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図 1 医学の広がり医学の広がり 4

社会と医療(社会医学)

一人の患者ではなく、町や国の人々全体の健康を守るための医学です。公衆衛生・疫学・医学統計で病気の広がりを調べて防ぎ、法医学と医療倫理で、医療と社会のルールを支えます。

古い町の地図に印を書きこむ学生、グラフを映した大きな画面(文字なし)を指さす学生、町全体の模型を囲んで話し合う学生たち

ひとことで言うと

一人を治す医学と、町全体を守る医学

病院の医師は、目の前の患者を診察して治します。社会医学は、町や国をまるごと 1 人の患者のように見て、どこで、だれに、なぜ病気が多いのかを調べます。そして、病気になる人そのものを減らす方法を考えます。

01

公衆衛生: 平均寿命は 78 年で 30 年以上のびた

公衆衛生は、地域や職場、学校など、集団の健康を守る分野です。予防接種や健康診断、食べ物や水の安全、感染症の対策などが含まれます。病気になった人を治すだけでなく、病気になる人を減らすことを目指します。

日本人の平均寿命は、1947 年には男性 50.06 年、女性 53.96 年でした。2025 年には男性 81.35 年、女性 87.33 年となり、どちらも 30 年以上のびています。いまの生命表では、生まれた女の子のおよそ半数が 90 歳まで生きる計算です。

学校の健康診断も、公衆衛生のしくみの 1 つです。文部科学省は 1948 年度から毎年、全国の学校から一部を選んで結果を集めています(学校保健統計調査)。2025 年度は、高校生の 7 割程度が裸眼視力 1.0 未満でした。むし歯のある人の割合は、どの学校の段階でも過去最小になっています。

公衆衛生は、病気になる人そのものを減らすことを目指します。

図解1947 年と 2025 年の日本

1947 年

  • 平均寿命 男 50.06 年・女 53.96 年
  • 65 歳まで生きる男性は 39.8%
  • 90 歳まで生きる女性は 2.0%

2025 年

  • 平均寿命 男 81.35 年・女 87.33 年
  • 65 歳まで生きる男性は 89.9%
  • 90 歳まで生きる女性は 50.8%

02

疫学: 地図と数字で、原因を突き止める

疫学は、病気がどこで、だれに、どのくらい起きているかを数えて比べ、原因を探る分野です。原因の物質やしくみが分かる前でも、データから対策を見つけられることがあります。

1854 年 8 月 31 日、ロンドンのソーホー地区でコレラの流行が始まり、10 日間で 500 人が亡くなりました。当時は、病気は汚れた空気から広がると考えられていました。医師のジョン・スノーは、亡くなった人の住所を地図に書きこみ、死者がブロード街の井戸のポンプの周りに集まっていることを示します。役所はポンプの取っ手を外して、だれも水をくめないようにしました。

日本にも、データで病気を減らした医師がいます。海軍の軍医だった高木兼寛です。1882 年ごろ、海軍では 1,000 人あたり 400 人もが脚気にかかっていました。高木は食事が原因だと考え、兵食をパンや肉、野菜を中心にした洋式に変えて、1885 年には発病率を 0.5% まで下げました。

脚気がビタミン B1 の不足で起こると分かるのは、20 世紀に入ってからです。高木は、東京慈恵会医科大学の創立者でもあります。

原因のしくみが分からなくても、データを正しく集めれば対策が見つかることがあります。

図解疫学の調べ方(スノーの例)

  1. 1数える亡くなった人の住所を集める
  2. 2地図にする住所を地図に書きこむ
  3. 3比べる多い場所と少ない場所のちがいを見る
  4. 4対策して確かめるポンプの取っ手を外す
ロンドンの通りを描いた白黒の地図。通り沿いに、黒く小さな四角の印が積み重なるように書きこまれている
スノーが 1854 年に作った地図。黒い印はコレラの患者を表し、ブロード街のポンプの周りに集まっています。写真: John Snow(Public domain・Wikimedia Commons)

03

法医学: 亡くなった人の「なぜ」を明らかにする

法医学は、法律に関わる問題に、医学の立場から答える分野です。中心となる仕事の 1 つが、亡くなった人の死因を調べることです。死因が分かることは遺族にとって大切なだけでなく、事故の再発を防いだり、社会の安全を守ったりすることにもつながります。

犯罪の疑いがある場合などに行う司法解剖は、大学の法医学教室が担当しています。2018 年の日本学術会議の分科会の報告では、司法解剖は年に約 8,500 件、大学の法医学の教員は全国で約 160 人でした。1 つの県に法医学者が 1 人しかいない県も、16 県ありました。

