大学カタログ

図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 4

製品開発・研究

家電や医療機器、スポーツ用品など、身近な製品を考えて形にする仕事と、大学院や研究所で新しい技術を生み出す研究の仕事です。使う人の「こうだったらいいのに」を、機械のしくみで実現します。

試作の掃除機、昔の丸い洗濯機の模型、ピッチングマシンの模型、センサーを貼った部品を囲んで改良点を話し合う学生たち

ひとことで言うと

かばんの中で倒れても漏れない水筒

水筒は、かばんの中で倒れても漏れず、朝入れた飲み物を夕方まで冷たく保ちます。ふたのパッキンの形や、真空の層をはさんだ二重の壁など、小さな工夫の積み重ねです。製品開発は、使う人の願いをこうした工夫で形にする仕事です。

01

どんな仕事?: 「あったらいいな」を形にする

製品開発エンジニアは、新しい製品の企画を受けて、中のしくみと形を考えます。機械の担当は、部品の配置や動くしくみを決める機構設計を受け持ちます。回路やソフト、デザインの担当と一緒に、1 つの製品を仕上げます。

設計ができたら試作品をつくり、試験で確かめ、問題があれば設計に戻ります。このくり返しで、製品は少しずつよくなります。コンピュータで強さや流れを計算する CAE や、3D プリンタが広まり、試すまでの時間は短くなっています。

日本の家電づくりは、外国の製品を研究して改良するところから始まりました。1930 年に電気冷蔵庫と電気洗濯機、1931 年に電気掃除機が国産化され、暮らし方を大きく変えました。これらは機械遺産(第 57 号)に認定されています。

設計・試作・試験・改良をくり返す回数が、製品の出来を左右します。

図解製品がよくなるくり返し

  1. 1設計形と動くしくみを決める
  2. 2試作部品を実際につくって組む
  3. 3試験壊れないか、使いやすいか
  4. 4改良原因を探して設計を直す
展示台に並ぶ、昔の白い冷蔵庫、脚の付いた丸い洗濯機、柄の長い掃除機
1930 年ごろに国産化された電気冷蔵庫・電気洗濯機・電気掃除機(川崎市の科学館で撮影)。輸入品のしくみを調べ、改良して製品にしました。写真: Dddeco(CC BY 2.5・Wikimedia Commons)

02

身近な製品に生きる機械工学

温水洗浄便座は、日本の暮らしを変えた製品の一つです。1980 年に発売された国産の製品では、洗う位置や水の量、温度、噴射の角度などのデータを一から集めて設計しました。温水の温度を制御するしくみや専用の熱交換器、ノズルをしまうしくみも新しく開発されました(機械遺産 第 55 号)。

スポーツの道具にも機械工学は生きています。1958 年、関東学院大学の斉藤八雄講師が設計したカタパルト式のピッチングマシンがつくられました。圧縮したばねでボールを押し出し、1 分間に 12 球を投げられます。投手 15 人分の働きといわれ、バッティングセンターが全国に広がるきっかけにもなりました(機械遺産 第 109 号)。

医療や福祉の機器では、さらに高い安全性が求められます。体に触れる部分の材料や、くり返し使っても壊れない強さを、試験で一つずつ確かめながら開発します。

使う人をよく観察し、数字に置きかえることが、よい製品の出発点です。

クイズ身近な製品のクイズ

答えを 1 つ選んでください。

  1. Q11958 年につくられたカタパルト式のピッチングマシン。ボールを押し出すのに使ったのは?

  2. Q2このピッチングマシンは、1 分間に何球投げられた?

  3. Q31930 年ごろに国産化された家電に入っていないのは?

0 / 3 問に回答

03

試作と試験: 壊れないかを確かめる

製品は、店に並んでから何年も使われます。そのため開発では、ふつうの使い方より厳しい条件で試験をします。ボタンを何万回も押す、決めた高さから落とす、暑い所や寒い所に置く、といった試験です。

部品にかかる力を測るのに使われるのが、ひずみゲージです。部品に貼ると、わずかな伸び縮みを、電気の抵抗の変化として測れます。日本で初めての国産品は 1951 年に発売されました。1 枚 1,000 円以上した輸入品に対して 86 円と安く、製品開発に広く使われました(機械遺産 第 124 号)。

試験で壊れたら、そこからが腕の見せどころです。壊れた所を観察し、力の計算と照らし合わせて原因を突き止めます。厚みを足すのか、形を変えるのか、材料を変えるのか。重さや値段とのつり合いを考えて、いちばんよい直し方を選びます。

壊れた理由を数字で説明できると、次の試作が一歩よくなります。

図解ケースの強さを確かめる(例)

