図 1 社会学の広がり社会学の広がり 2
格差と社会のしくみ
生まれた家や住む地域、仕事によって、人生のチャンスはどう違うのか。不平等が生まれて続くしくみと、それを支える職場や国の制度を、データで確かめる分野です。

ひとことで言うと
同じレースでも、スタートの位置が違う
徒競走で、一人だけスタートラインがずっと後ろだったら、結果を本人の足の速さだけで説明することはできません。格差の研究は、一人ひとりの努力と、スタートの位置や走るコースの違いを分けて考えます。

01
階層と不平等: 9 割が「中」と答える国
内閣府が 2025 年に行った世論調査では、自分の家の生活の程度を、世間一般と比べて聞いています。「中の上」「中の中」「中の下」を合わせると、89.5% が「中」と答えました。「上」は 1.4%、「下」は 7.8% です。
一方、厚生労働省の 2025 年の調査では、暮らし向きが「大変苦しい」「やや苦しい」と答えた世帯が 55.4% ありました。「中」と答える人の多さと、「苦しい」と答える人の多さは矛盾しません。前者は周りと比べた位置を、後者は毎日の暮らしの実感を聞いているからです。
人の満足は、比べる相手で変わります。第二次世界大戦中、アメリカの社会学者ストウファーらは兵士の意識を調べました。昇進の多い航空隊の兵士のほうが、昇進の少ない憲兵より、昇進について悲観的だったのです。比べる相手によって不満が生まれることを、相対的剥奪と呼びます。
格差を考えるときは、実際の差と、人々の感じ方の両方を調べます。
図解聞き方で見える姿が変わる
世間と比べた程度
- 内閣府の世論調査(2025 年)
- 「中」と答えた人 89.5%
- 「下」と答えた人 7.8%
暮らし向きの実感
- 厚生労働省の調査(2025 年)
- 「苦しい」と答えた世帯 55.4%
- 「ゆとりがある」世帯 6.1%

02
仕事と組織: 仕事の情報は「たまに会う人」から届く
アメリカの社会学者グラノヴェターは、ボストン近郊で転職した人を調べました。知り合いの紹介で仕事を見つけた人に、その相手とどのくらい会っていたかを聞いたのです。週 2 回以上会う「よく会う」相手は 16.7% だけで、「ときどき」が 55.6%、年 1 回以下の「めったに会わない」が 27.8% でした。
親しい友だちは、自分と同じ情報を持っていることが多いものです。たまに会う知り合いは、自分の知らない世界の情報を運んでくれます。グラノヴェターは 1973 年の論文で、これを「弱い紐帯の強さ」と名付けました。
仕事と組織の社会学では、職場の人間関係、正社員と非正社員の働き方の違い、転職や昇進のしくみなどを調べます。サークルやアルバイト先で出会う人とのゆるやかなつながりも、将来の進路を広げる手がかりになるかもしれません。
ゆるやかなつながりは、新しい情報の通り道になります。
図解仕事を紹介してくれた人は?
- 1週 2 回以上会っていた: 16.7%
- 2年 1 回より多く、週 2 回未満: 55.6%
- 3年 1 回以下: 27.8%

03
医療・福祉・教育: 9 人に 1 人の子どもの暮らし
医療・福祉・教育の分野では、病気や貧困、学校での困りごとを、本人や家族の責任だけにせず、制度や地域とのつながりから考えます。アメリカの社会学者ミルズは 1959 年の本で、失業を例に挙げました。5,000 万人が働く国で 1,500 万人が失業していれば、それは一人ひとりの努力では説明できない社会の問題だというのです。
厚生労働省は、世帯の人数で調整した手取りの所得が、全体の真ん中の値の半分に届かない人の割合を「相対的貧困率」として公表しています。2025 年の調査では 15.0% で、子どもでは 11.0%、およそ 9 人に 1 人でした。子どもがいて大人が一人の世帯では、44.7% にのぼります。
福祉社会学や教育社会学では、こうした数字の背景を調べます。学習の場、奨学金、医療費の助成、相談の窓口などが、必要な人に届いているか。届いていないなら、何が壁になっているのか。それを確かめることが、制度を良くする手がかりになります。
同じ悩みを抱える人が多いとき、その原因は社会のしくみにあるかもしれません。
図解悩みを社会の問題として見る
- 一人ひとり病気、学費、家族の世話の悩み
- 家族・学校・地域相談できる人や場所があるか
- 制度医療費の助成、奨学金、福祉の窓口
- 社会全体雇用のあり方、所得の差、人口の変化

