
ひとことで言うと
タイムカプセルの手紙を読むように
10 年前に埋めたタイムカプセルの手紙には、当時のはやりの言葉や悩みがそのまま残っています。日本の文学の作品も、昔の人が残した言葉のタイムカプセルです。言葉の意味と時代の背景を手がかりに、書いた人が伝えたかったことを読み取ります。

01
古典文学: 1000 年前の物語が、いまも読まれている
『源氏物語』は、平安時代の半ばに紫式部が書いた、54 帖(巻)からなる長い物語です。光源氏の一生と、その次の世代の人々の恋や悩みを描いています。
紫式部の日記には、1008 年(寛弘 5 年)11 月 1 日の宴の場面があります。貴族の藤原公任が、紫式部たちのいるあたりで「このわたりに若紫やさぶらふ」と声をかけたのです。「このあたりに若紫はいませんか」という意味で、若紫は物語のヒロインの一人です。物語がすでに宮廷で読まれていたことがわかる記録です。この日付にちなんで、2012 年にできた法律で 11 月 1 日が古典の日と定められました。
大学の古典文学の授業では、注釈書や古語辞典を手がかりに、原文を一語ずつ読みます。高校の教科書で「春はあけぼの」を読んだ『枕草子』には、「にくきもの」(腹が立つもの)を次々に並べた段もあります。いまの「あるある」に近い書きぶりに驚く人も多いはずです。和歌や衣装、年中行事を調べると、平安時代の暮らしが目の前に浮かんできます。
千年前の物語も、言葉と時代の背景を手がかりにすれば、いまの私たちが読み解けます。
図解日本の文学の時代の分け方
- 1上代(奈良まで)『古事記』『万葉集』
- 2中古(平安)『源氏物語』『枕草子』『古今和歌集』
- 3中世(鎌倉〜室町)『平家物語』『徒然草』、能
- 4近世(江戸)芭蕉の俳諧、西鶴の小説、近松の浄瑠璃
- 5近代・現代漱石・鷗外から、いまの小説まで


02
近代・現代文学: 話すように書く、という挑戦
明治の初めまで、小説は話し言葉とは違う書き言葉(文語)で書かれていました。1887 年に第 1 編が出た二葉亭四迷の『浮雲』は、話し言葉に近い言文一致体で書かれた最初の近代小説とされます。いま私たちが当たり前に読み書きしている文章は、明治の作家たちの試行錯誤から生まれました。
夏目漱石の『吾輩は猫である』は、1905 年 1 月から雑誌『ホトトギス』に載りました。読者の人気を受けて 11 回まで書き継がれ、漱石の最初の長編小説になりました。作家の手書きの原稿、雑誌に載った形、本になった形を比べて、どこが書き直されたかを調べるのも、近代文学の研究の大事な方法です。
いまの作品も研究の対象です。1935 年に始まった芥川賞・直木賞は、いまも年に 2 回選ばれ、ニュースで話題になります。多くの大学では、明治から現在までの作品を、作家の生涯や当時の新聞・雑誌、社会の出来事と合わせて読み解きます。ゼミで同じ作品を読んでも、人によって心に残る一文が違い、話し合うほど読みが深まります。
いま当たり前の「話すように書く」文章は、明治の作家たちの挑戦から生まれました。
図解文語と言文一致体
文語(明治の初めまで)
- 「〜なり」「〜けり」などで文を結ぶ
- 書き言葉と話し言葉が別々
言文一致体(明治から)
- 「〜だ」「〜です」などで文を結ぶ
- 話すように書くので、だれでも読みやすい


03
漢文学: 日本の文学は、漢字とともに育った
もともと日本語には文字がなく、中国から伝わった漢字を使って書き表してきました。『万葉集』の歌は漢字だけで書かれていて、漢字の音を借りて日本語の音を表す万葉仮名が使われています。ひらがなとカタカナも、漢字をもとに生まれた文字です。
奈良時代には、日本人が作った漢詩を集めた『懐風藻』(751 年)が編まれました。平安時代の貴族にとっても、漢詩と漢文は欠かせない教養でした。中国の文章に返り点や送り仮名を付けて、日本語の語順で読む「訓読」は、日本で工夫を重ねてきた読み方です。
2019 年 4 月に発表された元号「令和」は、『万葉集』巻五の、梅の花の歌 32 首の序文から取られました。それまでの元号は中国の古典から取られてきたため、日本の古典が典拠になったのは、確認できる限り初めてです。ただ、この序文そのものは漢文で書かれています。日本の文学を深く読むには、漢文学の知識が欠かせません。
日本の文学を深く読むには、漢字と漢文の知識が土台になります。
図解漢詩を訓読してみる
- 1返り点を付けて、読む順番を決める
- 2「覚」と「暁」の順番を入れかえて読む
- 3送り仮名を補って、日本語の文にする


