図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 3
3 年: 分野を深める
代数学・幾何学・解析学・確率論のそれぞれで、現代の数学の中心にある理論を学ぶ 1 年です。ルベーグ積分や多様体など、1・2 年の道具を組み合わせた理論に進み、少人数で本を読むセミナー形式の授業も始まります。

ひとことで言うと
基礎練習を終えて、1 曲を通して弾く
音階やリズムの練習を重ねたあとは、いよいよ曲に取り組みます。3 年の数学も同じで、1・2 年で練習した集合や位相、ε-δ 論法を使って、ルベーグ積分や多様体という大きな曲を最後まで弾き通します。曲を通して弾くと、基礎練習の意味も分かってきます。

01
3 年の科目: 4 つの柱を深める
3 年になると、代数学・幾何学・解析学・確率論の各分野で、より専門的な科目が並びます。東京理科大学の数学科の履修モデルでは、3 年に「体とガロワ理論」「微分幾何学」「積分論」「関数論」「確率論」などが置かれています。
代数学では、群・環・体の理論を使って方程式を調べます。古代ギリシャから問われてきた問題に、「定規とコンパスで角を 3 等分できるか」があります。日本学術会議の参照基準によると、19 世紀にこれがガロア群の問題だと分かり、ようやく解けました。ガロア群は、方程式の解を入れ替える操作の群です。答えは「一般にはできない」でした。
参照基準は、選んだ専門の分野は孤立しておらず、ほかの多くの分野と関係しているので、できるだけ多くの分野の講義に出て視野を広げることを勧めています。3 年は選べる科目が増え、自分がどの分野に心ひかれるかが見えてくる時期でもあります。
3 年の科目は、1・2 年で集めた道具を、本格的な理論に組み上げる場です。
図解3 年で学ぶ科目(例)
- 体とガロワ理論方程式を解の入れ替えで調べる
- 微分幾何学曲がった空間を微分で調べる
- 積分論ルベーグ積分と測度
- 関数論複素数の関数の微分と積分
- 確率論偶然を測度の言葉で扱う
- 数学研究少人数で本を読むセミナー

02
ルベーグ積分: 面積の測り方を作り直す
高校で学ぶ積分は、グラフの下を細い長方形に切って足し合わせる考え方で、19 世紀にリーマンが整えたものです。多くの関数ではこれで十分ですが、扱えない関数もあります。
たとえば、x が分数(有理数)なら 1、そうでなければ 0 になる関数を考えます。0 から 1 の範囲をどんなに細かく区切っても、1 になる点と 0 になる点が混ざり、長方形の高さが決まりません。リーマンの積分では、この関数の面積は決められないのです。
フランスのルベーグは、1902 年に博士号を得た研究で、新しい積分を考えました。横軸を区切る代わりに、関数の値ごとに分け、その値をとる点の集まりの「大きさ(測度)」を測ります。この考え方では、先ほどの関数の積分は 0 になります。
ルベーグ自身は、借金を払う場面にたとえています。ポケットのお札や硬貨を見つけた順に渡すのがリーマンの積分、全部取り出して同じ額ごとにまとめてから渡すのが自分の積分だ、というものです。測度の理論は、のちに確率論の土台としても大きな意味をもちました。
見方を変えると、それまで測れなかった面積まで測れるようになります。
図解2 つの積分の考え方
リーマン積分
- 横軸(x)を細かく区切る
- 細い長方形の面積を足し合わせる
- お金を見つけた順に払う
ルベーグ積分
- 関数の値で分けて考える
- 同じ値をとる点の集まりを測る
- 同じ額ごとにまとめて払う

03
多様体と微分形式: 高校の公式が大きく広がる
幾何学では、曲がった空間を微分積分で調べる多様体の理論を学びます。その出発点の 1 つが、1854 年 6 月 10 日にリーマンが行った幾何学の講演です。
大学で教える資格を得るための講演で、リーマンは電気の題を 2 つ、幾何学の題を 1 つ用意しました。3 つから 1 つを選んだのはガウスで、リーマンの予想に反して幾何学が選ばれました。この講演から育った理論は、のちにアインシュタインの一般相対性理論の枠組みになりました。
3 年では、多様体の上で微分や積分をするための「微分形式」も学びます。高校で習った微積分の基本定理は、f′(x) を a から b まで積分すると f(b) − f(a) になる、という式でした。微分形式を学ぶと、この式がストークスの定理という大きな定理の、いちばん簡単な場合だと分かります。
区間の両端で値を引く式と、曲面のふちで積分する式が、同じ 1 つの定理の別の顔だと見えた瞬間は、3 年で味わえる「わかった!」の代表です。
高校の公式が大きな理論の一部だと分かると、1 つの式の見え方が変わります。
図解微積分の基本定理からストークスの定理へ
- 1微積分の基本定理区間の中の積分を、両端の値で表す
- 2グリーンの定理平面の領域の積分を、ふちの線で表す
- 3ガウスの発散定理立体の中の積分を、表面で表す
- 4ストークスの定理多様体の中の積分を、ふちで表す


