図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 3
理科の先生・科学を伝える仕事
中学・高校で理科や物理を教えたり、科学館で展示や実験ショーを企画したりして、科学の面白さを次の世代に手渡す仕事です。物理を深く学んだ人は、目の前の現象を「なぜ?」から説明し、実験で見せることができます。

ひとことで言うと
手品の種を明かす、もう 1 人の手品師
手品を見ると、「どうなっているの?」と知りたくなります。理科の先生や科学館の人は、自然という手品の種を、実験を見せながら明かしていく人です。種を知っても驚きは消えず、自然のしくみの見事さにかえって気づけます。

01
どんな仕事?: 学校と科学館で、科学を手渡す
中学校の理科は、物質やエネルギーを扱う第 1 分野と、生命や地球を扱う第 2 分野に分かれています。中学校の理科の先生は、物理だけでなく、化学・生物・地学の内容も教えます。
高校では、物理基礎や物理の授業を受け持つ先生がいます。運動の法則から電気、原子までを、実験を交えて教えます。大学で学んだ物理の全体像が、授業の組み立てや、生徒の鋭い質問に答える力になります。
学校の外にも、科学を伝える仕事があります。科学館や博物館では、展示の解説や実験ショー、工作教室を企画します。東京の日本科学未来館では、科学コミュニケーターが来館者との対話や展示づくりを通して、科学と社会をつなぐ役割を担っています。
学校でも科学館でも、「なぜ?」を一緒に考えるのが仕事の中心です。
図解科学を伝える 3 つの場所
中学校
- 物理・化学・生物・地学を教える
- 観察や実験で「なぜ?」を育てる
- 自然への興味の入り口をつくる
高校
- 物理基礎・物理を受け持つ
- 数式と実験で法則を確かめる
- 理系の進路の相談にのる
科学館
- 展示を解説し、来館者と話す
- 実験ショーや工作教室を企画
- 研究者と来館者をつなぐ


02
物理学が生きる場面: 「重い物ほど速く落ちる?」
授業でよく出る疑問があります。「重い物のほうが、速く落ちるんじゃないの?」。ノートと 1 枚の紙を同時に落とすと、たしかにノートが先に床に着きます。生徒の予想どおりに見えるところが、この単元の面白さです。
ところが、紙を小さく丸めてから落とすと、ノートとほぼ同時に床に着きます。違いを生んでいたのは重さではなく、空気の抵抗だったのです。物理を深く学んだ先生は、ここで「空気がなかったらどうなる?」と、次の問いを投げかけられます。
その答えを、月で確かめた人がいます。1971 年、アポロ 15 号の船長デビッド・スコットは、月面でハンマーとハヤブサの羽を同時に落としました。空気のない月では、1.32 kg のハンマーと軽い羽が、同時に地面に着きました。この様子はテレビで中継され、いまも NASA のサイトで映像を見られます。
生徒の予想から出発し、実験で考えを確かめていくのが物理の授業です。
図解「重い物ほど速く落ちる?」の授業(例)
- 1ノートと紙を落とす前に、結果を予想させる
- 2紙を丸めて、もう一度同時に落とす
- 3空気の抵抗が違いを生んだと話し合う
- 4月面でハンマーと羽を落とす映像を見る


03
理科の免許で学ぶこと: 物理から地学まで
中学校や高校で理科を教えるには、理科の教員免許状が必要です。物理学科に理科の教職課程を置く大学もあります。どの学部・学科で取れるかは、大学によって異なります。
免許を取るには、国の決まり(教育職員免許法施行規則)で、物理学・化学・生物学・地学と実験の科目を、それぞれ 1 単位以上学ぶことが定められています。物理学科の人も、化学や生物、地学を学ぶことになります。自然科学の全体を見渡せることが、理科の先生の強みです。
このほか、教え方を学ぶ科目や、学校で実際に授業をする教育実習もあります。物理学科の授業に教職の授業が加わるため、時間割を早めに組み立てておくと安心です。
物理を軸に、自然科学の全体を見渡せる先生になれます。

