大学カタログ

図 1 社会学の広がり社会学の広がり 4

文化とメディア

初詣やおみくじ、テレビと SNS、限定品や推し活。私たちの好みや信じるもの、情報の受け取り方が、社会の中でどう形づくられ、社会をどう動かしているのかを調べる分野です。

神社の鳥居、色の面だけのスマートフォンの画面、昭和の茶の間のテレビ、店のショーウィンドーが並ぶ通りで、メモを取りながら話し合う大学生たち

ひとことで言うと

水の中の魚は、水に気づかない

毎日あたりまえに使っている言葉や習慣、スマートフォンの使い方は、空気や水のように意識されにくいものです。文化とメディアの社会学は、外国や昔の暮らしと比べることで、その「水」を見えるようにします。

01

文化と宗教: 信者の合計は、人口より多い

文化庁の宗教統計調査によると、2024 年末の宗教団体の信者数は、合計で約 1 億 7,505 万人でした。2025 年の国勢調査による日本の人口は約 1 億 2,297 万人です。信者の合計が、人口を 5,000 万人以上も上回っています。

理由の 1 つは数え方です。信者の定義や数え方は、それぞれの宗教団体が独自に決めているため、単純に足し合わせると人口を超えてしまいます。一方、統計数理研究所の国民性調査(2013 年)で「信仰を持っている」と答えた人は 28% でした。それでも「宗教的な心は大切」と答えた人は 66% います。

初詣、お盆の墓参り、おみくじ、合格祈願のお守り。宗教や信仰について聞かれると「持っていない」と答える人も、こうした行事に親しんでいます。フランスの社会学者デュルケームは 1912 年の本『宗教生活の原初形態』で、宗教を、人々を集団として結びつけるしくみとしてとらえました。文化祭や応援席で感じる一体感も、この見方から考えられます。

「信じているか」と「参加しているか」を分けて調べると、見えてくることがあります。

図解数字で見る日本人と宗教

宗教団体の数え方

  • 信者の合計 約 1 億 7,505 万人
  • 人口(約 1 億 2,297 万人)を上回る

一人ひとりの答え

  • 信仰を持っている 28%
  • 宗教的な心は大切 66%
神社の境内で、細く折られたたくさんのおみくじが、木の間に張られたひもにびっしりと結ばれている様子
大阪市の難波八阪神社に結ばれたおみくじ。宗教の社会学では、こうした身近な習慣も研究の対象になります。写真: Ian G Shingler(CC BY-SA 4.0・Wikimedia Commons)

02

メディア: テレビを見ない 10 代が、テレビを信頼する

総務省の 2025 年度の調査で、10 代が平日にテレビをリアルタイムで見た時間は、1 日平均 43.4 分でした。インターネットの利用は 228.3 分で、5 倍以上の長さです。70 代では、テレビが 313.5 分、インターネットが 93.8 分と逆になります。

ところが、「世の中のできごとについて信頼できる情報を得る」ために最も使うメディアを聞くと、結果は逆でした。10 代ではテレビが 52.1% で、インターネットの 41.4% を上回ったのです。「いち早く知る」ためにはインターネット(72.1%)を使い、確かめたいときはテレビを選ぶ、という使い分けが見えてきます。

メディアの社会学では、だれが、どのメディアから、何のために情報を得ているかを調べます。新聞やテレビが大きく取り上げた話題ほど、人々が「大事な問題」と考えやすくなる、という「議題設定」の研究もあります。SNS の時代に、何が話題になり、何が見過ごされるのかを考えるのも、この分野の仕事です。

同じメディアでも、世代によって使う目的や信頼の度合いが違います。

図解10 代と 70 代のメディア(平日)

10 代

  • テレビ 43.4 分
  • インターネット 228.3 分
  • 信頼できる情報はテレビ 52.1%

70 代

  • テレビ 313.5 分
  • インターネット 93.8 分
  • 信頼できる情報はテレビ 63.3%
畳の部屋に、脚のついた箱形のテレビ、木のラジオ、黒いダイヤル式の電話、ちゃぶ台が置かれた展示
昭和 30 年代(1955〜1964 年ごろ)の茶の間を再現した展示。脚のついたテレビやラジオ、ダイヤル式の電話が並んでいます。写真: Satoru Fujiwara(CC BY 2.0・Wikimedia Commons)

03

情報社会・SNS: うわさが本当になるとき

2020 年 2 月の終わりから 3 月にかけて、各地の店の棚からトイレットペーパーが消えました。「マスクの次は紙製品が品薄になる」といううわさが広がり、多くの人が買いだめに走ったのです。

実際には、トイレットペーパーはほぼ 100% が国内で作られていました。経済産業省は 3 月 3 日、メーカーに 3 億 5,000 万ロールの在庫があると伝えました。日本全体の約 3 週間分にあたる量で、落ち着いて買うよう呼びかけています。品切れを生んだのは、品切れになるという予想そのものだったのです。

アメリカの社会学者マートンは 1948 年、こうした現象を「予言の自己成就」と名付けました。はじめは正しくない思い込みでも、みんながそれを信じて動くと、思い込みどおりの結果が生まれてしまいます。マートンは、うわさで預金者が押し寄せ、健全だった銀行が本当に立ち行かなくなるたとえ話を示しています。

