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図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 1

乗り物の設計・開発

自動車・鉄道・航空機の車体や足まわり、エンジンを設計し、試作と試験をくり返して性能と安全を確かめる仕事です。4 つの力学がすべて使われる、機械工学の代表的な仕事の一つです。

テストコースを走り出す試作の小型車と、台車を載せた大きな試験装置、計測器のグラフを見守る学生と若い技術者たち

ひとことで言うと

試作と味見をくり返す新メニューづくり

新しいメニューは、レシピを考え、試作し、味見をして直すことのくり返しで仕上がります。乗り物の開発も同じです。違うのは、味の代わりに、強さや揺れ、速さを数字で測って確かめることです。

01

どんな仕事?: 設計する人と、試して確かめる人

乗り物の開発では、大きく 2 つの役割の技術者が力を合わせます。設計エンジニアは、コンピュータの 3 次元 CAD で部品の形を決め、強さや重さを計算します。実験・評価エンジニアは、試作した車両を走らせたり、試験装置にかけたりします。狙いどおりの性能が出ているかを測るのが役目です。

1 台の車には、車体、エンジンやモーター、ブレーキ、ばねやタイヤを含む足まわりなど、たくさんの部品があります。担当は部品ごとに分かれ、それぞれの試作と試験の結果を持ち寄って、全体の性能をまとめていきます。

試験の結果が、思ったとおりにならないことも少なくありません。原因を突き止めて設計を直し、もう一度試す。このくり返しの先に、新しい車や車両が初めて走り出す日があります。

設計と試験をくり返して、性能と安全を少しずつ高めていきます。

図解新しい乗り物ができるまで(例)

  1. 1構想どんな乗り物にするかを決める
  2. 2設計CAD で形を決め、強さを計算する
  3. 3試作部品と車両を実際につくる
  4. 4試験走らせ、揺らし、ぶつけて測る
  5. 5量産工場で同じ物をたくさんつくる

02

4 つの力学が生きる場面

乗り物の開発では、大学で学ぶ 4 つの力学がそのまま使われます。材料力学は、車体やフレームがどこまでの力に耐えられるかを計算し、軽くて強い形を決めるのに使います。機械力学は、ばねやダンパーを選び、揺れの少ない乗り心地をつくるのに使います。

流体力学は空気の抵抗を、熱力学はエンジンの効率や、電池やモーターの冷やし方を考えるのに使います。たとえば、空気の抵抗は速さの 2 乗に比例します。時速 50 km から 100 km に上げると、抵抗は 4 倍になります。

抵抗に逆らって走り続けるのに必要な出力(1 秒あたりの仕事)は、抵抗と速さのかけ算で決まります。そのため、速さが 2 倍になると、必要な出力は 8 倍にもなります。速く走る乗り物ほど、空気の流れに合わせた形が大切になるのはこのためです。

強さ・揺れ・流れ・熱を数字で考える力が、乗り物の性能を決めます。

図解速さが 2 倍になると、空気の抵抗は?

入力時速 50 km で走る車を、時速 100 km にする
  1. 1空気の抵抗は速さの 2 乗に比例する
  2. 2速さ 2 倍 → 抵抗は 2 × 2 = 4 倍
  3. 3出力は抵抗 × 速さ → 4 × 2 = 8 倍
結果抵抗は 4 倍、必要な出力は 8 倍
線路の上に置かれた、車輪と太いばね、ブレーキの装置が組み合わさった新幹線 0 系の台車
新幹線 0 系の台車。車輪と車軸の強さ(材料力学)と、ばねで揺れを抑える工夫(機械力学)が、高速で走る車両を支えています。写真: Taisyo(CC BY 3.0・Wikimedia Commons)

03

試して確かめる: 走る前の試験と、ぶつける試験

新幹線の開発では、線路を走らせる前に、建物の中で車輪を回す試験が行われました。1959 年に国鉄が設置した車両試験装置は、レールの代わりになる大きな輪(軌条輪)の上に車輪を載せて回します。上下に揺らすこともでき、台車だけなら時速 350 km まで試せます。

1960 年からは、開発中の東海道新幹線の試作台車をこの装置で試し、その結果から台車の仕様が決まりました。この装置は機械遺産(第 108 号)に認定されています。1990 年には、時速 500 km まで試せる新しい装置もつくられました。

自動車には、売られている新車を実際にぶつける試験があります。自動車アセスメントは、国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)の事業です。1995 年度から衝突の試験を行い、結果を公表しています。いまのフルラップ前面衝突試験では、車を時速 50 km で鉄筋コンクリートの壁(バリヤ)に正面からぶつけます。車内には人の形をしたダミーを乗せ、頭や胸が受ける衝撃を測ります。

試験は、目に見えない強さや安全を数字で確かめる仕事です。

クイズ試験と速さのクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q1自動車アセスメントのフルラップ前面衝突試験で、車を壁にぶつける速さは?

