大学カタログ

図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 1

1 年: 基礎をかためる

高校で学んだ微分積分と行列を、定義と証明から組み立て直す 1 年です。「限りなく近づく」を言葉にする ε-δ 論法や、背理法などの証明の書き方を身につけ、2 年からの数学の土台をつくります。

大きな講義室で黒板の曲線の図を見つめる新入生たちと、演習の教室で黒板の前に立って解き方を説明する学生

ひとことで言うと

競技のルールブックを 1 行目から読み直す

高校までは、試合をしながらルールを覚えてきました。大学 1 年では、ルールブックを 1 行目から読み、なぜその決まりがあるのかまで確かめます。ここで読み込んだ人ほど、2 年からの抽象的な数学で迷わずに進めます。

01

1 年の科目: 高校の微分積分と行列を定義から

多くの大学では、1 年の数学の中心は微分積分学と線形代数学です。名古屋大学の理学部では、1 年の春に極限と連続性、1 変数関数の微積分、線形代数の基礎を学びます。秋には多変数関数の微積分に進みます。

内容は高校の数学 III や数学 C と重なりますが、進め方が違います。高校では、公式を使って答えを出す練習が中心でした。大学では、実数とは何か、極限とは何かを定義し直し、そこから公式を証明していきます。

東京理科大学の数学科のように、1 年に「論理と集合」を置く大学もあります。「すべての」「ある」といった言葉の使い方や集合の記号を学び、証明を正しく書くための文法を身につけます。名古屋大学の「数学展望」のように、現代の数学の考え方を例で紹介する授業もあります。

日本学術会議の参照基準は、大学の数学の学び方を、講義・演習・少人数のセミナーの 3 つの柱で説明しています。1 年は講義と演習が中心で、講義で聞いたことを、演習で自分の手で確かめるくり返しが続きます。

1 年の科目は、公式を「使う」側から「なぜ成り立つかを確かめる」側へ移るための準備です。

図解1 年で学ぶ専門の科目(例)

1 年の専門科目
  • 微分積分学極限・微分・積分を定義から学ぶ
  • 線形代数学行列・ベクトル・連立方程式
  • 論理と集合証明を書くための言葉と記号
  • 数学展望現代の数学の考え方を例で知る
  • 数学演習問題を解いて理解を確かめる
  • コンピュータ入門計算機で数学を試す
黒板何枚分にも式が書かれた大学の講義室と、後ろから見た受講生たち
フィンランドのヘルシンキ工科大学での数学の講義。大学の講義では、黒板何枚分もの式や図を順に書きながら説明が進みます。写真: Tungsten(Public domain・Wikimedia Commons)

02

ε-δ 論法: 「限りなく近づく」を言葉にする

高校の数学 III では、「x を a に限りなく近づけると、f(x) は b に限りなく近づく」と習います。大学では、この「限りなく」を ε-δ 論法で言い直します。まず、どんなに小さな正の数 ε を出されてもよいとします。それに応じて正の数 δ をうまく選ぶと、x と a の差が δ より小さいとき、f(x) と b の差が ε より小さくなる。近さの注文に必ず応えられることを示す形です。

たとえば「x を 1 に近づけると 2x + 1 は 3 に近づく」なら、δ を ε の半分に選びます。2x + 1 と 3 の差は、x と 1 の差のちょうど 2 倍です。そのため、x と 1 の差が δ より小さければ、2x + 1 と 3 の差は ε より小さくなります。

なぜそこまで厳密にするのでしょうか。1 つは、直感が外れることがあるからです。1872 年、ドイツのワイエルシュトラスは、グラフがどこもつながっているのに、どの点でも微分できない関数を見つけました。「つながった曲線なら、ほとんどの点で接線が引ける」という直感は、正しくなかったのです。

もう 1 つは、数学の対象は現実の世界にないため、実験では確かめられないからです。参照基準も、数学では公理や定義から論理を使って結果を導くと説明しています。いったん証明されたことは、時代が変わっても正しいままです。

ε-δ 論法は、高校で使ってきた公式を、自分の手で証明し直すための道具です。

図解高校と大学の「極限」

高校

  • 「限りなく近づく」と言葉で表す
  • グラフを見て直感で納得する
  • 公式を使って極限の値を求める

大学(ε-δ 論法)

  • 近さを ε と δ の数で表す
  • どんな ε にも応えられることを示す
  • 公式がなぜ成り立つかを証明する
椅子に腰かけた白髪の老紳士を描いた油絵(ワイエルシュトラスの肖像)
カール・ワイエルシュトラス(1815〜1897 年)。1842 年から中等学校の先生として働きながら研究を続け、1854 年の論文で一躍知られるようになりました。解析学を厳密に組み立て直したことで知られます。写真: Conrad Fehr(Public domain・Wikimedia Commons)

03

証明を書く: √2 が分数で表せない理由

大学の数学では、答えの数字よりも、なぜそうなるかを示す証明が主役になります。最初に出会う代表的な方法の 1 つが背理法です。示したいことが成り立たないと仮定して、そこから矛盾が出ることを確かめます。

下の図は、√2 が分数で表せない(無理数である)ことの証明です。高校の教科書にも背理法の例として出てくる証明ですが、大学では「奇数の 2 乗は奇数」のような途中の 1 行にも、理由を言えることが求められます。

