図 1 心理学の広がり心理学の広がり 4
心の支援(臨床)
悩みや生きづらさを抱える人の話を聴き、心理検査などで状態を見立て、立ち直りを支える分野です。病院、学校、福祉施設、職場など、支援の場は広がっています。

ひとことで言うと
体の診察と同じように、心にも「見立て」がある
体の調子が悪いとき、病院ではまず話を聞き、検査をしてから治療を考えます。臨床心理学も同じように、話を聴き、心理検査を行って状態を見立てます。これを心理的アセスメントと呼びます。いきなり助言をするのではなく、相手を理解することから支援が始まります。

01
臨床心理学: 支援の場は、病院から学校・職場まで
心理学をもとに人を支える国家資格に、公認心理師があります。2015 年に法律が公布された、心理学では初めての国家資格です。法律で定められた仕事は 4 つです。心の状態を観察して分析すること、本人の相談に乗り助言すること、家族など周りの人を支えること、心の健康について伝えることです。
日本学術会議の 2026 年の報告によると、公認心理師の登録者は 2026 年 6 月末で 76,547 人です。2023 年の調査で主な勤め先を聞くと、教育が 27.1%、福祉が 24.7%、保健医療が 24.1% で、ほぼ同じくらいでした。登録者の約 7 割は女性です。
国家資格ができる前から、民間の資格として臨床心理士があり、1988 年に認定が始まりました。同じ調査では、回答した公認心理師の 38.9% が臨床心理士の資格も持っていました。
心の支援の仕事は、病院だけでなく、学校や福祉、職場、司法へと広がっています。
図解主な勤め先(2023 年の調査)
- 教育 27.1%スクールカウンセラー、教育相談の窓口
- 福祉 24.7%児童相談所、障害のある人や高齢者の施設
- 保健医療 24.1%病院、クリニック、保健所
- 産業・労働 5.6%企業の相談室、働く人の支援機関
- 司法・犯罪 3.9%家庭裁判所、少年鑑別所、刑務所

02
心理的アセスメント: 話を聴き、検査で確かめる
支援の出発点は、相手の状態を正しく理解することです。公認心理師になるための大学の科目「心理的アセスメント」では、観察・面接・心理検査という 3 つの方法を学びます。
代表的な心理検査の一つが知能検査です。1904 年、フランスの心理学者ビネーは、学校で特別な教育が必要な子どもについて考える国の委員会に加わりました。その子どもたちを見分ける方法として、ビネーとシモンが 1905 年に作ったのが、最初の知能検査です。人を順位づけるためではなく、支えるための道具として生まれたのです。
ほかにも、質問に答えてもらう性格検査や、発達の様子を調べる検査など、たくさんの検査があります。ただ、1 つの検査で人のすべてが分かるわけではありません。いくつもの情報を組み合わせて、本人や家族と見立てを共有しながら、支援の計画を立てます。
検査は人を順位づけるためではなく、その人に合った支えを考えるための道具です。
図解相談から支援までの流れ
- 1相談の申し込み本人や家族、学校などから
- 2面接で話を聴く困りごとや、これまでの経過を聴く
- 3検査と観察必要に応じて心理検査を行う
- 4見立てを共有本人と一緒に、状態と方針を確かめる
- 5支援を始める面接を重ね、ふりかえりながら進める

03
カウンセリング: 聴くことと、考え方の練習
カウンセリングの土台をつくった一人が、アメリカの心理学者ロジャーズです。1957 年の論文で、人が変わっていくための条件を挙げ、その中で聴き手の 3 つの態度を示しました。相手を条件をつけずに大切に思うこと、相手の気持ちを相手の立場で理解すること、聴き手自身が自分を偽らないことです。
もう一つ広く使われているのが認知行動療法です。出来事そのものより、それをどう受け止めたかが、気分や行動を左右すると考えます。考え方のくせに気づき、別の見方を試す練習をします。日本では 2010 年度から、医師が行ううつ病などの認知行動療法に、健康保険が使えるようになりました。
日本で生まれた心理療法もあります。その一つが、精神科医の森田正馬が 1919 年ごろに始めた森田療法です。不安を消そうとせず「あるがまま」に受け入れ、やるべきことに取り組むことを大切にします。砂の入った箱に人や木などの模型を置いていく箱庭療法は、1965 年に河合隼雄が日本に紹介し、広まりました。
認知行動療法では、この輪のどこかを変えることで、くり返しを止める練習をします。
図解気分が沈んでいくくり返し
- 1出来事友だちからの返信がなかなか来ない
- 2考え「嫌われたのかもしれない」
- 3気分不安になり、落ち込む
- 4行動何度もスマートフォンを見てしまう


04
健康・医療心理学: 体と心をいっしょに支える
同じ出来事でも、それをどう受け止め、対処できると思えるかで、ストレスの感じ方は変わります。健康・医療心理学では、ストレスと心身の病気の関係や、病院で治療を受ける人の心の支え方を学びます。病気や手術の不安を抱える人を、医師や看護師とチームで支える公認心理師もいます。
身近なテーマに睡眠があります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」は、中学生・高校生には 8〜10 時間を参考に睡眠時間をとるよう勧めています。同じガイドは、睡眠不足が気持ちの不安定さや学業成績の低下などにつながると指摘しています。また、日本人の平均睡眠時間は、OECD の調査で 33 か国の中で最も短かったと紹介しています。
つらいときに相談するのは、弱いことではありません。公認心理師には、仕事で知った秘密を守る義務が法律で定められています。
高校生のうちに試せること
3 分間、口をはさまずに聴く
友だちや家族に最近うれしかったことを話してもらい、3 分間、質問や意見をはさまずに聴いてみましょう。最後に「〜ということだったんだね」と要約して返すと、聴くことの難しさと大切さが分かります。
2 週間、睡眠を記録する
寝た時刻、起きた時刻、日中の眠気の強さを 5 段階で毎日記録しましょう。睡眠時間と眠気や気分の関係をグラフにすると、データで自分を知る練習になります。
高校生講座で臨床心理学の動画を見る
日本心理学会の「高校生のための心理学講座」には、発達障がいの臨床心理学や医療心理学、心理テストなどを扱った動画があります。
日本心理学会「高校生のための心理学講座」YouTube 版
「心の支援(臨床)」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 17 件から探せます。
学生団体・機関はまだ掲載していません
よくある質問
公認心理師と臨床心理士は、どう違いますか?
公認心理師は法律に基づく国家資格で、2017 年に法律が施行されました。臨床心理士は日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間の資格で、1988 年に認定が始まりました。指定された大学院を修了することが、受験の条件です。両方の資格を持って働く人も多くいます。
自分やまわりの人がつらいときは、どこに相談できますか?
学校のスクールカウンセラーや保健室の先生に話してみてください。文部科学省の「24 時間子供 SOS ダイヤル」(0120-0-78310)では、夜間や休日も含めていつでも電話で相談できます。
カウンセラーになるには、どんな勉強が必要ですか?
公認心理師をめざす場合は、大学で決められた 25 科目を学び、大学院に進むか、指定の施設で 2 年以上働いてから国家試験を受けます。人の話を聴く力に加えて、心理学の研究法や統計も大切な基礎になります。