04
演習から講究へ: 本を 1 冊読み通す
参照基準によると、演習の比重は学年が進むにつれて軽くなり、最先端の内容に近づくことへ重心が移っていきます。3 年は、その切り替わりの時期です。
3 年から、少人数で本を読むセミナー形式の授業を置く大学もあります。東京理科大学の数学科では、3 年で専門分野に分かれる「数学研究 1・2」を置いています。東北大学の数学科では、3 年の後期に、興味のある分野の本を希望する先生の指導のもとで半年かけて読む「数学講究」があります(希望者のみ)。
セミナー形式では、1 冊の本を読み込み、分かったことを先生や同級生に自分の言葉で説明します。演習で 1 問を説明するのと違い、前の章の定理がどこで使われているかまで答えられるように準備します。
3 年のうちに、本を自分で読み進めて人に説明する経験をすると、4 年のセミナーに入りやすくなります。
図解3 年生の 1 週間(例)
- 月体とガロワ理論体の拡大で作図の問題を考える
- 火積分論・演習測度の性質を黒板で証明する
- 水微分幾何学曲面の曲がり方を計算する
- 木確率論・英語大数の法則を証明で確かめる
- 金数学講究担当の節を黒板で説明する
- 土・日講究の準備本の数ページを計算しながら読む


05
セミナーを選ぶ: 4 年への準備
3 年の終わりごろには、4 年で所属するセミナー(研究室)を考え始めます。東北大学の数学科では、4 年から代数学・幾何学・解析学・確率論と応用数学などの専門分野に分かれ、1 年間かけて先生や仲間と欧文の専門書を読み込みます。
選ぶときの手がかりは、3 年の講義で「もっと知りたい」と感じた分野です。気になる先生の講義に出たり、4 年生の先輩に、セミナーで読んでいる本や進め方を聞いたりすると、4 年の 1 年間を想像しやすくなります。
大学院に進むか、先生になるか、企業で働くかを考え始めるのもこの時期です。東北大学の数学科の案内(2022 年)では、大学院の入試は 4 年の 8 月です。3 年のうちに情報を集めておくと、4 年の春から慌てずに済みます。
高校生のうちに試せること
表計算ソフトで面積に近づく
y = x² のグラフの 0 から 1 までの面積を、10 等分・100 等分・1,000 等分の長方形で計算しましょう。値が 1/3 に近づいていく様子が見えます。高校の積分(リーマン積分)の考え方を、自分の手で確かめられます。
微積分の基本定理を数で確かめる
f(x) = x² のとき、f′(x) = 2x を 1 から 3 まで積分した値と、f(3) − f(1) を両方計算し、どちらも 8 になることを確かめましょう。区間を 2 つに分けても同じになる理由を考えると、ストークスの定理の入口に立てます。
東北大学の「数学クイズ 2026」に挑む
東北大学 理学部数学科のオープンキャンパスでは、確率論をテーマにした数学クイズが公開されています。公平な賭けや破産の確率など、3 年の確率論につながる問題です。
数学クイズ 2026(東北大学)
「3 年: 分野を深める」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 21 件から探せます。
大井研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・関数解析学・大井 志穂 准教授
Banach環の間の写像が距離や代数構造を保つときに何が言えるかという保存問題を研究する。
三浦研究室
新潟大学(新潟県)
理学部 理学科 数学プログラム・関数解析学・三浦 毅 教授
関数環や可換Banach環の上で、スペクトルや距離を保つ写像の構造を調べる。

解析学
岡山大学(岡山県)
工学部 情報・電気・数理データサイエンス系 数理データサイエンスコース・確率論・河本 陽介 准教授
確率論を中心に、ランダム行列の理論と応用を研究する。
確率解析
熊本大学(熊本県)
工学部 機械数理工学科 数理工学教育プログラム・確率論・金大弘 教授
ランダムな現象を確率モデルで表し、理論と工学への応用を研究する。

整数論研究室
東京都市大学(東京都)
整数論研究室
大阪工業大学(大阪府)
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
3 年で分野を 1 つに絞る必要がありますか?
大学によって異なりますが、3 年は幅広く学ぶ時期です。日本学術会議の参照基準も、専門の分野は孤立しておらず、できるだけ多くの分野の講義に出て視野を広げることを勧めています。多くの大学では、4 年のセミナーを選ぶときに分野が決まります。
ルベーグ積分は、数学以外でも使われますか?
使われます。ルベーグ積分の土台である測度の理論は、確率論の基礎になっています。確率論は統計学や金融の数理、物理学などの土台なので、ルベーグ積分はそれらを深く学ぶときの共通の道具です。
セミナー形式の授業は、3 年からありますか?
大学によって異なります。東京理科大学の数学科では 3 年に「数学研究 1・2」があり、東北大学の数学科では 3 年の後期に、希望者が受ける「数学講究」があります。4 年のセミナーから始まる大学も多くあります。
