図 1 医学の広がり医学の広がり 1
からだのしくみ
心臓は休まずに動き続け、体温はほぼ一定に保たれています。からだの形・はたらき・化学反応・細胞を調べる解剖学・生理学・生化学・組織学は、病気を理解するための土台になる分野です。

ひとことで言うと
故障を直すには、まず正常な動きを知る
自転車がきしむ原因を探すとき、チェーンやブレーキの正常な動きを知らなければ、どこがおかしいのか分かりません。医学も同じで、病気を学ぶ前に、健康なからだがどう動いているかを学びます。それが「からだのしくみ」の分野です。

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解剖学: からだの地図を、自分の目で確かめる
解剖学は、からだのどこにどんな形の器官があり、どうつながっているかを学ぶ分野です。骨や筋肉、心臓や肺、血管や神経の位置と名前を一つひとつ覚えていきます。手術でも画像の診断でも、からだの地図が頭に入っていることが出発点になります。
近代の解剖学を開いたのは、ブリュッセル生まれの医師ヴェサリウスです。1543 年、20 代の若さで、精密な図を多く載せた『人体の構造について』(ファブリカ)をスイスのバーゼルで出しました。当時重んじられていた古代ローマの医師ガレノスの説には、誤りがありました。ヴェサリウスは、ガレノスが人体を解剖していなかったためだと考え、自分の手で解剖して約 200 の誤りを正したといわれます。
いまでは、CT や MRI でからだの断面を画像にして見ることもできます。画像を読むときも、どの断面に何が写るのかという、立体のからだの地図が頭に入っていることが大切です。実際のからだから学ぶ人体解剖実習も、多くの大学で行われています。
どの専門に進んでも、からだの地図は一生使う基本の知識です。
図解からだを見る 5 つの大きさ
- からだ全体骨格・筋肉・器官の位置(解剖学)
- 器官心臓・肺・胃など、はたらきのまとまり
- 組織似た細胞の集まり(組織学)
- 細胞からだをつくる基本の単位
- 分子たんぱく質や糖の化学反応(生化学)


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生理学: 心臓の「ドッ・クン」は、弁が閉じる音
生理学は、からだがどうはたらいているかを調べる分野です。心臓が血液を送るしくみ、肺で酸素を取り入れるしくみ、腎臓で尿をつくるしくみなどを学びます。暑い日に汗をかくのも、寒い日に体がふるえるのも、体温をほぼ一定に保つためのはたらきです。
胸に耳を当てると聞こえる「ドッ・クン」という音は、心臓の筋肉の音ではありません。「ドッ」は心室の入口の弁が閉じる音、「クン」は出口の弁が閉じる音です。心臓が 1 分間に 70 回打つとすると、1 日でおよそ 10 万回も動いていることになります。
血液がからだをめぐっていることを示したのは、イギリスの医師ハーヴィーです。1628 年に出した本で、動物の解剖や実験に、数を数える方法を組み合わせて、血液が循環していることを明らかにしました。いまでは当たり前のことも、だれかが確かめて初めて知識になります。
健康なからだのはたらきを知ると、病気で何が変わったのかが分かります。
図解心臓が 1 回打つあいだ
- 1心室に血液が入る入口の弁が開き、心房から流れこむ
- 2心室が縮み始める入口の弁が閉じて「ドッ」と鳴る
- 3血液を送り出す出口の弁が開き、大動脈と肺動脈へ
- 4心室がゆるむ出口の弁が閉じて「クン」と鳴る

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生化学: ご飯が、からだを動かす力になるまで
生化学は、からだの中の化学反応を調べる分野です。ご飯をよくかむと甘く感じるのは、だ液にふくまれる酵素(アミラーゼ)が、デンプンを分解して糖に変えるからです。高校の化学基礎や生物基礎で学ぶ内容が、そのまま生化学の入口になります。
腸で吸収されたブドウ糖は、血液にのって全身の細胞に届きます。細胞の中では、ブドウ糖を少しずつ分解して、ATP という物質の形でエネルギーを取り出します。筋肉を動かすのも、脳で考えるのも、このエネルギーのおかげです。
血液中のブドウ糖の量(血糖)を下げるのは、すい臓から出るホルモンのインスリンです。インスリンを見つけたのは、カナダのトロント大学の研究チームでした。1922 年 1 月、糖尿病で入院していた 14 歳の少年に、初めてすい臓の抽出液が注射されました。この発見に、1923 年のノーベル生理学・医学賞が贈られています。
健康診断の血液検査で調べる血糖や中性脂肪も、こうした化学反応の結果を数字で表したものです。生化学を学ぶと、検査の数字が何を表しているのかが分かるようになります。
からだのはたらきは、細胞の中の化学反応に支えられています。
図解おにぎりが力になるまで
- 1だ液や腸の酵素で、デンプンがブドウ糖に分かれる
- 2ブドウ糖が血液にのって、全身の細胞へ届く
- 3細胞の中で分解され、ATP にエネルギーがたくわえられる

