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図 1 医学の広がり医学の広がり 2

病気のしくみと薬

病気はなぜ起こり、からだはどう自分を守り、薬はどこに効くのか。病理学・微生物学・免疫学・薬理学で、病気の原因から治し方・防ぎ方までを筋道立てて学ぶ分野です。

明るい研究室で、顕微鏡をのぞく学生、色とりどりのシャーレを並べる学生、細胞と薬のカプセルの大きな模型を手に話し合う学生たち

ひとことで言うと

火事の原因が分かれば、消し方も防ぎ方も分かる

消防は火を消すだけでなく、火事の原因を調べて次の火事を防ぎます。病気も同じで、何が原因で、からだの中で何が起きているのかが分かると、治し方や防ぎ方を考えられます。その原因と進み方を調べるのが、この分野です。

01

病理学: 病気を、細胞の目で見る

病理学は、病気になったからだの組織や細胞に、どんな変化が起きているかを調べる分野です。ドイツの医師フィルヒョーは 1858 年に『細胞病理学』を出し、病気を細胞の変化としてとらえました。「すべての細胞は細胞から」という言葉でも知られています。

いまの病院では、病理医が病理診断を担っています。内視鏡などで取った組織を標本にして顕微鏡で見て、がんかどうかなどを診断します。手術の最中に取った組織を 10 分程度で診断する術中迅速診断もあり、その結果は手術の進め方を決めるのに使われます。

厚生労働省の 2024 年の統計では、病院や診療所で働く医師のうち、病理診断科を主な診療科とする医師は 2,249 人でした。全体の 0.7% と少ないものの、多くの患者の治療方針を、診断の面から支えています。

病理診断は、治療の方針を決めるための大切な手がかりになります。

図解病理診断が届くまで

  1. 1組織をとる内視鏡や手術で、病変の一部をとる
  2. 2標本をつくる薄く切って、色をつける
  3. 3顕微鏡で見る病理医が細胞の形や並び方を調べる
  4. 4診断を伝える結果が主治医に届き、治療方針に生きる
丸い視野の中に、ピンク色と紫色に染まった腸の組織が、ひだのように並んで見える顕微鏡の写真
色をつけた腸の組織を、光学顕微鏡で見た像。病理医は、こうした標本の細胞の形や並び方から診断します。写真: Otávio Astor Vaz Costa(CC BY 4.0・Wikimedia Commons)

02

微生物学: 千円札の顔は、細菌学者

微生物学は、細菌やウイルスなど、目に見えない病原体を調べる分野です。細菌は 1 つの細胞でできた生き物で、栄養があれば自分で増えていきます。ウイルスは細菌の 50 分の 1 ほどの大きさで、自分の細胞を持たず、人などの細胞に入りこんで増えます。

2024 年 7 月に発行が始まった千円札の顔、北里柴三郎はこの分野の先駆者です。1886 年からドイツでコッホに学び、1889 年に世界で初めて破傷風菌の純粋培養に成功しました。毒素を弱めて少しずつ注射し、血清の中にできる抗体を使って治す血清療法も開発しています。その前の千円札の顔、野口英世も細菌学の研究者でした。

風邪(普通感冒)は、さまざまなウイルスが原因で起こります。細菌を退治する抗菌薬(抗生物質)は、ウイルスには効きません。微生物学を学ぶと、病原体の種類によって、治し方や防ぎ方が変わる理由が分かります。

原因の微生物が分かると、治し方と防ぎ方の両方を考えられます。

図解細菌とウイルスのちがい

細菌

  • 1 つの細胞でできた生き物
  • 栄養があれば自分で増える
  • 抗菌薬で退治できるものがある

ウイルス

  • 細菌の 50 分の 1 ほどの大きさ
  • 人などの細胞に入って増える
  • 抗菌薬は効かない
青空の下、中央に小さな塔をのせた 2 階建ての洋館と、その前に広がる砂利の広場
1915 年に東京の白金に建てられた北里研究所の本館。いまは愛知県の博物館明治村に移されています。屋根の近くの紋章には、破傷風菌がデザインされています。写真: Tomio344456(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

03

免疫学: ワクチンの名前は、牛から

免疫学は、からだが病原体から自分を守るしくみを調べる分野です。一度かかった病気に、二度目はかかりにくいことがあるのは、免疫が相手の特徴を覚えているからです。この「覚える」はたらきを利用したのが、ワクチンです。

1796 年、イギリスの医師ジェンナーは、牛の病気である牛痘を人に接種して、天然痘を防ぐ方法を開きました。これがワクチンの始まりとされます。ワクチン(vaccine)という言葉も、牛を意味するラテン語がもとになっています。

日本には 1849 年、長崎の出島に牛痘の種痘が伝わりました。その後、世界中で予防接種が進み、1980 年 5 月、世界保健機関(WHO)は天然痘の根絶を宣言します。それ以来、世界で天然痘の患者は出ていません。