04
国家と権力: 人はなぜ、決まりや指示に従うのか
ドイツの社会学者ウェーバーは、人が命令に従う理由を 3 つの型に分けました。昔からそうしてきたから従う「伝統的支配」、その人についていきたいから従う「カリスマ的支配」、正しい手続きで決まった決まりだから従う「合法的支配」です。
部活に当てはめると分かりやすくなります。「1 年生がボールを片付ける」という昔からの習わし、みんなが憧れるキャプテンの一言、部員の話し合いで決めた部則。どれも人を動かしますが、従う理由はまったく違います。
合法的支配を支えるのが、規則と文書にもとづいて、役割を分けて仕事を進める官僚制です。市役所や大きな会社は、だれが担当しても同じように手続きが進むように作られています。社会学では、こうしたしくみの長所と、「決まりだから」で一人ひとりの事情が見えにくくなる面の両方を考えます。
同じ「従う」でも、理由が違えば、組織の強さや弱さも変わります。
図解従う理由の 3 つの型
伝統的支配
- 昔からの習わし
- 例: 学年で決まった係
カリスマ的支配
- その人への信頼や憧れ
- 例: 人気のキャプテン
合法的支配
- 手続きで決めた決まり
- 例: 話し合いで決めた部則


05
大学での学び方と、その先の仕事
多くの大学では、社会階層論、労働社会学、福祉社会学、教育社会学、政治社会学などの授業があります。統計の授業では、所得や学歴、職業の関係を表やグラフで読み解く練習をします。科目名は大学によって異なります。
ゼミでは、アルバイトの働き方、奨学金と進路、住む地域による進学の違いなど、身近なテーマから不平等やしくみを考えることもできます。国や自治体が公開している統計を使えば、学生でも全国の傾向を確かめられます。
学んだことは、国や自治体の福祉・労働・教育の仕事、企業の人事、NPO、調査会社、記者などに生かせます。だれが、どんな事情で困っているのかを、数字と言葉で示す力は、制度を作る側でも支える側でも必要とされます。
高校生のうちに試せること
世論調査の質問に自分で答える
内閣府の「国民生活に関する世論調査」のページでは、実際の質問と答えの割合を見られます。先に自分で答えてから結果と比べ、家族の答えとの違いも聞いてみましょう。
国民生活に関する世論調査(内閣府)自分のつながりを地図にする
紙の真ん中に自分を書き、家族、クラス、部活、アルバイトなどで知り合った人を線でつなぎましょう。名前はイニシャルや記号にして、よく会う人とたまに会う人から、どんな情報が届いているかを比べてください。
部活や委員会の決まりを分類する
所属している部活や委員会の決まりを書き出し、「昔からの習わし」「人への憧れ」「話し合いで決めた」の 3 つに分けてみましょう。どの決まりが守られやすいかも考えてみてください。
「格差と社会のしくみ」に関連するコミュニティ
研究室・部活・サークルなど、全国の 23 件から探せます。
よくある質問
格差を学ぶと、暗い気持ちになりませんか?
つらいデータに向き合うこともあります。ただ、どこにどんな差があるのかが分かると、どの支えを増やせばよいかも見えてきます。制度や地域の取り組みで、差を小さくしようとする例もあわせて学びます。
経済学で学ぶ格差と、どう違いますか?
経済学は所得や市場のしくみを中心に考えます。社会学は、家族、学校、職場、地域などの人間関係や制度、人々の意識を含めて考えることが多い分野です。両方の見方を組み合わせた研究もあります。
政治の話が苦手でも大丈夫ですか?
大丈夫です。社会学では、特定の立場を応援するのではなく、データと根拠をもとに、だれがどんな影響を受けているかを確かめます。意見の違う人と、根拠を示しながら話し合う練習にもなります。
