図 2 4 年間の流れ()4 年間の流れ 1
1 年: 基礎をかためる
高校で学んだ物理を、微分積分を使って少ない法則から組み立て直す 1 年です。物理学実験では、測った値のばらつきの扱い方とレポートの書き方を、最初の授業から身につけます。

ひとことで言うと
九九を覚える段階から、九九を作る段階へ
高校の物理では、九九を覚えて使うように、公式を覚えて問題に当てはめてきました。大学 1 年では、運動方程式などの少ない法則から、公式そのものを自分で導きます。九九の表を、足し算から作り直すような学び方です。

01
1 年の科目: 物理と数学を並べて進める
多くの大学では、1 年の専門の科目は力学・電磁気学と、微分積分・線形代数が中心です。名古屋大学の物理学科では、1 年に物理学基礎・電磁気学 I・現代物理学序論 I と、微分積分学・線形代数学・複素関数論が並びます。
東京理科大学の物理学科では、1 年の前期に「物理学序論」があります。20〜30 人ずつの組に分かれ、英語の教科書『University Physics with Modern Physics』を読み合う授業です。光電効果やボーアの原子模型など、高校で手薄になりがちな原子の物理を補います。
この授業の初回には、物理学科の研究室の紹介もあります。入学してすぐに、4 年で取り組む研究の世界をのぞけるのです。
数学は、物理の言葉です。微分積分や線形代数で習ったばかりの道具を、力学や電磁気学の授業ですぐに使います。数学と物理を行き来しながら進むのが、1 年の学び方です。
1 年は、物理の法則を数学で書くための道具をそろえる時期です。
図解1 年で学ぶ専門の科目(例)
- 力学運動を微分方程式で書いて解く
- 電磁気学電場と磁場をベクトルで表す
- 微分積分・線形代数変化とベクトルを計算する道具
- 現代物理学の入口光電効果や原子の模型を学ぶ
- 物理学実験測定・不確かさ・レポート
- 英語・教養英語の教科書を読む力をつける

02
微分積分で法則を書く: ISS が約 90 分で 1 周する理由
高校では、円運動の加速度が v²/r になることを公式として学びました。大学の力学では、位置をベクトルで表し、時間で 2 回微分してこの式を導きます。導き方が分かると、円でない軌道や、速さが変わる運動にも同じ考え方を使えます。
この式と万有引力の法則を組み合わせると、人工衛星の速さが計算できます。国際宇宙ステーション(ISS)は、地上から約 400 km の高さを回っています。下の図のように計算すると、1 周はおよそ 92 分です。NASA は、ISS が約 90 分で地球を 1 周すると説明しています。
ISS は 1 日に地球を 16 周し、16 回の日の出と日の入りを迎えます。紙と鉛筆の計算が、実際の宇宙の動きとほぼ一致するところに、少ない法則で自然を説明する物理学の面白さがあります。
力学の授業では、惑星の動きの規則(ケプラーの法則)も、運動方程式から導きます。天文学者が長い年月の観測から見つけた規則が、1 本の式から出てくるのです。
公式を覚える代わりに導けるようになると、初めて見る問題にも同じ考え方で挑めます。
図解ISS が 1 周する時間を計算する
- 1運動方程式: m × v²/r = GMm/r²(M は地球の質量)
- 2整理すると v = √(GM/r)
- 3GM = 3.99 × 10¹⁴ m³/s² を入れると v ≒ 7.7 km/s
- 41 周の時間 = 2πr ÷ v ≒ 5,500 秒


03
物理学実験: ばらつきを数えるところから
1 年の物理学実験は、測ることの基本から始まります。東京理科大学の物理学科の物理学実験 1 では、前半の 7 回で、測定の不確かさ・有効数字・グラフの書き方を学びます。紙テープを切って長さのばらつきをヒストグラムにしたり、表計算ソフトでデータを処理したりします。
8 回目には、白湯の温度を測る実験があります。そのあとは、重力加速度、液体の表面張力、針金のヤング率、静電場の等電位線などの題目から、6 回の実験を行います。簡易分光器を作って水素の光を分け、ボーアの原子模型のもとになった線スペクトルを見る題目もあります。
成績の 8 割は、実験ノートとレポートで決まります。測った値や気づいたことは、その場で実験ノートに書くのが基本です。あとで見返して、何をしたかが分かるノートが、よいレポートの出発点になります。
名古屋大学のように、1 年の物理学実験を全学の共通科目として、ほかの理系の学科と一緒に受ける大学もあります。
ばらつきを数で表せるようになると、測った値をどこまで信じてよいかが分かります。
図解実験 1 回の流れ(例)
- 1予習教科書を読み、手順をノートにまとめる
- 2測定値と気づいたことをその場で記録
- 3解析不確かさを求め、グラフにする
- 4レポート目的・方法・結果・考察を書く