04
日本語学: いつも使う言葉に、発見がある
日本語学は、文学作品だけでなく、私たちが毎日話す日本語そのものを調べる分野です。発音、文法、言葉の意味、敬語、方言、そしてそれらが時代とともにどう変わってきたかを研究します。
たとえば、室町時代の資料に「母には二度会ったけれど、父には一度も会わないもの」というなぞなぞが残っています。答えは「くちびる」です。当時の「母」は「ファファ」に近い音で、言うと唇が 2 回合わさったと考えられています。録音のない時代の発音を、こうした手がかりから推理していきます。
言葉の意味の移り変わりも調べます。文化庁の令和 7 年度「国語に関する世論調査」(2026 年 10 月公表)では、「流れに棹さす」の意味を尋ねています。本来の意味とされてきた「傾向に乗って勢いを増す」を選んだ人は 22.7% でした。68.9% の人は、反対の意味の「傾向に逆らって勢いを失わせる」を選んでいます。日本語学では、こうした変化を「誤り」と決めつけず、なぜ起きるのかを考えます。
国立国語研究所の「少納言」では、本や新聞、ブログなどから集めた 1 億語を超える日本語のデータを、登録なしで検索できます。気になる言葉が実際にどう使われているか、例を集めて確かめるのが、日本語学の研究の第一歩です。
毎日使っている日本語にも、調べるほど新しい発見があります。
高校生のうちに試せること
明治の小説の書き出しを読み比べる
著作権の切れた作品を無料で読める青空文庫で、二葉亭四迷の『浮雲』と夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭を読み比べてみましょう。文の終わり方や言葉づかいの違いを書き出すと、言文一致の歩みが見えてきます。
青空文庫「国語に関する世論調査」に答えてみる
文化庁が公表している調査結果の資料には、実際の質問と答えの割合が載っています。家族や友だちと同じ質問に答えて、世代によって答えが分かれるかを比べてみましょう。
文化庁 令和 7 年度「国語に関する世論調査」の結果「少納言」で言葉の使われ方を調べる
国立国語研究所の「少納言」で、気になる言葉を検索してみましょう。たとえば「やばい」を調べると、本やブログでどんな意味で使われてきたかを、実際の例で確かめられます。
少納言(現代日本語書き言葉均衡コーパス)
「日本の文学」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 452 件から探せます。
日本文学語学分野
広島大学(広島県)
人間社会科学研究科 人文学プログラム・日本文学語学・下岡 友加 教授
近代から中古中世までの日本文学と、日本語学・日本語史を研究している。
日本語日本文学研究室
熊本大学(熊本県)
文学部 東アジア言語文化学コース・日本語学・日本文学
日本語の歴史や方言、古代から近代までの日本の文学作品を研究する。
中国文学語学分野
広島大学(広島県)
人間社会科学研究科 人文学プログラム・中国文学語学・川島 優子 教授
明清の白話小説など、中国の古典文学を研究している。
漢文学研究室
岡山理科大学(岡山県)
日本文学・文化研究室
石巻専修大学(宮城県)
日本語学研究室
岡山理科大学(岡山県)
よくある質問
古文や漢文が苦手でも、日本文学科に入れますか?
入れます。多くの大学では、1・2 年生のうちに古文・漢文の読み方を基礎から学ぶ授業があります。近代・現代の文学や日本語学を中心に学ぶこともできます。高校の古典の文法を見直しておくと、授業に入りやすくなります。
日本文学科と国文学科は、何が違いますか?
主に名前の違いで、どちらも日本の文学と日本語を学ぶ学科です。学べる時代の幅や、日本語学・日本語教育の授業の多さは大学によって異なります。志望する大学のカリキュラムと教員の専門を確かめてください。
日本語学と日本語教育は、どう違いますか?
日本語学は、日本語の発音・文法・語彙・歴史などのしくみを調べる学問です。日本語教育は、日本語を母語としない人に日本語を教える方法を学ぶ分野で、日本語学の知識が土台になります。両方を学べる大学もあります。