる期間は、原則として 30 日以上です。
パブリックコメント(e-Gov)市町村の議会を傍聴する
住んでいる市町村の議会のホームページで、傍聴の方法と日程を調べてみましょう。条例の案や予算が、議員と職員のやりとりでどう話し合われるかが分かります。
「公務員」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 13 件から探せます。
よくある質問
法学部でないと、公務員にはなれませんか?
なれます。採用試験に学部の決まりはなく、経済学部や文学部、理系の学部から入る人もいます。法律を扱う部署では、入ってからの研修や実務で法律を学んでいきます。
国家公務員と地方公務員では、法律との関わり方はどう違いますか?
国家公務員は、全国に通じる法律や政令の案をつくる仕事が中心です。地方公務員は、法律や条例を使って、住民一人ひとりの申請や相談に答える仕事が多くなります。自治体の条例づくりに関わることもあります。
法律の案は、本当に公務員が書いているのですか?
内閣が出す法律案は、その分野を受け持つ省庁の職員が第一次案を書き、内閣法制局の審査を受けます。議員が出す法律案は、衆議院や参議院の法制局が立案を補佐します。