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図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 3

3 年: 現代の物理へ

量子力学と統計力学で、原子や電子のふるまいと、たくさんの粒が集まったときの性質を学ぶ 1 年です。物性・素粒子・宇宙の講義を選び、学生実験では超伝導やブラウン運動など、研究に近いテーマに、1 つの題目ごとに何週間もかけて取り組みます。

顕微鏡で水の中の小さな粒の動きを追う学生と、冷やした物質の上に浮かぶ磁石を見つめる学生たち

ひとことで言うと

1 人の気まぐれと、学食全体の注文数

ある学生が明日の昼に何を食べるかを当てるのは難しくても、学食全体で今日カレーが何食出るかは、かなり正確に予想できます。統計力学も、1 個 1 個の分子の動きではなく、ものすごい数の分子の平均から、温度や圧力を説明します。

01

3 年の科目: 量子と統計、そして分野の入口

3 年では、現代の物理学の土台になる量子力学と統計力学を本格的に学びます。東京理科大学の物理学科では、量子力学 2 で水素原子のような 3 次元の問題を解き、角運動量やスピンへ進みます。統計力学 1・2 では、ばらばらに動く粒の集まりから、温度やエントロピーを導きます。

選べる科目も一気に増えます。同じ大学では、物性論・原子核物理学・素粒子物理学・量子光学・相対論などが 3 年の科目です。どの分野の講義が面白いと感じたかが、4 年の研究室選びの手がかりになります。

名古屋大学の物理学科でも、3 年に量子力学 II・統計物理学 II と、物理学実験 I・II が並びます。講義で学んだ量子と統計の考え方を、実験室で確かめる 1 年です。

3 年は、物理の基本法則を使って、現代の研究の入口に立つ年です。

図解3 年で学ぶ科目(例)

3 年の科目
  • 量子力学水素原子・角運動量・スピン
  • 統計力学粒の集まりから温度を導く
  • 物性論固体の電気・磁気・超伝導
  • 素粒子・原子核物質をつくる小さな粒を調べる
  • 相対論光速に近い世界の時間と空間
  • 物理学実験超伝導やブラウン運動を測る

02

量子力学: 電子が壁をすり抜ける

量子力学では、電子のような小さな粒を、広がった波として扱います。その結果、ボールなら必ず跳ね返される壁を、電子がある確率ですり抜けることがあります。これをトンネル効果と呼びます。

東京理科大学では、2 年の量子力学 1 で、壁に当たった粒が通り抜ける割合(透過率)を 1 次元の問題で計算します。3 年の量子力学 2 では、同じ考え方を 3 次元に広げ、水素原子の中の電子がとびとびのエネルギーしか持てない理由を解き明かします。

トンネル効果は、原子を 1 個ずつ見る道具にもなっています。とがった針を物質の表面に近づけると、すき間をトンネル効果で電子が流れます。この電流を手がかりに表面をなぞるのが、走査トンネル顕微鏡です。日常の感覚と合わない法則が、最先端の道具を支えているのです。

量子力学の不思議なふるまいは、原子を見る顕微鏡や半導体の技術を支えています。

図解ボールと電子のちがい

ボール(古典力学)

  • 位置と速さを同時に決められる
  • エネルギーが足りない壁は越えられない
  • エネルギーはどんな値もとれる

電子(量子力学)

  • 位置と運動量は同時に決まらない
  • 壁をすり抜けることがある
  • 閉じ込めるととびとびの値になる

03

統計力学: 硬貨を投げて温度を考える

コップ 1 杯(約 250 mL)の水には、およそ 8 × 10²⁴ 個の水分子があります。1 個ずつの動きを追うことはできません。統計力学では、分子がとりうる状態の数を数え、その平均から温度や圧力を求めます。

考え方は、硬貨投げで確かめられます。硬貨 4 枚の表と裏の出方は 16 通りで、そのうち表 2 枚・裏 2 枚が 6 通りといちばん多くなります。硬貨を 100 枚にすると、表の枚数が 40〜60 枚に収まる確率は約 96% です。枚数が増えるほど、いちばん起こりやすい状態からは、ほとんど外れなくなります。

オーストリアのボルツマンは、この「状態の数」とエントロピーを結びつけました。ウィーンにある墓には、S = k log W という式が刻まれています。熱が高温から低温へ流れ、逆には流れない理由を、確率の言葉で説明できるようになります。

数がとても多いと、確率の法則がほぼ確実な法則になります。これが統計力学の考え方です。

図解硬貨 4 枚で「起こりやすさ」を数える

入力硬貨 4 枚を投げる(表と裏の出方は全部で 2⁴ = 16 通り)
  1. 1表 0 枚・表 4 枚: それぞれ 1 通り
  2. 2表 1 枚・表 3 枚: それぞれ 4 通り
  3. 3表 2 枚: 6 通り(16 通りの約 4 割)
結果表と裏が半々の状態が、いちばん起こりやすい
生け垣に囲まれた白い石の墓碑と、その上に置かれたボルツマンの胸像。手前に花が供えられている
ウィーンの中央墓地にあるボルツマン(1844〜1906 年)の墓。胸像の上の石に、エントロピーの式が刻まれています。写真: Feldkurat Katz(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