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組織学・発生学: 1 個の細胞から、37 兆個へ
組織学は、からだの組織を顕微鏡で調べる分野です。「細胞(cell)」という言葉は、1665 年にイギリスのロバート・フックが付けた名前から始まりました。コルクの薄い切れはしを顕微鏡で見て、小さな部屋のように並んだすき間を、「小室」という意味の cell と呼んだのです。
人のからだの細胞は、推定で約 37 兆個です。似た細胞が集まって組織をつくり、組織が組み合わさって胃や皮膚などの器官ができています。2016 年には、からだのすべての種類の細胞の地図をつくる国際的な計画「ヒト細胞アトラス」も始まりました。102 か国の 3,600 人以上が参加しています。
発生学は、1 個の受精卵からからだができあがるまでを学ぶ分野です。心臓は受精後 3 週ごろには動き始め、その後は一生、拍動を続けます。いつ、どこで、どの細胞が何になるのかを知ることは、生まれつきの病気の理解や、再生医療の研究にもつながっています。
からだは、もとをたどれば 1 個の受精卵から始まっています。


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基礎の研究が、新しい治療を生む
からだのしくみの研究は、新しい治療の出発点です。インスリンの発見も、すい臓のはたらきを調べる研究から生まれました。細胞の地図づくりのように、いまも世界中の研究者が、からだの見えない部分を明らかにしようとしています。
医学部を出た人の多くは病院で診療しますが、大学や研究所で、心臓や脳、ホルモンのはたらきを研究する医師もいます。どの診療科に進んでも、基礎医学の知識は毎日の診療で使います。
高校生のうちに試せること
ご飯をかみ続けて、味の変化を確かめる
ひと口のご飯を、飲みこまずに 1 分ほどかみ続けてみましょう。だんだん甘く感じてきたら、だ液の酵素がデンプンを分解しているしるしです。生物基礎の教科書の「酵素」のページを読むと、理由が分かります。
食べ物の栄養成分表示を比べる
おにぎりやパン、お菓子の袋の栄養成分表示を見て、炭水化物・たんぱく質・脂質の量とエネルギー(kcal)を書き出してみましょう。どの栄養素が、からだを動かす燃料になっているのかを考えると、生化学の入口に立てます。
日本生物学オリンピックに挑戦する
高校生などを主な対象にした、全国規模の生物学のコンテストです。予選はオンラインで行われ、参加費がかかります(2026 年は 2,000 円)。過去の問題が公式サイトで公開されているので、細胞やからだのしくみの問題から解いてみましょう。
日本生物学オリンピック
「からだのしくみ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 203 件から探せます。
松川研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 材料・応用化学科 物質材料工学教育プログラム・材料組織学・松川 義孝 准教授

作物生理学研究室
北海道大学(北海道)
生物資源科学・志村 華子 教授

分子細胞生化学分野
東北大学(宮城県)
薬学研究科生命薬科学専攻・生命解析学・井上 飛鳥 教授

口腔生理学分野
新潟大学(新潟県)
歯学部 歯学科 基礎系分野・口腔生理学・山村健介 分野長
嚥下を引き起こす神経機構や咀嚼時の感覚処理、口腔顔面の痛みの仕組みを調べる。
細胞生物学
筑波大学(茨城県)
生物学・稲葉 一男

細胞生物学分野
岡山大学(岡山県)
医歯薬学総合研究科 医学系講座・細胞生物学・阪口 政清 教授
細胞・分子・動物の解析を組み合わせ、転移がんや神経変性疾患の仕組みと治療法を研究する。
よくある質問
生理学と高校の生物は、何がちがいますか?
高校の生物は、いろいろな生き物に共通するしくみを広く学びます。生理学は人のからだに絞り、血圧や心拍などを数値で測りながら、はたらきが調節されるしくみや、病気になると何が変わるかまで学びます。
からだのしくみは、医学部以外でも学べますか?
学べます。看護学や保健学、栄養学、スポーツ科学などの学部でも、解剖学や生理学を学びます。理学部の生物学科や薬学部などでは、細胞やホルモンのはたらきを研究しています。