04
1 年生の 1 週間(例)
下の図は、物理学科の 1 年生の 1 週間の例です。科目の名前や曜日は大学によって異なりますが、講義と演習に、午後いっぱいの実験が組み合わさる形がよく見られます。東京理科大学の物理学実験 1 は、火曜日の 13 時から 17 時 50 分までの 3 コマ続きです。
実験の日の夜や週末は、レポートを書く時間になります。予習・測定・解析・レポートのくり返しは、3 年の学生実験や 4 年の卒業研究まで続きます。英語や教養の科目も多いので、空きコマの使い方で 1 週間の過ごしやすさが変わります。
図解1 年生の 1 週間(例)
- 月力学・英語運動方程式を微分方程式で解く
- 火物理学実験午後いっぱい測定。夜に解析
- 水微分積分・線形代数演習で問題を解いて提出
- 木現代物理学の入口英語の教科書で光電効果を読む
- 金電磁気学・教養電場と磁場をベクトルで表す
- 土・日レポート・サークル実験のレポートを仕上げる

05
つまずきやすい点と乗り越え方
1 年でつまずきやすいのは、数学と物理が同時に進むことです。力学でベクトルの微分や微分方程式が出てきたのに、数学の授業ではまだ習っていないこともあります。そのときは、数学の教科書の該当する章を先に読むと、つながりが見えてきます。
高校で原子の分野を十分に学べていなくても、心配はいりません。東京理科大学の物理学序論のように、高校で手薄になりがちな原子の物理を、1 年で補う授業を置く大学もあります。
実験のレポートも、最初は時間がかかります。目的・方法・結果・考察の形に慣れるまでは、先輩や TA(ティーチング・アシスタント)に書き方を聞くのが近道です。分からないところをその週のうちに聞くことが、2 年からの学びを楽にします。
高校生のうちに試せること
ISS を自分の目で見る
晴れた日の夕方や明け方には、ISS が明るい点になって空を横切るのが見えることがあります。「#きぼうを見よう」で、住んでいる地域から見える日時を調べましょう。見えたら、空を横切るのに何分かかったかを記録してみてください。
#きぼうを見よう同じ式で月の公転周期を求める
ISS の計算と同じ式に、地球から月までの平均距離(約 38 万 km)を入れて、月が地球を 1 周する日数を計算しましょう。約 27 日になれば正解です。満ち欠けの周期(約 29.5 日)と少し違う理由も調べてみてください。
紙テープでばらつきを調べる
紙テープを目分量で 10 cm ずつ 30 本切り、定規で長さを測りましょう。長さごとの本数を棒グラフ(ヒストグラム)にすると、平均のまわりにどう散らばるかが見えます。大学の物理学実験の最初の実習と同じ考え方です。
お湯の冷め方をグラフにする
コップのお湯に料理用の温度計を入れ、1 分ごとに 20 分ほど温度を記録しましょう(やけどに気をつけてください)。室温との差を、片対数のグラフ用紙に点で打つと、直線に近い形になるか確かめてみてください。大学 1 年の物理学実験でも、白湯の温度を測ります。
「1 年: 基礎をかためる」に関連するコミュニティ
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よくある質問
高校で物理を十分に学べていなくても、物理学科でやっていけますか?
入試で物理を課すかどうかは、大学や入試の方式によって異なります。入学後は、力学や電磁気学を基礎から学び直します。東京理科大学の物理学序論のように、高校で手薄になりがちな原子の物理を補う授業もあります。物理基礎の教科書で、力と運動の分野を読み返しておくと安心です。
1 年から英語の教科書を使いますか?
大学によって異なります。東京理科大学の物理学科では、1 年前期の物理学序論で、英語の教科書を少人数の組で読み合います。教科書は『University Physics with Modern Physics』です。物理の英語は決まった言い回しが多く、式と図を手がかりに読み進められます。
実験のレポートは、どのくらい大変ですか?
予習・測定・解析・レポートの流れに慣れるまでは、時間がかかります。東京理科大学の物理学実験 1 では、成績の 8 割を実験ノートとレポートで評価します。書き方の決まりを最初の数回で覚えると、少しずつ早く書けるようになります。