04

学生実験: ブラウン運動から分子の数を数える

3 年の学生実験は、研究に近い本格的なテーマになります。名古屋大学の物理学科の物理学実験 I では、超伝導、核磁気共鳴、ガンマ線の測定、X 線回折、レーザーなど 13 の題目から、4 つが割り当てられます。1 つの題目に 2 人 1 組で 5〜6 週間かけ、レポートを出したあと、担当スタッフの面接を受けます(2026 年度のシラバス)。

題目の中には、BS 放送のアンテナで太陽の電波を観測するものや、ブラウン運動の実験もあります。ブラウン運動の実験では、水に浮かぶ小さな粒の動きを顕微鏡で追い、軌跡のデータを統計で処理して、アボガドロ数を求めます。目に見えない分子の数を、粒のふらつきから数えるのです。

この方法のもとは、粒のふらつきは水の分子がぶつかって起こるというアインシュタインの理論と、それを実験で確かめたフランスのペランの研究です。ペランは、物質がとびとびの粒でできていることを示した業績で、1926 年にノーベル物理学賞を受けました。

東京理科大学の物理学実験 3 でも、ホール効果、超伝導体、ホログラフィー、X 線回折など 13 の題目から 6 つに取り組みます。題目ごとに、実験の結果をスライドで発表します。

図解ブラウン運動の実験の流れ(例)

  1. 1試料を作る小さな粒を水に混ぜて薄める
  2. 2観察する顕微鏡で粒の動きを動画に撮る
  3. 3追跡する1 個ずつの粒の位置を記録する
  4. 4統計で処理動いた距離の 2 乗の平均を出す
  5. 5計算する理論の式からアボガドロ数を出す
口ひげとあごひげをたくわえた、ペランの肖像写真
ジャン・ペラン(1870〜1942 年)。液体の中の小さな粒の精密な観察から、分子が実在することを確かめました。写真: Agence de presse Meurisse(Public domain・Wikimedia Commons)

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つまずきやすい点と、4 年への準備

3 年でつまずきやすいのは、量子力学の考え方に慣れることです。粒の位置が確率でしか決まらないことは、日常の感覚と合いません。はじめから言葉で納得しようとせず、具体的な問題を何問も解くうちに、式の意味が少しずつ見えてきます。

講義と学生実験が重なり、1 週間の予定がいちばん忙しくなる時期でもあります。実験のデータは、次の週を待たずにその週のうちに整理しておくと、発表やレポートの前にあわてずにすみます。

研究室に入る時期は大学によって異なり、3 年の後半から研究室の紹介が始まる大学もあります。面白いと感じた講義や実験の題目をメモしておくと、研究室を選ぶときの手がかりになります。

クイズ3 年の学びクイズ

このページで紹介した内容から出題します。

  1. Q1ウィーンにあるボルツマンの墓に刻まれている式は?

  2. Q2硬貨 4 枚を投げたとき、いちばん起こりやすい出方は?

  3. Q3名古屋大学の学生実験で、ブラウン運動の観察から求めるのは?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 硬貨 10 枚を 50 回投げる

    硬貨 10 枚をまとめて投げ、表の枚数を 50 回記録して棒グラフにしましょう。表 5 枚の前後がいちばん多く、0 枚や 10 枚はほとんど出ないはずです。理論では、表がちょうど 5 枚になる確率は 252/1024(約 25%)です。

  • 表計算ソフトで 1,000 枚の硬貨を投げる

    表計算ソフトの乱数の関数を使って、硬貨 1,000 枚を投げる場面を何度も試しましょう。表の割合が 0.5 のまわりに、10 枚のときよりずっと細く集まる様子が見えます。温度が安定して決まるのと同じしくみです。

  • 牛乳でブラウン運動を見る

    学校の顕微鏡で、水で薄めた牛乳を 400 倍ほどで見ると、脂肪の小さな粒が細かく震えるように動くのが見えます。水の分子がぶつかって起こるブラウン運動です。先生と相談して、温度で動きがどう変わるか調べてみましょう。

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よくある質問

量子力学は、数学がとても難しいのではありませんか?

線形代数と微分方程式をよく使います。多くの大学では 2 年までに物理数学などでこれらの道具を学び、3 年の量子力学は演習と組み合わせて進みます。式の意味は、具体的な問題を解きながら確かめていくのが近道です。

3 年の学生実験では、どんなテーマに取り組みますか?

大学によって異なります。名古屋大学の物理学実験 I では、超伝導・核磁気共鳴・ガンマ線・ブラウン運動など 13 の題目から 4 つが割り当てられます。東京理科大学の物理学実験 3 では、ホール効果やホログラフィーなど 13 の題目から 6 つに取り組みます。

3 年の科目で、4 年の研究室が決まりますか?

研究室の選び方や時期は大学によって異なります。3 年で受けた講義や学生実験で面白いと感じた分野は、研究室を選ぶときの大きな手がかりになります。