
ひとことで言うと
部活とクラスで、同じ人が少し違う顔になる
部活の仲間といるとき、家族といるとき、初対面の人といるときで、話し方や決め方が変わることはありませんか。人は、周りの人や場の空気から、思った以上に影響を受けています。その力を実験と調査で確かめるのが、この分野です。

01
社会心理学: みんなが言うと、つい合わせてしまう
1950 年代、アメリカの心理学者アッシュは、見本の線と同じ長さの線を 3 本の中から選ぶ実験をしました。1 人で答えれば、ほとんどの人が正解できる簡単な問題です。ところが、先に答える人たちが全員そろって同じまちがいを言うと、事情が変わります。実はこの人たちは、実験の協力者でした。
本当の参加者 123 人の答えのうち、36.8% が周りのまちがいに合わせたものでした。この同調は、昔のアメリカだけの話ではありません。2021 年にスイスのベルン大学で同じ形の実験をやり直すと、合わせた答えは 33% でした。正解するたびにお金がもらえる条件でも、25% が合わせていました。
これが分かると、話し合いのやり方を工夫できます。たとえば、意見を言う前に一人ずつ紙に書いておけば、最初に出た意見に引っぱられる前に、自分の考えを確かめておけます。
人は、正しい答えが分かっていても、周りに合わせてしまうことがあります。
図解アッシュの同調実験
- 1先に答える協力者が、全員同じまちがいを言う
- 2本当の参加者の番が回ってくる
- 3周りの答えと自分の目のどちらを信じるか迷う


02
集団と家族: 人数が増えると、一人の力は抜けていく?
綱引きで、8 人で引く力は 1 人で引く力の 8 倍になるでしょうか。フランスの農業技術者リンゲルマンは、19 世紀の終わりごろに綱を引く力を測りました。そして、人数が増えるほど 1 人あたりの力が小さくなることを見つけました。
原因は、息が合わないことだけではありません。1974 年の実験では、目隠しをした参加者に「みんなで引いている」と思わせ、実際には 1 人で引いてもらいました。それでも、1 人だと分かっているときより力は弱まりました。1979 年には拍手や大声を出す実験でも同じことが確かめられ、社会的手抜きと名付けられました。
78 の研究をまとめた 1993 年の分析があります。それによると、一人ひとりの成果が見えて評価されるときや、作業に意味を感じるときには、手抜きが小さくなっていました。文化祭の準備で役割をはっきり分けるのは、理にかなった工夫です。家族も小さな集団の一つで、家族心理学では家族の関係を全体として捉えて支援を考えます。
人数が多いほど、一人ひとりの成果が見えるしくみが大切になります。
図解手抜きを防ぐ工夫
- 役割を分ける誰が何をするかをはっきりさせる
- 成果を見えるように一人ひとりの担当と記録を共有する
- 意味を伝え合う何のための作業かを全員で確かめる
- 少人数の班にする大きな集団は小さな班に分ける


03
産業・組織心理学: 働く人の心を、職場づくりに生かす
1924 年から 1927 年にかけて、アメリカの電機会社ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実験が行われました。照明の明るさを変えると、作業の効率がどう変わるかを調べたのです。この工場での一連の研究は、人間関係や「見られている」という意識が働きぶりを変えた例として、長く紹介されてきました。
ところが 2009 年、経済学者のレヴィットとリストが、残っていた当時のデータを分析し直しました。すると、よく語られてきた「照明をどう変えても効率が上がった」という目立った傾向は、データからは確かめられませんでした。有名な研究でも、元のデータに戻って確かめる。これも心理学を学ぶうえで大切な姿勢です。
いまの産業・組織心理学は、採用の適性検査、やる気が出る評価のしくみ、チームの話し合いやすさ、働く人の心の健康などを扱います。日本では 2015 年から、従業員 50 人以上の事業場にストレスチェックが義務付けられました。2028 年 4 月からは、50 人未満の事業場でも義務になります。
図解職場の心理学が見るところ
- 一人ひとりやる気、適性、ストレスへの対処
- チーム話し合いやすさ、役割分担、リーダー
- 組織採用や評価、働き方の制度


04
文化と心: 見ているところが、育った文化で違う
1991 年、北山忍さんとマーカスは、自分の捉え方には 2 つの型があると論じました。自分を周りから切り離された存在として捉える「相互独立的」な見方と、人との関係の中で捉える「相互協調的」な見方です。文化によって、どちらが強くなりやすいかが違うというのです。
その違いは、ものの見え方にも表れます。北海道大学や京都大学で学んだ増田貴彦さんは、アメリカのミシガン大学の大学院で、水中を魚が泳ぐアニメーションを作りました。夜ごと図書館のコンピュータに向かい、一人で作ったそうです。日本とアメリカの学生に見せて内容を話してもらうと、日本の学生は、水草や岩などの背景や、ものどうしの関係についてよく話しました。背景を変えて見せると、日本の学生は前に見た魚を見分けにくくなりました。
ただし、これは集団としての傾向です。一人ひとりの違いは大きく、「日本人はこうだ」と決めつけることはできません。心理学では、有名な結果をやり直して確かめる動きも広がっています。2015 年には、心理学の論文 100 本の実験をやり直す大規模な調査が行われました。元と同じように統計的に意味のある結果が出たのは、36% でした。
高校生のうちに試せること
話し合いのやり方を変えて比べる
クラスや部活で何かを決めるとき、いきなり話し合う回と、先に一人ずつ紙に意見を書いてから話す回を作ってみましょう。出てきた意見の数や、少数の意見が出たかどうかを記録して比べてください。
身近な「同調」を探して記録する
行列の並び方、拍手を始めるタイミング、エレベーターでの立ち位置など、周りに合わせて動いている場面を探してメモしましょう。人の写真は撮らずに、どんなときに合わせやすいかを考えてみてください。
心理学ミュージアムで「社会」の展示を見る
日本心理学会のオンライン博物館「心理学ミュージアム」では、研究者が作った「社会」の展示を見られます。展示の中身だけでなく、どう確かめたかという研究の方法にも注目してみましょう。
心理学ミュージアム「社会」
「人と社会の心理」に関連するコミュニティ
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よくある質問
社会心理学と社会学は、どう違いますか?
どちらも人と社会の関係を扱いますが、社会心理学は主に一人ひとりの心と行動に注目し、実験で確かめることが多い分野です。社会学は、家族や地域、制度など、社会のしくみそのものを主に調べます。重なる部分も多く、両方を学べる大学もあります。
人を思いどおりに動かす方法を学ぶのですか?
学ぶのは、人が周りからどんな影響を受けるかというしくみです。それを知ると、だまされにくくなったり、話し合いや職場をよりよくしたりできます。研究で人に協力してもらうときの倫理のきまりも学びます。
産業・組織心理学は、どんな仕事に生かせますか?
企業の人事や研修、働く人の心の健康を支える仕事などに生かせます。公認心理師になるための大学の科目にも「産業・組織心理学」があり、職場での支援や組織の中での人の行動を学びます。
出典
- Franzen & Mader「The power of social influence: A replication and extension of the Asch experiment」(PLOS ONE・2023 年)
- 日本心理学会「心理学ワールド」91 号「この人をたずねて 増田貴彦氏」
- Open Science Collaboration「Estimating the Reproducibility of Psychological Science」(2015 年)
- Levitt & List「Was There Really a Hawthorne Effect at the Hawthorne Plant?」(NBER・2009 年)
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」