法医学の診断は、裁判などの社会的な場面で使われます。そのため、治療の方針を決める臨床の診断とは目的がちがい、どちらの立場にも偏らない、第三者としての判断が求められます。

死因を正しく明らかにすることが、次の事故や事件を防ぐことにつながります。

図解臨床の診断と法医学の診断

臨床の診断

  • 目的: 治療の方針を決める
  • 相手: 病気やけがの患者
  • 使われる場: 病院の診療

法医学の診断

  • 目的: 死因や法的な事実を明らかにする
  • 相手: 主に亡くなった人
  • 使われる場: 裁判や事故の再発防止

04

医療倫理: 説明して、同意を得る

医療倫理は、医療の場面で何が正しいのかを考える分野です。治療を選ぶのはだれか、患者の秘密をどう守るか、限られた医療をどう分けるかなど、答えが 1 つに決まらない問いを扱います。

人を対象とする医学研究の原則として、世界医師会は 1964 年にヘルシンキ宣言を採択しました。1975 年には東京の総会で改訂されています。研究に参加する人には、目的や方法、考えられる利益と危険などを分かりやすく説明し、自由な意思による同意を得なければなりません。これをインフォームド・コンセントと呼びます。

日本医師会は 2000 年に「医の倫理綱領」を定め、2022 年に見直しました。見直しでは、医療が診断と治療だけでなく、支える医療や緩和ケアまで含むものになったことを、前文に書き加えています。

医療倫理は、患者の意思を尊重しながら、よりよい医療を選ぶための考え方です。

05

社会医学を生かす仕事

社会医学を生かす仕事は、病院の外にも広がっています。保健所で地域の感染症対策や健康づくりを担う医師、厚生労働省で医療の制度をつくる医系技官、会社で働く人の健康を守る産業医などです。WHO などの国際機関で、世界の健康問題に取り組む医師もいます。

疫学や医学統計の力は、臨床の医師にも欠かせません。新しい薬や治療が本当に効くのかは、多くの患者のデータを正しく集めて比べることで確かめられます。

クイズ社会と医療のクイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q11947 年の日本の男性の平均寿命は?

  2. Q21854 年のロンドンで、コレラの流行を抑えるために外されたのは?

  3. Q32025 年度の学校保健統計で、裸眼視力が 1.0 未満だった高校生の割合は?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 生まれた年の平均寿命を調べる

    厚生労働省の簡易生命表のページでは、毎年の平均寿命や、ある年齢まで生きる人の割合が公開されています。平均寿命の移り変わりの表から、家族が生まれた年に近い数字を探し、いまと比べてみましょう。

    令和7年簡易生命表の概況(厚生労働省)
  • 身近なことを地図にしてみる

    スノーのように、気づいたことを地図に書きこんでみましょう。例えば、通学路で自転車とぶつかりそうになった場所に印をつけ、印の多い場所の共通点を考えます。人の名前や住所は書かないでください。

  • 感染症の流行の様子を見る

    国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症情報提供サイトでは、インフルエンザなどの全国の流行の様子が、週ごとに公開されています。季節によって、どの感染症が増えるかを確かめてみましょう。

    JIHS 感染症情報提供サイト
  • ヘルシンキ宣言を読む

    日本医師会のサイトで、ヘルシンキ宣言の日本語訳を読めます。インフォームド・コンセントの項を読み、研究に参加する人に何を説明しなければならないかを書き出してみましょう。

    世界医師会ヘルシンキ宣言(日本医師会)

「社会と医療(社会医学)」に関連するコミュニティ

研究室・部活・サークルなど、全国の 74 件から探せます。

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よくある質問

社会医学は、医学部でないと学べませんか?

公衆衛生や疫学は、看護学・保健学・栄養学の学部や、公衆衛生の大学院などでも学べます。法医学は主に医学部で学びますが、法学部の学生向けに法医学の授業を開く大学もあります。

数学が苦手でも、疫学や統計は学べますか?

疫学や医学統計の出発点は、平均や割合、グラフの読み方など、高校の数学 I の「データの分析」です。大学では統計のソフトを使うことが多く、計算の手順よりも、データの集め方や結果の読み方が大切にされます。

保健所の所長は、医師なのですか?

地域保健法施行令では、保健所の所長は医師であることが原則とされています。医師を充てることが著しく難しい場合に限り、2 年以内の期間で、条件を満たす医師以外の人を充てる例外があります。