図 1 文学の広がり文学の広がり 4
文学の理論と比較
世界の昔話には、なぜ似た話が多いのでしょう。物語はどんな部品でできているのでしょう。作品を国や言語の枠をこえて比べ、「読む」ということそのものを考える分野です。

ひとことで言うと
サッカーの試合を、戦術で見る
サッカーの試合は、ボールだけを追うより、フォーメーションや戦術に注目すると、勝負の分かれ目が見えてきます。文学の理論は、物語を「型」や「語り方」で見るための道具です。好きな作品がなぜ面白いのかを、言葉で説明できるようになります。

01
物語のしくみ: 昔話は部品の組み合わせ
ロシアの研究者ウラジーミル・プロップは、1928 年の『昔話の形態学』で、ロシアの魔法昔話 100 話を分析しました。話ごとに登場人物や場面は違っても、共通の部品があります。「主人公が家を出る」「助け手から不思議な道具をもらう」「敵と戦って勝つ」などです。プロップは、こうした話の部品(機能)が 31 種類にまとめられ、出てくる順番も決まっていることを示しました。
アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルは、1949 年に『千の顔をもつ英雄』を出しました。世界の神話の英雄に共通する「旅立ち、試練、帰還」の流れを示した本です。映画『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督は、脚本づくりに行き詰まったときにこの本を読み、物語の骨組みを得たと語っています。
日本でよく聞く「起承転結」も、もとは漢詩の絶句(4 句の詩)の組み立て方を表す言葉です。物語のしくみを知ると、好きなマンガやゲームのシナリオがなぜ面白いのかを説明できるようになります。プロップの考え方は、コンピュータで物語を作る研究にも使われています。
物語の型を知ると、好きな作品の面白さを言葉で説明できるようになります。
図解英雄の旅の流れ(簡単にした形)
- 1日常の世界主人公は、まだ自分の力を知らない
- 2冒険への誘い事件や出会いが、旅のきっかけになる
- 3試練と助け手師や仲間に助けられ、試練を越える
- 4最大の試練いちばん大きな敵や困難に向き合う
- 5帰還得たものを持って、元の世界に帰る

02
比較文学: シンデレラは世界中にいる
継母にいじめられた娘が、不思議な助けで晴れ着を手に入れ、落とした靴を手がかりに見つけ出される。この「シンデレラ型」の話は、世界中に伝わっています。フランスのペローは 1697 年に「サンドリヨン(小さなガラスの靴)」として、ドイツのグリム兄弟は「灰かぶり」として書き残しました。
さらに古い例が中国にあります。唐の段成式が 9 世紀に書いた『酉陽雑俎』に、葉限という娘の話があります。葉限は魚の骨の力で晴れ着と金の靴を手に入れ、落とした靴をきっかけに王に見いだされます。シンデレラ型の物語としては、年代のわかる記録で世界で最も古いものとされています。日本の昔話「米福粟福(こめぶくあわぶく)」も、同じ系統の話です。
比較文学は、このように国や言語の違う作品を比べ、似ている理由を考える分野です。話が人や本とともに伝わったのか、別々の場所で似た話が生まれたのかを、資料をもとに調べます。翻訳を通して、外国の作品が日本の作家にどんな影響を与えたかを調べる研究もあります。
似た話を比べると、遠く離れた土地の人々が、同じような物語を語り継いできたことがわかります。
図解3 つのシンデレラ
葉限(中国)
- 9 世紀の『酉陽雑俎』
- 助けるのは魚の骨
- 金の靴を落とし、王が持ち主を探す
ペロー(フランス)
- 1697 年の童話集
- 助けるのは名付け親の仙女
- ガラスの靴を落とし、王子が持ち主を探す
グリム(ドイツ)
- 19 世紀の昔話集
- 助けるのは母の墓の木と鳥
- 金の靴を落とし、王子が持ち主を探す

03
文学理論と批評: 同じ話が、人によって違って見える
芥川龍之介の短編『藪の中』(1922 年)は、藪の中で起きた事件の関係者が、次々に語る形で進みます。木こり、旅の僧、盗人、殺された男の妻、そして巫女の口を借りた男の霊までが登場します。ところが、肝心のところで話が食い違い、何が本当に起きたのかは最後まで明かされません。
黒澤明監督は、この話をもとに映画『羅生門』(1950 年)を作りました。関係者それぞれの食い違う話を、それぞれの視点で描いた映画は、1951 年のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受けました。
文学理論は、こうした「読む」という行為そのものを考える学問です。読み方には、さまざまな立場があります。作者の人生から読む、言葉や語りの形式に注目する、読者の受け取り方から考える、社会や歴史、ジェンダーの視点から読む、などです。日本学術会議の参照基準も、作品を作者や社会、読者との関係の中で精密に読み解く力を重視しています。どの読み方にも、本文の根拠が必要です。
1 つの作品に、正解の読み方が 1 つだけあるわけではありません。
図解1 つの作品の、さまざまな読み方
- 作者から作家の人生や手紙、日記と合わせて読む
- 言葉と形式から語り手、視点、文体のしくみを見る
- 読者から読む人や時代で、受け取り方がどう変わるか
- 社会・歴史から書かれた時代の出来事や制度と結ぶ
- ジェンダーから男女の描かれ方や役割に注目する


04
批評を書く: 「面白い」の理由を言葉にする
文学の理論と比較で身につくのは、作品の面白さを、根拠を示して説明する力です。「なんとなく好き」を、「この場面のこの一文が、前の場面のあの一文と対になっているから面白い」と言いかえる練習をくり返します。
日本学術会議の参照基準は、卒業論文や演習のレポートのほかに、創作、エッセイ、書評、批評、翻訳なども学びの成果として挙げています。本の魅力を 5 分で紹介し合う「ビブリオバトル」のように、読んだ本を人に伝える場も、大学や高校、図書館に広がっています。
作品を根拠とともに語る力は、本の魅力を伝える編集者やライター、書店員の仕事のほか、物語を企画するゲームや映像の仕事でも生かされます。
高校生のうちに試せること
好きな物語を「英雄の旅」で分ける
好きな映画やマンガ、ゲームの物語を、「日常の世界」「冒険への誘い」「試練と助け手」「最大の試練」「帰還」の 5 つに分けて書き出してみましょう。型に当てはまらない部分にこそ、その作品らしさが表れます。
世界の昔話から似た話を探す
図書館で、日本・中国・ヨーロッパの昔話集を 1 冊ずつ借りて、似た話を探してみましょう。同じところと違うところを表にまとめると、比較文学の第一歩になります。
ビブリオバトルに参加する
5 分間で本の魅力を紹介し、聞いた人が「いちばん読みたくなった本」を投票で選ぶ書評ゲームです。公式サイトで、ルールや各地の大会の情報を確かめてみましょう。
ビブリオバトル公式サイト
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よくある質問
文学理論は難しそうです。高校生のうちにできることはありますか?
好きな作品について、「どこが」「なぜ」面白いのかを、本文を引用しながら書いてみることが練習になります。大学の授業でも、理論の本を読むだけでなく、具体的な作品に当てはめて考えます。
比較文学を学ぶには、たくさんの外国語が必要ですか?
最初は日本語と英語で十分です。研究を深めるにつれて、比べたい作品の言語を学ぶ人が多くいます。翻訳を通じて作品がどう受け入れられたかを調べる研究もあります。