免疫の「記憶」を使って、かかる前に備えるのがワクチンです。

図解ワクチンがはたらくしくみ

  1. 1ワクチンを接種弱めた病原体や、その一部を入れる
  2. 2免疫が覚える相手の特徴を記憶する細胞ができる
  3. 3本物が入ってくる記憶をもとに、すばやく反応する
  4. 4かかりにくくなる発症や重症化を防ぎやすくなる

04

薬理学: カビと土の中から見つかった薬

薬理学は、薬がからだのどこに、どのように効くのかを調べる分野です。よく効く量と副作用が出る量のちがいや、からだの中で薬が分解されていく速さなども学びます。

1928 年、イギリスのフレミングは、ブドウ球菌を育てていた皿に偶然カビが生え、そのまわりだけ細菌がいなくなっていることに気づきました。これが抗生物質ペニシリンの発見です。のちにフローリーとチェーンが治療に使える形にし、1945 年に 3 人でノーベル生理学・医学賞を受けました。

日本の土も、薬のふるさとです。大村智さんは、日本の土から微生物を集め、何千もの培養を調べて、有望な約 50 を選びました。アメリカのキャンベルが、その 1 つから寄生虫に効く物質を見つけます。これを改良した薬イベルメクチンは、熱帯の河川盲目症などの患者を大きく減らしました。2 人は 2015 年にノーベル生理学・医学賞を受けています。

一方で、抗菌薬を必要のない場面で使うと、薬の効かない耐性菌が増えることがあります。薬の力を将来に残すことも、薬理学や感染症の研究の大切なテーマです。

身近なカビや土の中の微生物が、多くの命を救う薬を生んできました。

図解ペニシリンが見つかるまで

入力細菌を育てていた皿に、カビが生えてしまった
  1. 1カビのまわりだけ、細菌が育っていないことに気づく
  2. 2カビが、細菌をおさえる物質を出していると考える
  3. 3その物質を取り出し、治療に使えるかを確かめる
結果抗生物質ペニシリンが、感染症の治療に使われるようになる

05

この分野を生かす仕事

病理学・微生物学・免疫学・薬理学の知識は、病院の病理医や感染症の専門医の仕事に直結します。新しい感染症が広がったときには、原因の病原体を突き止め、検査の方法や薬、ワクチンを考える力が求められます。

国立健康危機管理研究機構(JIHS、もとの国立感染症研究所など)のような研究機関で感染症を調べる医師や研究者もいます。製薬会社で、新しい薬の開発に関わる医師もいます。

クイズ病気と薬のクイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q1北里柴三郎が 1889 年に、世界で初めて純粋培養に成功した細菌は?

  2. Q2ワクチン(vaccine)という言葉のもとになったラテン語の意味は?

  3. Q3抗菌薬(抗生物質)が効くのは、どちらが原因の病気?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 細菌とウイルスのちがいを説明してみる

    AMR 臨床リファレンスセンターのサイトには、感染症の基本や、細菌とウイルスのちがい、薬の効かない耐性菌の話が、一般向けにまとめられています。読んだ内容を、家族に 3 分で説明してみましょう。

    AMR 臨床リファレンスセンター「薬剤耐性(AMR)について学ぼう!」
  • ヨーグルトの乳酸菌を顕微鏡で見る

    学校の理科室で先生に相談し、水でうすめたヨーグルトをスライドガラスにのせ、色をつけて観察してみましょう。小さな粒や棒のような形の細菌が見えたら、それが微生物学の対象です。

  • 大学の研究室を体験する

    日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」では、小学 5・6 年生から高校生までが、大学や研究機関の研究室で最先端の研究にふれられます。医学や薬学、感染症のプログラムがないか、開催一覧から探してみましょう。

    ひらめき☆ときめきサイエンス(日本学術振興会)

「病気のしくみと薬」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 231 件から探せます。

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よくある質問

病理医は、患者さんと会わないのですか?

病理医は、患者さんから取った組織や細胞を顕微鏡で調べるのが中心の仕事で、ほかの医師と話し合いながら診断を決めます。診断の結果は主治医を通じて患者さんに伝えられ、治療の方針を決めるもとになります。

薬理学と薬学部は、何がちがいますか?

薬理学は、薬の効き方を調べる学問で、医学部でも薬学部でも学びます。医学部では、診療で薬を使う立場から学びます。薬学部では、それに加えて薬をつくる化学や、薬の品質や管理なども学びます。

感染症の研究者になるには、どんな道がありますか?

医学部で医師になってから、感染症の専門医や研究者になる道があります。理学部・農学部・薬学部などで微生物や免疫を研究する道もあり、大学院で研究を深めてから、大学や研究所で働く人が多くいます。