図 3 仕事での生かし方仕事での生かし方 1
ものづくりの研究開発
半導体・電池・センサー・レーザーなど、物理の法則で動く製品の性能を高める仕事です。試作して測り、結果を式で説明し、次の設計に生かす。このくり返しの中で、大学で学ぶ物理がそのまま武器になります。

ひとことで言うと
部活のフォームを、動画とデータで直す
部活で自分のフォームを動画に撮り、どこを直せば記録が伸びるかを考えることがあります。研究開発も同じで、試作品を測って弱点を見つけ、物理の法則でその理由を考えて設計を直します。理由まで説明できるので、次の製品にも生かせます。

01
どんな仕事?: 物理の法則を製品の性能に変える
研究開発エンジニアは、新しい製品や部品の「中身」を考える仕事です。スマートフォンの半導体チップ、電気自動車の電池、カメラのセンサー、金属を切るレーザーなど、物理の法則で動く物が相手です。
仕事は、計算・設計・試作・測定のくり返しです。コンピュータで性能を予測し、試作品をつくって測り、予測とのずれから原因を探します。物理を学んだ人は、目に見えない電子や光のふるまいを式で考えられることが強みになります。
人材を求める声も大きくなっています。経済産業省の関東経済産業局の資料(2025 年 7 月)は、半導体の主要 9 社の見込みを紹介しています。今後 10 年で、少なくとも 4 万人以上の人材が追加で必要になるというものです。資料では、半導体の関連産業は人材が足りない状態だとしています。
電子や光のふるまいを式で考えられることが、開発の強みになります。
図解物理が生きる 3 つの開発
半導体
- チップやセンサーを設計する
- 電子の流れ方を計算する
- 細かい加工の条件を探す
電池
- ためられる電気を増やす
- 充電と放電をくり返し試す
- 熱や劣化のしくみを調べる
光・レーザー
- 光通信や加工に使う
- 光の強さや波長を測る
- 部品の精度を高める


02
会社の研究室から生まれたノーベル賞
物理の大発見は、大学だけで生まれるわけではありません。1958 年、電機メーカーの研究者だった江崎玲於奈さんは、電子が本来は通れない壁をすり抜ける「トンネル効果」を、半導体の実験で示しました。このしくみを使ったエサキダイオードは、量子力学の性質を使った最初の電子部品とされ、1973 年のノーベル物理学賞につながりました。
2009 年の物理学賞も、会社の研究所の成果に贈られました。1966 年、イギリスの通信会社の研究所にいたチャールズ・カオさんは、ある計算を示しました。不純物の少ないガラスなら、光の信号を 100 km 以上届けられるというのです。当時の光ファイバーで届くのは、20 m ほどでした。1969 年には、アメリカのベル研究所のボイルさんとスミスさんが、デジタルカメラの目となる CCD を発明しています。
電池にも物語があります。化学メーカーで働いていた吉野彰さんは、1985 年に、実用になるリチウムイオン電池を初めてつくりました。1991 年に売り出され、いまではスマートフォンや電気自動車に欠かせません。吉野さんは 2019 年にノーベル化学賞を受けています。製品をよくしようとする研究が、世界を変える発見になることがあるのです。
製品をよくする研究と、自然の新しい発見はつながっています。

03
物理学が生きる場面: 測って、式で説明する
研究開発の毎日は、測ることから始まります。同じ試作品でも、測るたびに値は少しずつばらつきます。何回測って平均をとるか、測定器の精度でどこまで言えるか。大学の物理学実験では、こうした誤差の扱いを 1 年生から練習します。
次に大切なのが、モデルを立てて近似する力です。たとえば電池の寿命を確かめるのに、何年も待つことはできません。そこで温度を上げて劣化を早める試験をし、温度と劣化の速さの関係を式にします。その式を使って、ふだんの温度で何年もつかを見積もります。
測定や計算には、プログラミングも欠かせません。何千回分の充電と放電のデータを自動で集めて整理したり、電子や熱の流れをシミュレーションしたりします。多くの大学の物理学科では、実験のデータ処理や数値計算の授業でプログラムを書きます。
ばらつきを読み、式で説明できると、試作の回数を減らせます。
図解電池の寿命を短い時間で見積もる(例)
- 1温度を上げて、充電と放電をくり返す
- 2温度ごとに、容量の減る速さを測る
- 3温度と劣化の速さの関係を式にする
- 4式から、ふだんの温度での寿命を見積もる