  2. Q2新幹線の開発のため 1959 年に設置された車両試験装置。台車だけなら時速何 km まで試せる?

  3. Q3時速 100 km から 300 km に上げると、空気の抵抗はおよそ何倍になる?

0 / 3 問に回答
試験の準備で、車の前の座席に座らせた 2 体の衝突試験用のダミー
衝突試験の準備で車に乗せられたダミー「ハイブリッドⅢ」(アメリカの試験機関で撮影)。日本の自動車アセスメントでも、同じ種類のダミーが使われています。写真: Calspan(NHTSA)(Public domain・Wikimedia Commons)

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実験・評価エンジニアの 1 日(例)

ここでは、自動車メーカーで乗り心地を評価するエンジニアの 1 日の例を紹介します。試作車にセンサーを取り付け、テストコースで走らせてデータを集めます。

測るのは、車体のあちこちの揺れの大きさや、座席に伝わる振動などです。データをグラフにすると、どの速さのとき、どこが揺れているかが見えてきます。人が乗って感じる乗り心地と、数字の両方で確かめるのがこの仕事の面白さです。

結果は設計エンジニアと共有し、ばねの硬さや部品の形を変えた試作品で、もう一度試します。こうした積み重ねが、走り出したときの静かさや快適さにつながります。

測った数字と、乗った人の感覚の両方で確かめます。

図解実験・評価エンジニアの 1 日(例)

  1. 8:30朝会試験の予定と安全の注意を確認
  2. 9:00センサーの取り付け試作車に揺れを測る機器をつける
  3. 10:30テストコースで走行速さや路面を変えて測る
  4. 12:00昼休み
  5. 13:00データの分析揺れの大きさをグラフにする
  6. 15:30設計者と相談ばねの硬さの変え方を話し合う
  7. 17:00記録試験の報告書をまとめる

05

向いている人と入り方・その先

乗り物が好きなことに加えて、うまくいかないときに原因を一つずつ調べられる人に向いています。大勢の担当者と 1 台を仕上げるため、自分の考えを図や数字で伝える力も大切です。

自動車や鉄道車両、航空機のメーカーで設計や開発に携わるには、機械工学科などで学ぶのが近道です。大学院の修士課程を修了してから入社する人も多くいます。2025 年 3 月に国立大学の機械工学の学部を卒業した人のうち、約 4 人に 3 人が大学院などに進みました(学校基本調査)。

大学では、学生フォーミュラや人力飛行機のチームで、自分たちで車や機体を設計して製作する経験も積めます。入社後は、設計や試験の経験を重ねて、1 つの車種や車両の開発全体をまとめるリーダーを目指す道があります。

大学の力学と、手を動かしてつくる経験の両方が、開発の現場で生きます。

図解乗り物の開発者への道(例)

  1. 1高校物理の力学と数学を固める
  2. 2学部4 つの力学と設計製図を学ぶ
  3. 3修士課程研究室で 2 年間研究する
  4. 4メーカーへ設計や試験の担当になる
  5. 5開発のまとめ役車種や車両の全体を受け持つ

高校生のうちに試せること

  • 紙カップを落として空気の抵抗を確かめる

    お菓子づくり用の紙カップを 1 枚と、4 枚重ねたものを同じ高さから落としてみましょう。4 枚重ねは、およそ 2 倍の速さで落ちます。重さが 4 倍でも速さが 2 倍にとどまるのは、空気の抵抗が速さの 2 乗に比例するからです。

  • 自動車アセスメントの結果を見比べる

    国土交通省と NASVA のサイトでは、車ごとの衝突試験や自動ブレーキの試験の結果を公開しています。大きさの近い車を 2 台選び、評価の違いを比べてみましょう。

    自動車アセスメント(NASVA)
  • 電車の台車を観察する

    駅のホームで、黄色い線の内側から電車の車輪のまわり(台車)を観察しましょう。ばねがどこにいくつあるかを、車両の種類ごとに比べてみてください。揺れを抑えて乗り心地をよくする工夫が見えてきます。

「乗り物の設計・開発」に関連するコミュニティ

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よくある質問

車が好きなら、機械工学科に入るのがよいですか?

車の設計や試験の中心になるのは機械工学です。ただし、いまの車にはモーターや電池、たくさんのコンピュータが使われ、電気電子工学や情報工学の出身者も一緒に働いています。機械工学科でも、制御やプログラミングの科目を学んでおくと仕事の幅が広がります。

電気自動車が増えると、機械工学の出番は減りませんか?

エンジンが電池とモーターに変わっても、車体の強さや乗り心地、空気の抵抗、電池やモーターの冷やし方など、機械工学で考えることは多く残ります。重い電池を積んでも安全で軽い車体をつくるといった、新しい課題も生まれています。

鉄道や飛行機の開発も、機械工学で目指せますか?

目指せます。鉄道車両の台車や車体、航空機の機体やエンジンの設計にも、4 つの力学が欠かせません。航空宇宙を専門に学べる学科やコースを置く大学もあります。