入力試作した掃除機のケースが、落下試験で割れた
  1. 1割れた場所と割れ方を観察する
  2. 2ひずみゲージで力のかかり方を測る
  3. 3計算で弱い所を確かめ、形を直す
  4. 4直した試作品でもう一度試す
結果軽さを保ったまま、割れにくいケース
金属の板に貼られた、細い線が往復する模様の小さなひずみゲージと 2 本の配線
部品に貼ったひずみゲージ。部品がわずかに伸び縮みすると細い金属の線の電気の抵抗が変わり、その変化からかかった力を求めます。写真: Cristian V.(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

04

製品開発エンジニアの 1 日(例)

ここでは、家電メーカーで掃除機の機構設計を受け持つエンジニアの 1 日の例を紹介します。3 次元の CAD で部品の形を考える仕事と、試作品を手に取って確かめる仕事を行き来します。

新しい製品では、吸い込む力を保ったまま、軽く静かにすることが求められることがあります。風の通り道の形を変えれば流れが変わり、部品を薄くすれば強さが変わります。1 つを変えるとほかに影響するため、担当者どうしの相談が欠かせません。

自分で設計した部品が初めて形になり、試作品が動いたときの手応えは格別です。発売後に、店や家で自分の関わった製品を見かけることも、この仕事の楽しみの一つです。

形にして確かめ、相談して直す。その往復が製品を育てます。

図解製品開発エンジニアの 1 日(例)

  1. 9:00朝会試作と試験の予定を共有する
  2. 9:30CAD で設計部品の形と組み合わせを考える
  3. 12:00昼休み
  4. 13:00試作品の確認3D プリンタの部品を組んでみる
  5. 14:30試験に立ち会う音や強さの測定を見る
  6. 16:00打ち合わせデザインや回路の担当と相談
  7. 17:30記録変更した点を図面に反映する

05

研究職への道と、向いている人

まだない技術を生み出したい人には、研究職の道があります。企業の研究所や国の研究機関、大学で、新しい材料やしくみ、計算の方法を研究します。大学院の修士課程(2 年)を修了して企業の研究所に入る人や、博士課程(3 年)まで進む人がいます。

製品開発も研究も、「なぜ?」を考え続けられる人に向いています。うまくいかない理由を、思いつきではなく実験と計算で確かめる姿勢が大切です。身のまわりの道具を分解して、しくみを確かめるのが好きな人にも合っています。

力試しの資格として、日本機械設計工業会の機械設計技術者試験があります。3 級は実務の経験がなくても受けられ、学生も受験できます。材料力学・機械力学・熱工学・制御工学・機械製図など、大学で学ぶ科目が出題されます。その先には、21 の技術部門がある国家資格の技術士もあります。

卒業研究で「なぜ?」を追いかけた経験が、どちらの道でも生きます。

図解製品開発と研究のちがい

製品開発

  • 発売する製品を仕上げる
  • 期日と値段の中で工夫する
  • 試作と試験をくり返す

研究

  • まだない技術や材料を探す
  • 成果を論文や特許にまとめる
  • 大学院で学んだ人が多い

高校生のうちに試せること

  • 古い道具を分解してしくみを見る

    使わなくなった手回しの鉛筆削りや、ぜんまいのおもちゃなど、電池や電源を使わない物を、家の人の了解を得て分解してみましょう。歯車やばねがどう組み合わさっているかをスケッチすると、機構設計の第一歩になります。

  • 身近な製品の特許を調べる

    特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)では、日本の特許を無料で検索できます。「ピッチングマシン」や「掃除機」などで検索し、図面を見て、どんな工夫が権利になっているかを調べてみましょう。

    J-PlatPat(工業所有権情報・研修館)
  • 近くの機械遺産を探して見に行く

    日本機械学会の機械遺産のサイトでは、地域ごとに機械遺産を探せます。近くの博物館や資料館に展示があれば、実物を見に行きましょう。無料で見学できる所もあります。

    機械遺産をエリアから探す(日本機械学会)

「製品開発・研究」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 69 件から探せます。

研究室をすべて見る(55 件)

よくある質問

製品開発の仕事には、デザインのセンスも必要ですか?

見た目のデザインは、多くの場合デザイナーが受け持ちます。機械の担当は、デザインを生かしながら、中のしくみが収まり、壊れずに動くように設計します。デザイナーと話し合える程度に、形や使いやすさに関心があると仕事を進めやすくなります。

医療機器の開発には、医学の知識も必要ですか?

医師や看護師の話を聞きながら開発するため、体のしくみの基礎は必要に応じて学びます。大学によっては、機械工学と医学を組み合わせた医工学や生体工学の研究室もあります。

文房具や家具の会社でも、機械工学は生きますか?

生きます。ペンの芯を出すしくみや、いすの背もたれが倒れるしくみも機械の設計です。身近な製品ほど、多くの人が毎日使っても壊れない工夫が詰まっています。