04
高校の物理の先生の 1 日(例)
ここでは、公立高校で 2 年生の物理を受け持つ先生の 1 日の例を紹介します。この例では授業は 4 時間で、そのうち 2 時間が実験の授業です。
実験の授業の前には、器具の準備と予備実験が欠かせません。台車の動きを記録する記録タイマーや、電流計の調子を自分で確かめ、生徒がつまずきそうな点を探しておきます。思ったとおりの結果が出ないとき、その原因を一緒に考えるのも授業の一部です。
放課後は、科学部の生徒が研究の相談に来ることもあります。生徒が自分で立てた問いを、どうすれば実験で確かめられるかを一緒に考えます。科学の甲子園などの大会に向けて、チームを指導する先生もいます。
準備した実験で、生徒の目が輝く瞬間がこの仕事の楽しみです。
図解高校の物理の先生の 1 日(例)
- 8:15職員の打ち合わせ今日の予定と連絡を確かめる
- 8:45実験の準備台車と記録タイマーを確かめる
- 10:45実験の授業班ごとに台車の加速度を測る
- 12:35昼休み
- 13:25授業電流と磁場の関係を教える
- 15:30科学部の指導生徒の研究の進め方を相談する
- 16:45授業の準備実験の結果を見て次の問いを考える

05
向いている人と、採用・その先
公立学校の先生になるには、免許状を取ったうえで、都道府県や政令指定都市などの採用選考試験に合格します。2024 年度に行われた試験(2025 年度採用)の理科の結果を見てみます。中学校は 2,904 人が受けて 1,249 人が採用され、倍率は 2.3 倍でした。高校は 2,010 人が受けて 554 人が採用され、倍率は 3.6 倍です。
科学館で働く道もあります。日本科学未来館は、科学コミュニケーターを定期的に採用して育てています。2009 年度から送り出した約 190 人の多くが、全国の研究機関や大学、企業、科学館、教育機関などで活躍しています。研究者の求人サイト「JREC-IN Portal」にも、コミュニケーターの求人の分類があります。
人に説明するのが好きな人、自分がつまずいた経験を覚えている人に向いています。経験を積むと、学校の理科の授業づくりをまとめる立場や、教育委員会で地域の先生を支える仕事、科学館で展示を企画する仕事などへ進む道があります。
物理の深い理解と、伝える工夫の両方が力になります。
図解理科の先生・科学館への道(例)
- 1大学で学ぶ物理学と教職課程の科目
- 2教育実習中学・高校で実際に授業をする
- 3採用試験公立は都道府県などの試験
- 4学校・科学館で授業や展示で科学を伝える
高校生のうちに試せること
科学の甲子園に挑戦する
高校 1・2 年生が 6〜8 人でチームを組み、筆記と実技の競技に挑む大会です。都道府県の代表選考には、学校を通して申し込みます。2026 年 3 月の全国大会には、各地の選考に 697 校から 7,892 人がエントリーしました。
科学の甲子園(科学技術振興機構)青少年のための科学の祭典で実演を見る
毎年夏に、東京・北の丸公園の科学技術館で全国大会が開かれ、たくさんの実験のブースが並びます。入場は無料です(2026 年は 7 月 25・26 日)。説明する人の話し方や見せ方にも注目しましょう。
青少年のための科学の祭典家族に 5 分の実験ショーをする
ノートと紙を同時に落とし、次に紙を丸めて落とす実験を、家族や友だちに見せてみましょう。先に結果を予想してもらい、なぜそうなったかを説明すると、伝える仕事の面白さと難しさが分かります。
「理科の先生・科学を伝える仕事」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 48 件から探せます。
理科教育学研究室
横浜国立大学(神奈川県)
教育学部 学校教員養成課程 理科専門領域・理科教育学・和田 一郎 教授
理科の授業論やカリキュラム論を研究する。
物理教育研究研究室
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・物理教育・宗尻 修治 准教授
大学の物理教育と、学問分野に根ざした教育方法を研究している。
博物館学研究室
身延山大学(山梨県)
理科教育研究室
近畿大学(大阪府)
理科教育研究室
南九州大学(宮崎県)
理科教育研究室
石巻専修大学(宮城県)
よくある質問
物理学科で、理科の先生の免許は取れますか?
物理学科に理科の教職課程を置く大学では取れます。物理だけでなく、化学・生物学・地学と実験の科目も学びます。どの学科で取れるかは大学によって異なるので、大学のサイトで確かめてください。
科学コミュニケーターになるには、どんな資格が必要ですか?
決まった国家資格はありません。日本科学未来館のように、採用してから育てる科学館もあります。博物館の専門職の資格として学芸員もあり、大学で必要な科目を学ぶと取れます。
先生になってからも、物理の勉強は続けられますか?
続けられます。日本物理学会は、いまの先生や先生を目指す学生に向けて、「高校物理の授業に役立つ基本実験講習会」を毎年 7 月に 2 日間開いています。大学院で学び直して、専修免許状を取る先生もいます。