SNS では、情報が一瞬で何万人にも届きます。このしくみを知っておくと、うわさを広める前に立ち止まり、自分や周りの人を守ることにもつながります。

思い込みが行動を変え、その行動が思い込みを本当にしてしまうことがあります。

図解うわさが品切れを生むまで

  1. 1うわさが広がる「もうすぐ品薄になる」
  2. 2買いだめが起きる多くの人が一度に買う
  3. 3棚が空になる空の棚を見た人が不安になる
  4. 4うわさを信じる人が増えるさらに買う人が増える
店の売り場で、トイレットペーパーやティッシュペーパーを並べる棚がほとんど空になっている様子
2020 年 3 月 1 日、トイレットペーパーなどの棚が空になった店の売り場。メーカーに在庫はありましたが、買いだめで一時的に店頭から消えました。写真: Syced(CC0・Wikimedia Commons)

04

消費: 「好き」は自分だけで決めている?

アメリカの経済学者・社会学者ヴェブレンは、1899 年の本『有閑階級の理論』で、人は役に立つから物を買うだけではないと指摘しました。豊かさを周りに示すための消費を「顕示的消費」と呼んだのです。限定品のスニーカーや、行列のできる店の写真を SNS に載せる気持ちにも、似たしくみが見えます。

フランスの社会学者ブルデューは、1979 年の本『ディスタンクシオン』を、調査のデータをもとに書きました。音楽や食べ物、スポーツの好みが、育った家庭や受けた教育と結びついていることを示したのです。家庭で身につく知識や趣味、ふるまい方を「文化資本」と呼び、それが学校での評価や進路にも関わると考えました。

推し活、ファッション、ゲームへの課金など、若い世代の消費も研究の対象です。「自分で選んだ」と思っている好みが、友だち関係や SNS、家庭の環境とどう関わっているかを考えると、広告やマーケティングの見え方も変わります。

好みは一人ひとりのものですが、その背景には社会のしくみがあります。

図解好みを形づくるもの

  1. 自分の好み好きな音楽、服、食べ物
  2. 友だち・SNS周りの評価や流行
  3. 家庭・学校育った環境で身につく文化資本
  4. 社会全体広告、メディア、時代の空気

05

大学での学び方と、その先の仕事

多くの大学では、文化社会学、メディア論、宗教社会学、消費社会論、情報社会論などの授業があります。授業名や内容は大学によって異なります。

アニメの聖地巡礼、推し活、SNS の炎上、地域の祭りなど、身近な文化をテーマにする人もいます。雑誌や番組、SNS の投稿を集めて分析したり、ファンや作り手に話を聞いたりして、卒業論文にまとめます。日本学術会議の参照基準も、女性雑誌の身の上相談の記事を年ごとに分析する研究を、調査の例に挙げています。

学んだことは、新聞社やテレビ局、出版社、広告会社、ゲームやエンターテインメントの会社、マーケティングの仕事などに生かせます。情報があふれる時代に、何がどう広がるかを説明できる力は、発信する側にも受け取る側にも役立ちます。

クイズ文化とメディアクイズ

本文を思い出しながら答えてください。

  1. Q12024 年末の宗教団体の信者数の合計を、日本の人口と比べると?

  2. Q2総務省の 2025 年度の調査で、10 代が「信頼できる情報を得る」ために最も使うメディアは?

  3. Q3思い込みでみんなが動き、思い込みどおりの結果が起きてしまうことを何と呼ぶ?

0 / 3 問に回答

高校生のうちに試せること

  • 1 週間のメディア日記をつける

    テレビ、動画、SNS、新聞などを、何分、何のために使ったかを 1 週間記録しましょう。総務省の調査結果と比べて、自分や家族の使い方の特徴を探してください。

    情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査(総務省)
  • 「拡散希望」の元をたどる

    SNS で見かけた「拡散希望」の情報を 1 つ選び、だれが最初に発信したか、公式の発表はあるかをたどってみましょう。自分で広める前に確かめる習慣にもなります。

  • 家の行事の移り変わりを聞く

    初詣、お盆、七五三など、家族が毎年していることを祖父母や親に聞き、昔と今で何が変わったかを書き出しましょう。地域や家によって違いがあることにも気づけます。

「文化とメディア」に関連するコミュニティ

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よくある質問

アニメやゲームも研究できますか?

できます。作品そのものだけでなく、ファンのつながり、聖地巡礼、作品が広まるしくみなど、文化が社会の中でどう楽しまれているかを調べます。こうしたテーマに詳しい先生がいるかどうかは、大学によって異なります。

宗教を学ぶと、特定の信仰をすすめられますか?

すすめられることはありません。社会学では、どの宗教が正しいかではなく、宗教や行事が人々の暮らしやつながりの中でどんな役割を持っているかを調べます。

メディア論は、情報学とどう違いますか?

情報学は、情報を扱う技術やしくみも学びます。社会学のメディア論は、メディアを使う人々の行動や意識、社会への影響を、調査や資料の分析で考えることが中心です。