04
半導体の研究開発エンジニアの 1 日(例)
ここでは、電機メーカーで、カメラに使うセンサーの半導体を開発するエンジニアの 1 日の例を紹介します。
半導体は、髪の毛よりはるかに細かい回路を、何層も重ねて作ります。小さなほこりが 1 つ乗るだけで不良品になるため、作業は空気中のちりをごく少なくしたクリーンルームで行います。中に入るときは、全身をおおう防塵服に着替えます。
測定の結果が予測と合わないときが、腕の見せどころです。電子の動き方や熱による変化など、考えられる原因を挙げ、条件を変えて 1 つずつ確かめます。原因が分かり、性能が上がったときの手応えが、この仕事の大きな楽しみです。
予測と結果のずれの中に、次の改良のヒントがあります。
図解半導体の研究開発エンジニアの 1 日(例)
- 8:45朝会試作と測定の予定を共有する
- 9:30クリーンルーム防塵服を着て、加工の条件を変える
- 12:00昼休み
- 13:00特性の測定光を当てたときの電流を測る
- 15:00データの解析予測とのずれの原因を探す
- 16:30打ち合わせ設計や製造の担当と相談する
- 17:30記録条件と結果を報告書にまとめる


05
向いている人と入り方・その先
大学院で研究の経験を積んでから、研究開発の仕事に就く人もいます。2025 年 3 月に、理学(物理学・化学・数学など)の修士課程を修了して就職した人のうち、約 2 割の 982 人が、製品の開発に携わる技術者として働き始めています(学校基本調査)。
物理学科のほか、応用物理学科や物理工学科、電気電子工学科、材料工学科などからも、この道に進めます。日本物理学会の大会では、2019 年から、物理を学ぶ学生と企業が出会う「キャリアパス展示」も開かれています。
分からないことを放っておけない人、うまくいかない原因を探すのが好きな人に向いています。経験を積むと、開発チームのリーダーや、新しい技術を探る研究職、特許や技術の企画の仕事などへ進む道があります。
研究室で、測って考えるくり返しを経験しておくことが近道です。
図解研究開発の仕事への道(例)
- 1学部力学・電磁気学・物理学実験
- 2修士課程多くは 2 年。研究室で測定と解析
- 3企業に入る開発の部署で試作と測定
- 4専門を深めるリーダーや研究職、技術の企画へ
高校生のうちに試せること
リモコンの赤外線をカメラで見る
テレビのリモコンの先をスマートフォンのカメラ越しに見ながら、ボタンを押してみましょう。目には見えない赤外線が、光って見えることがあります。カメラのセンサーは、人の目が感じない光もとらえるのです。機種によって見えにくいカメラもあるので、前と後ろのカメラで比べましょう。
乾電池の電圧の変化を記録する
家の人の了解を得て、乾電池と豆電球をつなぎ、テスターで電圧を 10 分ごとに測ってグラフにしましょう。新品と使いかけの電池を比べると、電池の「減り方」が見えてきます。
ノーベル物理学賞の解説を読む
日本物理学会は、2014 年からのノーベル物理学賞について、研究の中身をやさしく解説したページを公開しています。製品につながった研究がないか、探しながら読んでみましょう。
ノーベル物理学賞解説(日本物理学会)
「ものづくりの研究開発」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 90 件から探せます。
電子スピン物性工学研究室
九州大学(福岡県)
電子デバイス工学・山下 尚人 准教授

有機光エレクトロニクス研究室
九州大学(福岡県)
応用化学・安達 千波矢 教授
光物性
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 物理学プログラム・物理学・木村 昭夫 教授
放射光やレーザーによる光電子分光で、トポロジカル物質や超伝導体を研究している。
低温・光物性研究室
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 理工学融合プログラム・物性物理学・荻田 典男 教授
原子振動物理、超伝導、光物性などを研究している。
ナノデバイス工学
広島大学(広島県)
先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラム・半導体工学・黒木 伸一郎 教授
ナノデバイス、半導体デバイス、集積回路デバイスなどを研究している。
電子デバイス研究室
熊本大学(熊本県)
工学部 情報電気工学科 電気工学教育プログラム・超伝導工学・藤吉 孝則 教授
高温超伝導体の電磁現象や物性と、超伝導デバイス・線材への応用を研究する。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
物理学科と工学部、研究開発に向いているのはどちらですか?
どちらからも目指せます。工学部では製品に近い技術を、物理学科では現象の土台になる法則を深く学びます。開発の現場では、物理・電気・材料・機械など、さまざまな学科の出身者が力を合わせます。
大学院に行かないと、研究開発の仕事には就けませんか?
学部を卒業して就く人もいます。修士課程では、研究室で 2 年間、1 つのテーマに取り組むため、測定や解析を深く経験できます。どちらの道を選ぶかは、研究室の先生や先輩に相談しながら決める人が多くいます。
数学やプログラミングが苦手でも大丈夫ですか?
多くの大学では、1・2 年で物理に必要な数学やプログラムの基本を授業で学びます。最初からできる必要はありません。実験のデータ処理などで使ううちに、少しずつ慣れていきます。