1 行ずつ根拠を確かめていくと、「なんとなく分かった」が「人に説明できる」に変わります。同じ形の証明は √3 でも通りますが、√4 = 2 ではどこかで必ず止まります。どの行で止まるかを探すと、証明の仕組みがよく見えてきます。

証明は、1 行ずつ根拠を言えるようにすると、自分のものになります。

図解√2 が分数で表せないことの証明(背理法)

入力√2 = p/q(これ以上約分できない分数)と仮定する
  1. 12 乗すると p² = 2q²。p² は偶数
  2. 2奇数の 2 乗は奇数なので、p は偶数
  3. 3p = 2k とおくと q² = 2k²。q も偶数
  4. 4p と q は 2 で約分でき、仮定に反する
結果√2 は分数で表せない(無理数である)

04

演習と 1 週間: 黒板の前で解き方を話す

数学科の時間割には、講義とは別に「演習」の時間があります。参照基準は、演習問題を前もって自分の力で解いてみることで、講義で学んだことの本質が見えてくると説明しています。

進め方は授業によって違います。線形代数を題材にした東京大学の演習(2010 年度冬学期)では、問題を黒板の前で発表する形で解きました。1 人 2 回以上、1 回 10 分ほど発表する決まりで、友だちと 2 人で分担してもよいとされていました。

黒板の前に立つと、ノートでは分かったつもりだった所が、うまく説明できないことに気づきます。先生や TA(ティーチング・アシスタント)の質問に答えて直していくうちに、自分の証明を、人に伝わる形に整える力がついていきます。

下の図は、数学科の 1 年生の 1 週間の例です。英語や教養の科目も並ぶので、空きコマや週末に演習の予習・復習をする人が多くなります。参照基準は、講義に出るだけで理解できることはまれで、予習・復習が欠かせないとしています。

演習では、解けた問題より、解けなかった問題を見直す時間が力になります。

図解1 年生の 1 週間(例)

  1. 月微分積分学・英語ε-δ 論法で極限を定義する
  2. 火線形代数学・教養行列で連立方程式を解く
  3. 水数学演習黒板の前で解き方を発表する
  4. 木論理と集合・体育「すべての」「ある」を使い分ける
  5. 金コンピュータ入門計算機で数列の極限を試す
  6. 土・日復習・サークル解けなかった問題を見直す

05

つまずきやすい点と乗り越え方

1 年で多くの人がつまずくのは、ε-δ 論法です。「どんな ε に対しても、ある δ がある」の順番が入れ替わると、意味がまったく変わってしまいます。最初は文の形をそのまま書き写し、ε に 0.1 や 0.01 を入れて試すと、何を求められているかが見えてきます。

もう 1 つの壁は、「当たり前」に見えることの証明です。高校では使ってよかった性質を、大学では 1 つずつ確かめます。遠回りに見えますが、2 年からの抽象的な数学では、この確かめ方そのものが道具になります。

分からない点は、早めに聞くのが近道です。名古屋大学の数学教室には、数学者ヒルベルトにちなんだ「カフェ・ダヴィッド」があります。コーヒーを飲みながら、学部生・大学院生・教員が気軽に質問や議論をする場所で、大学院生の TA が手伝うオフィスアワーも開かれています。

分からないと言える人ほど、数学は伸びます。同じところで引っかかっている人は、たいてい教室にほかにもいます。

クイズ1 年の学びクイズ

このページで紹介した内容から出題します。

  1. Q1ワイエルシュトラスが 1872 年に見つけたのは、どんな関数?

  2. Q2√2 が分数で表せないことを示すときに使う、証明の方法は?

  3. Q3日本学術会議の参照基準が、数学を学ぶ方法の 3 つの柱として挙げるのは?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • √3 と √4 で背理法を試す

    √2 の証明をまねて、√3 が分数で表せないことを証明しましょう。次に同じ手順を √4 で試し、どの行で証明が止まるかを探すと、証明の仕組みが見えてきます。

  • ε と δ を数で探す

    「x を 1 に近づけると 2x + 1 は 3 に近づく」で、ε が 0.1 や 0.01 のとき、x と 1 の差をどこまで小さくすればよいかを計算しましょう。慣れたら、x² が 1 に近づく場合でも試してみてください。

  • 東北大学の数学クイズを解く

    東北大学 理学部数学科のオープンキャンパスのページでは、「数学クイズ」の問題と解説が年度ごとに公開されています。解けたら、答えだけでなく、なぜそうなるかを文章で書いてみましょう。

    東北大学 数学科 オープンキャンパス

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よくある質問

ε-δ 論法が分からないままでも、2 年に進めますか?

ε-δ 論法は、1 年でつまずく人が多い考え方です。具体的な数を入れて試したり、演習で何度も書いたりするうちに、少しずつ慣れていきます。2 年以降の講義でもくり返し使うので、使いながら身につけていくこともできます。

プログラミングも学びますか?

大学によって異なります。東京理科大学の数学科のように、1 年に「コンピュータ入門」を置く大学もあります。日本学術会議の参照基準も、プログラミングや数式処理の基本を身につける計算機の実習が必要だとしています。

高校で習った公式は、大学でも使えますか?

使えます。ただし大学では、その公式がなぜ成り立つのかを、定義から証明し直します。証明を一度自分で書くと、公式をどんな条件のときに使ってよいかも分かるようになります。